ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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おかしいのって僕なんですか?

急遽タマモクロス先輩によるお好み焼きパーティー(主に大食いの先輩2人のため)が決まったということで、さっそく買い出しに向かうことになった。

買い出しについては、変わったことは特に起こらなかった。いや、僕からすれば量が異常に多すぎて目を疑うことはあったけど、店から出禁を喰らうほどの大食いならこれくらいは必要なのかもしれないと無理やり納得することもできなくはなかった。その代金も、オグリキャップ先輩やタマモクロス先輩ほど名のあるウマ娘ならグッズのロイヤリティやら番組の出演料やらレース以外でも稼げるだろうから、お好み焼き程度の材料費であれば余裕で払える範囲のはず。

ただ、問題はその後からだった。

 

「・・・あの、タマモクロス先輩」

「ん?なんや?」

「なんで寮の食堂でやるんですか?あと、この鉄板はどこから持ってきたんですか?」

 

現在、寮の食堂でタマモクロス先輩がエプロンと三角巾を付けて巨大な鉄板の前に立っていた。ついでに、僕ととイッカクもタマモクロス先輩の後ろで買ってきた食材の下ごしらえを手伝っていた。

なんで自分が手伝っているのか、という質問は口にしない。十中八九、一人だけでは手が足りないから手伝ってほしい、とかだろう。むしろイッカク先輩はタマモクロス先輩から頼まれる前に準備を始めていたあたり、太陽が東から昇って西に沈むのと同じくらい自然なことなのかもしれない。

 

「そりゃあ、こんなでかい鉄板やと寮の部屋じゃできひんからな。あぁ、許可はちゃんともらっとるから大丈夫や。あと、この鉄板はゴルシから借りてきた」

「え?学校のものじゃないんですか?その、ファン感謝祭に使うものを借りてきた、とか」

「さすがに完全な私用で学校の備品を使うわけにはいかんやろ。まぁ、オグリンとハヤテちゃん相手なら貸してくれるかもしれへんけど、即日ならゴルシのから借りてきた方が確実や」

「ゴルシ先輩、焼きそば作って売ったりしてるからねぇ~。これ、前にごちそうしてもらったときに使ったやつですかね?」

「せや。いや~、気前よく貸してくれたゴルシには感謝やな」

(ゴルシ先輩って何者・・・?)

 

ゴルシ先輩って、たしかスピカにいた芦毛の先輩のことだよね?前の歓迎会ではカニを獲ってきたらしいけど、いったい何をしている先輩なんだろう。

というより、焼きそばを作って売っているっていうのは、聖蹄祭とかファン感謝祭の時の話じゃないのかな?ハヤテ先輩の口ぶりからして、普段から焼きそば売ってるみたいなニュアンスに聞こえる気がするけど。

 

「ほんで、これがメニューな」

「やけに用意がいいですね・・・」

「ゴルシがハヤテちゃんに最高の焼きそばをごちそうしたんや。せやったら、ウチも最高のお好み焼きをごちそうせにゃ、タマモクロスの名が廃るってもんや!」

「別にそんなことはないと思いますけど?それと、お好み焼きを食べるなら白米は必要ないんじゃ・・・」

「あ?」

「いえ、なんでもないです。はい」

 

大食い2人が相手とはいえ、わざわざ主食を2つも用意する必要はないのでは?と思ったけど、どうやら関西人の地雷だったらしい。先ほどまでの世話焼きなお姉さんの雰囲気は一瞬で消し飛んで、タマモクロス先輩からレースもかくやというほどの気迫がまき散らされた。

一部から『現役時は気性に難があったが、今ではだいぶ丸くなった』という話を聞いたことはあるけど、どうやら関西人の地雷を踏むとその限りではないらしい。

僕は思わず頭を下げ、近くにいたイッカク先輩は手に持っていた食器を落としそうになった。食堂内ではほとんどの生徒は思わず動きを止めるかタマモクロス先輩の方に視線を向けて、一部の新入生に関しては少しビビってしまっていた。

そんな中で、直接ではないとはいえタマモクロス先輩の気迫を浴びてものんきに水を飲みながら話をしているオグリキャップ先輩とハヤテ先輩の胆力も大概だ。

 

「まぁ、そんなことよりや。今のうちにメニューを頭に叩き込んどき。あと、トイレとかエネルギー補給も今のうちに済ませとくんや。2人が食べ始めたら、そんな暇はなくなるからな」

「まぁ、それは大丈夫ですけど・・・そんなにですか?」

「ん~、1回でも2人がご飯食べてるところ見たらわかるはずやけど・・・まぁ、百聞は一見に如かずや。頑張って作んねんで」

 

ここまで念入りに言われても、この時点では「まぁ、たぶんなんとかなるでしょ」くらいにしか考えていなかった。

そして、自分の認識と情報収集が甘すぎたことを痛感するのに、大して時間はかからなかった。

 

 

「それじゃあ・・・まずはイカ玉5枚で」

「私は豚玉5枚を頼む」

「え?」

「はいよ!ほな、コントレイルちゃんとイッカクちゃんはイカ玉5枚頼むわ!」

「わかりました」

「あ。は、はい」

(え?まずは?)

 

普通、お好み焼きというのは1枚ずつ食べるものではないのだろうか。

あるいは、一気に5枚食べてそれで終わりということだろうか?いや、だったら『まずは』なんて言葉は使わないはずだ。

とはいえ、なんやかんや言いつつも5枚なら問題なく作れるため、言われた通りにイッカク先輩と共にイカ玉を5枚焼き上げた。

のだが、

 

「じゃあ、ミックスも5枚お願いね」

「え?」

 

まだ焼き上がったばかりなのに、なぜすぐに注文するのか。

そんな疑問を抱く前に、ハヤテ先輩は一口でお好み焼きの半分をほおばった。

 

(え、うそでしょ?)

「コントレイル!」

 

目の前の光景に唖然とする暇もなく、イッカク先輩から鋭い声で名前を呼ばれて我に返った。

なるほど、たしかにこのペースで食べるなら食べきる前に注文するのは不思議ではない。

なら、このミックス玉を食べればさすがにペースは落ちてくるはずだ。

そう思っていたら・・・

 

「次は、エビ玉5枚で」

 

「豚玉7枚おねがーい」

 

「今度は、ミックスDX?ってのを5枚ね」

 

「ミックス10枚おかわりー」

 

(まっ、まだ食べるのこの人!?)

 

すでに40枚近く食べているというのに、欠片もペースが落ちる気配がない。

チラリとオグリキャップ先輩の方を見れば、こっちはすでに50枚以上の材料が消費されていた。こちらはペースが変わらないどころか、最初と比べてペースがさらに早くなっている。

中央にはこんな怪物たちがいたのか、と戦慄を禁じ得ないが、目の前ではハヤテ先輩がどんどんお好み焼きを平らげていくから余所見をする暇も他に考え事をしている暇もない。

ハヤテ先輩のペースに合わせるには、さらにギアを上げていくしか・・・

 

「タマ、豚玉を15枚だ」

「くっ、ちょっとキツくなってきたな・・・すまん、コントレイルちゃん!ちょっとこっちも手伝ってもろてええか!?」

「はっ、はい!」

 

現在、オグリキャップ先輩と向かい合うようにタマモクロス先輩、ハヤテ先輩と向かい合うようにイッカク先輩、その間に僕が挟まっている状態だ。だから、タマモクロスのフォローは僕にしかできない。

正直に言えば、イッカク先輩と2人がかりでハヤテ先輩一人についていくのがやっとで、共同作業とはいえさらにオグリキャップ先輩の相手をするほどの余裕はない。

だけど、あの大先輩から頼まれて条件反射でYESと答えてしまった。素直に人の言うことを聞くという自分の性格が裏目に出てしまった形だ。

とはいえ、自分から言ったことを撤回するつもりはなかい。タマモクロス先輩は、自分とは違って1人であの怪物の相手をしていたんだ。ならば、ここで見捨てるのはウマ娘として褒められたものではない。

僕は深呼吸を一つ挟んで、覚悟を決めた。

 

「何を作ればいいですか」

「うちは一度に焼けるのは10枚が限界やから、コントレイルちゃんは5枚頼むわ」

「わかりました。イッカク先輩、僕はタマモクロス先輩を手伝うので、ハヤテ先輩の分を少し減らしてもいいですか?」

「うん。こっちも任せて」

 

聳え立つ壁を前に臆しそうになる心を必死に奮い立たせ、まるでG1レースに挑むような表情で、僕は鉄板の前に立った。

 

「さぁ、どんどん頼んでください・・・!」

「え、ほんと?じゃあ豚玉10で」

「私はイカ玉15枚を後で頼む」

 

ちょっと調子に乗ってしまったかもしれない。

覚悟を決めた矢先にすぐに後悔しそうになったけど、タマモクロス先輩の力になるために、今度こそ余計なことを考えずに、ひたすらお好み焼きを作ることになった。

 

 

 

 

 

「ふぅ~、ごちそうさまでしたー」

「ごちそうさま。とても美味しかったぞ、タマ、コントレイル」

 

食べ始めてから、たぶん2時間?

材料が切れるという形でようやく怪物2人の食事が終わった。

焼いたお好み焼きの枚数は、100枚から先は数えていないけど・・・買った材料から逆算して、合計200枚くらいといったところ・・・かな。

 

「ふぃ~、どうにか満足してもろたか。久々に疲れたわ。コントレイルちゃんもありがとうな」

 

どうにか激戦を乗り越えたと、タマモクロス先輩は汗を拭いながら途中から自分の分まで手伝ってくれたことに対して礼を言ってくれた。

でも・・・僕にはもう、返事を返す余力も残っていない。

 

「ん?どうしたんや・・・って、コントレイルちゃん!?」

 

今の僕は、すでに力なく椅子に座りこんで、真っ白に燃え尽きていた。

なんか、意識がだんだんと遠のいていってるような・・・

 

「あ、あかん!さすがに無理させすぎてもうた!大丈夫か!?」

「タマモクロス先輩?・・・僕、やりきりましたか・・・?」

「あぁ!コントレイルちゃんは頑張った、もう十分や!せやから、しっかりウチを見るんや!」

「それなら・・・よかったです・・・」

「こ、これはやばい!イッカクちゃん!こっちを手伝ってもろてええか!コントレイルちゃんが限界や!」

「え?あっ、大変!ど、どうすればいいですか!?」

「できればご飯を食べさせたいところやけど、この調子やとそれも難しいかもしれへん。まずは部屋に連れて行って寝かせるんや。部屋の場所とかわかるか?」

「部屋はわからないけど、同室の生徒は知ってるので聞いてみますね」

 

その後のことはあまり記憶に残ってないけど、、スペシャルウィーク先輩からタクトに連絡をとって部屋を教えてもらい、僕をベッドまで運んで寝かせてくれたらしい。

翌日、新入生で後輩の僕を倒れるまでお好み焼きを作らせ続けたということで、オグリキャップ先輩とハヤテ先輩には罰則としてそれぞれのトレーナーからのダイエットメニュー(VERY HARD仕様)、ならびに寮の食堂で皿洗いの手伝いを課せられることになったそうだ。

僕については、幸い一晩寝たことで回復したおかげで大事には至らなかった。

果たして今回の経験が活かされるのかどうか、それは僕自身にもわからない。

ただ、トレセン学園が誇る屈指の大食い2人の全力の食事を目の当たりにできたのは、ある意味貴重な経験だったのかもしれない。




謝る・・・ってほどじゃないんですが、とりあえず言っておこうかなと。
大学が忙しくて執筆できないと言ったな?あれは(半分くらい)嘘だ。
もちろん大学云々は事実ですが、実はそれに加えてFGOの第2部ストーリーを一気見してて、それで執筆遅れました。
FGO自体はプレイしてないんですけど、12月でロストベルトのストーリーが完結・・・するかはわかりませんが、最後の異聞帯でクライマックスに差し掛かるって知って、無性に一気見したくなったんで、しました。6.5章のラストが鳥肌やばい。
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