ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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あれ?もしかして私、実は遅い・・・?

「はぁ、はぁ・・・うぅ・・・」

「えっと、はい、どうぞ」

 

あれからきっかり1時間。

40㎞ちょっと走ったあたりでいったん近場の公園に立ち寄ったんだけど、そこでイッカクがぶっ倒れたからその介抱をすることになった。

自販機からスポーツドリンクを買って渡すと、イッカクは弱々しく腕を伸ばしてスポーツドリンクを手に取り、よろよろと起き上がってペットボトルを口に付けた。

500mlのやつを買ったんだけど、あっという間に空になった。

 

「・・・おかわり」

 

さらにおかわりを要求するのか。

まぁ、熱中症にかかるわけにもいかないし、言われたとおりにもう一本買ってイッカクに渡した。

2本目を飲み干したところで復活したっぽいイッカクは、なんか変な目を私に向けてきた。

 

「・・・おかしい」

「ん?」

「ぜったいに、おかしい。なんで、あのペースで走って平然としてるの・・・?」

「私からすれば、こんなもんだよ?」

 

1時間で40㎞くらいだから、単純計算で時速40㎞のペースだけど、ウマ娘の身体能力なら本気を出せば60㎞くらいは普通に出る。

それと比べれば、軽くはなくてもちょうどいいくらいなんだけどな?

そう言うと、イッカクの私を見る目がこの世のものじゃないような眼差しに変わった

 

「・・・普通、ジョギングって長くても10㎞を1時間弱でやるものだよ?」

「そうなの?」

「ていうか、今までどんな走り方してたの・・・?」

「えーと、日が出ている間はご飯食べる時以外は走ってたかな」

「倒れたりしなかったの・・・?」

「べつに?あ、夜はぐっすり寝てたね」

「筋肉痛とかは・・・」

「なかったよ?」

「化け物・・・」

 

おいおい、ずいぶんな言い草だね。

あの頃の私は走ることしか頭になかったから、自然とこれくらいのペースが身に着いた。

まぁ、前世の知識的にはたしかに非常識だけど、ウマ娘ならこんなもんじゃないの?

 

「それで、イッカクはどうする?私はもう2時間くらい走ってようかと思うけど」

「・・・先に帰ってる」

「わかった。それじゃあ、夕食の時にまた」

 

まだイッカクくらいしか気軽に喋れる娘はいないからね。友達は大事にしないと。

とりあえず、次はご飯が美味しそうなところも探しながら走ってみようかな。

 

 

* * *

 

 

「ありえないでしょ・・・」

 

ハヤテちゃんが走り去っていく後姿を、私、イッカクは呆然と見送った。

あれ、下手したらさっきよりもペースが上がってるんじゃないかな・・・。

私は、あくまで地元での話だけど、ちょっと名前が知られているウマ娘だったりする。

白馬ってだけでも珍しいし、ジュニア大会でも1着とか2着を取り続けてるから、有名になるのは当然と言えば当然かもしれない。

そんな私がハヤテちゃんに声をかけたのは、あの時説明した通りで、それ以上でもそれ以下でもない。

顔も名前も知らないけど、ただなんとなく、速そうな気がした。本当に、ただそれだけ。

だから、こうして一緒に走って確かめてみようと思ったんだけど・・・結果はこれだ。

時速40㎞のペースで1時間走って、汗ひとつかいていない。

しかも、それでもハヤテちゃんは余裕を残していた。

明らかに異常。

それこそ、本当に中央を目指せるくらいに。

ただ・・・わからない。

どうしてあれ程のウマ娘が地方にいるのか。

そして、今の今まで名前が知れ渡っていないのか。

いや、その理由はわかっている。

あの娘の母親が地方の山中で暮らしていて、そこからほとんど出ることがなかったからだ。

本当に、走ることが好きだったから。ただそれだけのこと。

でも、本当にそれだけのことなのか?

もちろん、ハヤテちゃんが不正まがいのことをしているって疑っているわけじゃないけど、他にも何か秘密があるんじゃないかって勘ぐっちゃうのは変なのかな?

幸い、私はあの娘と同室だから、探れる機会はいっぱいある。

だから、いっぱい仲良くしようね、ハヤテちゃん?

 

 

* * *

 

 

あの後、2時間で100㎞近く走って寮に戻った。

いやー、さすがに100kmは疲れたね。我ながらちょっと走り過ぎちゃった。

その辺は消費したカロリー分たくさん食べれるからお得ってことにしよう。そうすれば、いつもよりたくさん食べても消費分と摂取分でプラマイ0になる。

うん、我ながら完璧な理論。

そういうことなら、さっそく食堂に行ってご飯を食べよう。

メニューは・・・唐揚げか。いいじゃん。長距離ランニングの後にはちょうどいいね。せっかくだし山盛りにしよう。

あ、そう言えば、イッカクはどこだろう。一緒に夕飯食べようって誘っておきながら、それを忘れて私1人で食べるのはけっこう申し訳ない。

連絡先くらい交換しておくべきだったかな・・・いや、そもそも携帯持ってなかったか。

 

「あ、ハヤテちゃん!こっちこっち!」

 

どうしようか悩んでいると、イッカクが奥の方から声をかけてきた。

なんだ、先に来てたんだ。

 

「ごめん、待たせちゃった?」

「大丈夫だよ。2時間くらい走るって言ってたから、それに合わせて来たんだ」

「そうなんだ」

「それよりも・・・本当にその量を食べるの?」

「走った後はお腹が空くからね」

「・・・ちなみに、どれだけ走ったの?」

「100㎞くらい?」

「100㎞・・・」

 

瞬間、イッカクの目から光が消えた。

え?そこまで・・・?

 

「ま、まぁ、さすがに私でもちょっと疲れたよ?」

「ちょっと?・・・2時間で100㎞も走っておいて、ちょっと疲れただけ・・・?」

 

どんどんイッカクの目からハイライトが消えていく。

あ、あれ?こ、これは、転生者のあの定番台詞の出番?

・・・私、何かやっちゃいました?

な、なんかすっごい気まずい・・・。

 

「え、えっと~・・・」

「・・・はぁ、もう、わかったよ。ハヤテちゃんはそういう娘だったね」

 

なんか勝手に私のキャラを決められたんですけど。

え?もしかして私、やらかし系キャラ認定されちゃった感じ?

 

「・・・もしかしなくても私、けっこう変?」

「変、っていうか、異常?」

「い、いじょう・・・」

 

『変』よりも傷つくんですけど・・・

 

「まぁ、その辺りの話は寮室に戻ってからしよ」

「え?あ、うん。わかった」

 

とりあえず、さっさと唐揚げとご飯をかき込んでご馳走様して部屋に戻ろう。今の空気はちょっといたたまれない。

 

 

* * *

 

 

夕飯を食べ終わった後は、イッカクから一般的に行われているトレーニングについて教えてもらった。

それを聞いて、私はけっこう大きな思い違いをしていたんだってことがわかった。

なんか、無意識のうちにウマ娘ってすげー身体能力持ってるって思ってたけど、前世の馬を基準に考えてみればたしかに非常識だったね。

ウマ娘はジャ〇プのバトル漫画みたいな世界観じゃないんだから、そりゃバカげたトレーニングばっかりってわけじゃないよね。

ただ、ついでのように私の非常識さを叩き込まれたのはちょっと納得がいかなかった。

いやだって、私の場合は「よそはよそ、うちはうち」ってやつだよ。私にとっては普通なんだから、そんなに化け物扱いしなくてもよかったと思うんだ。

そんなこともあったけど、基礎的なトレーニングを学べたのは大きな収穫だった。

というか、今の今までそれをしなかったのは異常と言われても仕方ないのかもしれない。

いろいろと収穫があったこの日の夜は、今まで一番ぐっすり眠れたかもしれない。

そして翌日。

今日から本格的にトレーナーの下についてトレーニングをすることになる。

基本的にトレーナーがウマ娘をスカウトするから、実績がない私は今日の試走で結果を出さないといけない。

走るのはダートの800m。ダートはあまり走ったことはないけど、800mだけなら問題ないかな?

 

「ふぁ~・・・あ、おはよう、イッカク」

「おはよう、ハヤテちゃん。あ、そうだ。今日の話聞いてる?」

「今日の?試走だけじゃなくて?」

「今日ね、中央のトレーナーが来てるらしいよ」

「へ~、珍しいね」

 

前にも言ったが、地方と中央の垣根はオグリキャップによって多少は取り払われたけど、それでも実力は大きくかけ離れている。

だからスカウトするなら、わざわざ地方に宝探し感覚で出向くよりも中央で探した方が効率はいい。

それでも地方に来る中央トレーナーは、夢を持った新人トレーナーか趣味に近い変わり者、あとは学園から推薦があった場合かな。

それでも実際にスカウトされるケースなんて少ないし、それで成功するなんてもっと少ない。

 

「もしかしたら、ここでいい結果を出したらスカウトされ・・・いや、ないか」

「夢がないよ、ハヤテちゃん」

「いやだって、800mのダートだよ?それだけ見てどうしろと」

 

中央のレースなんて、2000mあたりがもっぱら。短くてもせいぜい1600mのマイル距離。

800mだけ走ったところで、わかることなんてあまりない。

せめて1200m走れば話は変わってくるかもしれないけど、もっと言えば中央のレースはほとんどが芝だ。

芝とダートでは求められる適正が全く違う。どっちもいけるウマ娘もいるにはいるけど、中央でもごくごく少数だ。

だから、ダートを800m走ってスカウトされたところで、まず間違いなく中央で活躍することはできない。

だから、ここでスカウトされる可能性は低い。

たぶん、今回は様子見に来ただけなんじゃないかな?それで、様子を見ただけで終わり。それだけだ。

 

「まぁ、あまり気負わずに走ればいいんじゃない?どうせ今回の結果だけで決まることでもないだろうし」

「それもそうかな。それじゃあ、行ってくるね」

 

そう言って、イッカクはゲートに向かっていった。

浦和レース場は他と比べてゴール前直線が短いから、カーブで前に出るしかない。

まぁ、800mならまだマシだろうけど。

合図と同時にゲートが開かれると、真っ先にイッカクが前に飛び出した。そして、グングンと後ろと差をつけていく。

おー、イッカクってけっこう速かったのか。

そのまま、イッカクは先頭を切ってゴールした。

 

「タイム、50秒3」

「やった、自己ベスト!」

 

はっや。もうすぐ50秒切りそうな勢いじゃん。

 

「すごいじゃん、イッカク」

「うん、今日はすごい調子がよかったよ」

 

さっき自己ベストとか言ってたしね。

なんか、少し離れたところでトレーナーの人たちがすごいイッカクを注目してる。

すぐにでもスカウトしに行きそうな勢いで前のめりになってるけど、今はさすがに授業中だから自制してるみたい。まぁ、授業が終わったらイッカクのところに殺到しそう。

 

「じゃあ、次は私の番か」

「いってらっしゃい、ハヤテちゃん」

 

イッカクからエールを貰って、私もゲートに向かった。

それにしても、離れてから見てみると、イッカクの注目され度合いがよくわかる。

そういえば聞いてなかったけど、イッカクってここに来る前から大会とかで結果を出してたのかなー。

 

「・・・?」

 

そんなことを考えていたけど、イッカクから離れたことでもう1個気づいた。

1人だけ、私のことを見てるトレーナーがいる。

ここからじゃよく見えないけど、他と比べて少し浮いてる感じがするのは気のせいかな?

まぁ、別に気にするようなことでもないか。

 

「各自位置についてください」

 

教員の指示に従って、ゲートの中に入った。

この閉鎖空間はあまり慣れていないけど、我慢できないほどではない。

ゲートの中で構えて、教員の合図を待つ。

 

「スタート!」

 

合図と共にゲートが開くと同時に、私も駆け出した。

このまま前に出て、後ろと一気に差をつけて・・・つけ・・・

・・・あ、あれ?

差をつけるどころか、私の方が後ろにまわって差をつけられてるんですけど・・・?

 

「タイム、55秒4」

 

タイムは、イッカクと比べて5秒も遅い。

あ、あれぇ?

もしかして私、自分で思ってたよりも遅かった?

ふとイッカクの方を見ると、イッカクの方も「あれ?」みたいな顔になってる。

いや、それはともかく・・・これはまずくない?

イッカクは当然のこと、他の娘と比べてもダントツで遅いから、スカウトも絶望的なんですけど。

ま、まずい・・・早くも競争ウマ娘としてのキャリアが崩れてしまっている・・・!

もう一度走らせてくださいって頼んでみる?いや、それはそれでみっともないと思われるかもしれない。

他の道を模索してみる?いや、今まで走ってばっかりだったからそれも難しい。

・・・あれ?もしかしなくても、けっこうやばい・・・?

ぐ、ぐおおお!!アタマを回せ!私の将来がかかっているんだ!またどこかでチャンスを拾わなければ・・・!

 

 

 

「ちょっといいか?」

 

これからのことに頭を悩ませていると、横から声をかけられた。

声をかけられた方を向くと、さっきの私の方を見ていた中年男性のトレーナーが私の近くに来ていた。

そして、近くに来たことでようやく気付いた。

襟についているバッジ。

あれは、中央トレーナーの資格を持っている証だ。

でも、なんで?まさか無様に頭を抱える私を笑いに来たのか!?

そんなことを考えるけど、トレーナーさんは笑うでもなく、私の全身をくまなく見渡していた。

え?え?なに?まさかの視姦!?トレーナーの特権ってやつ!?

私の頭の中は、パニックでぐちゃぐちゃになっていた。

その時間がどれだけ続いたのかはわからない。

もしかしたら一瞬かもしれないし、あるいはもっと長かったかもしれない。

 

 

 

 

「よし、クラマハヤテだったな?俺のところに来い」

 

 

 

気付けば、そう声をかけられていた。

私は一瞬、なんて言われたか理解できなかった。

けど、だんだんとしみこむように、私が中央のトレーナーにスカウトされたってことがわかってきて。

気付けば、私は口を開いて返答していた。

 

 

 

 

「え?いやです」




なんか、イッカクがヤンデレっぽく見えなくもない・・・。
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