ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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終わった後の方が大変ってこと、あると思います

「・・・あれ?私が勝った?」

 

ゴールまで走り抜けてからも、私の思考回路はなんだか曖昧なままだった。

なんというか、終わってみると思った以上にあっけなかったね?

いや、間違っても他のウマ娘が弱かったとか、そういうことを言うつもりはないけど、感覚としてはほとんど1人で走ってたようなものだから、途中あたりからレースしてたって感覚が薄くなってたんだよね。

あまりにも風が心地よくて、思わず第3コーナーからさらに加速しちゃったし。

思わず途中から「あれ?もしかしてミスった?」って思っちゃったけど、後ろからは足音が聞こえなかったからそのままゴールまで走り抜けた。

振り返ってみれば、へとへとになりながらもゴールしたウマ娘たちと、私の番号の2番が大差勝ちしたことを示した掲示板が目に入って、ようやく私が勝ったって実感が湧いた。

ついでに言えば、これで私も晴れて中央トレセン学園に移籍することになるわけだ。

・・・にしても、どういう扱いを受けることになるんだろ?身も蓋もない言い方をすれば、デビュー戦とはいえ中央の生徒を蹂躙しちゃったわけだよね?変な噂とか流れないかな?

・・・いや、今さらかな?浦和トレセン学園ですでにあることないことないこと吹き込まれてるんだから、むしろ中央トレセン学園に避難するっていう考え方もできるかな?それはそれで贅沢な避難先だけど。

ていうか、たしか向こうも全寮制だから、荷物とか送っておかないと。あと、新しい制服とかジャージも必要になるし、またお金がかかっちゃう・・・そういえば、お母さんにも言っておかないとダメだよね・・・なんて連絡しよう・・・。

 

「クラマハヤテさん、そろそろ移動の方をよろしくお願いします」

「あっ、はい。すみません」

 

今後のあれこれを考えていると、係員さんから声をかけられた。

どうやら、思ったよりも長い時間考え込んでたみたい。

レース前よりも私に向けられる視線が多くなって落ち着かなかったこともあって、私は逃げるようにターフを後にした。

まさか、終わった後でも逃げることになるとは思わなかったね。

・・・そういえば、ウィニングライブってどうするんだろ。

 

 

* * *

 

 

結論から言うと、ウィニングライブは成功した。

ライブに使う衣装は、今回は学園の方から貸し出してくれた。というか、須川さんが用意してくれてたらしい。

歌とダンスも、特に目立った失敗もなく無事に終わった。

さすがに他のレースで1着になった先輩には負けるけど、十分っちゃ十分じゃないかな。

ただ、

 

「ア゛ァァァ、ぎもぢい~・・・」

「もうちょい声を抑えろ。ていうか、マジでバキバキだな」

 

今の私は、控室の床にマットを敷いて、その上にうつ伏せで寝そべっている。

なんでかと言われれば、須川さんにマッサージしてもらうため。特に脚と肩。

脚は当然なんだけど、なんで肩をマッサージしてもらっているかと言えば、ガチガチに肩が凝ったから。主に、ライブのダンスのせいで。

目立った失敗はなかったとはいえ、さすがにレースとはまた違った緊張で全身に力が入りまくって、最終的にいろんなところがガチガチになった。

一応、他の部位はすでにマッサージしてもらって、後は肩だけって感じ。

中央のトレーナーだからかは知らないけど、須川さんはマッサージもけっこういける口らしい。めっちゃ体がほぐれる。

 

「ていうか、お前はお前でいいのか?仮にも男にやらせてるわけだが」

「それ、イッカクの前でも同じこと言える?」

「・・・あいつにはマッサージも勉強してもらうか」

 

つまり、そういうこと。

あくまで、イッカクが来るまでの間だけね。

もしイッカクがこの場にいたら、須川さんがどうなっちゃうかわからないし。

下手したら、骨の1本や2本はやられても不思議じゃない。あるいは、メンタルが死ぬかも。

まぁ、私の中にギリギリ残ってる男のおかげで、あまり不快感が湧いてないってのもあるだろうけどね。最近ではかなりその辺りの自覚が薄れてるけど、まったくないわけじゃない。

・・・他の娘とお風呂に入っても何も思わなくなってるけど、それでもまったくないわけじゃない、はず。

いや、そりゃあね?最初はちょっとドキドキしたけどね?なんか慣れちゃったんだよね、1週間くらいで。ウマ娘になった影響かな?

 

「それよりもさ。移籍の件、今のところどうなってるの?」

「それに関しては、後で記者会見をすることになってる」

「は?正気か?」

 

中央移籍が決まったとはいえ、まだ地方のぺーぺーですぜ?

とはいえ、さすがに須川さんもそんな私の心境はお見通しなようで、その辺りの事情を説明してくれた。

 

「安心しろ。お前へのインタビューは控えさせてもらうことにしてる。どちらかと言えば、移籍の事実確認と正式認定をマスコミに公表するようなもんだ。学園からも代表が来ることになってる」

「へ~。そうなんだ」

 

良かったって言えば良かったけど、なんか大事になってるね?

 

「ていうかさ、記者会見なんて予定、さっきまでなかったと思うけど?」

「それなんだがな。元々は本当にそんな予定はなかったんだ。一応、雑誌関係の記者が話題になってるお前を見に来たようだが、それだけだ。そこまで期待されてるわけではなかった」

「そりゃそうだろうね。真正面から言われるのはちょっと傷つくけど」

「だが、あのレース内容だ。デビュー戦とはいえ中央の猛者を蹴散らしたとなれば、オグリキャップ以来の地方から生まれた怪物として注目度はグンと跳ね上がる。それこそ、予定になかった記者会見を当日のうちにねじ込もうとするくらいにはな。幸か不幸か、会場は準備できるようだったし」

「なるほどね~」

 

記者会見のスケジュールとか設営・準備なんて専門外のこと私にはわからないけど、オグリキャップが比較対象に出てくるあたり、ガチで期待されるようになっちゃったんだろうね。

鬱陶しいってのが本音だけど、活躍するようになっちゃった以上、甘んじて受け入れるしかないんだろうなぁ。

 

「あと、実はその学園の代表が今回のレースを観ていたようでな。会見を持ちかけたのは記者だが、主導はそいつだ」

「は?どういう偶然?」

「以前、中央トレセン学園で試走しただろ?その時に目を付けられたらしいな」

「へ~。わざわざデビュー戦を観に来るなんて、暇なのかな?代表ってことは、それなりの地位にいるってことでしょ?」

 

でも、誰なんだろ?理事長・・・は年中いろんなところを飛び回ってて忙しいって聞いてるから、その周りの人かな?

そう思ってた私の予想は、粉々に打ち砕かれた。

 

「あぁ、多少は自由が利くぞ。生徒会長だからな」

「・・・・・・What?」

 

 

* * *

 

 

シンボリルドルフ。中央トレセン学園の生徒会長であり、現役時代では当時初の『無敗のクラシック三冠』および『G1七冠』を達成した、“皇帝”の異名を持つ生ける伝説。その実力は『中央(トゥインクル)シリーズに絶対はないが、彼女には絶対がある』と言わしめるほどだ。

生徒会って単語だけだと大したことがないように聞こえるかもしれないけど、実際は学園の運営にもある程度は口を出せるほどの裁量を持っているらしくて、生徒に関連する諸々の雑務も請け負っている。

そんな生徒会の会長に求められるのは、血筋、カリスマ、そして圧倒的な実力。

一応、最近では会長を退任するかもなんて話もあるけど、レースはともかく会長としてはまだまだ現役だ。

 

「我々トレセン学園は、クラマハヤテの中央移籍を歓迎する」

「は、はひ・・・」

 

そんな圧倒的強者にしてカリスマが、私の隣に座っている。

私としてはできれば須川さんを挟みたかったけど、その須川さんから「会長殿と握手する絵面が必要だから、隣に座っとけ」って言われて強制的に隣同士にされた。

いやいやいや、やばいやばいやばいやばい・・・!

いやだって、シンボリルドルフだよ?あの“皇帝”だよ!?あの絶対強者だよ!!??

何がやばいってまず顔がすごいイケメンだし、なにより存在感が半端ない。

なんか、1秒たりとも目が離せないというか、無意識にひきつけられるような、そんな圧倒的なカリスマを感じる。

ハッキリ言って、シンボリルドルフと比べれば目の前の記者団なんてただのカカシでしかない。記者団相手よりもシンボリルドルフ相手の方がはるかに緊張する・・・!

 

「君の実力は、本日のデビュー戦で遺憾なく見せてもらった。中央での活躍も期待している」

「は、はい。がんばります・・・」

 

須川さんが言った通り、記者会見はほとんど須川さんと会長が進めてくれたおかげで、私が喋ることはあんまりなかった。

一応、中央移籍への意気込みなんかを聞かれたけど、ぶっちゃけ記憶に残ってない。いや、須川さんから台本もらったからその通りに言ったはずだけど、その記憶がすっぽ抜けてる。

ていうか、ここまでの緊張は中央トレセン学園での試走の時でも今回のレースでも感じたことなかったぞ・・・!

んでもって、私の中の修羅場はこれで終わりではなかった。

 

「さて。では改めて、シンボリルドルフだ」

「く、クラマハヤテと言います・・・」

 

記者会見が終わった後、改めて自己紹介することになった。

いや待って本当にお願いだから早く帰らせてイッカクによしよししてもらいたいけどその前にお腹が空いてきたから何か食べたいいやでも喉も乾いてきた気がするからお茶とかないかなあとあとあとあと・・・

 

「おーい、ハヤテー。戻ってこーい」

「待ってお風呂とかどうしようていうか寮の門限過ぎまくってる気がするしでも近くに銭湯とかあったっけいやあっても用意とかないしその前にやっぱりご飯を食べたりとかイッカクも誘っておいた方がでもビクトメイカーどうしようあわわわわわわわ」

「・・・」

 

パァンッ!!

 

「うひゃい!?え?あっ、すみません!!」

 

耳元で須川さんに柏手を打たれて、ようやく正気を取り戻すことができた。

てかやばい!会長さんを前に醜態を晒してしまった・・・!

 

「ふふっ、なかなか面白い娘だな、須川トレーナー」

「前に中央トレセン学園(そっち)に行ったときも言っただろ?ここまでパニックになってる原因の半分くらいは会長殿だと思うが?」

「あ、あれ?2人って、もしかして知り合いだったり?」

 

なんか、2人のやり取りがやけに親密というか、気心が知れた親友みたいな感じだね?

そう思ったけど、特別仲がいいとか、別にそういうわけじゃないらしい。

 

「いやなに、昔の須川トレーナーは少し問題児なところがあってね。それで関わる機会が多かったというわけだ」

「えぇ・・・トレーナーが生徒に説教されるって・・・」

「別に説教されたわけじゃねぇよ。諭されはしたが」

 

それ対して変わんなくね?

 

「というか、いったい何をしでかしたんですか?セクハラとか?」

「おい。お前は俺をなんだと思ってるんだ?」

「法に触れるようなことはしていない。主に短時間の遅刻の常習犯だったり、他チームのウマ娘を横取りしたりといったところだ」

「うわ、それほんと?人としてどうかと思うよ?」

「会長殿。あんたもあまり人のことをペラペラとバラさないでくれ。ていうか、2つ目のやつは誇張表現が過ぎるだろ」

 

曰く、所属チームから抜けたウマ娘を片っ端から拾ってた時期があったみたいで、それを他のトレーナーから横取りと言われたらしい。

いや、やってることは横取りと言うか、自販機下の小銭を漁ってるみたいな感じだね。

とはいえ、この話は会長なりの気遣いだったみたいで、だいぶ緊張はほぐれた。

 

「では改めて。クラマハヤテ、デビュー戦勝利と中央トレセン学園への移籍、おめでとう」

「ありがとうございます・・・それにしても、どうしてわざわざ来たんですか?」

「もちろん、君に興味があったからだ。須川トレーナーから、『地方で逸材を見つけた。編入の手続きを頼む』と言われた時は吃驚仰天したものだ」

「そんなにですか?」

「あぁ。須川トレーナーは・・・」

「シンボリルドルフ」

 

不意に、須川さんが低い声で『会長殿』ではなくフルネームで呼び止めた。

え?そんなに地雷なの?

いったいなんなんだろ?

 

「もしかして、ここ最近はスカウトしてなかったとか?」

「・・・・・・」

「須川さぁん。もうちょっと隠す努力をしようよ~」

 

黙って目を逸らしたらバレバレですよ?

 

「まぁ、さすがに理由は聞かないでおきます」

「・・・助かる」

「いえ、別に・・・そういえば、浦和にいる間、生徒の世話はどうたらこうたらって言ってませんでした?」

「・・・・・・」

「嘘、ついてたんですね?見栄でも張りたかったんですか?」

「・・・トレーナーとしての仕事があったのはたしかだ。雑務が主だったがな」

 

言い訳にしてはちょっと苦しい気がするけど、トレーニングメニューとかはちゃんと用意してくれてたから、別に文句はない。

 

「それはそうと、君には聞いておきたいことがある」

 

おっと、話が脱線しすぎたかな。

まさか、雑談だけで終わらせるはずもないだろうからね。

 

「君は、なぜ中央で走り、何を成し遂げたいのか、それを聞かせてほしい」

 

・・・なるほど。それが本題ね。

ぶっちゃけ、私の中央行き自体はほとんど成り行きだったから、これといった理由があるかと言われるとちょっと答えに困る。

まぁ、強いて言うなら。

 

「走りたいから、ですかね」

「であれば、それは地方でも十分ではないのかな?」

「私にとって、地方のレースは短すぎるんですよ。ダートも走りづらいですし、私にとって気持ちよく走れません」

 

地方のレースなんて、どんなに長くても2000mを越えるレースはまずない。

最初に出会ったときには言われなかったけど、私はたぶん生まれながらのステイヤーだ。短距離はまともに走れない。もっと言えば、パワーに欠けるからダートも適正かと言われると微妙だ。

でも、中央トレセン学園で芝を走って確信した。

私は、ここでなら全力で走れるし、地方にいるよりももっと楽しめると。

 

「私はですね。ただ走りたいだけなんですよ。自分の好きなように、自由に、思い切り、気持ちよく。中央の舞台は、それにピッタリなんです」

 

そんな私が、中央で何を成し遂げたいのか。

 

「私は、自分の限界を知りたい。さっきのレースも含めて、今まで限界まで疲れるほど走ったことがないですからね。私はどこまで速くなれるのか、どこまで高みに上れるのか。それを知りたい、試してみたいんです」

 

誰のためでもなく、自分のために走りたい。

そう言うと、会長は私の目をじっと見つめて、ふっと笑みを浮かべた。

 

「なるほど。どこまでいっても自分のため、か」

「・・・ダメでしたかね?」

「いや、面白い。君がそれを有言実行できるだけの実力を持っているのであれば構わないさ。私も地方出身の身である君がどこまでたどり着けるのか、その活躍を期待するとしよう」

 

そう言うと、会長は「では、失礼する」と言って控室から出て行った。

そこで私は、ドカッとイスに座って大きく息を吐いた。

 

「はぁ~っ、つっかれた~!!」

「これまた、レースよりも疲れてないか?話しただけだったろ?」

「いや、須川さんだってわかってるよね!なにあの人、存在感が半端じゃないんですけど!!」

 

もし会長の存在感に質量が存在していたら、私は控室の壁に挟まれて死んでいるか、壁にめり込む勢いで吹き飛ばされている。冗談とかじゃなくて、マジでそうなる自信がある。

 

「あれが“皇帝”かぁ・・・話に聞いてたよりも半端ないね。やっぱ実物は違うわ」

「当然だ。史上初の“無敗の三冠”は伊達じゃない」

「そんな会長が、やたらと私のことを気にかけてくれてるってのは、ありがたいというか恐れ多いというか・・・わざわざデビュー戦を観に来たことといい、なんでなんだろ?」

「あくまで俺の想像に過ぎないが・・・お前にオグリキャップを重ねているのかもな」

「そう?あー、もしかして、ダービーの件を未だに引きずってるとか?」

「そう単純な話でもないだろうが、似たようなもんかもな」

 

クラシック登録の制度改変のきっかけになったオグリキャップだけど、逆を言えばオグリキャップ本人がその恩恵を受けられなかったからこそ、今の制度があるとも言えるからね。

話で聞いた限り、会長もオグリキャップをダービーに出走させようと尽力したらしい。結局、オグリキャップのダービー出走は叶わなかったから、少なからずは意識してるのかも。

だから、地方生まれのウマ娘である私がクラシックで活躍することを望んでいる可能性も、0ではない・・・かな?

まぁ、どのみち私は好きにやらせてもらうけど。

 

「よしっ、須川さん!帰りもよろしく!私は明日に備えてさっさと寝るから!」

「あいよ」

 

明日からは編入の準備で忙しくなるからね。

私は、これから始まるだろう新しい生活に胸を躍らせながら、その日の夜は一瞬で眠りについた。

ライブといい会長との会話といい、疲れるイベントが多すぎたからね。仕方ないね。

レース?レースは疲れなかったからノーカンで。




無敗三冠のディープインパクトとコントレイルが実装される気配が皆無だから、まだしばらくはルドルフが永遠の17歳として生徒会長やってそう。
今のところは二次創作でしか見れてないけど、いつかは公式でも働くウマ娘をやってほしいですね。バイトじゃなくて正社員で。
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