ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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初めての学校に初めての教室って緊張しない?

「う~ん!そこそこ走ったかな~」

 

数十㎞の道のりを走り抜けて、浦和トレーニングセンター学園、通称・浦和トレセン学園にたどり着いた。

それにして、この体だと数十㎞走ってもまったく疲れないなー。身体能力半端ない。

さすが、ウマ娘って感じかなー。

ていうか、なんで人間だった“俺”がウマ娘に転生してるのか、まったくわからない。普通、ウマが転生したらウマ娘になるんじゃないのかな?

まぁ、その辺りの問答は二日くらいで諦めたけど。考えたところでしょうがないし。

前世は前世、今世は今世、設定は知らん。

たくさん走れる体に生まれたわけだし、その特権を思う存分堪能しよう。

 

「それにしても・・・地方とはいえ、やっぱり人は多いなー」

 

地方と中央では数・質に大きな差があるけど、さすがは腐っても関東。多分他の地方学園と比べても多そうな気はする。

でもまぁ、さすがに設備は比べ物にならないか。

ちょっと調べてみたけど、本当に最低限揃ってるだけっぽいし。ウィニングライブの練習とか、自分でダンス教室探さないといけないのかな。

というか、そもそも私はここで勝てるのかな。

物心ついた時から走りまくってたけど、比較対象がないから自分が速いのか遅いのかよくわからん。

まぁ、それを確かめるという意味でもここに入学して損はない。

 

「さて、とー。遅刻は、してないよね?うん、大丈夫」

 

走っているうちに時間を忘れちゃうせいで、ちょっと時間感覚が狂うことがあるけど、今回は問題なかったみたい。

でも、朝とか走りたいし、タイマーとかそのうち買っておこうかな?

ひとまず、自分の教室を確認して校舎の中に入る。

周囲を見渡してみると、私みたいにソワソワしている娘もいれば堂々としてる娘もいる。

やっぱり、中にはアマチュア大会に出てる娘もいるのかなー。

・・・あれ?そう考えると私、なんで山の中ばかりで走ってたんだろ?

こんなことなら、1回くらいはレースに出ればよかったかなー。

でも、誰かにコーチングしてもらったこともないし、出たところで難しかったのかなー。

いろいろと思うところは出てきたけど、今さら過去を悔やんでも仕方ない。

ここからは心を入れ替えて、前向きに頑張っていこう。

 

 

* * *

 

 

教室の中に入ると、すでに席の半分くらいが埋まっていて、自分の席に座っている娘もいれば他の娘と喋っている娘もいた。ジュニアからの知り合いだったりするのかな?

あ、やばい、なんかすごくアウェーな感じがしてきた。

もしかして、さっそくボッチになっちゃう?友達がいないまま学園生活を始めることになっちゃう?

もういいや、授業が始まるまで寝よう。教室で何もすることがないときは寝るに限る。

べつに、友達がいないからって拗ねるほどお子様じゃないし。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

さっそく机でうつぶせになっていると、前の方から声をかけられた。

見上げて見ると、真っ白な長髪が綺麗な女の子が立っていた。額には、灰色の髪が一房垂れている。

この娘は女神ですか?それとも天使ですか?めっちゃ可愛い。

 

「んぅ?なに?」

「見かけない娘だなあって思って。あっ、私はイッカク。あなたは?」

 

イッカクって、北極に生息してる絶滅危惧種の海洋哺乳類のことかな?あ、でもそう考えると灰色の毛が角みたいに見えなくもない。

 

「私はクラマハヤテ。まぁ、ずっと山の中で暮らしてたから、知らないのは当然だよー。ていうか、なんで私に声をかけたの?見かけないってだけなら、他にもいるんじゃない?」

「う~ん、なんだか速そうだったから、かな?」

「そう?いっつも山の中で1人で走ってばかりだったから、自分が速いか遅いかなんてわからないんだよね~」

「山の中、って・・・レース場に行ったりしなかったの?」

「だって遠いし、1人で走る方が気楽で好きだったから・・・それに、山って言っても木がたくさんあることを除けばレース場とあまり変わらないよ?」

「そんなことはないと思うけどなぁ・・・」

 

まぁ、芝ともダートとも違うからね、森の土って。それに、傾斜とかはレース場のそれと比較にならない。

だから、コースでの走り方ってのをここで覚えていかないといけないんだよね、私は。

今さら感がすっごいけど、そういうのはもう気にしないって決めたからね。

 

「話は変わるけど、私のことを見かけないって言ったら、イッカクだって珍しいよね?そんな綺麗な白毛なんて」

「あはは、そうだね」

 

ウマ娘界において、白毛のウマ娘は少ない。

あまり活躍していないとかそういうのだけじゃなくて、絶対数そのものが少ない。

だから、レースでも白毛のウマ娘を見かける機会なんてほとんどない。

でも、最近だと中央でも白毛のウマ娘が活躍してるって記事が出てたっけ。

山中暮らしとはいえ、テレビと新聞はあるから、そういう記事とかニュースはチェックしてるんだよね。

おかげで、ボッチなりにも情報は持ってる。

地元の情報?そんなの知らん。少なすぎるし。あまり興味ないし。

 

「みなさーん、席についてくださーい」

 

そんなことを話していたら、ガラガラとドアを開けて先生が入ってきた。

 

「さて、さっそくですが出席を取ります。イッカクさん」

「はい」

 

それからは、特に何かあるわけでもなく出席をとって軽くだけど授業が始まった。

とは言っても、本当に基礎的というか、ウマ娘なら割と常識として知られているようなことだけだけど。

浦和レース場は全国に15カ所ある地方(ローカル)シリーズが開催されるレース場の1つで、浦和トレセン学園はそこに出走するウマ娘、いわゆる“競争ウマ娘”を目指すことになる。

ちなみに、ひと昔前までは地方から中央(トゥインクル)シリーズに出るなんて考えはほとんどなかったんだけど、あの“芦毛の怪物”と言われた地方出身のオグリキャップの影響でURAの規則が見直されて、クラシック登録っていう中央のレースの中でも特別なクラシック三冠レースに出るための登録ができなくても、審査が通れば出走できるようになった。おかげで地方のウマ娘でも中央に移籍して活躍しやすい環境が整えられてる。

まぁ、活躍しやすいって言っても、やっぱり中央と地方の間にある大きな差が縮まるわけじゃないけど、改革前と比べると地方の原石探しは活発になっていて、地方出身のウマ娘が中央で活躍したって話がたまに出てくるようになった。

あと、クラシック登録って時期が決められていて、その時に自信が無くて登録しなかったけど実は遅咲きだったってウマ娘とかも出れるようになったかな。

ちなみに、私たち地方組にとってオグリキャップは憧れのようなもので、地方で活躍したウマ娘が中央でも活躍するんだ!って息巻いて中央に移籍して玉砕したウマ娘の話も珍しくないんだけど、それでも以前と比べて実績を残したウマ娘は少しだけど増加傾向にあるみたい。

まぁ、さすがにオグリキャップと同じレベルはいないけど。オグリキャップほどのウマ娘が地方から出るなんて50年に一度あるかないかって言われてるからね。そんなポンポン出てたまるかって話だよ。

それでも、地方のウマ娘に夢と希望を与えたオグリキャップは私にとっても憧れだし、中央に行きたいって思える動力源みたいなものだ。一応、イナリワンっていうオグリキャップと同じく地方出身で活躍したウマ娘もいるけど、多分オグリキャップに憧れているウマ娘の方が多いと思う。イナリワンには申し訳ないけど。

とまぁ、“隙あらばオタク語り”を見せつけてしまいながらも、授業自体はすぐに終わって解散になった。

今日は入学初日だから、午後は特に授業はない。

だから、さっさと昼ご飯を食べて走りに行こう。

この辺りの土地勘はあまりないから、早いうちに覚えておかないとね。

 

 

* * *

 

 

トレセン学園には食堂が併設されていて、他はあまり知らないけど基本的に全品食べ放題になっている。

競争ウマ娘は体が資本だから、当然と言えば当然かもしれないけど。

そんな私も、いっぱい走るだけあって食べ盛りだから山盛り食べる。

他のウマ娘の倍は食べてるけど、むしろこれくらい食べないと体がもたないんだよね。

 

「隣、お邪魔するね・・・って、すごい食べてるね」

 

もりもり食べてると、隣にイッカクが座ってきた。

私からすると、イッカクとか他のみんなが少なくない?って感じるんだけどね。

 

「これくらいは普通だよ。ていうか、私からすれば他のみんなが少なく見えるんだけど」

「だって、あまり食べ過ぎると体重が・・・」

 

あ~、食べ過ぎで体重が重くなっちゃうとスピードが落ちたりスタミナの消費が激しくなっちゃうからね。消化・吸収できる範囲にしないとすぐに溜まっちゃうのか。

でも、中央には私の数倍は食べる大食い王がいるって話もあるし、私もまだまだなのかもしれない。

 

「それで、ハヤテちゃんはこの後どうするの?」

「走りに行くよ。この辺りの土地勘を覚えておきたいし」

「それって、自主練ってこと?」

「ん~、練習って言うより、趣味?走りたいから走るって感じ」

 

そりゃあ、私も人並みには活躍したい欲求はあるけど、どちらかと言えばたくさん走れたらそれでいいって感じ。

だから、本格的なトレーニングとか一度もしたことがない。ずっと走ってばかりだったから。

 

「ハヤテちゃんって、走ることが好きなんだね?」

「そうだねー。山中だとそれくらいしかやることなかったってのもあるけど、私自身走るのが好きなんだろうねー。子供の時の記憶とか、ほとんど食べて走って寝てって感じだし」

「そうなんだ」

 

私が話している間、イッカクはずっとニコニコしながら耳を傾けている。

そんなに聞いてて面白いかな?

すると、イッカクがパンと手を叩いて提案してきた。

 

「そうだ。私も一緒に走っていい?」

「? いいけど・・・私は勝手に走るだけだよ?」

「大丈夫だよ。私は後ろからついて行くだけだから」

「そう?」

 

なら別にいいかな。

とにかく、さっさとご飯を食べて寮に行って準備しないと。

 

「あ、そうそう。私とハヤテちゃん、同室なんだって」

「そうだったんだ」

 

だから話しかけてきたわけね。

その後も、とりとめのないことを話しながら昼ご飯を食べ終えて寮室に向かった。

 

 

* * *

 

 

「いや~、まさかすでに用意されていたなんて・・・」

 

昼ご飯を食べ終え、寮室に戻って荷物を確認していたら、その中に買った覚えがないスポーツウォッチが入っていた。

いや~、母さんの理解力がありがたいを通り越して怖くなってきたね。どこまで先を見通しているんだろう。

しかも、これって時間だけじゃなくて、体温とか心拍数みたいなバイタル値とか走った距離まで出してくれるけっこう高そうなやつじゃん。

どこからこんなものを買うお金が出て来てるんだろう。父さんからの仕送りかな?

たしか、詳しくは聞いてないけど、父さんって中央で働いてるって話だったから、給料はけっこういいのかも。

そのせいで、父さんにはほぼ会ったことがないんだけど、それでも愛されて育てられてるんだなぁ、って思う。

しかも、甘やかしにならないギリギリの範囲で、私にとって必要な物を揃えてくれるんだから、私の両親は間違いなく人格者だね。

 

「いいお母さんとお父さんなんだね」

「本当にね」

 

後ろから着替え終わったイッカクが覗き込んできた。

それにしても、制服越しだと分かりづらかったけど・・・イッカク、意外と胸があるな?

私?私はまぁ・・・貧乳と普通の中間くらい?大きくはないね。でかいと走るのに邪魔だから、むしろありがたいまであるけど。

 

「それで、私のペースで走っちゃっていいんだよね?」

「うん、それでいいよ」

 

言ってしまえば、ものすごくゆるーい併せみたいな感じかな?

まぁ、まだ入学して初日だし、なんだったら授業ですらないから深く考える必要もないか。

 

「じゃあ、ひとまず時間は1時間で、ペースは40くらいでいいかな」

「うん・・・え?」

「それじゃあ、行くよ」

 

そう言って、私は走り始めた。

後ろから「あっ、ちょっと待って!」ってイッカクが呼んでたけど、私のペースでいいって言ってたからそのまま走っていった。




今作執筆を気にいろいろと調べて初めて知ったんですが、トウカイテイオーとかアニメの話ってオグリキャップが引退した直後の話だったのか・・・にわかが盛大に出てしまいましたわ。
これは、大幅な設定変更が必要と言うか、最悪物語自体が頓挫する可能性すら出てきやがった・・・。
とりあえず、時系列を大幅に進めておかねば・・・というか、ウマ娘の世界だとその辺りの時系列って緩いから、逆に自分もあまり考える必要がないのか・・・?とりあえず、出走させるレースとメンバーを重点的に考えた方がよさそう。

ちなみに、調べている内に思ったんですけど、ウマ娘の世界で牡馬と牝馬の違いってあるんですかね?
ゲームで見る限り、元が牡馬でも南関東牝馬三冠のレースは問題なく出れるから、元馬の性別の違いはあまり関係なさそう。
でも、それはそれでレース規格とか変わるだろうから気になる。
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