ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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ぶっちゃけサブタイに深い意味はありませんが、主人格の自分とは別に元となるウマの魂を持っている転生ウマ娘って実質ペルソナでは?とふと思ったんでこうしました。
まぁ、自分はゲームのペルソナ知識は疎いんで、もしかしたら違うかもしれませんが。


ウマ娘転生って実はペルソナ的な存在だったりする?

「ふむふむ。なるほどなるほど。黒い世界に存在するウマ娘のような人影、ね」

 

昼ご飯を食べながら、イッカクと須川さんに「マッドに拉致られたけど、とりあえず無事」とメールを送りつつマッドに私のあれこれを話した。もちろん、前世の記憶云々の話は抜きでね。

ちなみに、私とマッドが話してる間、マンハッタンカフェ先輩が代わりに食べ物を持ってきてくれた。

ついでに、途中からお友だちさんが手伝ってくれたのか、食べ物が空中浮遊しながら私の近くへと運ばれたりした。なんか最後あたりとか鉢巻きまでセットで浮いてたけど、幽霊でも汗ってかくもんなのかな?

とりあえず、このマッドは1週間くらいマンハッタンカフェ先輩とお友だちの奴隷になっても文句は言われないと思う。

 

「実に興味深い!おそらく君は、私が見てきた中で最もウマ娘の根源に近い存在と言えるだろう」

「根源、ですか?」

 

根源、ねぇ。まぁ、そりゃそうか。自分の中に自分以外の何かがあることを知覚できるようなウマ娘が、私の他にいるとも思えない。

でもなぁ、もう少し前世のことが分かれば、何かが掴めると思うんだけどなぁ。

こればっかりはマッドに教えるわけにはいかないけどね、悪いけど。

まぁ、それはそれとして、このマッドの言うウマ娘の根源ってのは気になる。

私がそう尋ねると、マッドが嬉々として自分の考えを語り始めた。

 

「そうだね。ではまず、ウマ娘がいったいどのような存在なのか、というところから話すとしよう。とはいえ、わかっていることは多くないがね。ウマ娘という種は古来より存在が確認されているが、多くが謎に包まれたままとなっている。ヒトに近い見た目でありながら、ヒトにはない耳と尻尾を持ち、ヒトを遥かに凌駕する身体能力を持っている。特に走力に関しては、生物界でも上位に入るほどだ。だが、そのメカニズムは現在でも不明なままだ」

 

「おいそれと解剖や人体実験ができない以上、仕方のないことではあるがね」としれっと物騒なことを口にしたマッドは無視して、さっき言ったことを私も頭の中で整理する。

ウマ娘の存在は、少なくとも紀元前から確認されている。ピラミッドなどの遺跡からウマ娘と思われる絵画が出土されていることから、少なくともヒトが文明を築き上げた頃から存在していたのは間違いない。

ただ、どのような進化を辿ってこの姿になったのかは、未だに謎のままだ。遺伝子解析の結果でも、先祖と思われる生物は特定されていない。

その結果、『トウモロコシは宇宙人が持ってきた』という説のごとく、ウマ娘のルーツについても憶測が憶測を呼び、三女神という存在と結びつけることにもつながった。

この三女神についても、わからないことの方が多い。というか、実在したのか架空の存在なのかすら定かでない。まぁ、宗教や信仰とはまた違う形で信じられ、根付いているあたり、普通のウマ娘とはまた違う存在なのだということはわかる。

 

「そんなウマ娘について、科学的な視点はもちろん、非科学的な視点からも様々な意見が出ている。研究者としてはあるまじき事かもしれないが、非科学的な意見にもいくつか面白いものもあってね。その中の一つに、“ウマ娘は別の世界の名前を持って生まれてくる”というものがあるのさ」

「別の世界・・・?」

 

ドクンッ、と今までで最も心臓が跳ねたような気がした。

別の世界。それはすなわち、私の記憶の中にある前世の世界?

だけど、その記憶の中にこっちで知っている名前はない・・・気がする。いや、わからない。そもそも、前世のことについて覚えていることの方が少ないんだから、知っている知らない以前の問題だ。

でも、マッドの話を聞くと、ぽっかりと空いた記憶の中に何かがはめ込まれたような感覚が湧いてくる。

 

「そうだ。この別の世界がなんのことを指しているのか、それはわからない。だが、さっきも言ったが、ウマ娘は想いを背負って走ると言っただろう。なら、その想いはいったい誰のものなのだろうね?私たちを応援してくれるファンか、家族か、クラスメイトか、友人か、ライバルか、トレーナーか。結局のところ、それは誰にもわからない。であれば、顔も声も知らない別の世界の誰かが背中を押している、という可能性もあっていいと思わないかい?」

「・・・まぁ、友人とかライバルがいない可能性もありますからね」

 

特にあなたとか。マンハッタンカフェ先輩はともかく、他に友人とかライバルがいるイメージが湧かないんだよね。

 

「ははは!なかなか痛烈な返しだね。それはさておき、その別の世界の誰かがなんなのか、長らく正体を掴めないままだった。だが、カフェのおかげで私なりに仮説を立てることができたのさ!」

「はぁ・・・」

「カフェのお友だちが別の世界の魂だと仮定した場合、その別の世界から流れてきた魂こそが!我々ウマ娘の根源であるウマ娘の魂、ウマソウルではないかと考えたのさ!」

「いや、いろいろと飛躍してません、それ?」

「だが、似たような事例は他にも存在する。アドマイヤベガというウマ娘がいるのだが、彼女は一人娘であったにも関わらず、自分の内に“妹”がいると言っていた。そして、時折その妹がレースで活躍するという夢を見ていたらしい。今ではその症状は落ち着いているようだが、その夢の内容が別の世界のものである、という捉え方もできるのではないかね?その点で言えば、君の事象とも非常に似通っている」

 

しれっと他人のプライバシーを打ち明けたな、このマッド。

それはともかく、そのアドマイヤベガ先輩の話は、私にも通じる部分がある。

夢の中で見る、ここではないどこかの世界。アドマイヤベガ先輩のものと同じかはわからないけど、夢みたいな曖昧な感覚でしか認識できないものだ。同じ事例を取り上げられては、このマッドの言っていることが想像の飛躍とは言い切れない。

それに・・・自分の中で、どんどんパズルのピースが埋まっていくような感覚がある。

オグリキャップ、タマモクロス、シンボリルドルフ、スペシャルウィーク・・・こっちの世界の存在だと思っていた名前が、()()()()()()()()()()()

ということは、ウマ娘とは、その名前、魂は・・・私の前世の世界のもの?

なら、私はなんでその名前を知っている?

前世の世界にもウマ娘という存在がいた?いや、それだと今の世界と前の世界で別れる必要がない。

だとすれば、ウマ娘に代わる存在がいた?

なら、それはなんだ?

ウマ娘・・・ウマ耳にウマ尻尾・・・ウマ・・・うま・・・

 

 

 

 

 

 

・・・馬?

 

 

「あがッ!?」

 

その単語が頭に浮かんだ瞬間、とてつもない頭痛が襲い掛かってきた。

ってかそんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇ!感覚としては初めて三女神の像を見た時になったやつと似てるけど、あの時よりも激しくて長い!

あ、これダメだ。だんだん目の前が真っ暗になってきた・・・

 

「ちょっ、大丈夫かい!?」

「タキオンさん!何か変な物でも混ぜたんですか!?」

「さすがの私でもそんなことはしないさ!ともかく、様子が普通ではない。すぐに教師を、いや、保健室に運ぶ方が早い!」

 

薄れゆく意識の中で、マンハッタンカフェ先輩とマッドが慌てる姿が見えたような気がした。

・・・なんだ、マッドでも人の心は持ってたんだ。

そんな思考を最後に、私の意識は暗闇に包まれた。

 

 

* * *

 

 

「・・・知ってる景色」

 

気が付けば、今まで何度も見た黒い空間に飛ばされていた。こういうパターンは初めてな気がするなぁ。

・・・って、あれ?

 

「喋れてるじゃん」

 

今まで口を開いても何も言葉を発せなかったのに、今は声が出るようになっている。

ついでに、体もある程度動かせるようになってる。無重力空間みたいになってて平衡感覚はまったく掴めないけども。

にしても、なんで急にこんな変化が出てきたのやら。

心当たりがあるとすれば、意識を失う直前に頭に浮かんだ単語だけど・・・

 

「なんか余計なことでも思い出しちゃったのかなぁ」

『余計なことじゃないよ』

 

不意に、私以外の声が聞こえた。

気が付けば、私の目の前には黒い人影が浮かんでいた。

でも、前と比べて輪郭がはっきりしていて、うっすらとだけど微笑みを浮かべる口元が見える。

 

『でも、今じゃない』

「ふさわしい時がある、ってこと?」

『そう。それがいつなのか、あなたならわかるはず』

「ふーん?じゃあ、その代わりに聞きたいことが2つあるんだけど」

『どうぞ』

「なら、1つ目。私は、あなたのことを知っている?」

 

1つ目の質問に対して、人影は少し悲し気に俯いた。

 

『ううん。あなたの記憶の中に、私はいない。でも、自分の記憶を思い出せば、私がなんなのかはわかるはず』

「そっか」

 

なるほど。まぁ、知らないなら知らないで仕方ない。

記憶を思い出せばわかるのだと言うのなら、その時まで待つとしよう。

 

「それじゃあ、2つ目。私の記憶を取り戻すことは、私やあなたにとって嬉しいこと?」

 

その問いかけに対して、人影は首を横に振った。

 

『・・・あなたの記憶を取り戻すことは、きっと苦しいことになる。あの頭痛も、あなたの本能が思い出すことを拒んだ結果だから』

「そっか・・・」

 

それはそれは・・・あれだけやばい頭痛を引き起こしてでも思い出させようとしないって言うんなら、きっと碌でもない記憶なんだろうなぁ。

複雑な表情を浮かべると、人影は『でも』と一区切りしてから口を開いた。

 

『あなたが自分の記憶を思い出すことには、意味がある。だから、怖がらないでほしい・・・かな』

「・・・そっか」

 

不思議と、この人影が言ってることに嘘や間違いはないってことがわかるような気がする。

私が記憶を取り戻すことで辛い思いをしたとしても、きっとそれでも必要なことなんだろうという確信がある。

だというなら・・・ここで聞くべきことは聞いて、やるべきこともわかった。

 

「ありがとう。それじゃあ・・・また会う時まで」

『うん。またね』

 

人影が手を振ると、急速に私の体が浮上していく。

いや、違う。浮かび上がっているのは体じゃなくて、私の意識だ。

それに気づいた瞬間、私の体が光に包まれた。

 

 

 

 

「ん・・・」

 

次第に意識が覚醒していき、目が覚めていった。

あれだけひどい頭痛に襲われておきながら、頭は思っていたよりも軽い。

ただ、起き上がろうとすると体が重く感じるあたり、けっこう長い間気を失っていたのかもしれない。

周りを見渡すと、窓の外を見るまでもなく部屋の中が暗かった。

時計を見ると、すでに日付が変わっていた。

幸いと言うべきか、さすがに丸一日気を失っていた、なんてことにはならなかったみたいだ。

ていうか、

 

「ここ、寮の部屋じゃん・・・」

 

てっきり保健室で寝かされているもんだとばかり思っていたけど、目を覚まさなかったからかこっちに移されたのかな。

すぐそばでは、イッカクが私が寝ていたベッドに突っ伏していた。

 

「迷惑をかけちゃったかなぁ・・・」

 

なんとなく、イッカクの髪に触れてみる。う~ん、すごいさらさらしてる。

そういえば、私ってお風呂入れてないじゃん。大丈夫?匂ったりしてない?シャワーだけでも浴びておこうかな。

それにしても・・・

 

「私の記憶、か」

 

まさか、本当にあのマッドのおかげで私の問題の核心に迫れるとは思わなかった。

とはいえ、今はまだその時期じゃないと、あの人影は言っていた。

そして、来たるべき時と言えば・・・

 

「菊花賞。ここしかないか」

 

クラシックレースの集大成、菊花賞。

ここで、私の記憶と人影にケジメをつける。

それまで、ひたすらトレーニングだ。

ひとまずは・・・

 

「走ろ」

 

とりあえず、走ろう。なんかそんな気分だし、どうせならシャワーを浴びる前にひと汗かいておこう。

門限はぶっちぎってるけど・・・もう完全に目が覚めちゃったし、ゴルシ先輩からその辺のコツが書かれたメモをもらっているから、どうにかなるはずだ。

ひとまず、完全に寝落ちしちゃっているイッカクに毛布をかけてから、ジャージに着替えて窓から脱出した。

先輩方と比べるとパワーに乏しい私でも、寮の壁でフリークライミングくらいはできる。

涼しい夜風を感じながら、闇に包まれた街中を走る。

あの空間とは違う夜の闇も、今の私からすれば心地いい。

このまま進んだら何が起こるのか、私にはわからないけど・・・それでも、立ち止まるのはもっと嫌だ。

だからこそ、その不安をかき消すように、日が昇るまで走り続けた。

 

 

 

 

 

「おや、こんなところで何をしているんだい?」

「へあっ!?」

 

寮に帰って壁を登ろうとしたら、寮長のヒシアマゾン先輩に捕まってめちゃくちゃ叱られた。

ついでに、イッカクからもめちゃくちゃ心配されて私の良心が音を立てて崩れそうになった。

とりあえず、責任は全部あのマッドになすりつけよう。こうなったきっかけは全部あのマッドのせいだ。そうに違いない。




ハヤテはすでにタキオンのことがちょっと嫌いになってるので、意地でも名前ではなく“マッド”と呼び続けることを胸に誓っています。
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