ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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オタクとかいう別世界の生き物

「そう言えば、須川さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

 

昼ご飯を挟んで再び芝の試走をして休憩を挟んでいるときに、ふと気になることを尋ねてみた。

 

「いや、トレーニングとは関係ないんだけどさ、ここに来たときに更衣室に案内してくれたウマ娘のこと、もしかして知ってるのかなって思って」

「言っておくが、俺だって知らない奴は多いぞ?」

「だから、一応だって、一応。なんか、やけに特徴的というか、印象に残るから、もしかしたら知ってるのかなって」

「まぁ、聞くだけ聞いてやる」

「えっとね、小柄な桃髪のハーフツインの娘で」

「ふむふむ」

「頭の上にでっかいリボンと真珠みたいな耳飾りを付けてて」

「・・・ふむ?」

「なんかよくわからないけど涎を垂らしそうな勢いで限界化してたんだけど、心当たりない?」

「・・・・・・」

 

ここまで尋ねると、なんだか見るからに須川さんの歯切れが悪くなった。

え、なに?そんな答えづらいことなの?

 

「・・・あ~、うん、知ってる。っていうか、良くも悪くも有名だ」

「そうなの?」

「あぁ。そいつは十中八九、アグネスデジタルだ」

「アグネスデジタル?」

 

ちょっと聞き覚えがないかな?

 

「良くも悪くも有名って?」

「周囲やアグネスデジタルを知る人物からは勇者とも変態とも呼ばれてる」

「え?変態?」

 

おいおい、ずいぶんと穏やかじゃないじゃないか。

勇者はともかく変態って、さすがに言い過ぎでは?

 

「なにせ、国内外の芝・ダートのG1レースで活躍した経歴の持ち主だからな」

「そりゃ変態だわ」

 

思ったよりも変態だった。

私も走ってからわかったけど、芝とダートに求められる素質は全然ちがう。芝に適した走りがダートにも適しているとは限らず、芝では一線級でもダートだと上手く走れないなんて話はざらだ。

たまにどっちでも走れるってウマ娘もいないことはないけど、両方のG1レース、つまり最高峰のレースで活躍できるウマ娘なんて、聞いたことがない。

それに加えて、国内では飽き足らず、海外でも出走して勝ったことがある?

なるほど、それは変態だ。

あと、呼ばれ方にも納得した。たしかに、勇者も変態も場所を選ばないもんね。

 

「ついでに言うなら、あいつは重度のウマ娘オタクでもある。中央に来た理由も芝とダート両方走ってる理由も、ウマ娘(推し)を間近で見るためらしいしな」

「えぇ・・・」

 

つまり、オタクを拗らせすぎて俺Tueeee!状態になったウマ娘ってこと?

なんだ、そのやばい奴は。

 

「・・・私、そんなやばい奴に目を付けられたんですか?」

「勘違いするなよ?あいつは基本的に選り好みしない。誰であろうと推してくるぞ」

「それはもはや要注意人物では?」

 

誰彼構わず推しまくるとか、控えめに言ってやべー奴じゃん。

 

「つっても、あぁ見えて良識はわきまえてるし、創作活動もしてて趣味の範囲ではあるが広報にも一役買ってるんだ。べつに悪い奴じゃないんだよ。ちょっと変わってるってだけで」

「そのちょっとがだいぶ致命的な気がするんですが・・・」

「まぁ、あいつに初めて会ったら普通はそうなるわな。慣れたら気にならなくなる」

「それは、まぁ、そうかもしれませんけど」

 

私の場合、慣れるのにどれだけかかるんだろうね。

というか、イッカクと会ったときが怖いよ。どうなるか予想できなさすぎて。

 

「・・・まぁ、はい。わかりました。次会ったら、お礼は言っておきます」

「そうしておけ」

 

さすがに人の厚意を仇で返すわけにはいかないからね。

 

「それじゃあ、休憩はこれくらいにしてトレーニングを・・・いや、そろそろ帰るか」

「え?もうそんな時間?」

「そうじゃなくてだな」

 

そう言って、須川さんは私の後ろに視線を向けた。

振り向くと、そこでは大勢のウマ娘が集まっていた。

それこそ、試走を始めたときよりも倍以上は増えてるんじゃないかってくらい。

 

「何あれ?」

「見物客だろうな」

「見物?誰を?」

「お前をだよ」

「Why?」

「なんで英語なんだよ」

「なんとなく?」

 

私、そんなに目立つようなことしてた?

 

「大方、午前中のあれで話が広まったんだろうな。地方から来たっぽい見学してきたウマ娘がなんかすごいんだって、って感じで」

「うわ、いい歳してJK口調?」

「お前にわかりやすいように言ったんだろうが」

 

それくらいわかってるよ。

でも、そっかー。そんなに目立ってたのかー。

 

「デビュー戦を前にあまりお前の走りを晒したくねぇし、なによりこの状態じゃ集中できねぇだろ。少し早いがこれで終わりだ」

「はーい」

 

まぁ、予定より早いとは言っても、芝の感覚はだいたいつかめたから最低限目標は達成できたかな。

さっさと更衣室で着替えて、この場から退散しよう。

 

 

 

 

「は~、つっかれたぁー」

「お疲れさん」

 

あの後は特に何もなく、須川さんの車に乗って帰るだけとなった。

 

「せっかくの東京だ。どっか美味いもんでも食べに寄るか?」

「甘いものでお願い」

「それは俺の専門外なんだが」

「知ってた方がウマ娘孝行になるわよ」

「あー、わ~ったよ。だが、今は調べられんぞ」

「大丈夫よ。私の方で調べておいたから」

「は?いつ?」

「休憩中に」

「お前、さては最初からたかる気だったな?」

「結果的に私のためとはいえ、何も言わずに強制連行したんだから、これくらいはいいでしょ」

「へいへい。んで、どこだ?」

「これ」

 

スマホの画面を操作して須川さんに見せたのは、パンケーキが美味しいことで有名(らしい)な喫茶店だ。

本格的なパンケーキなんて食べたことないから、けっこう楽しみだったりする。

 

「遠くないけど、別の場所で駐車場見つけないと。住所は・・・」

「あー、たしかにここからは遠くないな。駐車場も近くにあったはずだ」

「じゃ、お願いねー」

「・・・こりゃ出費がかさむな」

 

なんだったら腹いせに破産する勢いで食べてやんよ。

 

 

 

 

 

「ふ~、おいしかったー」

「マジか・・・マジで食べきるのか・・・」

 

うなだれる須川さんと満足気にお腹をさする私の間には、皿の山が積まれていた。

たぶん、20皿くらいは食べたんじゃないかな?

 

「いや、お前・・・さすがに食い過ぎじゃねぇの?夕飯食えるのか?」

「多分いけるよ?向こうに着く頃にはちょうどよくなってるんじゃないかな。それに、ぶっちゃけお昼ごはんは足りてなかったし」

「え?マジ・・・?」

 

今回のお昼ごはん、諸々の事情があってトレセン学園の食堂は使わなかったんだよね。

代わりに須川さんが用意してくれた弁当を5個食べたんだけど、ぶっちゃけ足りなかった。

それでも練習を続けれたのは、気合と根性でなんとか。

だから、ぶっちゃけ須川さんが早めに切り上げてくれたのは助かった。

 

「いや、イッカクから聞いた話だと、あれで十分だと思ったんだが・・・」

「須川さんとトレーニング始めてからは、食べる量は増えたかな?そんな気がする」

 

走り方を矯正した影響なのかは知らないけど、明らかに須川さんとトレーニングを始めてから食べる量が増えた。

自分でもよくわかってないけど、こんなことがあるんだねぇ。

 

「・・・そのうち、浦和トレセン学園の食堂から悲鳴があがりそうだな」

「あー、そう言えば食堂のおばちゃんから『え?まだ食べるの・・・?』みたいな目で見られたことがある気がする」

「手遅れかよ」

「いや、まだ大丈夫じゃない?たぶん」

 

少なくとも、在庫がなくなったことはまだないかな。この調子だと、いつかはなくなりそうな気はするけど。

 

「そういえば、トレセン学園の食堂ってどうなってるの?」

「システム自体はさして変わらない。当然、量も質も段違いだが」

「なんか、ここまでくるといっそ贅沢だね」

 

ウマ娘のためのものなら何でもある、とは言うけど、ここまで揃えられてるのは並々ならぬ規模の人とお金が動いてるんだろうね。

たかが、とは言わないけど、学生のためにそこまでするってすごいことだよね。

 

「そんな贅沢な場所に、お前も通うことになるかもしれんがな」

「デビュー戦の結果によるけどねー。そう言えば、出走日は決まったの?」

「あぁ。つっても、予定より1週間は先になるが」

「ってことは、猶予が1週間伸びたってこと?」

「そういうことだ。契約は1ヵ月だったが、このまま更新ってことでいいか?」

「うん、それでいいよ」

 

須川さんのおかげでここまで速くなれたのは間違いないから、今さら他のトレーナーに教えてもらおうとは思わない。

要は、私も中央への移籍に腹を括ったってことだ。

今まではなぁなぁで須川さんに教えてもらっていたけど、今後も教えてもらうのにずっと地方まで来てもらうわけにもいかないし、外聞も悪いだろうしね。

 

「私も、本気で中央を目指すよ」

「そうか。そいつはよかった。ただでさえアドバンテージがあるんだから、やる気になってもらわなきゃな」

「・・・ん?」

 

なんか聞き覚えのない言葉が出てきたけど?

 

「アドバンテージってどういうこと?」

「言ってなかったか?デビュー戦には、お前よりも長い期間トレーニングをしてきたウマ娘が大勢いるぞ。っていうか、期間だけで見ればお前が一番短いな」

「聞いてないんだけど!?」

「言ってなかったもんな」

 

開き直らないでもらいませんかね!?

 

「ていうか、そういうレースを選ばざるを得なかった、ってのが正しいな」

「どういうこと?」

「お前は地方出身で、碌に走れなかった状態からたった1ヵ月で中央に移籍しようとしてる。そんな奴が中央にふさわしいと思わせるには、それくらいの条件で勝てなきゃ厳しいんだよ」

「・・・中央って地方蔑視が蔓延ってるの?」

「まったくないとは言わない。が、事実として地方所属よりも中央所属の方が優れているし、地方から移籍してから地方に戻るなんて話もザラだ。それこそ、一部の規格外を除いてな」

「・・・オグリキャップとか、ですか?」

「あれはあれで規格外というか、それこそ“怪物”なんて呼ばれてるくらいだしな。まぁ、オグリキャップほどではないにしろ、地方出身で活躍したウマ娘もいるにはいるが、そいつは例外だ。ハヤテは、地方ウマ娘が中央に移籍してからの初戦の勝率を知ってるか?」

「んー・・・10%とか?」

「9%だ」

 

え?1割切るの・・・?

 

「たしかに、地方から移籍となると注目されるだろう。だが、注目されるのと期待されるのは別だ。こういうデータがあると、仮に勝ってもマグレだなんて言われかねん。そういうのをデビュー戦でまとめてねじふせようと思ったら、こうするしかなかったんだよ」

「・・・ちなみに聞きたいんだけど、さすがに勝算がないわけじゃないよね?」

「当たり前だろ?」

 

それはよかった。さすがに勝算もないのに不利なレースに挑まされるのは契約打ち切りを視野に入れなきゃいけない案件だからね。

まぁ、報・連・相を怠っている時点でだいぶ怪しいけど。

 

「だったらさ、なんでそういうの言わないの?」

「お前の場合、あれこれ吹き込むより流れに身を任せた方がいいだろうからな」

「だったらもうちょっと隠す努力をしようよ」

 

いっつも口が滑ってんな、こいつ。

私がそう言うと、須川さんは露骨に目を逸らして、

 

「・・・てへぺろ☆」

「店員さ~ん、追加で注文お願いしま~す」

「ちょ、おまっ、それはやめろって!」

 

この後、さらに追加で10皿食べた。

ついでに、イッカクとビクトメイカーへのお土産も買った。須川さんの金で。

帰り道、「くそっ・・・しばらく節約しねぇと・・・」ってこぼしてたけど、自業自得だよね、うん。




そろそろダートと短距離いける星3が欲しくなってくるなぁ。
素でダートAがスマートファルコンしかいないし、短距離Aもサクラバクシンオー(キングヘイローはノーカン)しかいないし。
ウマ娘はなぁ、ガチャが引きづらいことこの上ないからなぁ。
同じサイゲでも、プリコネの石のばらまきや無料ガチャとは比べ物にならんよなぁ。
ウマ娘はもうちょいプリコネを見習ってもろて。
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