「長らくお待たせいたしました。これより、聖蹄祭大食い大会を始めます!」
いよいよ、大食い大会の時間になった。
なんというか、思っていたよりも観客が多い。スペシャルウィーク先輩とオグリ先輩がいるからかな?
それと、司会進行を担当しているのはイナリワン先輩だけど、さっきまでの江戸っ子口調はどこにいった?司会者モードでもあるのかな?
「今回参加したのは、日本総大将・スペシャルウィーク!芦毛の怪物・オグリキャップ!そして!ジュニア級ながらも地方からの殴り込みで注目されているクラマハヤテです!」
イナリワン先輩から紹介されると、観客席から歓声が沸き上がった。
にしても、チラッと須川さんから聞いたけど、本当に私の知名度がジュニア級にしては高い。
やっぱり、地方から中央に挑むってのは注目されやすいらしい。まぁ、私のデビュー戦は中央からで地方レースは一度も走ってないから、一概に『地方から』とは言い難いかもしれないけど。
あと、私の格好にざわついてるのもあるね。スペシャルウィーク先輩とオグリ先輩は制服なのに、私はゴスロリなんだもん。
「そして、今回この3人に挑戦してもらうのはこちら!」
運ばれてきたのは、直径50cmはあろうかという特大の丼鉢に、顔が隠れるほどの野菜やチャーシューが盛られた、とんでもない化け物次郎系ラーメンだった。
「ラーメン三ハロンに協力していただき、今回の大会のために用意してもらった、麺固め野菜肉ニンニク脂マシマシオリンポス盛りです!」
なんだその呪文みたいな内容は。
オリンポスって、たしかあれだっけ?標高が20,000m超えてる火星の山だったかな。いよいよチョモランマじゃ足りなくなったのか。
チラリと横を見たら、スペシャルウィーク先輩の顔がちょっと青くなってた。
まぁ、こんなカロリーの塊という言葉すら生ぬるい圧倒的質量を目の当りにしたら、普通はそうなるよね。主に明日の体重的に。
逆に言えば、特に動揺してない私とオグリ先輩がおかしいってことになるんだろうけど。
「ルールはシンプル、制限時間無制限、先に食べ終えた人が優勝!優勝賞品として、限定のラーメン鉢とラーメン三ハロンのクーポン券1年分が送られます!」
なるほど、限定物のラーメン鉢ってのも興味あるし、なによりゴルシ先輩の焼きそばの無料優先券を使ったところだから、クーポン券もありがたい。
ならば、たとえ相手がオグリ先輩であっても、負けるわけにはいかない!
「それでは、3名の大食いウマ娘による大食い大会、スタートです!」
イナリワン先輩の合図と同時に、私たちは箸を手に取ってラーメンを食べ始めた。
一応、次郎系ラーメンの食べ方については先日ちょっと調べてみたけど、この量だと麺と野菜を交互にバランスよく食べていくしかない。天地ガエシ?とかいう野菜と麺をひっくり返して麺から食べる方法もあるらしいけど、この量だとそもそもひっくり返せないから無理っぽい。
幸い、食べる時間を考えてか麺はけっこう硬めに仕上げてあるみたいだから、多少時間がかかったところで麺が伸び切る心配はなさそうだけど、後半になるとちょっとわからないな。
ただ、その分最初は食べるのにちょっと苦戦するから、その辺のペース配分も考えておかないと。
ペースを具2:麺1に調整して食べながらチラリと横を確認すると、オグリ先輩は食べ方もペースも私とほとんど変わらない感じで、スペシャルウィーク先輩は部分的に具と麺をひっくり返しながら食べている。ただ、スペシャルウィーク先輩は量もあってひっくり返す動作が少し遅れていて、その分私とオグリ先輩よりペースは遅くなっている。
仕掛けるとしたら、麺が汁を吸って食べやすくなった瞬間・・・
「ここでオグリキャップがペースを上げた!それを見たスペシャルウィークも続いていく!」
なにっ、まだ麺が食べやすくなるにはまだ早いはず・・・そうか。時間をかけて後々に麺が伸びるのを防ぐために、あえて早い段階でペースを上げたのか!
なら、私もペースを上げた方が・・・いや、相手のペースに呑まれたらダメだ。スペシャルウィーク先輩も掛かってるように見えるし、ここでペースを崩しちゃいけない。
須川さんだって「逃げウマ娘の敗因の1つは自分のペースを守れずにスタミナ切れを起こすことだ」って言ってたからね。まぁ大食い大会でそんな戦法が通じるとは限らないし、なんなら「お前はむしろ相手のペースを崩す側だけどな」とも言われてるけど。
まぁ、それはさておき、
(仕掛けるなら、今!)
「おっとぉ!ここでクラマハヤテもペースを上げてきた!早い早い!もはや呑んでいると言っても過言ではないスピードだ!」
麺とスープがいい具合に馴染んできたタイミングで、一気に勝負に出た。
オグリ先輩より遅れた分、さらにペースを上げてラーメンを食べていく。
うん、スープがある分、ゴルシ先輩の焼きそばの時よりも食べやすい!
これなら・・・
「なんと!オグリキャップがさらにペースを上げた!クラマハヤテにも引けを取らないペースでラーメンを流し込んでいく!」
うそっ!まだ上があったっていうの!?
これが、あの芦毛の怪物・・・!
チラリと横を確認すると、スペシャルウィーク先輩はオグリ先輩に釣られてペースを上げたのが祟って完全に失速してるけど、オグリ先輩は排水溝に巻き込まれる水のようにラーメンを流し込んでいく。
このままだと、スペシャルウィーク先輩には勝ててもオグリ先輩には勝てない。
どうする!?どうすれば・・・!
・・・こうなったら、私の奥の手を使わざるを得ない。
須川さんに「いいか、そんなことやるなよ?絶対だぞ?いやマジで」って念を押され、構想段階でお蔵入りになった必殺技を!
「な!?クラマハヤテもさらにペースを上げたぁ!?し、信じられねぇ!ここまでオグリに食らいつけるやつなんて、今まで見たことねぇ!!」
司会のイナリワン先輩や横の2人から、信じられないという視線を向けられる。
私がさらにペースを上げれたのは、言ってしまえばただの力技だ。
ただ、筋肉で無理やり胃の中を圧縮してスペースを作って、そこに流し込む。
元々はパワートレーニングで力がついてきたときに、ふと思いついて須川さんに言ってみたものだ。
「胃の中の物を圧縮しながら食べれば、理論上はいくらでも食べれるんじゃない?」って。
須川さんからの答えは、「腹が膨れる前ならできるかもしれんが、絶対にやるなよ。まず間違いなくカロリーコントロールができなくなるからな」だった。
つまり、やろうと思えばやれると。
ただ、理論上いくらで食べれるということは、翌日の体重がえらいことになっちゃうわけで。
だから、須川さんから絶対にやるなって念を押されたんだけど、オグリ先輩に勝つためならやるしかない!
「凄まじいデッドヒート!オグリキャップか!クラマハヤテか!オグリキャップか!クラマハヤテか!今、並んで手を挙げたぁ!!」
ど、どうにか食べ終わった・・・この食べ方、けっこう体力使うから、もうへとへと・・・。
「勝負の行方は・・・おっと?審査員席から審議の札が上がってるぞ?」
あぁ、そういえばそんな席もあったね。まったく意識してなかったけど。
そんなことを考えていると、私たちの後ろにスクリーンが現れた。
そこには、私たちの丼鉢を上から映した映像が流れている。
そして、その映像には、
「な、なんと!オグリキャップはスープまで完全に飲み干しているが、クラマハヤテにわずながらスープが残っている!」
オグリ先輩の丼鉢はきっちりと底まで見えているのに対し、私の丼鉢の底はスープで隠されていた。
ということは・・・
「この勝負、オグリキャップの勝利だぁー!!」
イナリワン先輩が優勝者の名前を宣言すると、観客から盛大な歓声と拍手が巻き起こった。
「そっかぁ・・・負けたかぁ・・・」
けっこういい線いってたと思うんだけどなぁ・・・やっぱり、頂は高かったかぁ。
「いやぁ・・・さすがでした、オグリ先輩。完敗です」
勝てなかったことにちょっと凹みながらオグリ先輩に話しかけると、ポンとオグリ先輩に肩を叩かれた。
「いや、ハヤテも見事だった」
「そうですよ!私なんて途中でへばっちゃいましたし、クラマハヤテちゃんはすごいです!」
オグリ先輩の後ろから、スペシャルウィーク先輩も励ましてくれた。
「大食いで誰かに負けられないと思ったのは、ハヤテが初めてだ。だから、ハヤテには胸を張ってほしい」
「オグリ先輩・・・!」
笑みを浮かべながらそんなことを言われて、私は思わずオグリ先輩に抱きついた。
思い切り膨らんだオグリ先輩のお腹でちょっと距離が縮めづらくなってるけど、私の方はこの2人と比べればお腹は出てないから抱きつく分には問題なかった。
「もしよかったら、今度一緒にラーメンを食べにいかないか?クーポンを持ってる私が奢ろう」
「ホントですか!?」
「あぁ。スペシャルウィークもどうだ?」
「はい!ご飯は皆で食べた方がおいしいですし、いいと思います!」
こうして、大食い大会を通じてオグリ先輩とさらに距離を縮めることができて、スペシャルウィーク先輩とも仲良くなることができた。
そして、大食い大会の結果を通じて私のところにはさらにお客さんが集まってきて、私の前には屋台の食べ物を手に行列ができた。さらに、結果的にクラスのコスプレ喫茶も大賑わいになったらしくて、聖蹄祭が終わったあとの打ち上げでクラスのMVPとして盛大に祝福された。
中央に来て初めてのファン感謝祭だったけど、ここまで良い思い出になって本当に良かった。
翌日、体重がえらいことになって、須川さんに羽目を外し過ぎだってめちゃくちゃ説教された。
一応、見た目はほとんど変わってないはずなのに、妙に床とかベッドがミシミシ鳴ったり、寮にある体重計の針があり得ない数字になってた。
いやぁ、ウマ娘って本当に不思議な生き物だねぇ。
そう思って食べても見た目は変化しないって話をクラスでしたら、危うく教室内で脱がされそうになった。担任にも同じことを話したら現場を無視されそうになった辺り、私は地球上のすべての女性の敵なのかもしれない。
最近レース話を書いてないから違うベクトルからバトル要素を取り入れようとした結果、なんかこうなりました。
1話辺りは他と比べて短めとはいえ、20話以上もレースの話をしてないウマ娘小説とは・・・。
それにしても、こんな食べ方してたらハヤテの胃の中でダークマターとか超重力物質が生成されそう。
まぁでも、オグリは腹の中にブラックホールがあるから今さらですね。