「それでは今から、クラマハヤテとイッカクの美浦寮移籍の歓迎会を始めようか」
・・・いやまぁ、必要なことだと納得はしてたよ?
してたけどさぁ、面子がやばすぎない?
史上初の無敗三冠ウマ娘になった会長は当然だけど、重賞を6連勝した寮長のヒシアマゾン先輩、スプリンターとして活躍し海外含めてG1を5勝したタイキシャトル先輩、何度も怪我を繰り返しながらも復活してかつての黄金世代としのぎを削ったグラスワンダー先輩、同じく黄金世代の1人で連対率100%を誇り、世界最高峰の国際レースである凱旋門賞で2着になりながらも「チャンピオンが2人いた」と言わしめる走りをしたエルコンドルパサー先輩。
さらに、なぜか美浦寮にいないはずのマルゼンスキー先輩もいた。たしか1人暮らしをしてるって話だったと思うけど、わざわざ呼んだのかな?
もちろん新入生もいるけど、他にも重賞やG1レースを制覇したことウマ娘も何人かいるし、すでに吐きそう。
絶対、デビュー戦勝ったことがあるだけの地方のぺーぺーを祝うメンバーじゃないって。また違うベクトルで変な噂が流れちゃうって。
「えっと、その、クラマハヤテ、デス。今日からよろしくお願いしまス」
「初めまして、イッカクと言います。今日からお世話になります。スタッフ研修生として編入してきたので、何かできることがあれば言ってくださるとうれしいです」
あれ?イッカク猫被ってない?
あれかな、ちょっとでも良い娘アピールして悪いイメージを払拭しようとしてくれてるのかな。
でも大丈夫?グランとバチバチしてはがれたりしない?
まぁ、その時はその時で・・・私がどうにかしなきゃいけないのか・・・。
「ふぅ・・・」
「いらっしゃい、ハヤテちゃん!」
自己紹介をして壇上から降りると、グランがヒシッと抱きついてきた。
「わわっ、グラン」
「話は聞いたよ。まさか、あの時の店員さんがトレセンの生徒だったなんてねー。でも大丈夫?なんか襲われたって噂も聞いたけど」
「襲われたってわけじゃないけど・・・ゴルシ先輩、天井ぶっ壊して私たちの部屋に侵入して、焼きそば焼いて待ってたんだよね」
「あ~、もしかしてあれ?あの時の“芦毛の怪物盛り”でゲットした、無料優先券」
「うん、それ。まぁ、焼きそば作ってたのはまだよかったんだけど、部屋に不法侵入されて、私もちょっと気が動転しちゃって・・・」
「あ~・・・うん、それは仕方ないね」
ついでに言えば浴場でも凸されそうになったけど、それは敢えて言わないでおこう。
「それにしても、大丈夫?なんかすごい緊張してない?」
「いやだって、参加メンバーがやばすぎるんだもん。場合によってはお金払える面子だよ?なんでそんな人たちに祝われてるの?」
「それだけハヤテちゃんのことが気になってるってことだよ。よかったら、私が一緒にいてあげようか?」
「お願いします!」
グランがいるかいないかで私の生存確率が天と地ほど違ってくるから、ぜひ一緒にいてほしい。
「わかった。それじゃあ、一緒に行こっか!」
ただ、イッカクに対してドヤ顔するのはやめてくれない?歓迎会が終わった後のことがすごい怖いから。
まぁ、それはいったん置いておくとして、マジで物怖じしないなグラン。
「・・・ねぇ、グラン。なんか、あまり緊張してないね?」
「そう?私は普段のトレーニングで会ってるし」
「それはそうだけど、そういうの以前に、なんか慣れてるって感じがする。お偉いさんと会う機会でもあったりするの?」
「ん~、まぁね」
私の質問に曖昧に返すグランだけど、あながち間違ってないっぽい。
「それよりも、先輩に紹介したいから一緒に行こう?」
「うんまぁ、それはいいけど、できればイッカクも一緒にね?」
さっきから瞳孔が開きまくっててメッチャ怖いから。
「私のことは気にしなくていいよ、ハヤテちゃん。私はシンボリルドルフ会長と話してくるから」
「え?あっ、ちょっ・・・」
止める間もなく、イッカクは会長のところに行ってしまった。
これ、歓迎会が終わった後にやべーことになるやつじゃん。一切の弁明を許してくれないやつじゃん。
「・・・グラン?」
「・・・私だって、自分が知らないハヤテちゃんを知ってるのは羨ましいんだよ?」
やめろぉ、私はヤンだグランなんて見たくないぃ。お願いだからキャラ崩壊を起こさないでくれぇ。
「それはそうかもしれないけど、むしろグランの方がイッカクよりもいろんなことを知ってると思うよ?地元だと、イッカクとはトレーニングでしか会わなかったし、一緒に遊びに行ったりもしなかったから」
「・・・ほんと?」
「本当本当。だから、できればイッカクを挑発しないでくれると嬉しいかな?なんて・・・」
「・・・わかった」
とりあえず、目先の脅威は去った。
まだまだやべー問題は残ってるけどね。
「ふふっ、大変なことになっていますね」
ホッと一息吐くと、正面から声をかけられた。
顔を上げると、鹿毛に短い流星が走ったウマ娘が立っていた。
一瞬誰かわかんなかったけど、すぐに思い出した。
「どうも。アーモンドアイ先輩ですよね?」
「私のことを知っているんですね?」
「そりゃあ、桜花賞でレコードだしてオークスも楽勝して、トリプルティアラを期待されてるウマ娘ですからね」
アーモンドアイ先輩。私たちの1年先輩で、ティアラ路線はもちろん、全体で見ても明らかに頭一つ抜けている“女傑”だ。
デビュー戦こそ2着で敗れたものの、それ以降は連戦連勝の快進撃を続けている。
須川さんがが言うには「まず間違いなく、今のURAの中で最強になれる素質を持っている。もしかしたら会長殿にも劣らないかもしれない」ってことらしいから、同世代の中ではすでに最強かもしれない。
にしても・・・めっちゃ美人だな。大人っぽさを持っているタイプの、グランとはまた違った美人だ。
どちらかと言えば会長に近いけど、演劇なら会長は男性役、アーモンドアイ先輩は女性役をやってそう。
「それにしても・・・ずいぶんとモテモテですね?」
「いや~、さすがに会長やフジキセキ先輩には負けますよ」
私としてはモテ期よりも一時の平穏が欲しい。いやマジで。
それに、どちらかと言えばアーモンドアイ先輩の方がモテそう。
「そう言えば、私ってリギルの中でどんな扱いになってます?会長のファンに後ろから刺されるようなことになってません?」
「少なくとも、その心配は必要ないと思いますよ」
それはよかった。まぁ、刺されるなら栗東寮にいた時点ですでに刺されてるかな。
「ただまぁ、対抗心を燃やしている娘は結構いるから、レースの時は気を付けた方がいいかもしれませんね」
「・・・全力で逃げることにします」
「ふふっ、本当に面白い人ですね。それならせっかくなので、私も一緒に・・・」
「ちょっとちょっと!せっかくの歓迎会なのに、あなたたち2人だけで独占するのはナンセンスよ!」
ちょっと修羅場になりかけたところで横から割り込んできたのは、会長のところにいたはずのマルゼンスキー先輩がやってきた。
場合によっては火にガソリンをぶちまけるようなことになりかねないけど、この修羅場をどうにかしてくれるなら誰だっていい。
それがたとえ、ちょっとセンスが古そうなお姉さんでも私は大歓迎だ。
「どうも。初めまして、でいいですかね?」
「そうね。こうして話すのは初めてだから、初めましてでいいわね。本当はあたしもあなたと話してみたかったのだけど、なかなかタイミングが合わなかったのよ」
「だから、わざわざ歓迎会に参加したんですか?独り暮らしって聞いてましたけど」
「そうよ。せっかく楽しそうなことをするんだから、参加しなきゃ損損よ!」
・・・ダメだ。この短い時間ですでに話がかみ合わない気がしてきた。
なんか、言語センスが微妙に古い。今はまだわかるけど、これ以上古くなるとついていけなくなる。
「でも、なんでわざわざここに来てまで?」
「それはね、あなたのレースを観て・・・ってわけじゃないのよね」
あ、そうなんだ?それはちょっと意外というか、新しいパターンだ。
「あたしはね、ルドルフが気にしているあなたのことが気になったのよ。その理由も、なんとなくわかるから」
「オグリ先輩と重ねて、ってわけじゃないんですか?」
「どうしてかはわかる?」
「・・・ダービー?」
「そうよ。聞いてたの?」
「私のトレーナーから、それとなく」
「なるほど。たしかに、あの2人は昔はよく一緒にいたものねぇ」
「えっ、そうなんですか!?」
「マルゼンスキー先輩、その話を詳しく聞かせてください」
この話に食いついたのはグランとアーモンドアイ先輩だ。やっぱり年頃の娘なだけあって、そういう話が気になるのかな?
まぁ、十中八九2人が考えているような関係じゃないだろうけど。
「あれですか、やっぱりトレーナーが会長に絞られたりしてたんですか?」
「そうねぇ。あたしもそのやり取りを何度も見たわ」
「「え?」」
「冷戦状態、とまでは行かなくても、性格の不一致でよく言い合いになってたのよねぇ。でも基本的にルドルフの方が正しいから、いつもあなたのトレーナーさんが言い負かされて、でも反省せずに同じことを繰り返したのよ」
「私は、当時のトレーナーがどんな人だったか実物は知らないですけど、なんとなく目に浮かびますね、それ」
「でも、それが結果的にお互いのことを理解し合うきっかけになったのだから、何が起こるかわからないわよね~」
2人は須川さんのあれこれを知らないから目が点になってるけど、その辺の話を聞いてる私からすれば「あ~」って感じになる。
にしても、口喧嘩してる会長と須川さんか・・・一度は見てみたかったな。
「それはそうと、ルドルフの方ね。あの娘は2度、ダービーという夢を絶たれたウマ娘をすぐ近くで見たのよ」
「1人はオグリ先輩で、もう1人は、マルゼンスキー先輩ですか?」
「えぇ」
地方からの進出の関係でクラシック登録が間に合わず、ダービーに出れなかったオグリ先輩は言わずもがな。マルゼンスキー先輩も、オグリ先輩とは別の理由でダービーに出ることが叶わなかったウマ娘だ。
「あたしはね、海外からのウマ娘として登録されたの。あたしが生まれる前、母があたしをお腹に宿した状態で海外から渡って来たから。だから、クラシックを始めとしたいくつかのレースには出ることができなかった」
授業で習ったことがあるその制度は、クラシックレースなどは国内のウマ娘の実力を測るためだったり、海外で生まれたウマ娘が圧勝することで国内のウマ娘の地位が低下するのを防ぐためだったり、諸々の理由で制定されたものだ。
私としては、その制度自体をとやかく言うつもりはあまりないけど、当人やファンからすればその限りじゃない。
その中でも、マルゼンスキー先輩は8戦8勝、合計着差は61バ身という驚異的な数値を叩きだした、正真正銘の怪物だ。『もしダービーに出ていれば』と思われるのは、当然と言えば当然のことだ。
「もちろん、あたしも出たレースに悔いはない。それでも、もし出ることができれば、と思うことは何度もあったわ。それはルドルフがトレセン学園に入る前の話だけど、そのことをすごい気にしてたの」
「そこにオグリ先輩がやってきて、なんとかダービーに出走させようとしたけど、それも叶わなかった」
結果的にオグリ先輩のおかげでクラシック登録の規定は改訂されたけど、オグリ先輩に対しては何もできなかった。
「あの娘はね、夢を持っているの。すべてのウマ娘を幸福に、すべてのウマ娘に夢を見せたい。そんな夢を。ずっと、それを目指し続けている。今までに救ってきた、夢を見せてきたウマ娘も多いけど、それでもまだ満足していない」
「・・・たしか、地方出身でダービーを勝ったウマ娘はまだいませんね」
私の言葉に、グランとアーモンドアイ先輩はハッとした。
つまり、会長が私のことをこれでもかというくらい気にかけている理由。
「ルドルフはね、期待しているのよ。あなたなら、もしかしたらダービーウマ娘になってくれるかもしれない。そうしたら、また地方のウマ娘に夢を見せることができるかもしれない、って」
「・・・仮に夢を見せたとしても、その後は茨の道だと思いますけど」
「さすがにルドルフもそれはわかっているわよ。それでも、見せることに意味があるってこと」
ぶっちゃけた話、重いなぁってのが正直な感想だ。
でも、それはオグリ先輩が通って来た道でもある。クラシックに地方から来たウマ娘っていうのは、そういうものなんだ。
それでも特に期待されているのは、オグリ先輩は会長が直々にスカウトしたから、私は須川さんの縁があったから、ってことなんだろうね。
それにしても、わざわざ会長のことを話してくれるあたり、やっぱりマルゼンスキー先輩っていい人なんだろうね。
「・・・少ししんみりしちゃったわね。せっかくの歓迎会なんだし、ここからはアゲアゲでいくわよ!」
「えっ?あ、はぁ・・・」
「実は気になってたんだけど、ハヤテちゃんはイッカクちゃんかグランちゃんとアベックな関係だったりするのかしら?それとも、まだマブダチなのかしら?」
「えっと、えっ・・・?」
「あんなにいい娘なんだから、返事はちゃんとしないとチョベリバよ!お姉さんが相談に乗ってあげるから!」
・・・やっぱダメだ。根本的に波長が合わないと言うか、ゴルシ先輩とはまた違った感じで言語が通じない。
とりあえず、この後はヒシアマゾン先輩のところに行って寮のあれこれを聞いて乗り切った。こっちはこっちでタイマンしたがる変人だったけど、言語は通じたからまだマシだ。
なんかいつかマルゼンスキー先輩の家にお邪魔する流れになりかけたけど、大先輩とはいえ1人暮らしのウマ娘の部屋にお邪魔するとかイッカクの反応が未知数すぎるからマジで勘弁してほしい。
改めて羅列すると、リギルの厨パ度合いがよくわかる。
ついでに、こんな面子を集めたおハナの優秀さもよくわかる。
ていうか、ヒシアマ姐さんも十分すごいはずなのに、戦績だけ見ると他の陰に埋もれてしまうあたり、厨パっていうよりは魔境でもいい気がする。
つい出しちゃったアーモンドアイ。
美浦だし前回アーモンドアイはリギルに居そうって話もしましたし、やっぱり出さないわけにはいかないかなと。
ついでに、グランアレグリアと合わせてとある方のpixivのウマ娘化二次創作のイラスト見ました。
中国語読めない(大学で習ったけど忘れた)んであれですけど、完成度高すぎません?
んで、そっちの方にちょっと感化されちゃいまして、グランのキャラを丁寧語系から変更して活発系に寄せました(唐突)。
それだけじゃなくて、イッカクと話し方が被っちゃってちょっとややこしかったってのもありますが。
でも、スプリンターなのに2000mに挑戦したチャレンジャーな部分を考えたら、絶対こっちの方がいいじゃんってなったので。
・・・本当、キャラとか設定がコロコロ変わるなぁ。