ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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私をいったい何だと思っているのかな?

「へぇ、聖蹄祭の話が出たのか」

「うん。早いうちに準備するようにって担任から話があってさぁ」

 

9月も終わりに差し掛かった頃、私はトレーナー室でそんなことを話した。

聖蹄祭は、言ってしまえばファン感謝祭のことだ。ただ、春と秋の2回やることから、秋にやるやつは聖蹄祭って名前で区別されてる。

私にもやれることがあればいいんだけど、聖蹄祭って基本的に文化系メインだから、あんまりできることがないんだよねぇ。

 

「一応、クラスで出し物をするって話になったんだけど、あんまり出番がなさそうなんだよねぇ」

「ちなみに、何をやるんだ?」

「詳しいことはまだだけど、喫茶系をやるのはほぼ確実かなぁ」

「あぁ・・・お前ってどちらかと言えば作るより食う方が専門だしな」

「いや、さすがにまったく作れないわけじゃないからね?」

 

簡単なものくらいは作れるよ?ホットケーキとか・・・それくらい?

 

「まぁ、やるにしても接客かなぁ」

「お前にそんな愛想があるのか?」

「あるよ?ちょっと恥ずかしいだけで、出来ないわけじゃないからね?」

「じゃあ、ここで俺にやってみろよ」

「須川さん相手にやるのはヤダ」

「おい」

 

だって、見知った顔の中年おっさんに愛想振りまくとか、絵面やばくない?少なくとも私は吐きそう。

 

「ま、まぁまぁ。ちなみに、まだ決まったわけじゃないんだよね?」

「うん。そういえば、イッカクの方はどうなの?」

「私たちの方は、どちらかと言えば設営と撤収のお手伝いがメインになるかな。その代わり、当日は基本的に自由行動になるって」

「へぇ~」

 

それはなんと言うか、スタッフ研修生らしいと言えばらしいね。

 

「だから、せっかくだしハヤテちゃんの教室に行ってみようかな」

「・・・場合によっては遠慮してほしいかなぁ」

「? なんで?」

「いや、ね・・・今のところ最終候補がコスプレ喫茶とかメイド喫茶とか、そういう系しかないんだよねぇ」

 

もちろん、ベタな分他のところと競合するだろうけど、場合によっては恥ずかしい格好をさせられるかもしれない。

知り合い・・・というか、イッカクはまだいいとしても、須川さんとか母さんにそんな恰好を見せたくないってのが正直なところなんだよね。

 

「ちなみに、ハヤテはどんな案をだしたんだ?」

「スイーツバイキング的なノリのやつ」

 

企画としてはけっこう早い段階でボツになったけど、形態の一つとしてはアリって感じで半ば保留になってる。

ちなみに、この提案をしたら私が食べることしか考えていない娘みたいな扱いを受けた。グランも擁護してくれなかったし、私ってそんな大食いキャラとして認識されてるの?

たしかによく食べるけど、オグリ先輩だってけっこう食べるよ?寮の食堂で会長から慈愛の眼差しを向けられたし、決して私はおかしくないはず。

 

「ていうか、私は私で出たいイベントもあるし」

「なんだ?」

「大食い対決」

 

こっちも詳しい内容はわからないけど、オグリ先輩も出るってことで私も立候補した。

だって、オグリ先輩と一緒にイベント出れるって、こんな機会そうそうないよ?やるしかないに決まってるじゃん。

そう言ったら、2人から呆れた眼差しを向けられた。

 

「え?な、なに?」

「・・・いや、お前がそれで良いなら何も言わねぇよ」

「あ、あはは・・・」

 

なに?なんなの?はぐらかされると余計に気になるんだけど。

でも結局、この後はトレーニングで死ぬほど疲れてそれどころじゃなくなった。

まぁでも、トレーニングの量や負荷はいい具合に上がっていってるし、ちゃんと成長してるってことで良しとしよう。

 

 

* * *

 

 

「と、いうことで、我がクラスではコスプレ喫茶をすることになりましたー!」

 

マジかおい。絶対どっか他のクラスと競合すると思ってたんだけど。

なんか、他のところはもう少し捻ったものを出してたり、逆にチーム所属が多くてクラスだけだと凝ったものができなくて簡単にできるものをやってたり、そもそもクラスの出し物の申請をしていなかったり、意外とコスプレ喫茶は競合相手が少なかったらしい。まぁ、それでもメイド喫茶は他のところにやられたらしいけど。

あと、リギルはリギルで執事喫茶なるものをやるらしいってグランから聞いた。執事姿の会長とか夢女子量産しそう。暇があれば行ってみようかな。

一応、グランはチームの方に行くらしいけど、執事ってもはやコスプレみたいなものだから、クラスの方も手伝うとしたら執事でやることになるのかな?

そこからは、役割分担を決めていくことになった。

次々と役が決まっていくのを、私はボーっと眺めていた。一応、大食い対決の兼ね合いで客寄せにしてもらったから、配役に問題はない。

ただその後、誰がどのコスプレをやるかの話し合いになってかなり騒がしくなった。

私はこれがいいとか、そんなん作れるか!とか、コスプレ組と製作組のすり合わせというか、半ば言い争いに近い状態になっているのを、これも私は横でボーっとしながら見ていた。

いやだって、ぶっちゃけ「これやりたい!」ってのがないんだよね。私はそういうセンスってあまりないし。

ただ、さすがに無反応すぎて不審に思われたのか、クラスメイトに話しかけられた。

 

「クラマハヤテは、何か希望とかないの?」

「ん?ん~、ないかなぁ~。自分にどういうのが似合うとか、よくわからないし」

「・・・そんなんで私服とかどうしてるの?」

「みすぼらしくない程度には無難なやつ・・・まぁ、動きやすいからシャツにズボンとかホットパンツが多いかな」

 

というか、その辺りはイッカクが私の希望に合う中で選んでくれてる。ここまでくると、アシスタントって言うより、なんかお世話係みたいになってるよね。

ただ、私の話を聞いて教室が一気にシィン・・・と静かになった。

え、なに?なんなの?

困惑していると、今度はグランが口を開いた。

 

「ってことは、ハヤテちゃんってあまり女の子らしい格好をしないってこと?」

「まぁ、そうなるかな・・・?」

 

ていうかグランは知ってるはずだけどね?前に一緒に水着買いに行ったでしょ?

・・・いや違うな?これは他のクラスメイトにその情報を共有させるためにわざと聞いてきたな?

その証拠に、クラスメイトの私を見る目が変わった。

なんだろう。何がってのはわからないけど、なんかやばい気がする。

具体的には、貞操というか、そんな感じで。

 

「・・・なに?」

「クラマハヤテ。あなた、おしゃれに興味ない?」

「ない、かな。あまり。動きやすい服の方が好きだし」

「でも、制服はスカートだよね?」

「制服は制服だし・・・あーでも、最近は下にスパッツ穿こうか考えてるかな」

 

沖野さんとゴルシ先輩の件で蹴り癖の自覚がついてきた今、万が一にでも蹴った拍子にパンツを晒すような真似はしたくないから、イッカクに相談してみたんだよね。すごい渋い顔されたけど。

そう言った瞬間、教室がざわついた。

え、なに?そんなに問題なの?

 

「・・・ちょっとクラマハヤテには、おしゃれを教えた方がいいかもしれないね」

「いや、身だしなみには気を遣ってるけど・・・」

「せっかく可愛いんだから、もっといろんな服を着た方がいいって!」

「えっ、いや、別にそんな・・・」

「服飾班!」

 

次の瞬間、私の両腕を左右からガッ!と掴まれた。

ちょっ、最近のトレーニングで力はついてきたけど、さすがに2人がかりは無理だって!

 

「採寸任せた!そしてとびっきり可愛いやつをお願い!」

「あぁ~・・・」

 

結局、私にはどうしようもできず、ズルズルと引きずられて為されるがままな状態になった。

なんというか、服飾班の気合が入り過ぎて、逆に不安になってきたんだけど。

 

 

* * *

 

 

「んで、私からすれば裏切られた気分なんだけど、その辺はどう思う?」

「私はグランに賛成かな」

「ブルータス、お前もか」

 

昼放課、食堂でイッカクと合流してさっきの話をしたら、まさかのイッカクがグラン側についた。

こやつら、こういうときばかり仲良くなりおって。

 

「ハヤテちゃんは、いい加減女の子らしいおしゃれを学ぶべきだと思うの」

「そうそう。せっかく可愛いんだから、もっと着飾った方がいいって」

「んぇ~・・・私は別にいいんだけどな~・・・」

 

可愛いって言われるのは、まぁ嬉しいけど、それでもやっぱりホットパンツとかデニムの方が落ち着くんだよね。

それに私に似合う可愛い服って言われると、フリフリのスカートとかワンピースになる気がするんだけど、そういうのって落ち着かないんだよね。これでも山育ちだし。

 

「ていうかさ、イッカクはまだいいけど、グランは大丈夫なの?もうすぐでしょ、サウジアラビアロイヤルカップ」

 

サウジアラビアRC(ロイヤルカップ)は、ジュニア級限定のマイルG3レースだ。

初めての重賞なんだから、ちゃんとレースまでに仕上げておくべきだと思うんだけど。

 

「その辺は大丈夫。ちゃんとトレーナーに見てもらってるから」

「あ~、たしかにそれなら大丈夫か」

 

東条さんって、その辺はしっかり管理してそう。

じゃないと、あの規模のチームの管理なんてできないだろうし、中央最強のチームにもなれないだろうね。

須川さんは、ちゃんと予定は決めて行動してるけど、東条さんと比べると柔軟というか、わりと緩いから、私はそっちの方があってる。

 

「だから、聖蹄祭の準備に参加するのはレースが終わってからになるかな」

「私はレースは11月だから、けっこうガッツリ準備することになるかも」

「結局、OPレース3つに出てから皐月賞を目指すことになったんだっけ?頑張ってね」

「まず先に頑張るのはグランだけどね」

「でも、今はそれよりもハヤテちゃんの服の話だよね」

「チッ、逸らせなかったか」

 

いい具合に話題を変えれたと思うんだけど、イッカクは誤魔化されなかったか。

ていうか、仮にも初めての重賞を「それよりも」で遮るのは相当だと思うけど。

でもまぁ、グランならマジで「それよりも」で片付けられそうなのが怖いところだけどね。

 

「いい機会だから、ハヤテちゃんもいろんな服を着てみたらどう?」

「それって、着せ替え人形になれってこと?」

「うん」

「一切のためらいもなく頷いたね・・・」

 

ここまで強情なイッカクも珍しい。これはマジで私におしゃれを覚えさせようとしているね。

 

「・・・まぁ、どうするかを決めるのは服飾担当のクラスメイトだし、グランはまだしもイッカクはそんなに口を挟めないからね」

「それは・・・わかってるけど」

 

そんなに私のファッションが気になるのか。

別にそんな、特別みすぼらしいとか、不自然に男っぽいなんてこともないと思うんだけどなぁ。

そんなに私におしゃれしてほしいか。

 

「・・・じゃあ、今度3人で買い物に行く?実際に着るかは別として」

「わかった」

「じゃあ、後で日程を確認しよっか」

 

・・・正直、制服以外でスカートとかを穿くつもりはあまりないけど、買い物に行ってちょっとは発散してもらおうか。

 

 

 

 

後日、教室にて。

 

「あ、そうだ。クラマハヤテが客引きするなら、クラマハヤテに餌付けしたらサービス券をプレゼントするってシステムにしようか」

「私の扱いとか認識ってどうなってんの?」

 

喜んでやりますとも。




本当は、最近『黒子のバスケ』に軽くハマってたのでバスケをやらせてみたくてファン感謝祭の話にしようと思ったんですが、聖蹄祭は文化系特化ってことでバスケはお流れになりました。気が向いたら春の方でやりましょうかね。

余談ですが、自分はそんなに身だしなみにこだわったりはしないタイプです。
基本的にチェックとかワンポイントとか、シンプルなやつを好んで着てます。あんまり柄がついてるのは着ないですね。
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