ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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都会って怖くない?私は怖い

ビクトメイカーからダンスのお墨付きをもらった後の休日。

私は須川さんが運転する車の助手席に乗っていた。

そう、私だけだ。今回、イッカクは一緒にいない。

普通なら散々ごねそうな気がするけど、根回ししてたのかイッカクは割と素直に私を見送った。

ついでに言えば、どこに向かっているかも聞かされていない。

これって、もはやただの強制連行では?バラエティ番組的なノリの。

 

「須川さーん。いい加減どこに向かってるか教えてくれませ~ん?こちとら、せっかくの休日に急に連れてかれた哀れなウマ娘なんですけど」

「自分で自分を哀れって言ってんじゃねぇよ。どうせすぐにわかる」

「ほんと~?」

 

すでに1時間近く走ってても、皆目見当もつかないんだけど。

強いて言うなら、ビルが多くなってきたってことくらい?

ついでに言うなら、車と人も多くなってきたような?

 

「ね~、あとどれくらいで着くの~?」

「子供か・・・ほら、すぐそこだ」

「すぐそこ?そこってどこ・・・」

 

すぐにはわからなかったけど、よく見れば、いや、そんなによく見なくてもわかった。

だって、写真でしか見たことがない建物が見えたから。

もっと言えば、ここ最近は特に見る機会が多かったところだ。

だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まさか・・・」

「おう。まだ気が早いが、先に言っておこう。ようこそ、中央トレセン学園へ」

 

いやほんとに気が早すぎるよ。いろんな意味で。

 

 

 

 

 

 

「つまり、見学っていう名目で芝生を走るために来たってこと?」

「おう。だから言ったろ?制服とジャージを用意してついてこいってよ」

 

できるなら、もうちょっと情報が欲しかったよ。納得はしたけどね?学園に行くんだから制服なのは当然だし、イッカクは私と違って面倒な試験とかいろいろ済ませるまでは部外者だからまだ来れないし。

ただ、それをもっと早い段階で言ってくれればよかったんだけどね。

ていうか、他校の制服で来てるせいで目立ちまくってるよ。一応、今日は休日のはずなんだけどね?めっちゃいるじゃん。

まぁ、質も規模も地方とは段違いだし、どのみち寮生活ってことを考えれば、休日の学園でも学生がいたりするのかな?

 

「うぅ・・・胃が重い・・・」

「目立ってるもんな」

「どちらかと言えば、悪目立ちって感じがするんだけど・・・」

 

地方のウマ娘が来てるんだから、そりゃ良くも悪くも目立つよね。

いや、どちらかと言えば悪目立ちの側面が強めなのかもしれないけど。

地方から移ってきて失敗するなんて、珍しい話じゃないからね。

 

「だが、これくらいは慣れとけよ。デビュー戦とはいえ、中央のレース場で開催されるんだ。当然、相応に人も多い。なにせ、未来のクラシックウマ娘候補がいるかもしれないんだからな」

「・・・そりゃそうだよね~」

 

どんなウマ娘だって、最初は新人だからね。

それに、もしかしたらデビュー戦の時点で頭角を現すウマ娘がいる可能性だってある。

そんな歴史的瞬間を目撃したい人なんて、大勢いるんだろうね。

たとえそれが、デビュー戦であっても。

・・・これが、中央か。本当に、何もかもが地方とは違うんだなぁ。

 

「それで、今日はどうするの?芝の試走だけして帰るとか?」

「まさか」

 

ですよね~。

 

「つっても、お前が何かやるってわけじゃねぇよ。俺の方で話をしとかにゃいかん奴がいるから、それまで待ってろってだけだ」

「あ、なんだ」

 

それはよかった。

冷静に考えれば、移籍予定とはいえ正式に決まったわけじゃないからね。さすがに、生徒になる前に私が何かしなきゃいけないとか、そういうのはなかったわけだ。

・・・あれ?

 

「待ってる間は?」

「好きに走ってていいぞ。あぁ、走っていい場所は決まってるから、この地図と入校許可証を持ってけ。更衣室もそこに書いてあっから」

「正気か」

 

初めての場所で一人で走ってろってマジで言ってんの?しかもここ、中央トレセン学園だよ?

ぺーぺーの地方ウマ娘が1人で好きにしていい場所じゃないって。

 

「えっと、その話し合いが終わるまで私も一緒にいるっていうのは?」

「おいおい、ここに居られる時間はそう長くないし、なにより芝で走れる機会なんてのは向こうじゃそうそうないぞ?今のうちにできるだけ走って感覚を掴んだ方がいいに決まってるだろ」

「ぐっ、わりと正論だけど・・・」

 

ただでさえ、1ヵ月で中央でも通用するだけの実力を身につけるだけでもけっこうハードル高かったのに、さらに今まで走ったことがない芝生に慣れなきゃいけないってのは正論だけど、だからといって行き先言わずに無理やり連行した上でそれを強いるのはどうにも納得がいかないんだけど?

 

「ほら、さっさと行った行った。時間は無駄にできないぞ」

「後で覚えててよ・・・!」

 

後で思い切り左足を蹴ってやる。帰りの運転を考えて右足は勘弁してやるけど、場合によっては腰にもドロップキックかましてやる。

なんとなく下っ端盗賊みたいなことを言って、私はブツブツ文句を垂れながら地図の通りに進んでいった。

・・・この地図、手書きにしてはめちゃくちゃ正確だな。

 

 

* * *

 

 

「・・・意外とあいつでも緊張するもんなんだな」

 

気持ち小さくなったように見えるクラマハヤテの背中を見送りながら、須川はわりと失礼なことを呟いた。

本人が聞いたら、「私だって並程度には緊張しますけど!?」とツッコんだことだろう。

 

「さて、あまりあいつを待たせるわけにもいかんだろうし、さっさと用事を済ませるとするか」

 

なるべく早くハヤテのところに向かうために、須川は早足で目的地へと向かった。

須川が向かうのは、本校舎の中にある生徒会室。

用事というのは、生徒会長の面談だった。

 

「トレーナーの須川甚一だ」

「入ってくれ」

 

立派な扉をノックして返事が返ってくるのを待ってから、須川は扉を開けた。

 

「待たせたか?」

「いや、まだ予定の5分前だ」

 

会長席に座っているウマ娘こそ、中央トレセン学園の生徒会長であるシンボリルドルフ。かつて唯一の“無敗の三冠”と“七冠ウマ娘”という2つの偉業を果たし、『皇帝』の異名を持つ最強のウマ娘だった。

今では一線を退いており、どちらの記録も並ばれ、破られたものの、今でも多くのウマ娘から尊敬される生ける伝説だ。

ちなみに、顔だちが整っていることが多いウマ娘の中でも特に凛々しい顔立ちのため、女性人気が圧倒的に高い。

 

「珍しいな。いつもは予定の時間ギリギリか、少し遅れる程度だったと思うが?」

「言わないでくれよ、会長殿。俺だって真面目なときくらいあるさ」

「ふっ、そうか」

 

かつての悪事(と言っても些細なことだが)を指摘されたようで居心地が悪くなった須川は、少々露骨に話題を変えた。

 

「それよりもだ。今回の入校許可と特別練習の件、感謝する。できれば近くで芝を体感させてやりたかったが、さすがに地方でデビュー前となるとすぐには難しくてな」

「かまわない。私としても、件のウマ娘には興味があるからな」

「あ~・・・」

 

そう言われて、須川は微妙な表情になってうめいた。

 

「悪いが、さすがに今から会うのは勘弁してくんねぇか?あいつ、中央トレセン学園(ここ)に来たってだけでガチガチに緊張してっからよ。せめて、デビュー戦の後で頼む」

「む?そうか・・・だが、それだと1人で放置させるというのはどうなんだ?」

「それはそうかもしれんが、あいつは書類上ではまだ中央の生徒じゃない。地方の、それもデビュー戦すら走ってないウマ娘をいきなり生徒会室に連れていくと、いろいろと角が立ちそうだろ」

 

昔ほどではないが、地方から移籍してきたウマ娘を見下す風潮がまったくなくなったわけではない。中央所属であることに誇りを持つウマ娘は多いのだ。

実力を示せばその限りではないが、クラマハヤテはルーキーですらないニュービー。対等に扱えという方が無理な話だ。

 

「そういうわけだから、俺はさっさとあいつのところに行かせてもらう。いいか?」

「そういうことなら仕方ない。また機会があれば話すことにしよう」

 

それだけ言って、須川は生徒会室を後にした。

 

(・・・我ながら、ずいぶん真面目になったというか、丸くなったというか)

 

昔なら、律義に約束の時間を守ることも、ここまで担当のウマ娘を案じることなかっただろうに、変われば変わるものだと内心で苦笑する。

クラマハヤテが走っている模擬レース場に向かうまでの間に、周囲から視線が突き刺さる。

まるで腫物にさわるような、できるだけ目を合わしてはいけないような扱いにも慣れたものだ。

 

(さ~て、あいつは無事かね)

 

入校許可証はあるから最初から邪険にされることはないだろうが、事情を話してからの対応まではわからない。

一抹の不安を感じながらトレーニング場へと向かうと、何やら人だかりを見つけた(ウマ娘だかりとも言う)。

ちょうどそこは、クラマハヤテがトレーニングをしているだろう場所だ。

嫌な予感が的中したか、とも思ったが、それにしては聞こえてくるざわめきは好意的というか、どちらかと言えばファンのそれに近い。

ということは、誰か他に人気のあるウマ娘が来たのか。

いまいち要領を得ないまま人だかりをかき分けていくと、そこでは予想していなかった光景が広がっていた。

 

 

* * *

 

 

「え?ここだよね・・・?」

 

とりあえず、ジャージに着替えて指定されたトレーニング場にやってきた。

ちなみに、幸か不幸かジャージに着替えてからは誰かに話しかけられたりはしてない。着替える前は親切なウマ娘に更衣室まで案内してもらったけどね。

名前は聞いてないけど、つい「実は地方から移籍する予定で・・・」って話をしたら、すごい目を輝かせながら応援された。なぜか限界化して涎を垂らしそうな勢いで迫られながら。

なんか、「地方から上京して、困難な壁に立ち向かう娘の話!これはイケる!」とかどうとかって言ってた気がする。

更衣室に着いたら「あ!これ以上邪魔してしまうのは申し訳ないですね!では私も用事ができたのでこれでぇ!!」って猛ダッシュでどっかに行ってしまった。

何だったんだろう、あの限界オタクさながらのウマ娘は。

それはさておき、トレーニング場に着いたはいいんだけど・・・。

 

「え、広くない?ていうか、広すぎない・・・?」

 

浦和トレセン学園とは比較にならない、っていうか比較に出すことすらおこがましいくらい広い。それも、ダートより整備の手間がかかる芝で、だ。

なんだったら、学園の敷地内にいくつか同じトレーニング場があるって話だったはず。

・・・規模がやべぇよ。地方民には刺激が強すぎるよ。足を踏み出すのに躊躇するレベルだよ。

しかもしかも、他にウマ娘の姿が見えないから実質貸し切り状態だ。

・・・え?いいの?本当にここで走っていいの?後で走ってからなんか言われたりしない?いやでも走りにここに来たわけで・・・

 

「ええい!ウマ娘は度胸!ここで怖気づいてレースで勝てるわけがない!」

 

須川さんも言ってたじゃん!デビュー戦はさっきまでとは比べ物にならない視線に晒されることになるって!

だったら、ここでうじうじしているわけにはいかない。

意を決して、私はターフに足を踏み入れた。

 

「お、おぉ?意外としっくりくるね、これ」

 

初めての芝の感触は、なんか思っていたよりもしっくりきた。

たぶん、子供の頃から走ってた山と似てるからかな。山だって、土がほとんどとはいえ適度に水気もあって草も生えてるから、よほど傾斜がひどくない限りは土壌はしっかりしてる。

この芝生もそういう感じに似ている。足裏に返ってくる感触は山やダートより固いけど、これはこれで強く踏み込めそうだ。

 

「とりあえず、軽く3周くらい走って感覚を掴もうかな?」

 

さすがにそれくらい走ってれば須川さんも来るでしょ。

軽くストレッチをしてから、私は走り始めた。

思った通り、初めての芝生はすごいしっくりくる。ダートが全くダメってわけじゃないけど、断然こっちの方が走りやすい。

まさか、須川さんはこの辺のことも考えてたのかな?

 

(うん、やっぱりいい感じ。もう少し速くいけそう)

 

ずっと走っているとだんだんスピードが乗ってきて、もっともっととスピードを上げていく。

次第に周囲の景色も音も頭に入らなくなってきて、ただただ走ることだけを考えるようになっていく。

まるで時間が引き延ばされていくような感覚に身をゆだねながら、脚も思考もどんどん加速し続けていく。

このまま、どこまでも、どこまでも・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ヤテ!ハヤテ!!」

 

不意に、沈み込んでいた思考に声が割り込んできた。

気付くと、いつのまにか須川さんの他にもすごい人数の観衆がいた。

そんな中、須川さんは張り詰めたような表情で駆け寄って来た。

 

「・・・ハヤテ。お前、いつから走ってた?」

「いつからって、あそこで別れてからここまでほとんど直行だから、聞かなくてもわかるんじゃ・・・」

「そうじゃねぇ。お前、()()()()()()()()()()()?」

「本気で?えっと、なんかスピードが乗ってから・・・あれ?私って、どれだけ走ってたっけ?」

 

なんか、途中あたりからその辺りの記憶が朦朧としてる。途中から走ることしか頭になくて、時間の感覚がすごい曖昧になってる。

 

「・・・俺が来たのはついさっきだが、おそらく30分前後ってところだろう。ったく、とりあえず、これで汗拭いて、水分も取っておけ」

 

須川さんがタオルと水筒を投げ渡してきて、そこで初めて私は全身から汗を流していることに気付いた。さらに、息も荒くなっている。

・・・私、いったいどれくらいの間走ってたんだろう?

いや、()()()()()()()()()()()()()

今さら、30分走ってばてるような走り方はしてこなかったと思うんだけどな・・・。

なんとなく覚えているのは、意識がまるで海の底に沈んでいくような感覚。あのときは、走ることしか考えていなかったと思うけど・・・。

 

「・・・うーん、やっぱりわかんないや」

 

いつまでも思い出せないことを気にしても仕方ないし、今はちゃんと休んでおこう。

 

 

* * *

 

 

「ったく。我ながら、とんでもない奴を見つけちまったかもしれんな」

 

トレーニング場で走っていたハヤテの姿は、一言で言えば“異常”だった。

浦和でトレーニングをしているときよりも速くなるのは、須川もある程度予想していた。ハヤテがダートよりも芝に適性があるだろうということも。

だが、それを差し引いてもクラマハヤテの走りは常軌を逸していた。

厳密には、走っているときの表情が、明らかにいつもと違っていた。

何を映しているのかわからない眼は、いったい何を見ていたのか。

傍から見ているだけの須川にはわからないが、その状態で走る姿はまさに圧巻だった。

それこそ、かつての黄金期に名をはせたウマ娘たちとなんら遜色ないほどに。

 

「・・・こりゃ、今後が楽しみだな」

 

これからまだまだ伸びるのか、それとも早熟なだけなのか。

須川はまだ見ぬ未来に思いを馳せ、心を躍らせた。




ポケモンアルセウスがくっそ面白い。
従来と違って厳選とかオンライン対戦がない1人用ゲームに特化してるので、1人で楽しむことが多い自分にはピッタリでした。マジで時間が溶けまくりますね。
さらにDLCがほぼ決まってる(?)らしいので、やりこみが止まらない。

今回は中央に来てビビりまくりのハヤテですが、自分も初めての場所ではわりと不安に駆られやすい人間です。都会にあるみたいな立派な建物だと特に。
なんで、なんやかんや言って田舎とか地方が落ち着きます。
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