ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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最近、ランキング入りしてた『いつの間にか抱いてた』系の作品をいくつか読みました。
なんというか、作品として読んでる分にはいいですけど、現実に置き換えると怖えーなーとしか・・・。


いやまぁ、別に期待なんてしてなかったけどね?

「はふぅ~・・・」

 

どうも、クラマハヤテです。

現在、さっそく療養休暇を申請して温泉郷近くの旅館に泊まりに来てます。

それも、イッカクと二人きりで。

・・・結論から言うと、別に何もなかった。

よくよく考えてみれば、合宿の時だって須川さんが引率に来てたけど、部屋割りは須川さんだけ別部屋の状態だったから、あの時と大して変わんねぇわ。

こうしていろんな温泉に浸かって、めちゃくちゃ食べて、ゆっくり寝る。

ここ数日はずっとそんな感じだ。

まぁ、そもそも私の怪我を治すために来てるわけなんだから、イッカクから変なことをされる可能性なんて万に一つもなかったし、私の方から何かをしようなんて気も起きるはずがなかったんだよなぁ。

ちなみに今は、温泉に浸かっている私の足をイッカクがマッサージしてくれている、合宿の時と同じパターンだ。

 

「ハヤテちゃん、どう?」

「いい気持ちぃ~」

「よかった」

 

日に日にイッカクのマッサージ技術が向上していってるのを感じる。

しかも、私の屈腱炎発症を受けて、須川さんはレーザー治療の医療器具を購入した。

さすがに今年中は無理だろうけど、それでも私の復帰は大幅に早くなるだろうし、万一コントレイルに何かあってもある程度は対応できるようになる。

でもあれ、医療器具ってこともあってけっこう高かった気がするけど、それでも購入を決断したのはさすがとしか言いようがない。

 

「それにしても・・・」

「どうかしたの?」

「いや、なんと言うか、これはこれで落ち着かないなー、って」

 

いつも何かしらをしていた(主にランニングとトレーニング、ちょくちょく食べ歩き)からか、こうして何もせずに大人しくしているというのがどうにも慣れない。

あるいは、復帰できたとして、以前と同じように走れるか分からないっていう不安があるのかもしれない。

もしかしたら、私の中の子たちに対して我慢させてしまっているのを申し訳なく思っている可能性もある。

自分でも何が正しいのかは分からないけど、それでも分かっているのは、こんな状態になってしまった自分を不甲斐なく思っている、ってことくらいか。

 

「まぁ、どうしようもないってのは頭では分かってるんだけどね。でも、やっぱり落ち着かないなぁ」

「大丈夫。ハヤテちゃんならきっと、また走れるようになるよ」

「そうかなぁ」

「だってハヤテちゃんは走るのがとても好きだし、私もハヤテちゃんが走っているところを見るのが好きなの。だから、ハヤテちゃんこれくらい乗り越えてくれるって、信じてるよ」

「そっかぁ」

 

重てぇなぁ。

なんだこの激重感情は。私はどう反応するのが正解なんだ。

でもまぁ、これもまた信頼の形ってことで納得することにしよう。

 

 

 

温泉から上がったら、今度は泊っている旅館に戻ってご飯を食べる。

私たちが止まっている旅館は、この辺では3本の指に入るところの高級旅館で、食事を含めたサービスも他と比べてかなり充実している。

その分、去年の私だったら卒倒してそうな金額が飛んでるけど、皐月賞と菊花賞の賞金とグッズのロイヤリティのおかげで割と金銭的な余裕はある。

とりあえず、あと一週間くらいは滞在する予定で、その後は学園に戻って付近の医療施設に通いながら定期的に湯治にも行くって感じ。

その辺のことは分かんないから全部須川さんに任せるつもりだけど、この調子なら早ければ年末年始辺りにはサポーターは取れるらしい。

私の身体はそこまで丈夫ではないけど、その分回復能力はそれなりにある部類なようで、こうして食っちゃ寝して回復に専念すれば大抵の怪我は治る。それでも致命的なレベルの怪我まで治る保証はないから、今後のことについてちゃんと考えておかないと。

さて、こうして今の私の日課が終わったら、最後にやることがある。

 

「もしもし、コントレイル」

『こんばんは、ハヤテ先輩』

「それで、今日はどんなことをしたのかな」

『えっとですね・・・』

 

それは、コントレイルとの電話だ。

こうして私が湯治に専念している間、当然だけど私とコントレイルは会うことが出来ない。

コントレイルはトレーニングでこっちに来づらいのは当然のこと、私の方も日帰りできる距離じゃないから『ちょっと顔を見に行こうか』くらいのノリでトレセンに戻ることは出来ない。

とはいえ、それでもトレーニングに励んでいるコントレイルのことが気になるのが先輩心というもの。そういうわけで、こうして夜寝る前にコントレイルと電話をしてお互いに今日は何をしたのか報告し合うことにした。

私の方は入った温泉や旅館のご飯のことを、コントレイルからはトレーニングの内容やクラスメイトとの交流のことを話し合う。

ちなみに、ちょいちょい同室のデアリングタクトも会話に参加する。

 

「・・・そっか。コントレイルも頑張っているんだね」

『はい。ハヤテ先輩の評判に泥を塗るわけにはいきませんから』

「私は私、コントレイルはコントレイルだよ。でも、その心意気は褒めてあげる」

『ありがとうございます』

 

はぁ~。私の後輩、素直で可愛すぎないか?

そして、他愛ない会話を続けること数十分。

 

「それじゃあ、おやすみ、コントレイル」

『おやすみなさい、ハヤテ先輩』

 

そう言って私たちは電話を切って、眠りにつく。

これが旅館に泊まり始めてからの私の一日だ。

いやこれもう、至福すぎない?

 

 

* * *

 

 

まぁ、こんな感じで一日が流れていく。

贅沢を極めたかのような生活だけど、あくまでこれは療養のためだし、早く回復して走れるようにするための休暇だ。その線引きはしっかりしないと・・・

 

「やぁ、こうして話すのは久しぶりかな」

「・・・どうも、お久しぶりです」

 

いや、なんで来てんの会長。ってかどこから情報をもらった?しれっと温泉に入って待っていたのに軽く恐怖を感じたんだけど。

 

「あの~、なんでここに来たんですか?」

「当然、君と話したかったからだ、クラマハヤテ」

「あ~、菊花賞のことですか」

「それもある。だが、それ以上に言っておきたいことがあってね」

「と、言うと?」

()()()()()()()()()、クラマハヤテ」

「・・・あぁ、なるほど」

 

イッカクは何のことか分からずに首を傾げていたけど、私には会長の言いたいことが伝わった。

つまりは、見事領域(ゾーン)をものにすることができた私を祝福しに来たというわけだ。

 

「あの時の模擬レースが少しでも役に立ったのであれば、私としても申し出た甲斐があったというものだ」

「そうですね。参考になった・・・かはともかく、そういうのがあるって知ることができたのは、とても大きかったです」

「それは何よりだ。私も現地で君のレースを観ていたが、見事だったよ。やはり君を中央に招いたのは間違いではなかったようだ」

「それはどうも」

 

会長からこうも手放しで誉められるのは割と珍しい。

普段から人を誉めないとかそういうわけではないけど、それはあくまで生徒会長としての立場とかそういう話であって、基本的に贔屓目は使わない人だ。

そんでもって天下の"皇帝"様でもあるから、ウマ娘として認める基準はべらぼうに高い。

だからこそ、こうした称賛はあまり見る機会はないんだけど、今回の私の走りはそれだけ会長のお眼鏡にかなったらしい。

 

「それで、今日はどうするんですか?って言っても、観光できるほどの時間は残ってないですけど」

「私は明日には帰らなければならないが、それまでなら一緒にいられる。せっかくだ、いろいろと話をさせてもらってもいいかな?」

「どうぞ」

 

会長から頼まれたら、断るわけにはいかないよねぇ。

それに私としても会長とはいろいろと話をしてみたかったし、いい機会だ。

 

 

 

会長との会話は有意義なものに終わった。

自分で言うのもなんだけど、あの菊花賞で私はアーモンドアイ先輩と並ぶ最強の一角として世間から注目されている。その心構えなんかの話は、特に参考になった。

なんか途中でダジャレを挟んでた気がするけど、あんまり記憶に残ってないし、あの会長がダジャレなんて、ねぇ?さすがにないでしょ。

 

『・・・そんなことがあったんですね』

「いやぁ、さすがに驚いたよ」

 

そんな話を、今夜もコントレイルに電話で話した。

ただ、思っていたよりコントレイルの反応が薄いような。

 

『実は、会長がハヤテ先輩のところに行ったっていうのは、グランアレグリア先輩から聞いていたんです。今日の話ですけど』

「そうなんだ・・・あーでも、私目的だったみたいだし、報告くらいはするのかな。わざわざ寮が違うのに教えてくれたんだ」

『はい。昼食の時に偶然会って』

「なるほどねぇ」

 

そういえば、最近はコントレイルばっかに構ってたから、グランとはあまり話す機会がなかったな。一応、L〇NEでやり取りはしてるけどね。

せっかくだし、どっかのタイミングで電話でもかけてみようか。

そんなことを考えていると、コントレイルが遠慮がちになりながら尋ねてきた。

 

『それで、その・・・会長と話したことって、それだけなんですか?』

「ん?まぁ、だいたいはそうだけど」

『そうですか・・・』

「なに?なんか気になることでもあった?」

『そういうわけじゃ・・・いえ、ないわけじゃないんですけど、聞いてないならそれでいいというか・・・』

 

今までにないレベルで歯切れが悪い。

なんというか、いけないことをして必死に隠そうとしている子供っぽく感じないこともない。

とはいえ、コントレイルは真面目ちゃんだから、何かやらかすってことは考えづらいけど・・・

 

「ん~、そっちで何かあった?私絡みのことで」

『えっと・・・』

 

私の問い掛けに、コントレイルはあからさまに動揺していた。これは黒かな。

隠し事ができないコントレイルもそれはそれで可愛いと思う私は大概先輩バカなのかもしれないけど、それはそれとして聞いといておこうか。

 

「そこまで露骨に反応されちゃうと、逆に気になっちゃうな。そんなに悪いことなの?」

『いえ、先輩にとって直接悪いことじゃなくて、僕たちにも実害はないんですけど・・・』

()()?」

 

コントレイルの言い方的に複数人に被害が出てるっぽいけど、学園に残っている関係者なんて他には須川さんくらいしか・・・

 

 

 

『その、学園内で・・・須川トレーナーが、「担当に怪我をさせてでも勝たせようとしている悪質トレーナー」って噂が流れているらしくて・・・』

「・・・ん~?」

 

なんですと?

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