「というわけで、イッカクが来た」
「お久しぶりです、須川トレーナー」
「おう、久しぶりだな、イッカク」
昼ご飯を食べた後、さっそく私とイッカクは須川さんのところに行った。
須川さんもイッカクが来てる可能性は半信半疑だったのか、実際に会うと微妙な表情を浮かべた。
「それにしても、よくもまぁスタッフ研修生の編入試験に合格したな。さすがにトレーナー資格ほどじゃないとはいえ、専門的な知識も多くて難しいはずなんだが」
「はい、頑張りました」
「頑張ってどうにかなんのか・・・?」
さすがイッカク。私たちにできないことを平然とやってのける。
そこに畏怖を覚えるし恐怖すら感じる。
もう、須川さんも軽々しく愛の力云々って言えなくなっちゃってるし。
「それで、今日は先生からイッカクの案内を頼まれたから、トレーニングには参加できないんだけど・・・」
「わかった。そういうことなら、こっちでスケジュールを調整しておく」
「ありがと」
「気にすんな。それと、イッカクにはこいつだな」
そう言って、須川さんはデスクの引き出しから紙を取り出してイッカクに渡した。
「トレーナーとの契約書類だ。俺が書く分は埋めてあるから、あとはイッカクの方で書いてくれ。明日俺に渡してくれればいい」
「わかりました」
あれ?思ったより手際がいいじゃん。念のため用意してたのかな?
「とはいえ、明日出してもらっても俺が学園の方に提出するのは少し先になるから、明日明後日から本格的に俺のところで活動できるわけじゃないってのは覚えておいてくれ」
「なぜですか?早いうちに出した方がいいと思うんですが・・・」
「俺が編入生を初日に勧誘したとなると、それなりに外聞がな・・・」
「?」
あー、そっか。まだ須川さんのこと目の敵にしてる人がいないわけじゃないから、少し様子を見たいのかな。最悪、あることないこと言われかねないし。
イッカクにはその辺りの話はしてないし、わからないのも仕方ない。
「そういうわけだから、少しの間は見学の体でいさせてもらう。んで、ハヤテとイッカクが同じ地方のトレセン学園で仲がいいってのを周知させてから、学園に提出して契約を結ぶ、という形になるから、覚えておいてくれ」
「・・・わかりました」
あ、ちょっとイッカクが不機嫌になった。
すぐにトレーニングの手伝いをできると思ってたのか、ちょっと不満そうだ。
イッカクの機嫌を直すには・・・
「じゃあ、今日の案内で私とイッカクが仲良しなところを見せればいいんじゃない?」
「まぁ・・・それもそうだな。それなら、早ければ明日にでも契約を結ぶことはできるか」
「んじゃ、それで決まり!それじゃあ、行こうか、イッカク!」
策は急げということで、さっそくイッカクと手を繋いでトレーナー室から飛び出した。
「それじゃあ、どこから行こっか。それで、イッカクはもう行ったところってある?」
「えっと、今日は教室以外はハヤテちゃんも一緒にいたところしかない、かな」
「となると、職員室と食堂とトレーナー室くらいか・・・じゃあ、まずは校舎の中から行こっか」
とりあえず、オグリ先輩とタマモ先輩に案内してもらったときのことを参考にして校舎の中から周ることにした。
図書室とか医務室みたいに普段からお世話になりそうなところから、中庭とか三女神の像みたいな特に普段と関係ないところも案内する。
ちなみに三女神の像について、私が最初に行った時はものすごい頭痛に襲われたけど、今はそんなこともない。イッカクも、特にこれといって感じたものはないらしい。
結局、あの時のことは何だったんだろうと首をひねりながら、今度はトレーニングに使う場所を案内していく。
「ここがプールだねー。私は夏の間は夏バテ予防でけっこう使ったけど、それ以外はあまり使わないかなぁ」
「ハヤテちゃん、スタミナはもう有り余ってるもんね」
ついでに言えば、スタミナ関連は夏休みから始めたパワートレーニングでも事足りている。
だから、秋以降は使うことはあんまりない。
とはいえ、まったく使わないわけじゃないから中を案内しようとしたんだけど、何やらウマ娘がものすごい集まっている。
「ハヤテちゃん、今日ってプールで何かあるの?」
「いや、イベント的なものはやんない・・・いや、やらなくもないけど、今の時期はないかな」
あの光景は、私も中央に来てから何度か出くわした。
だから、ウマ娘が集まっている理由もなんとなく察しがつく。
「今日は誰が使ってんだろ・・・あぁ、リギルがチームで使ってるんだって」
「チーム・リギルが使っていると、生徒が集まるの?」
「リギルが、っていうよりは、会長が、かなぁ」
「?」
頭の上に疑問符を浮かべるイッカクに状況を理解してもらうために、私は意を決してイッカクを連れてプールの中に乗り込んだ。
そこでは、プールサイドではスク水を着たウマ娘が、施設の外では制服のウマ娘が窓越しに黄色い声をあげている。
その視線の先にいるのは、スク水を着てプールトレーニングをしている会長だ。
会長ほどの美人になると、ただスク水を着て泳いでいるだけでも様になる。文字通り、水も滴るいい女、というわけだ。
さらに、会長は生徒会の業務もあって、プールでトレーニングしているのはけっこうレアだったりするという背景もあるから、余計に集まりやすい。
風の噂だと、スク水の会長の写真が学内の裏ルートで取引されてるらしい。ついでに、オグリ先輩とのツーショットもあるらしい。
まぁ、私に手を出す勇気はないけど。
「今日は会長だけど、他にもこんな感じで人だかりができることがあるんだってさ」
「そうなんだ・・・」
ていうか、今は普通ならトレーニングの時間のはずなんだけどね。暇なのかな?
んで、案内するかだけど・・・よりによって会長となると見つかったら面倒だな。
そういうわけで、回れ右して出口に向かう。
「プールの案内は、まぁ使うときになったらでいいや。今日のところは・・・」
「おや、クラマハヤテじゃないか」
やべぇ、見つかった。
振り向いてみれば、モーセよろしく勝手に人垣が割れていって、そこからプールから上がった会長が水を滴らせながら歩いてきた。
「・・・どうも、お久しぶりです」
「あぁ。合宿の時に、グランアレグリアと共に花火を楽しんだ時以来だ」
会長の言葉に、周りがざわめく。
はい、そうです。会長と一緒に花火を楽しみました。
ただ、打ち上げじゃなくて手持ちだし、個人じゃなくてチームの集りでやってたやつなんで、別に私と会長はそんな関係じゃないんですと大声で弁明したいけど、ただでさえ注目の的になっているのにこれ以上目立ちたくないから、なかなか言い出せない。
それになにより、
「・・・・・・」
横にいるイッカクの負のオーラがすさまじい。完全に瞳孔が開き切っちゃてるじゃん。
これは、この場で下手に言い訳じみたことを言ってしまうと、案内が終わった後、寮室でどうなってしまうかわからない。
そんなイッカクの気配に気づいているのかいないのか、会長がイッカクを見て私に尋ねてきた。
「それで彼女は・・・」
「えっと、浦和の時の友達で、イッカクって言います。今日からスタッフ研修生として編入してきたみたいです」
「なるほど。たしかに、今朝見た資料にあったな。我が校の編入試験に合格するとは大したものだ」
そりゃあもう、名状しがたい感情をエネルギーに変えて勉強しまくったわけですからね。いったい何をどうすれば0から数か月で中央に行けるようになるのか。
ビクトメイカーに聞くのも一つの手だけど、なんか聞き出すのも申し訳ないからやめておこう。
それはそうと、会長がイッカクに興味を持ち始めてしまった。
私の地方での友達だからか、それとも地方から中央にスタッフ研修生として編入してきた珍しい例だからかはわからないけど、これ以上この場にいたらどんな噂が流れるか、わかったもんじゃない。
「えっと、今はイッカクに学園を案内しているところなので、そろそろいいですか?」
「む、そうか。それは邪魔をしてしまって申し訳ない」
「いえ、邪魔ってほどのことじゃにので気にしないでください。それじゃあ、私たちはこれで」
そう言って、私はイッカクの手を引いてプールから出た。
途中ですごいヒソヒソ話が聞こえたけど、私は耳を伏せて聞こえないふりをした。
こういうときはウマ娘の超聴覚が不便に感じる。聞き耳を立てる分には便利だけど、聞きたくないことも聞こえちゃうのは考え物だね。
「・・・ハヤテちゃん」
「なに?」
「シンボリルドルフさんと、仲がいいの?」
そこ気になっちゃうよねぇ。
まぁ、少なからずそういう噂は流れてる。
ただ、仲がいいかと言われると、ちょっと微妙に違う。
「こう言ったらなんだけど、会長から一方的に構われてるだけかな。多分だけど、オグリ先輩と重ねて気にしてる部分があるんだと思う」
「オグリ先輩って、オグリキャップ先輩?」
「うん。タマモ先輩と一緒に学園を案内してもらったの」
「そうなんだ・・・」
あっ、抑えてる。
同級生とかならともかく、目上の先輩、それもビッグネームになるとあれこれ言いづらいんだろうね。それに、あの2人はそういうのじゃなくて、あくまで先輩後輩の関係だから、敵対対象にならないのかな。
まぁ、万が一会長と敵対ってなったら、命がいくつあっても足りないと思うけど。
とりあえず、その辺の話はいったん切り上げて学園の案内を再開した。
その後は、特に知り合いと遭遇することもなく一通り案内し終わって、今日はもう寮に帰ろうかという時間になった。
「それじゃあ、今日のところはこれで終わりってことで。寮に行ってイッカクの荷物を整理しよっか」
「うん。そういえば、グランアレグリアさんは・・・」
「美浦寮だからいないよ」
「そっか」
「でも、オグリ先輩とタマモ先輩とは同じだから、もしかしたら会えるかも」
普段からお世話になってるし、紹介くらいはしておきたい。
「そういえば、イッカクの荷物ってもう部屋に運んでたりする?ていうか、てっきり昨日のうちに来るかと思ったんだけど」
「えっと、編入試験の都合で、引っ越しの準備がギリギリになっちゃって・・・それで、昨日はホテルに泊まって、今日から寮に入ることになったんだ」
「そっかー」
そんなドタバタするスケジュールで編入試験受けたとか、どれだけ早く私に会いたかったんだ、イッカク。
そんなことを話しながら栗東寮に入ると、いつかの時と同じく、イッカクの荷物がロビーの隅に置かれていた。
「これだね。えっと、フジキセキ先輩は・・・」
「フジキセキ先輩って、誰?」
「栗東寮の寮長やってる先輩。私の時はフジキセキ先輩から説明受けたから、来るとは思うんだけど・・・」
ちょっと早かったかな?まだトレーニングから帰ってきていない可能性がある。
「とりあえず、先に荷物だけ運んじゃおうかな。あーでも、イッカクも部屋の鍵もらっておいた方がいいだろうし・・・」
「私に用かな、クラマハヤテ?」
噂をすれば、フジキセキ先輩が奥の方からやってきた。
あーなるほど。これむしろフジキセキ先輩の方が早く来てたのか。
「えっと、私が、ってわけじゃないんですけど、こっちの娘関連で」
「となると、このポニーちゃんが新しい入居者ということでいいのかな?」
「ぽ、ポニーちゃん?・・・えっと、初めまして、イッカクです。今日からお世話になります」
「うん、よろしく。それで、寮のルールは学生手帳に記載されているから、そっちを確認して。もしわからないことがあったら、いつでも私に聞いてね。はいこれ、君の部屋の鍵」
う~ん、相変わらずの性格イケメン。これでなびかないのはイッカクくらいじゃないかな。ポニーちゃん呼びされたときは戸惑ってたけど。
「じゃあ、先に荷物を運んじゃおっか」
そこそこの量があるけど、階段を往復するのも面倒だから全部まとめて持ち運ぶ。
元のウマ娘パワーに加えて、本格的にトレーニングを始めた今の私なら、これくらいは1人で持ち運べる量だ。
「わっ、すごいね」
「イッカクもけっこう運べると思うけど?」
「私は勉強を優先してたから、その、ちょっと筋肉が落ちちゃって・・・」
脂肪の割合が増えちゃったのかな?という不躾な質問は言わないでおこう。
「ここだねー」
あっという間に自室についた。
それにしても、そうか。前はオグリ先輩とタマモ先輩にこれをやらせてしまったのか。今度会ったら、イッカクを紹介しがてら改めてお礼でも言っておこうかな。
「それじゃあ、さっさと整理しちゃおっか。扉開けてもらっていい?」
「わかった」
さっき鍵を受け取ったイッカクが、荷物で手がふさがっている私の代わりに扉を開けた。
「よう!待ってたぜ!」
次の瞬間、私は反射的に足で扉を勢いよく閉めた。
「は、ハヤテちゃん!?」
「ごめん。ちょっとよくわからないものが見えたから、もう一回開けてもらっていい?」
チラッと見えた芦毛のウマ娘は、私の記憶違いじゃなければ、前に夏祭りで焼きそばを食べた屋台のゴルシちゃんさんだ。
え?トレセンの生徒だったの?ていうか、なんで私の部屋にいるの?何のために?
いやでも、もしかしたら質の悪い幻覚って可能性も0じゃない。
一回大きく深呼吸して、改めて扉を開けてもらった。
「おいおいおい!いきなり扉を閉めるなんて・・・」
「おらぁ!!」
「ごぶぅ!?」
扉を開けたら目の前にいて、思わず思い切り蹴り飛ばしてしまった。
ただ、ちょっと力の加減を失敗したみたいで、
「「あ」」
蹴り飛ばされたゴルシちゃんさんは、勢いのまま窓ガラスを突き破って外に落ちてしまった。
ついでに、ゴルシちゃんさんを目で追った先で、でかいホットプレートと焼きそばが目に映った。
・・・とりあえず、壊れた窓の言い訳はどうしよう。
蹴り癖持ちハヤテちゃん。
リアルなら蹴り馬の印ついてそう。
サイゲは来年でいいから水着ルドルフを実装してもろて。
スク水も当然それはそれで悪くないですが、やはりそれとは別で水着もほしい。
マブいちゃんねーはビキニだったんで、ルドルフはとりあえず黒ビキニ+緑パレオでいかがでしょうか。
あーでも、ルドルフの孫でウマ娘化してるのいないから頑張ってサポカか・・・。