まぁ、最近鬱がちょっとひどくなってきて、「二人の魔王」シリーズのモチベーションがちょっと下がり気味になってきたので、気分転換も兼ねて執筆・投稿しました。
だいたいのストーリーは組み上がってますが、細かい部分は全然煮詰まってなくて見切り発車もいいところなので、もしかしたら途中でグダるかもしれませんが、できるだけ温かく応援してくださると幸いです。
気付いた時には、自分の頭には獣の耳が、臀部には尻尾が生えていた。
まさか、と思った。
だが、紛れもない現実だった。
鏡を見れば、否応にも認めざるを得ない。
まさか、まさか、
「どうしてこうなったーーー!!??」
『ウマ娘』の世界にTS転生していたなんて!?
* * *
自分が『ウマ娘』の世界に転生したのだとはっきり自覚したのは物心がつき始めた頃のこと。
なんてことはない。ふと鏡で自分の顔を見た時だった。
なぜかふつふつと沸き上がってきた違和感。どうしてだろうと思考を巡らせた瞬間、まるで濁流のように押し寄せてきたのは“
その時は思わず頭を抱えてゴロゴロと床を転がって母さんを心配させてしまったものだが、少しずつ冷静になっていけば自分の今の状況をある程度飲み込むことができた。
今の俺・・・いや、私の名前は『クラマハヤテ』。どうして前世の名字がつけられているのかはわからないが、運命というか因果的な何かだと考えておこう。
毛色は、自分で言うのもなんだがわりと綺麗な栗毛だ。ただ、少し癖毛なせいでブラシをかけても毛が跳ねてしまう。アホ毛も跳ねてしまっているのが少し気になるけど、見ようによっては意外とアリだったからそのままにしている。
顔だちも、子供ながらに中性的で見ようによっては男の子に見えなくもない。
現在は、母さんと関東の片田舎で暮らしている。とはいえ、けっこう山の中で都市からはかなり離れている。
県内に浦和レース場という地方のレース場もあるにはあるが、家から行くには山を越えて市を何度もまたいだ先にあるから移動がかなりめんどくさい。
一応、将来的には地方のトレセン学園にも寮はあるから実家からの距離は関係なくなるが、それまでは近くの森の中を走るしかない。
それと、前世の記憶のことなんだが・・・思い出せることがほとんどない。
わかることと言えば、名前と高校生だったことくらい。なぜ死んだのかとか人間関係とかどこに住んでいたのかとか、そういうのはまったく思い出せない。
まぁ、それが普通なのかもしれないが。そもそも、世間一般的に見れば前世の名前を思い出して自我が復活すること自体まずないわけで。
とりあえず、この事実は誰にも話さないでおこう。
特に父さんと母さんには。
まさか自分の親に「実は、私の中身は男なんです☆」とか言えるわけがない。正気を疑われるか、卒倒するかのどっちかだ。
幸い、性別が変わって何か不便なことがあったりとか、そういうのは今のところはなかった。
というか、森の中を走っていたらどうでもよくなった。
ウマ娘としての性なのか、あるいは私だからなのか、走ることが好きだったようで、日が落ちるまで走り回ることも珍しくなかった。
友達と言えるような子はいない。というか山の中に住んでいるせいで人と関わることが少ない。
そのおかげで、コミュ障というわけではないが、1人の方がいろいろと気が楽だった。
そんな私は、母さんが聞かせてくれるお話が好きだった。
詳しいことは知らないけど母さんは中央で走ってたらしくて、レースの話をまるで物語のように聞かせてくれた。
前世を含めれば精神年齢は大人に近いけれど、母さんの話はまるで英雄譚のようで、いつも瞳を輝かせながら話を聞いていたと思う。
だから、私もそんなレースの舞台で走りたいと思うようになったのは当然の流れだったのかもしれない。
「わたしも、母さんみたいなウマ娘になれるかな?」
そう尋ねると、母さんは決まってこう答えてくれた。
「えぇ、そうね。あなたならなれるかもしれないわね」
正直なところを言えば、私の足は特別速いわけじゃない。もしかしたら、この母さんの返答はお世辞も混ざっているのかもしれない。
それでも、そう答えてくれるのが嬉しかった。
だから、私はひたすら森の中を走り続けた。母さんのようなウマ娘になるために、少しでもその姿に追いつくために。
それに、やっぱり私は走ることが好きだった。
走っている瞬間が、まだ短い今世で生きている中で最も充実しているように感じるから。
もしかしたら、こうして森の中で1人で走ったところで意味はないのかもしれない。
それでも、私が走りたいから走る。ただそれだけ。
こうして、ただ走ってばかりの日々が過ぎていくのは思っていたよりも早く、あっという間に私もトレセン学園に通う歳になった。
* * *
「じゃじゃーん!どーよ!」
「わー!すごい似合ってる!」
先日届いた制服を身に纏って、その場でクルクルと周りながら母さんに見せびらかす。
地方とはいえ、けっこう可愛いデザインをしている。
母さんも小さく拍手しながら私の制服姿を褒めてくれる。
ふふん、もっと褒め称えるが良い。
「それにしても、もう学園に通う歳になったのねー。なんだか感慨深いわ」
「だねー。本当に時間が過ぎるのはあっという間だね」
「なに大人ぶったこと言ってるのよ」
いや、衣食住と走っている記憶くらいしかないせいで、思い返すことが少なすぎてマジであっという間というか、内容が薄い日々を過ごしてきたと思い知らされたんだよ。
いや、せめて浦和レース場に遊びに行けばよかったとは思うけどね?好きなだけ走ろうと思ったらここの方が条件はいいのよ。走るだけならタダだし。1人だし。
念を押しておくけど、私は別にコミュ障ではない。1人の方が気楽なだけだ。
だから、そのせいでボッチになったとしても、それで私がコミュ障とかコミュ難ということには決してならない。
はず。
きっと。
たぶん。
「それでどうする?学園まで車出そうか?」
「ん~、別にいいかな。車を出してもらうほどじゃないし」
ウマ娘にとって、数十㎞くらいなら十分徒歩圏内だ。徒歩と言うか、さすがにちょっと走るけど。
それに、
「今日は、走っていきたい気分だから」
「今日は、じゃなくていつものことでしょ」
若干呆れ気味に母さんが突っ込んでくる。ふむ、バレてしまったか。
というか、移動に車を使ったことなんて、数えるほどあるかどうかも怪しいかもしれない。少なくとも、前世の記憶が戻ってからは乗った記憶がない。基本的に森の中走ってたし。
「あー、でも寮に持ってく荷物抱えて走るのはめんどくさいかも」
「それだったら大丈夫よ。そう言うと思って、昨日業者さんに送ってもらったわ。学園も受け付けてくれたしね」
「本当!?ありがとう!母さん大好き!」
私のことを考えてくれて、私にとって都合よく行動してくれる母さんが大好き!
「あなた、母親のことを都合がいいとか思ったでしょ」
なぜバレたし。
「まったく・・・べつにいいのだけどね。あなたが楽しそうに走ってくれるなら、それで」
・・・本当に、私のことを第一に考えてくれる母さんが大好きだ。
私の夢のために、どこまでも献身してくれて、少しだけ申し訳なくなる。
だから、そんな母さんに親孝行するために、絶対に私の夢を叶えてみせる。
「それじゃあ、行ってきます、母さん!」
「はい、行ってらっしゃい。頑張るのよ」
そう言って、私は家を飛び出して走り出していった。
これは、私“クラマハヤテ”が好きなように走る、そんな物語だ。