ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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私は悪くなくない?あ、悪いですかそうですか。

短い時間にいろんなことが起こり過ぎたけど、とりあえず順番に説明しとこう。

まずはゴルシちゃんさん、いや、ゴルシ先輩って言った方がいいのかな。ゴルシ先輩は無事だった。偶然生け垣の上に落ちたおかげで、どうにか軽傷で済んだらしい。

とはいえ、5階の高さから落ちて本当に軽傷で済むのかどうかは疑問が残るけど、無事だったんならそれでよしってことにしておいた。

窓については、とりあえず弁償の必要はないって言われた。元はと言えば不法侵入してたゴルシ先輩が悪いし、私も気が動転してたってことで情状酌量の余地ありと判断された。

罰としてフジキセキ先輩から1週間のトイレ掃除を言い渡されたけど、その方が断然マシだ。

 

「・・・はぁ、なるほどね」

 

そして現在、フジキセキ先輩から事情聴取を受けていて、何が起こったのか一通り説明し終わったところだ。

フジキセキ先輩は盛大にため息を吐きながら、私に同情するような視線を向けた。

ゴルシ先輩が私たちの部屋に無断侵入した理由は、例の焼きそばの無料優先券だった。

いや、たしかにいつか食べようかと思ってたけど、まさか店員さんがトレセンの学生で、しかも自分から部屋に凸してくるとか予想できるわけがない。

ちなみに、私たちの部屋には天井に穴を開けて侵入したらしい。確認したらマジで穴が開けられていて白目をむきそうになった。

 

「とりあえず、事情はわかった。まさかこんなタイミングで問題を起こすなんてね」

「いやまぁ、反射的に蹴った私も悪いって言えば悪いですけど、そもそもの原因はゴルシ先輩ですよね?」

「うん。それはその通りだから、君はあまり気にしなくていいよ。ただ、寮長の立場としては罰則を与えないわけにはいかないから、そこは我慢してほしい」

「いえ、問題を起こしたのは事実なので・・・」

 

ちなみに、ゴルシ先輩は現在、口を布で塞がれて両腕を後ろに縛られ、両足も縛って正座している足の上にコンクリートブロックを何個か乗せている状態で、部屋の隅に放置されている。ついでに、首から『私はまた部屋の形を変えました』と書かれたプラカードをぶら下げている。

いや、タマモ先輩が言ってた部屋の形を変えたって話、ゴルシ先輩のことだったんかい。

思わずすごい納得しちゃったよ。「あぁ、たしかにしでかしそうだな」って。

 

「それで、これからどうする?天井を直す必要があるから一時的に部屋を移動してもらうとして、何か希望はあるかな?」

「ゴルシ先輩が襲撃してこなければなんでも」

「それは善処するよ」

 

確約はしてくれない辺り、相当手強いんだろうなぁ。

 

「他は・・・私は何もないですかね。イッカクは?」

「えっと・・・修理ってだいたいどれくらいかかりますか?」

「窓だけならともかく、天井に盛大に穴を開けたからね・・・業者次第になるけど、早くても半月くらいかな。場合によっては1ヵ月はかかるかも」

 

早くて半月か・・・天井の穴を塞ぐなら、そんなものなのかな。よりによって屋上付近じゃないところに穴が開いちゃったから、それでややこしくなっちゃう可能性は高いか。

 

「なら、そのまま移動先の部屋で暮らすことってできますか?」

「できなくはないよ。面倒な手続きは必要になるけど、移動理由としては十分だから」

 

なるほどねぇ。たしかに、そっちの方が楽そう。私の部屋、まぁまぁ物が増えたから、半月間隔でいちいち引っ越しは面倒くさい。

だったら、いっそ新しい部屋に移る、ってのもアリだね。

 

「では・・・美浦寮に移ることってできますか?」

 

おおっとぉ?それマジで言ってる?

いやまぁ、たしかにその手がないわけじゃない。むしろ、ゴルシ先輩が強襲してくる可能性が限りなく低くなるという点では、ベストな回答だとも言える。

ただ、そうなると会長やグランと寮が同じになる、というわけで。

大丈夫?我慢できる?いろんな意味で。

ただ、イッカクの提案を聞いたフジキセキ先輩の表情は一気に難しくなった。

 

「・・・そうなると、ちょっと難しくなる、かな。でも、できないわけじゃない。条件があるけど」

「条件、ですか?」

「寮長と生徒会長の許可を得ること。寮長は、栗東寮と美浦寮の両方、つまり私と、美浦寮の寮長の許可が必要になる。会長の許可に関しては・・・まぁ、君なら大丈夫じゃないかな?基本的に公私は分ける人だけど、今回のケースなら問題ないと思う。私も、特別反対するつもりはない。でも、美浦寮の寮長、ヒシアマゾンとは面識がないでしょ?」

「あ~・・・たしかにそうですね」

 

一応、顔を知らないわけではない。

ヒシアマゾン先輩もリギルに所属していて、夏休みの花火の時に一言挨拶したけど、逆に言えばそれだけだ。

その時の印象は、なんだか勝気というか、姉御肌な感じだった。

 

「2人は知らないと思うけど、栗東寮と美浦寮って、一応ライバル関係ってことになってるんだよね。だからってギスギスしてるわけじゃないんだけど、寮対抗のイベントもあるし、寮を移ることは滅多にないんだ」

「はぇ~」

 

まったく知らなかった。というか、欠片も興味なかった。

 

「でも、君たちは新入生でそういうしがらみはないし、事情を説明すれば大丈夫だと思う。今のうちに2人に話を通しておく?」

「そうですね・・・お願いします」

 

私がそう言うと、フジキセキ先輩はその場を離れて携帯で電話し始めた。さっそく会長とヒシアマゾン先輩に連絡を入れてくれるらしい。

私としても、ゴルシ先輩の恐怖が薄れるなら、それでいい。

まぁ、イッカクのことで大変なことになりそうだけど、それは私の方でどうにかすれば大丈夫・・・かな?

少しの間待っていると、フジキセキ先輩が戻って来た。

 

「さっき電話で聞いたけど、大丈夫だって」

「あ、そうなんですか?」

「事情が事情だからね」

 

つまり、ゴルシ先輩の被害者という一点だけで十分だ、と。どんだけやべーんだゴルシ先輩。

 

「もちろん、それだけじゃないけどね」

「と、言うと?」

「君はリギルから注目されてる、ってこと。会長から気にかけられてて、有望株のグランアレグリアとも仲がいい。ヒシアマゾンも気になってたみたいだね」

 

え、え~?そんな軽い感じで寮の移動って認められるものなの?さっきまでの説明はどこにいった。

まぁ、何事もなく寮の移動が認められたんなら、それはそれで喜ばしいことなの、かな?

隅でゴルシ先輩が何やらモゴモゴしてるけど、なんて言ってるんだろ。そんな私に焼きそばを喰わせたいのか?

 

「とはいえ、さすがに今から引っ越しはできないから、今日はあの部屋で我慢してほしい。明日業者に荷物を運んでもらうから、君たちは手伝わなくても大丈夫だよ。ちなみに、トイレ掃除は向こうに引継ぎだからね」

「・・・はい」

 

やっぱり罰掃除からは逃れられなかったか。

 

「そういうわけで、すぐに必要な書類を用意しておくから、今日中に私に渡してほしい。それと、荷物をまとめてもらえると業者さんが楽になるから、今夜のうちにできるだけやっておいてほしいかな」

「わかりました。フジキセキ先輩。短い間ですけどお世話になりました」

「寂しくなったら、いつでも外泊しに来ていいからね」

 

たしかに寮長から許可をもらえれば夜間外出や外泊も認められているとは聞いてるけど、そんなホイホイできるものだったっけ。

 

「一応、天井と窓はブルーシートで塞いであるけど、大丈夫かな?」

「たぶん・・・?」

 

まぁ、よっぽど困ることはないと思う。

 

「それじゃあ、話はこれで終わり。ご飯でも食べにいっておいで」

「フジキセキ先輩は?」

「私はゴールドシップと話すことがあるからね」

 

ゴルシ先輩の目に絶望の色が浮かんだ。

でも、天井ぶち壊したゴルシ先輩の罪は重いから同情はしない。むしろ説教する羽目になったフジキセキ先輩に同情するくらいだ。

・・・そう言えば、トレセン学園の七不思議に“寮には秘密の地下室がある”って話があった気がするけど、実在するのかな?ちょっと気になるけど、わざわざ藪をつついて蛇を出すような真似はしたくないし、スルーしておこう。

 

 

* * *

 

 

「あ˝~・・・」

「ハヤテちゃん、すごい声でてるよ・・・」

 

夕飯を食べた後、私たちはお風呂に入ることにした。

もうね、いろんなことがあり過ぎて疲れたよ。今日の夕飯もいつもより1.5倍増しくらい食べちゃったし。

肩までどっぷり湯船に浸かって思い切り脱力しながら、今後のことに思いを馳せる。

・・・食堂ではオグリ先輩とタマモ先輩に会えなかったし、どうしよっかなぁ。

メールだけで済ませるのはなんか違う気がするし、できれば直接会って話がしたいけど・・・。

 

「あ˝ー!ハヤテちゃん!」

 

そんなことを考えていると、浴場の入り口から知った声が聞こえてきた。

 

「あっ、タマモ先輩!」

 

振り向くと、そこではタマモ先輩がオグリ先輩に抱えられていた。

あ、あれ?思ってた光景となんか違う。

 

「ちょっ、オグリン!頼むから離してや!」

「タマ、湯船に入る前に体を洗わないとダメだぞ?」

「そ、そうやな。それもそうや。すぐに行くから、ちょっと待っててな、ハヤテちゃん!」

 

「ほら!ちゃんと体洗いに行くから、そろそろ離してやオグリン!」とタマモ先輩がオグリ先輩の腕の中でじたばたしながら、そのままシャワー台へと連行されていった。

 

「ハヤテちゃん、今の2人が・・・」

「うん。オグリ先輩とタマモ先輩」

 

普段と立場が逆になってたのは珍しかったけど。いつもはタマモ先輩がオグリ先輩を止めてるからね。

すると、よっぽど急いで洗ったのか、1分も経たずにタマモ先輩がやってきた。

 

「ハヤテちゃん!ゴルシに襲われたって聞いたけど大丈夫なん!?」

「なんというか、いろいろと誤解を受けそうな言い方ですね」

 

情報のねじれ方が予想の斜め上をいったんだけど。むしろ、暴力的って意味だと私がゴルシ先輩を襲ったことになるのでは?

 

「まぁ、被害を受けた、っていう話ならあながち間違ってないですけど、襲われてはないですよ。天井は破壊されましたけど」

「天井を壊されたって、どういうこっちゃ!ちょっ、ウチにも詳しく教えてや!」

 

完全に気が動転しちゃってるタマモ先輩をなだめながら、夏祭りの焼きそばから始め、例の無料優先券を履行するために私の部屋に不法侵入、それに気が動転した私がゴルシ先輩を蹴飛ばしてしまい、最終的に私の安全と安寧の確保のために寮を移ることになったことを伝えた。

一通り話し終えると、タマモ先輩がグスグスと泣き出して、そっと私を抱きしめた。

 

「そか・・・ごめんなぁ、ゴルシのアホのせいで怖い思いさせてもうて・・・」

「いえ、タマモ先輩は何も悪くないので、謝らないでください」

 

ゴルシ先輩が怖いっていうのは・・・まぁ、あながち間違ってないけど。まるで未知の生命体を目の前にした気分でしたよ、えぇ。

 

「ハヤテちゃんが栗東寮からいなくなってまうのは寂しいけど、ウチは止めへん。美浦寮でも元気でなぁ」

「そんな今生の別れみたいな言い方されても・・・いつになるかはわからないですけど、許可を貰ったらお泊りに行くつもりなので、またいつか会えますよ。それに美浦寮には仲のいいクラスメイトもいますし、イッカクもいるので大丈夫です」

 

会長は、ひとまずノーカンで。友人としてカウントするにはまだ恐れ多すぎる。

というか、ここでようやくイッカクを紹介できる。

 

「そういえば、初めて見る顔やなぁ。白毛なんて珍しい」

「初めまして、イッカクです。元々ハヤテちゃんと同じ地方のトレセン学園の友達で、こっちにはスタッフ研修生として編入してきました」

「そうなんや。よぅ頑張ったなぁ」

「はい。おかげで、ハヤテちゃんと一緒にいられます」

「そういえば、オグリんにもおったな。地元の友達で、スタッフ研修生で一緒についてきたって娘」

「そうなんですか?」

「せや。名前はたしか、ベルノライトやったな。もし縁があったら話してみたらどうや。案外、仲良うなれるかもしれんで」

「わかりました、参考にさせていただきます」

 

そういえば、なんかそんな話を聞いたことがあるようなないような。

ちょっとオグリ先輩の話を思い返してみよう。

 

「おーっす!ゴルシちゃんが来たぜー!!」

「ひっ!?」

 

浴場にでかい声が響き渡って、思わず悲鳴をあげてしまった。

っつーか、よりによってこのタイミングでゴルシ先輩が来やがった。

 

「なんや、ゴルシ!ハヤテちゃんには指一本も触れさせへんで!」

 

次の瞬間、バッとタマモ先輩が私の前に移動してゴルシ先輩の前に立ちはだかった。

やだ、タマモ先輩かっこいい。

あとゴルシ先輩のスタイルやべぇ。出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでるパーフェクトスタイルじゃん。

そのせいで、私を守ってくれているタマモ先輩が子供のように見えてしまう。

 

「なんだなんだ?ゴルシちゃんは特製の焼きそばを振舞おうとしただけだぞ?」

「勝手に部屋に侵入して作ってんのがダメやって言うとるんや!しかも天井まで壊して、何してくれとんねん!」

 

タマモ先輩とゴルシ先輩が口喧嘩・・・というか、ゴルシ先輩の意味不明な言葉にタマモ先輩がツッコむ謎の漫才が展開されてるけど、私はその光景をどんな目で見ればいいんだろう。

というか未だにオグリ先輩が来ないんだけど、そんなに時間をかけて体と髪を洗ってるのかな。私としては早くオグリ先輩に来てもらってこの場をリセットしてもらいたブクブクブクブク・・・・・・

 

「あっ、あかーん!ハヤテちゃんがのぼせてもうた!ちょっ、早くハヤテちゃんを運んで頭冷やさせんと!」

「よーし、あたしに任せろー!この前南極からとってきた氷ですぐさま冷やしてやるぜぇー!」

「ゴルシは余計なことすんなや!ってちょっ、頭どころか全身が埋もれる量やろそれは!どっから持ってきてんねん!てか風呂場にそんなの持ってくんなやアホォ!お湯が冷めてまうやろ!うちらに水風呂入らせる気か!」

「? 水風呂があるのか?なら私はサウナに入ってもいいか?」

「なんてタイミングで来とんねんオグリン!あと寮にんなもんはあらへんて!って、それよりもハヤテちゃんや!」

「は、早く水分補給させないと!」

 

・・・なんかすごいわちゃわちゃしてるけど、なんか今日はもう疲れたし意識も朦朧としてきたしこのまま寝ちゃえぇ・・・。




よりによってヒシアマゾン持ってないからキャラがちょい分かりづらい・・・。
というか、会長とライス、1人暮らしのシービーを除けば基本的に推しは栗東寮に集まっているので、自ら茨の道に足を突っ込む形になってしまいました。
でも、こっちの方が面白そうですし、仕方ないと割り切りましょう。そもそもアプリよりシングレの方がなじみ深いので、こんなん今さらです。

余談ですが、前話を執筆しているまでの時点でフジキセキもリギル所属ってのをうっかり失念してまして。
別に何か影響があるわけじゃないんですが、フジキセキのスク水もたいそう目立っていただろうな、と考えると、いた方がよかったのか、いない方が話がスムーズに進むからそれはそれでよかったのか、微妙なところ。
まぁ、イッカクの入寮関係でいなかった、ということにしておきましょう。
ちなみに、個人的にフジキセキの水着は別にいいかなって感じです。元の勝負服からして色気出てますし。
というか、個人的にはドロワのドレス衣装の方が好みです。胸より脚を出せ。
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