ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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今回はちょっとばかし質が悪いです・・・。
史実からして言えることがほとんどないくらいの王道完勝だったってのもありますが、どうにも文章が思い浮かばなくて・・・。


後輩の初陣/僕の初戦

「うへぇ、さすがに人が多いね~」

「さすが大阪、だね」

 

誘拐事件から少し経って9月半ば、私たちは大阪の阪神レース場に足を運んでいた。

さすがは東京に次ぐ大都市と言うべきか、G1レースが開催されるわけでもないのに人であふれていた。イッカクと手を繋いでないと迷子になっちゃいそう。

 

「ちょっと寄り道しすぎちゃったかな~」

「ハヤテちゃんが、タマモクロス先輩がおすすめしてたってお店を片っ端から食べて回ってたからね」

 

さすがは地元民と言うべきか、タマモ先輩が言ってたお店にハズレはなかった。

それどころか、ほとんどのお店で私がタマモ先輩から紹介してもらったってことで、サービスもめちゃくちゃ付けてもらった。

これが大阪、人情が満ち満ちている。

さて、なんで私らが大阪にいるのかだけど、その理由はいたってシンプルだ。

 

「でも、これならコントレイルのデビュー戦には間に合うかな」

「関係者席だから、早いうちに行った方がいいよ」

 

そう、今日はコントレイルのデビュー戦の日だ。

 

 

* * *

 

 

「さて、今回のレースの最終確認をするぞ」

「はい」

 

・・・いよいよこの時が来た。

今日は、僕のデビュー戦。

今は控室で須川トレーナーと最後の確認をしている。

 

「とはいえ、あれこれ難しい指示は出さない。強いて言うならスタートダッシュとゴール前の急勾配に気を付けるくらいだが、それ以外は基本に忠実にいく」

「囲まれないように中団で足を溜めて、最終直線でスパートをかける、ですよね」

「そうだ。その点では、今回の大外枠スタートは不利ばかりではない」

 

あらかじめ聞いていた作戦を迷いなく復唱すると、須川トレーナーは満足そうに頷いた。

これ以上ないくらいナーバスになってたらしいハヤテ先輩と比べられてるわけじゃないだろうけど、夏休み明けにハヤテ先輩が誘拐された挙句気絶したと聞かされた時は、それはもう動揺しすぎて、その翌日のトレーニングはまったく集中できなかった。だけど、ハヤテ先輩がちゃんと元気に復活してくれたおかげで、どうにか今日までにコンディションを整えることができた。

それに、ハヤテ先輩の元気な姿を確認できたから、というのも勿論あるんだろうけど、菊花賞に向けて何かしらの決意を秘めている姿を目の当たりにして、僕もデビュー戦に集中すべきだと意識を切り替えたことが大きい。

だから、今の僕のコンディションは絶好調だ。

 

「今のところ、クラシック路線ではコントレイルが頭一つ抜けている。順当に実力を発揮できれば、お前の勝ちは揺らがないだろう」

「はい」

 

もはや確信に近い須川トレーナーの檄に、僕も力強く頷く。

これが並のトレーナーの言葉だったら、何を無責任にと一蹴したかもしれない。

だけど、須川トレーナーの下で共に走ってきたのは、現クラシック最強と謳われるあのハヤテ先輩だ。あの規格外と比べれば、デビュー戦くらいなんてことはない。

 

「それじゃあ、いってこい」

「はい、勝ってきます」

 

須川トレーナーに送り出されて、僕はそのまま真っすぐにパドックへと向かっていった。

 

 

* * *

 

 

パドックに向かうコントレイルの背中を見送って、須川は一度控室の扉を閉めて大きく息を吐いた。

 

「ふぅ~・・・あぁいう真面目の相手は久しぶりだな・・・」

 

最近はクラマハヤテの相手で感覚がズレそうになっていたが、だいたいのウマ娘はあのように素直で真面目だ。むしろ癖が強い部類はスピカを始めとしたクラマハヤテの知り合いの中に納まっている。

そのため、必然的に癖が強いウマ娘の相手が多くなってしまい、いざ2人でレース前の確認をやってみると自分で思っていたよりも緊張していたようだった。

コントレイルがいる間は表に出さないようにできたが、こうして1人になるとドッと疲れが出てしまった。

ちなみに、真面目で言えばシンボリルドルフも十分真面目な部類ではあるが、あれはあれで茶目っ気があることを知っているため、須川の中ではそこまで真面目判定は出ていない。

 

「ったく、レースだってのにトレーナーが担当より疲れてどうする。こういう落差には慣れていけよ、俺」

 

クラマハヤテの菊花賞も近い。そんな大事な時に変なところで疲れを溜めるわけにはいかないと、人知れず須川は両頬を叩いて気合を入れなおした。

 

 

* * *

 

 

「えっと、この辺だよね」

「うん、そう。須川さんはまだ来てないみたいだけど・・・」

「悪い、待たせたか」

「あ、須川さん、おつかれー」

 

あらかじめ聞いていた最前列の関係者席で須川さんと合流できたということで、気になることを聞いてみた。

 

「それで、コントレイルの様子はどう?」

「気合万全で絶好調、ってところだ」

「それは良かった」

 

あの誘拐事件で心配させちゃったから心配してたけど、大丈夫ならよかった。

 

「んで、今回のレースはどう見る?」

「順当に行けばコントレイルが勝てるだろう。強いて言うなら大外スタートだが、9人立てなら囲まれにくい恩恵の方が大きい」

「だよねぇ」

 

私もパッと見た感じ、他にこれって娘はいない。コントレイルが頭一つ抜けている印象だ。

でもまぁ、個人的に気になることがあるとすれば、

 

「・・・ファン投票の1番人気、やっぱ血筋なんだろうねぇ」

 

コントレイルは『ディープのウマ娘』って言われることを嫌っている節がある。

レースに直接関係ないことではあるけど、いざ本番ってなるとメディアやファンからはどうしてもそういう印象が強くなっちゃう部分はある。

それを気にしてメンタル的に不調が、ってのはなくもないって思ってたんだけど・・・。

 

「さてな。少なくとも、控室にいた時は気にしている様子はなかったが・・・」

「逆に言えば、ターフに上がっちゃえば分からない、か」

 

ディープの名は、それだけで評価対象になるほどのブランドだ。その分、他からやっかみを受けることも少なくない、とは聞いてる。

私みたいな田舎者も苦労はあるけど、名家は名家なりの苦労があるっていうのも考え物だ。

 

「あっ、コントレイルが出てきた」

 

そんなことを話していると、コントレイルがパドックに上がってパフォーマンスを行っていた。

その姿は堂々としたもので、微塵も緊張を感じさせない。

 

「リラックスしてる、っていうより、緊張よりも昂揚が上回ってる、って感じかな?」

「あぁ。お前が見てるってことで気合が入ってるんだろ」

「そう?まぁ、そうかもか」

 

私も詳しくはよくわかんないけど、コントレイルの中で私の評価は結構高い。会長とかアーモンドアイ先輩辺りとはベクトルが違うけど、大きさで言えばどっこいどっこいじゃないかな。

そこまで私のことを慕ってくれるのは、嬉しいやら恥ずかしいやら。

とりあえず、ゲート前でストレッチしているコントレイルに手を振ってあげよう。

 

「コントレイルー!頑張れー!」

 

あっ、コントレイルが私に気付いて手を振り返してくれた。可愛い。

 

 

* * *

 

 

コントレイルー!頑張れー!

 

ゲートの前で最後のストレッチをしていると、うっすらとだけどハヤテ先輩の応援の声が聞こえた。声が聞こえた方を振り向いてみると、ハヤテ先輩が大きく手を振っているのが見えたから、僕もハヤテ先輩に手を振り返した。

 

「ずいぶんと余裕そうですね」

 

すると、不意に一人のウマ娘から声をかけられた。

レース前ということで何か話があるのかと思ったけど、言葉選びにどことなく棘を感じるのは気のせいかな。

 

「私たちは眼中にないとでも?」

「先輩が応援してくれてるから、応えないとね。それに、油断してるつもりもないから」

「っ、そう・・・」

 

それだけ言って、そのウマ娘はさっさとゲートの中に入っていった。

それに続く形で、僕もゲートに入る。

そして、全員がゲートの中に入り・・・ゲートが開かれた。

僕はスタートダッシュを完璧に決め、中団に控えた。

今回のレースには逃げがいないから、団子状態のまま全体的にスローペースでレースが進んでいく。

全員が僕を気にしているようで仕掛けどころを探る中、ひたすら足を溜める。

仕掛けどころは、すでに僕の中で決まっていた。だから、それまではスローペースの流れに身を任せる。

スローペースのままレースが進んでいき、第4コーナーを抜けて最終直線に差し掛かったところで全員が仕掛けた。

条件は全員ほぼ互角。だけど・・・これならいける。

僕はいち早く先頭に立って、一気にスパートをかけた。

途中までは他ウマ娘も追いすがっていたが、後続はすぐに離され、先頭で走り粘っていたフレーヴォも次第に突き放されていき、最終的に2バ身半の差をつけて完勝した。

 

「・・・よしっ」

 

呼吸を整えながら電光掲示板を見て、改めて自分が1着をとったことを確認して小さく拳を握る。

これで一つ、ハヤテ先輩に追いつくことができた。

 

「コントレイルー、おつかれさまー!」

「ハヤテ先輩!」

 

そこに、すぐそばでハヤテ先輩が手を振っているのが見えて、僕は笑みを浮かべて3人に近づいた。

 

「僕、勝ちました!」

「見てたよー。文句の付け所がなかったよね、須川さん!」

「あぁ、そうだな。これで今後のことについても話し合えるが・・・ひとまず、デビュー戦勝利おめでとう、コントレイル」

 

ハヤテ先輩と須川から真っすぐに祝福を貰って、思わず気恥ずかしくなってはにかみながら視線を下に向けた。

 

 

 

 

「・・・やっぱり、ディープだから・・・」

 

・・・幸か不幸か、その後ろで誰かが何かを呟いた気がするけど、その内容は僕には聞き取れなかった。

それと、さっきまで笑顔で祝福してくれたハヤテ先輩が僅かに目を細めた気がしたけど、今はそのことは気にせずに素直に勝利の余韻に浸った。




前書きにちょろっと書きましたが、今回はなんかめちゃくちゃ難産でした。
下手にレース回を追加したのは失敗だったか・・・でもコントレイルのデビュー戦は書いた方がいいだろうし・・・。
コントレイルは本作のもう1人の主人公的なポジションなので、あまり雑な扱いはしたくないんですよね。
あと、今さらながら三人称視点の文章が苦手なのかもしれない。
というわけで、今回はこのままですが、ハヤテの菊花賞が終わったタイミングでちょっと本作の更新を一時休止して、他のウマ娘作品漁って気分転換しつつコントレイルの部分を一人称に改稿したいと思います。
それで幾分かはマシになる・・・と思いたい。
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