『今、後続を6バ身突き放してゴール!若駒ステークスを制したのはやはりこのウマ娘、クラマハヤテだ!これで、皐月賞に向けて王手をかけました!』
年も明けて1月の半ば過ぎ、私は京都レース場で若駒ステークスに出走、1着をもぎ取った。
OPレースにも関わらず、観客席は人であふれかえっている。
クリスマスパーティーの時にネット掲示板でも見たけど、三冠ウマ娘候補として見られているからこそ、この注目度ってことかもしれない。
まぁ、もちろん油断はできないんだけどね。
「ん~!おいひぃ~!」
若駒ステークスの翌日、今日は日曜日ということでレースの祝勝会も兼ねて京都の町で甘味巡りをすると決めていた。
やっぱり京都なだけあって抹茶とかきな粉とか和系のスイーツが多いけど、どれもおいしい。
今回はこの時のために昼ご飯も控えめにしたから、いつもより思い切り食べられる!
お店は悲鳴を上げてた気がするけど、加減はしたはずだし気のせいだよね。
そんな私の向かいで須川さんがタブレットを操作している。
「京都の甘味を満喫してるようで何より。だが、今回無傷で若駒ステークスを勝ったとはいえ、皐月賞に向けてまだ油断はできない。この意味がわかるな?」
「ん、サートゥルナーリアとアドマイヤマーズだよね」
サートゥルナーリア。あのクリスマスパーティーの後日、無敗でG1ホープフルステークスを勝って、私に続いて今年のクラシックで期待されているウマ娘だ。
アドマイヤマーズは、朝日杯FSでグランを負かしたウマ娘で、こっちも無敗のままG1を制覇している。
「あぁ。サートゥルナーリアはここまで3戦3勝。どのレースも1番人気で支持され、その期待通りに勝ってきたウマ娘。まず間違いなく、皐月賞でも最大のライバルになるだろう。アドマイヤマーズは、人気という面ではサートゥルナーリアには1歩及ばないが、それでもこれまで4戦4勝、油断はできない相手だ」
OPを勝ってる私と、G1を勝ってる2人。この差は大きい。
表だった実力はもちろん、G1の大舞台を経験している、という意味でもね。
一応、サートゥルナーリアに関しては間にレースを挟まずに直で皐月賞に出るって発表してるから、若葉ステークスに出る私の方がレース勘が鈍ってないっていう点では有利なところがないわけじゃないかな。
「一応、他にも無敗のウマ娘でダノンキングリーがいるが、こっちは先の2人ほど警戒する必要はない」
「そうなの?」
「俺が見た限り、ダノンキングリーはマイラー寄りだ。中距離も走れるだろうが、本領発揮とまではいかないだろう。長距離の素質はないと言ってもいい」
「そっか」
よくわかるねーそんなこと。抹茶パフェうめうめ。
「とはいえ、警戒されているのはこっちも同じ・・・いや、むしろ俺たちの方を格上としてみなしている可能性すらある」
「やっふぁりふぉう?」
「それだけ、逃げで強いウマ娘というのは稀だ。クラシックならなおさらな。だから、この2人にマークされる可能性は高い。それは覚えておけ」
「ん」
「・・・ここまで話しておいてなんだが、いまいち緊張感に欠けるな・・・」
いやだって、今は京都の甘味を楽しむ時間でしょ?目の前の抹茶パフェを楽しんで何が悪い。
「そういえば、イッカク遅いね」
ちなみに、この場にイッカクはいない。なんか須川さんに買い物を頼まれていて、今は別行動中だ。
「何を買いに行かせたの?」
「大したものじゃないんだが・・・」
ザワ・・・ザワ・・・
ん?なんか、心なしか周囲が騒がしくなってきたような気がする。
辺りを見回してみると、店に来たときより明らかに人が増えていた。
交通量が増えてきたとかなら、今日やるレースを観に来た人で増えたのかもしれないけど、この辺は京都レース場からは離れているから、その線は薄い。
というか、明らかに視線は私に向けられている。
「・・・なんか、人が増えて来たね」
「なに?・・・本当だな」
須川さんも異変に気付いたみたいで、タブレットに視線を落として何かを調べ始めた。
「・・・なぁ」
「なに?」
「今朝、ウマッターで何か呟いたか?」
「んー?今日は京都で甘味巡りするってことだけ。詳しい場所とかは何も書いてないけど」
「どうやら、その情報だけで近辺のカフェや甘味処を総ざらいして居場所を特定したやつがいるらしい」
「マジで?」
そんなんストーカーじゃん。
「すみません!遅くなりました!」
ちょうどそのタイミングで、小さめの紙袋を持ったイッカクが駆け寄ってきた。
ていうか、あれ?なんか見慣れない帽子をかぶってる。
「おかえりー。何を買ってきたの?」
「これ、ハヤテちゃんに」
イッカクが袋から取り出したのはちょっとおしゃれな眼鏡だった。
え、別に私、目は悪くないけど?
「それは伊達メガネだ。お前も有名になってきたからな。変装、というと少し大げさに聞こえるかもしれないが、イメチェンして正体を隠す必要が出てきた。そのためにイッカクに頼んだんだが・・・少し遅かったな」
「すみません。人が増えて2人の姿が見えずらくて・・・」
「気にするな。俺もここまで人が多くなるのは想定外だった。さすがにストーカー紛いのやつはいないだろうが、念のため後で場所を変えて変装しておこう」
あーなるほど、そういうことね。
考えてみれば、イッカクの白毛ってめっちゃ目立つから、それを隠すための帽子か。
「そういうわけだ。ちょっと早めにそいつを片づけてくれ」
「はーい」
須川さんに言われた通り、私は食べるペースを上げて手早く完食した。
まさかここまで注目されることになるなんて、私もわかんなかったなぁ。
念のため、あとでグランに今回のことを話しておこっと。
「あ、そうだ。わらび餅食べたい。餡蜜かかってるやつ」
「ちゃんといい店探してやるから、ちょっと待ってくれ」
なんだかんだ言いながらお店をリサーチしてくれる須川さんマジで好き。トレーナーとしてって意味で。
* * *
「ん~、なんだかんだ目立っちゃったね」
「だな・・・」
「あはは。そうだね・・・」
帰りの新幹線の中で、須川さんとイッカクが苦笑を浮かべる。
その理由は、私の傍らにある複数の紙袋だ。
結局、あの後はイッカクが買ってきた伊達メガネをかけて行動したんだけど、伊達メガネをかけただけで服装なんかは変わってないから普通に人は集まった。
その中には、わざわざ私のために応援の品物を用意してくれた人もいた。とはいえ、大半は食べ物だしどうしたものかね。
滅多にないことではあるけど、ファンから送られてきた食べ物の中に変なものが入ってたって話はないわけじゃない。
まぁ、ウマ娘の体ならよっぽど毒性が強くない限り大丈夫だろうけど、そうじゃなくてもドーピング指定されている成分が含まれている場合もあるし、やっぱり扱いに困るね、これ。
「どうすればいいと思う?」
「・・・まぁ、見た限り食べ物は全部市販品だし、ありがたくいただいてもいいだろう。とはいえ、念のためレース前の1,2週間は食べないようにするのと、知り合いに渡すのも控えておくこと。あと、どうせなら八つ橋は今食べちまおう。生菓子は早いうちに消費しとけ」
「はーい」
須川さんのアドバイス通り、袋から八つ橋を取り出して開封した。
うん、この八つ橋美味いな。お土産用と自分用に買っておこうか迷ったけど、自分の分が浮いたと思えばいいや。
お土産の八つ橋は、オグリ先輩とタマモ先輩、ゴルシ先輩、あとはグラン経由でチーム・リギルに渡す分も確保しておいた。
チーム・リギルとはグランと会長とトレーナー同士の縁でたまにお世話になってるから、渡しといて損はない。
「にしても、わざわざこんなものまで作ってもらうなんて、もしかして私ってけっこう愛されてたり?」
貰った品は食べ物ばかりじゃなくて、中には手のひらサイズのぬいぐるみやキーホルダーなんかもあった。
見るからに作りこまれているのもあって、嬉しいやら照れくさいやら。
「あぁ、そうだろうな」
「そ、そう?」
「お前はすでに、誰かに夢を魅せることができるウマ娘だ。それは俺が保証する。だからこそ、言葉にせよ形にせよ、魅せてくれた夢に応えようとするファンもいるんだ。お前は、胸を張っていい」
「え、えへへ・・・」
や、やばい。いつになく須川さんが褒めてくれてめっちゃ気恥ずかしい。
イッカクもそんな私を慈愛に満ちた眼差しで見つめてくる。
慣れない言葉と視線に顔が熱くなって、思わず紙袋で顔を隠した。
「珍しく照れてんな」
「そりゃあ、私だって褒め殺されたりしたら照れるって」
「ならよかったな。クラシックレースで勝てば俺らだけじゃなくてファンやマスコミからもちやほやされるぞ」
「ファンはともかくマスコミはなんか違う」
思わずスンってなるくらいには違うんだよなぁ、それ。
確かにウマ娘が好きでやってる記者もいるけど、そういうのは少数派で、どちらかといえば話題性とか人気とかを求めている記者の方が多いって聞いたことがある。
今はだいぶマシになってるけど、一時期はそういうのがすごい露骨だったときもあったって会長から聞いたことがある。
まぁ、向こうも仕事でやってるんだから必要以上に悪く言うつもりはないけど、あからさまなお世辞を貰ったところであんまり嬉しくないんだよなぁ。
「お、おう。そうか。まぁ、なんにせよ頑張れ。もし負けたとしても、俺たちは傍にいてやるからな」
「もしもの時はよろしくね」
「そのもしもが何なのかは聞かないでおくが、そうならないことを祈ろう」
まぁ、私も言ってみただけだから。本気で須川さんのヒモになるつもりはないから、その辺は安心していいよ。一応。
実は今年まで走ってた史実若駒ステークス勝ち馬ヴェロックス。
その後は勝てずともなんだかんだ大きな怪我もせず頑張ったので、よしよししてあげたい。
オーバーウォッチ2を今日から始めましたが、思ったより面白かったです。
個人的にはAPEXよりも楽しく感じました。あっちは初動落ちとかキャラコン重視なところが肌に合わなかった部分があるので、やっぱりバトロワ系よりもシンプルなFPS形式の方が好きかもしれませんね。