ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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海がっ、私を呼んでいる!!

「海に行きたい」

「は?」

 

私がそう言ったのは、夏休みに入り夏の日差しもさらに強くなったある日のこと。

夏休みに入ってからは、須川さんと一緒に熱中症に気を付けながら体づくりをすることが多かった。

ちなみに、本格化の気配は微塵もなくて、須川さんが「こりゃあ、9月までもつれ込みそうだな」って言ってた。

いや本当、なんでそんなんでデビュー戦出したんだよと声を大にして言いたいけど、中央への移籍がかかってたんだから、仕方ないと言えば仕方ないんだよね。

んで、ランニングとかプールトレーニングとかいろいろやってたんだけど、なんか無性に海に行きたくなってきた。

 

「・・・いきなりどうした。ていうか、何で今なんだ?」

「なんか、行きたくなった」

「学園のプールじゃダメなのか?」

「海がいい」

「・・・なんでだ?」

「気分?」

「なんでお前も疑問形なんだよ」

 

だって・・・なんでだろうね?

自分でもよくわかんないんだけど、なんか無性に海に行きたくなってきた、としか言いようがないんだよね。

涼むだけならプールもダメってわけじゃないんだけど、何かが違う。海じゃないとダメな何かがある。

 

「もう一度聞くが、なんで海に行きたいんだ?」

「なんでだろうね?でも、なんか行きたいんだよね。こう、海が私を呼んでいる!って感じで」

「映画の見過ぎで頭がおかしくなったか?俺のコレクションにあったジョ〇ズでも見たか?」

「ううん?昨日はRI〇G見てた」

「そういやぁそうだったな」

 

ていうか、むしろジョ〇ズなんて見たら海に行きたくなくなりそうな気がするけど。

 

「でもなぁ、どうせ来年になったら合宿で海に行くことになるぞ?それまで楽しみを取っておいてもいいと思うんだが」

「それはそれ、これはこれ。ていうか、いっそ下見って名目で行ってもいいんじゃない」

「しまったな。余計な口実を作らせちまったか・・・」

 

行く理由が増える分には全然いいよね!

なんだったら、もっと行ってもいい理由を探そうか。

そう考えてたら、須川さんがおもむろにスマホを取り出して、何かを調べだした。

 

「・・・今すぐに、ってのは無理だが、行く分には別にいいか」

「え。なに?どういうこと?」

「合宿所は海の傍にあるんだが、近くに神社もあって、そこでは毎年夏祭りをやってる。どうせだから、グランアレグリアを誘ってみたらどうだ?夏休みに、夏祭りに行く約束をしてたんだろ?」

「おぉ!ナイスアイデア!」

 

グランが言ってた約束は、どちらかと言えば都内でやる祭りのことを言ってたんだろうけど、たしかにそれはそれでいいかもしれない。

でも、グランの都合によっては難しいかもしれない。

 

「そういえば、そのお祭りって合宿期間中にやってるの?」

「あぁ」

「・・・グラン大丈夫かな。たしか、チームが合宿に行ってる間は実家に帰省するって言ってたけど」

 

たしかグランの実家は都内だったと思うけど、それでも帰省している最中に連れ出すのはちょっと迷惑かもしれない。

 

「とりあえず、DMでメッセ送っとこ」

『ちょっといい?今須川さんと海に行こうって話してて、合宿の宿泊所が海に近くて、ついでに近くの神社で夏祭りやるらしいから、泊りがけで宿泊所の下見も兼ねて海水浴しながら夏祭りに参加しようと思ってるんだけど、グランもよかったら一緒に行く?でも、行くとしたら合宿期間中になるから、難しいなら無理しなくていいから』

『行こう!ぜひ行こう!』

「いや早いな」

 

秒で返事が返ってきたんだけど。

なに?まさかずっと画面にかぶりついて待機してたの?

 

『いや、親御さんとか東条さんに相談しなくて大丈夫?』

『実は、私もそのお祭りにハヤテさんを誘おうと思ってたから、親は大丈夫。東条トレーナーからも、ジュニア組は合宿に行っている間は基本的に自由にしていて構わないって言われたから、大丈夫だと思う』

「あ、そうだったんだ」

 

なんというか、思わぬところでウマが合ったな。

 

「グランも大丈夫だって」

「そうか。なら、こっちでスケジュールは調整しておく。お前も、空いてる時間で準備を済ませておけ」

「はーい」

 

こうして、グランとのお泊りが決まった。

・・・とりあえず、水着を用意するところからかな。

 

 

* * *

 

 

「ひゃっほーう!うーみー!!」

 

旅行当日、さっそく私は水着に着替えて海に飛び込んだ。

うわっすげぇ!水しょっぱい!波も強い!これが海か!

 

「おーい、あまり遠くに行くなよー」

「はーい!」

 

須川さんの忠告に返事を返しながら、私は沖の方へと泳いでいく。

プールトレーニングのおかげで、実はそこそこ泳げるようになったから、ウマ娘の身体能力も相まってどんどん沖に出ていける。

とはいえ、ネットが張られてるから、本当に沖にまではいけないけど。

それでも、念願だった初めての海に、私のテンションはうなぎのぼりだ。いや、むしろ滝を昇って竜になる鯉のようだ。今ならイルカにもなれそうな気がする!

やっぱ真夏の海は最高だぜぇ!!

 

 

 

 

 

 

「やべぇな、あいつのテンションの上がり方。明日大丈夫か?全身筋肉痛になったりしねぇか?」

「ま、まぁ、その時は私たちでどうにかすればいいですから」

 

初めての海でハヤテが最高にハイになっている様子を、須川とグランは浜から眺めていた。

ちなみに、今ハヤテとグランが着ている水着は学校指定のものではなく、個人で買ったビキニなのだが、それでもハヤテは見た目より機能性重視のスポーツタイプのものを選んだ辺り、最初から思い切り泳ぐつもりだったようだ。

ちなみに、グランはフリルのついた白地のビキニで、須川はトランクスタイプの海パンに上からアロハシャツを着ている。この時点で、2人とハヤテの意識の差が出ていた。

 

「それと、今回はありがとうございます。わざわざ私まで送り迎えしてもらって」

「いいんだよ。むしろこれくらいしねぇとおハナから説教が飛んでくる」

「かもしれませんね」

 

今回の旅行は、須川から東条にも連絡していた。

最初は東条も渋ったが、元々ハヤテとグランで夏祭りに行く約束をしていたこと、海水浴や宿泊所の下見もその延長線上であることを伝えると、絶対に怪我をさせないことを条件に了承してもらった。

 

「それで、須川トレーナーはどうします?」

「ここで座ってる。本当はパラソルの下でのんびり寝たいところだが、監督責任があるからそうも言ってられん。グランアレグリアこそ、泳ぎにいかないのか?」

「その、今回はハヤテちゃんのほど泳げる水着じゃないので・・・」

「そうだったか。まぁ、せっかくの海なんだ。足をつけるだけでも面白いと思うぞ」

「それもそうですね。じゃあ・・・」

「あ˝っ!ちょっ、助けて!なんかクラゲに刺されたっぽいー!」

「相変わらず、トラブルが絶えねぇ奴だな・・・待ってろ、今行く!グランアレグリアも手伝ってくれ」

「はい!」

 

そう言って、須川はアロハシャツを脱いで立ち上がり、グランと共に急いでハヤテの救出に向かった。

 

 

 

 

 

「うぅ、ヒリヒリする・・・」

 

須川さんとグランに救出された後、私はパラソルの下で須川さんが持ってきた軟膏を塗っていた。

うぅ、ふくらはぎに水ぶくれができてる・・・痕が残ったりしないかな・・・。

 

「ちゃんとネットの内側で泳いでたのに・・・」

「種類によっては、あの程度のネットは貫通する。これに懲りたら、ネットの近くで泳ぐのは控えることだ・・・まぁ、それでも刺される可能性が0になるわけじゃないが」

 

あ~、なんかいたね、やたらと触手が長い奴。

そう言うのに限って毒が強かったりするんだけど、私の場合は控えめな感じだね。いや、痛いっちゃ痛いんだけど。

 

「幸い、毒が強いやつじゃないから、少し休めば痛みは引くだろう。とはいえ、今日は遠くまで泳ぐのはやめておけ」

「は~い・・・」

 

せっかく海に来たのに泳ぐ時間が減って、思わずふてくされながら返事を返して、シーツの上に寝転がった。

と思ったら、頭に柔らかい感触が返ってきた・・・いや、言うほど柔らかくない。てかどちらかと言えば硬い。

上を見上げるとすぐ近くにグランの顔があった。

 

「・・・何してるの?」

「せっかくなので」

「何がどうせっかくなのかはわからないけど・・・あまり長い時間やらなくていいからね」

 

正座ってやってる間は足の血流が悪くなるから、あまり良くはないんだよね。

あと、スプリンターの太ももの寝心地って微妙だから、正直やってくれなくてもいい。

それにしても・・・併走というか、私が熱中症でぶっ倒れてから、グランの距離がやたらと近い。

あれかな、危なっかしくて目が離せないとか、そんな感じかな?

あれはまぁ、私も不用心だったとはいえ、さすがにここまで面倒みられるほど子供でもないと思うんだけど。

・・・さっきのクラゲはノーカンにできないかな?

まぁ、無理だよね。

 

 

* * *

 

 

傷みと腫れが引いてからは、足が浸かる程度の場所でグランを水を掛け合ったりして遊んだ。

ガッツリ泳ぐのも楽しかったけど、こういう軽いのも悪くなかった。

ただ、さすがにはしゃぎすぎて疲れが溜まってきたということで、キリの良いところで切り上げた。

 

「それで、今日はどこに泊まるんだっけ?たしか、下見に行く合宿所じゃなかったよね?」

「あぁ。さすがに下見するとはいえ、合宿目的で来てないのに、他に合宿で来てる生徒が大勢来てるところに泊まるわけにはいかないからな。だが、幸い利用人数が少ないところがあるから、そこに泊まる」

「へ~。どんなところ?」

「それは・・・見ればわかる」

 

須川さんがちょっと気まずそうに目を逸らす。

え、なに?目を逸らす要素あった?

須川さんの態度を私とグランは不審に思ったけど、その答えはすぐにわかった。

 

「えっと・・・なんというか、その・・・」

「えっ、ボロ小屋じゃん」

 

グランがどうにかオブラートに包もうとしたのを、私が思わずぶった切ってストレートに言ってしまった。

言っちゃあなんだけど、どうやって経営してるのか不思議なくらいぼろい。

民宿とか旅館でももうちょっとマシじゃない?

 

「ついでに言えば、料理は自炊する必要がある。それに関しては、俺の方で用意するから心配しなくていい。ちなみに、来年から泊まるとしたら向こうだ」

 

須川さんが指を指した先には、立派な旅館が建っていた。

 

「あそこにはリギルも止まっているだろうから、後で様子を見に行くか?」

「いえ、さすがに先輩の邪魔をするわけにはいかないので、大丈夫です」

「そうか。それじゃ、さっさと荷物を運ぶぞ。ちなみに、内装は外よりかは綺麗だから、その辺は心配すんな」

「はーい」

 

うんまぁ、来年は向こうに泊まると思えば、今回は我慢できる、かな?

ちなみに、中は須川さんが言ってたように、外見ほど汚ないわけじゃなくて、良くも悪くも古い旅館って感じだった。

まぁ、これくらいなら風情があるなぁくらいで済ませられる。

それよりも、今はしっかり休んで、夜の夏祭りに備えなければ!




なんか、グラン→ハヤテ←イッカクの三角関係が発生しそう。
でも、百合の三角関係もそれはそれで・・・。

気軽に祭り一緒に行こうって誘える友達なんて、そんなもの幻想だったんだ・・・べつに、1人で祭り回るの嫌いじゃなかったし・・・。
ちなみに、こんな気軽に泊りで海とか、そうでなくてもどっか泊りでって誘えるような友達って存在するもんなんですかね。
少なくとも自分は、高校が一応進学校でバイトとか免許関連がまぁまぁ厳しかったのと、そもそも山の中で海までそれなりに遠かったので、そういう発想自体生まれにくかった、というのもあって、周りにはいなかったですね。
まぁ、でかめの祭りはあるので、それで一緒に遊ぶというのはありましたが。
ちなみに、自分は1人で回ってるところで偶然遭遇するのがもっぱらでした。
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