ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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なんかリコリコ二次の方が思うように書けなかったんで、しばらくはこっちと転天二次に集中するつもりです。
新作アニメのpvでも出てきたら復活するかなぁ。


僕の先輩は怒らせたらダメなタイプでした

ハヤテ先輩が屈腱炎の療養のために休暇をもらって湯治に行ってから、もうすぐ1週間が経つ。

最初はいろいろと心配や不安も多かったけど、毎晩ハヤテ先輩が電話で話してくれるおかげで少なくとも寂しさを感じたことはなかった。

・・・それと、なんていうか、イッカク先輩がハヤテ先輩にあれだけぞっこんな理由が分かったような気もする。

あんなに強いのに、無邪気っていうか、距離感が近いっていうか、天真爛漫な姿とのギャップが癖になりそうになる。人によっては勘違いしちゃっても不思議じゃないかもしれない。イッカク先輩がそうなのかは考えないとして。

あとは、須川トレーナーも本当にいい人だ。個人でも使えるレーザー治療機器を購入してハヤテ先輩が戻って来たときに備えながら、僕のトレーニングに関しても一切手を抜かないで見てくれている。

きっかけはハヤテ先輩だけだったけど、結果的にこの人と契約したのは正解だった。

今朝も朝練の面倒を見てもらって、シャワーを浴びて制服に着替えてからタクトと一緒に登校する。

ただ、今日はなんだかいつもと違うような感じがした。

なんていうか、周りから遠巻きに避けられている上に、ヒソヒソと何かを話している。

 

『ほら、あの子がそうじゃない?』

『ほんと?大丈夫なのかな・・・』

 

あの子って、僕のことかな?それと、大丈夫ってなんの話?

微妙に居心地の悪さを感じていると、同じことを感じているのかタクトが小声で話しかけてきた。

 

「ねぇ、コンちゃんって何かやらかしたりした?」

「心当たりはないけど・・・」

「じゃあ、何かやらされたり?」

「それもないかな・・・」

「だよね・・・もしかして、私?」

「そ、っれもないんじゃないかな」

 

一瞬言葉が詰まりそうになったのは、タクトが所属してるチーム・スピカなら何かあってもおかしくはなかったからだけど、タクトからはそういう話は聞いてないからギリギリで違うと思い直すことができた。

それにしても、いったい何なんだろう。

校舎に入ってからも視線は途切れないし、教室に入ったらクラスメイトが一斉に僕の方を見てきて少し居心地が悪い。

 

「・・・ねぇ、本当に何か心当たりとかないの?」

「そんなこと言われてもなぁ・・・」

 

ないものはないんだから仕方ない。一応、教室に向かう最中にも考えてみたけど、思い当たる節は何もない。

強いて言うならハヤテ先輩関連だけど、療養休暇でトレセンを出てからもうすぐ1週間になるんだから今さらだ。

本当に何なんだろう・・・。

 

「あの、コントレイルさん、ちょっといいかな」

 

なんでもいいから心当たりがないか考えていると、クラスメイトの1人が僕に話しかけてきた。

向こうの方から話しかけてきてくれるのはありがたいから、僕も呼びかけに応えた。

 

「うん、なに?」

「えっと、コントレイルさんの最近のトレーニングって、どんな感じなんですか?」

「トレーニング?」

 

トレーニングって・・・トレーニング?いつも午後とかにトレーナーとやる?

 

「別に普通だけど。なんで?」

「あー、いえ、それならいいんです!それじゃあ・・・」

 

それだけ言って、そそくさと離れて行ってしまった。

いや、本当に何なんだろう?

僕の方から尋ねようとするけど、曖昧な笑みを浮かべて距離を離されるだけ。だけど、僕が嫌われるような何かをしたって言うよりは、純粋に僕のことが心配で、でも遠巻きでしか見ていられない、っていうような雰囲気を感じる。

できれば理由を聞きたいけど、クラスメイトに聞くのは難しそうだ。

となると、他に誰か事情を知ってそうな人は・・・

 

 

 

「それだけど、今日は会長は休みで学園にはいないみたいだよ」

「そうなんですか・・・」

 

ハヤテ先輩とのつながりで面識があったシンボリルドルフ生徒会長に何か知らないか尋ねてみようかと思ったら、グランアレグリア先輩から今日は会長はいないことを説明された。

 

「ちなみに、どこにいるんですか?」

「ん~、私は聞いてないからわからないけど、もしかしたらハヤテちゃんのところに行ってるのかも」

「ハヤテ先輩のところですか?」

「たぶんね」

 

・・・わざわざ休みをもらってまで様子を見に行くくらい特別視しているのかな?あの会長にもそんな一面があったなんて。そういえば、前にハヤテ先輩をあのオグリキャップ先輩と重ねているって話を聞いたことがあったような気がする。

 

「ちなみに、理由を聞いてもいいですか?」

「・・・実はさっき、噂の内容を聞いちゃって、それでかなーって」

「・・・どんな内容なんですか?」

 

僕がそう尋ねるとグランアレグリア先輩の表情が明らかに曇った。もしかして、ハヤテ先輩について何か悪いことなのか。

そう思ったら、噂の内容は予想もしなかったものだった。

 

「えっとね、須川トレーナーが怪我を顧みないようなトレーニングを担当に強制している、怪我をさせてでもレースに勝たせようとしてるって感じ、かな」

「・・・は?」

 

グランアレグリア先輩の言ったことが、一瞬理解できなかった。

須川トレーナーが?そんな根も葉もない噂が流れるなんて・・・。

 

「・・・どうしてそんな噂が流れているんですか?」

「そこまでは私にもわからないかな。でも、会長と東条トレーナーは何か知ってそうな感じだったかな」

「まさか、ハヤテ先輩のところに行ったのも・・・」

「いや、会長からはそのことを話さないと思うよ。たぶん、ハヤテちゃんのところにまで噂が届いていないか、念のために確認しに行ったんだと思う」

 

それもそうだ。ハヤテ先輩は今は療養中だ。余計な心労をかけさせるようなことをするはずがない。

ハヤテ先輩がいる温泉地はトレセンからかなり離れているけど、万が一ってこともある。もしハヤテ先輩が噂を知っているんだったら、そのケアもするつもりなんだろう。

 

「噂の方は生徒会の方でも対処するって聞いたから、少しの間我慢すれば治まるんじゃないかな?」

「はい、そうですね」

 

幸い、視線が少し鬱陶しいのと須川トレーナーを悪く言う内容に腹が立っている以外には、目立った害はない。

出来れば須川トレーナーとも話したいんだけど、どれだけ話してくれるかわからないしな・・・。

ひとまずはハヤテ先輩に余計な心配をかけさせないように注意しよう。今重要なのは、ハヤテ先輩に余計な心配をかけさせないことだから。

 

 

 

 

って、思ってたんだけど・・・

 

(どうして言っちゃったんだ僕は~ッ!)

 

向かい側のベッドの上に座っているタクトから呆れたような眼差しを向けられているのが、またこの上なく辛い。

そりゃあ、僕はどちらかと言えば隠し事は苦手な方だけど、よりによってこのことをその日の内にハヤテ先輩に暴露しちゃうなんて・・・!

 

『へ~、ふ~ん、ほ~ん、そっかそっか・・・』

 

対するハヤテ先輩は、思っていたよりも冷静だった。

よかった、落ち込むとか、そういうのはなさそう・・・

 

『よし、しばきに戻るね』

「ちょ、ちょっと落ち着いてください!!」

 

全然冷静じゃなかった。嵐の前の静けさってやつだった。

 

『大丈夫大丈夫、私は落ち着いてるから』

「いや、そのっ、僕のクラスメイトも悪気があったわけじゃなくて!他の人たちも、あくまで心配してたというか・・・」

『安心して、私がしばき倒すのは噂を流した奴だけだから』

「それは無茶ですって!第一、誰が噂を流したかなんてわからないのに・・・」

『・・・あー、そっか。コントレイルはその辺の話はまだ知らなかったのか』

「え・・・?」

 

僕の知らない話?もしかして、須川トレーナーのこと?

 

「・・・ハヤテ先輩には、心当たりがあるんですか?」

『まぁね。でも、そりゃそっか。そんなホイホイと話すことでもなかったか』

「それって、僕が聞いても大丈夫なんですか?」

『私は別にいいけど、須川さんはどうだろ。まぁ、恥と言うか、黒歴史ってやつだし』

「それでも僕は、須川さんから離れたりはしません」

『ならいいや』

「いいんですか・・・」

 

思ったよりもあっさりハヤテ先輩から話を聞くことになった。

だけど、その内容は須川トレーナーが話したがらない理由が十二分にわかるものだった。

かつての天才時代に、サブトレーナーの立場からチームの乗っ取り、選手生命が断たれるほどの怪我、そして、前トレーナーの嫉妬による噂の流布と失墜。

そんなことがあったなんて、まったく知らなかった。

 

「そんなことがあったんですか・・・」

『らしいね。まぁ、私はまったく気にしてないし、過去の失敗だって担当が増えて面倒見切れなくなったのが原因なんだから、今の少人数体制なら問題ないと思うよ』

「それは、そうですね。それじゃあ、噂を流したのは・・・」

『例のトレーナーさんだろうね。私の怪我を出汁にしたみたいだけど、まーだ須川さんのことが気に入らないのか。一応、ベテランって聞いてるんだけどねぇ。いい大人がみっともない』

「あ~・・・」

 

あまり他のトレーナーの悪口を言うのは憚られるけど、言ってることはあながち間違ってないから否定の言葉も出しづらい。

それに、僕とハヤテ先輩に被害がなくても、須川トレーナーは別だ。僕だって自分のトレーナーのことを好き勝手に悪く言われるのはいい気分じゃない。

 

『にしても、なるほどね・・・うん、わかった。会長は明日までいるらしいし、ちょっとこっちで相談しとく』

「いいんですか?」

『聞いちゃったものは仕方ないからね。上手くいくかはわからないけど、対策もないわけじゃないから』

「本当ですか!?」

『うん。それじゃ、また明日ね。おやすみ、コントレイル』

 

そう言って、ハヤテ先輩は電話を切った。

それにしても、いったいどんな方法を思いついたんだろう・・・。

 

「コンちゃん、大丈夫?」

「たぶん・・・?」

 

タクトの問い掛けには曖昧に頷くしかできないけど、今はハヤテ先輩を信じるようにしよう。

 

 

* * *

 

 

「やっほー、ただいまー」

「ハヤテ先輩、お久しぶりです」

 

あれから1週間、ハヤテ先輩が療養から帰ってきた。まだサポーターは付けたままだけど、今後のリハビリの結果次第で外れるらしい。

症状が軽い方だったとはいえ、この回復力はさすがハヤテ先輩だ。

 

「あーそうそう。それで、そっちの様子はどうなった?」

「えっと、大丈夫です。普段通りに戻りました」

 

変化があったのは、ハヤテ先輩にうっかり噂のことを話しちゃってから3日後くらいだった。

遠巻きからヒソヒソと話声が聞こえるようなことはなくなって、あの時親切心から僕にトレーニングのことを聞いてきた娘から「あの時は勘違いしてごめんなさい。これからも頑張ってください!」なんて言われたりもした。

それからはあっという間に噂が流れる前と変わらない生活に戻って、僕としてはハヤテ先輩が帰ってくるまで気は抜けないって思っていたんだけど、結局拍子抜けに終わってしまった。

ただ、強いて言うなら・・・

 

「ほらほら、須川さん。せっかく私が戻って来たんだから、もうちょっと素直に歓迎してくれてもいいんじゃない?」

「よくもまぁ、いけしゃあしゃあと・・・」

 

ハヤテ先輩が戻ってから、須川トレーナーの機嫌が見るからに悪い。

ハヤテ先輩が帰ってくるまではあまり表に出していなかったけど、それでも何回か複雑な表情を浮かべることがあった。

いったい、何があったんだろう。

 

「にしても、本当にコントレイルは何も聞いてないんだ」

「はい。須川トレーナーや会長は何も言わなかったですし、クラスメイトからも噂の内容は聞いてないので」

「デアリングタクトとかグランあたりからは?」

「タクトも僕と一緒にいることが多くて噂についてあまり聞けなかったみたいですし、グランアレグリア先輩も最近は会う機会がなかったので・・・」

「あー、そういえばグランにも手伝ってもらったんだっけ。ならしょうがなかったか」

 

グランアレグリア先輩にも手伝ってもらったって、いったいどういうことなんだろう?

 

「結局、ハヤテ先輩は何をしたんですか?」

「した、って言うか、してもらった、かな。コントレイルは、一番有効的な噂の対処法はなんだと思う?」

「対処法、ですか?」

 

そんなことを言われても、僕は最初から最後までずっと噂の内容に関わることがなかったから、見当もつかないんだけど・・・。

悩んでいると、ハヤテ先輩が先に答えを出した。

 

「正解は、より影響力のある噂で上書きすること」

 

ハヤテ先輩が言うには、それが一番効果的な方法らしい。

たしかに、メディアもどんどん新しい情報を取り入れることに力をいれることは多いけど、過去の話題の進展なんかは軽く済ませるか、そもそも見向きもしない場合もある。

それだけヒトにしろウマ娘にしろ、新しい情報に目がいきやすい。

だとすると、

 

「それじゃあ、ハヤテ先輩はどんな噂を流したんですか?」

「須川さんのことをちょい美化した話を、会長に流してもらった」

「なるほど・・・」

 

だから、須川トレーナーが不機嫌だったんだ。

たしかに、須川トレーナーの過去の過ちは決して無視できないものだけど、それを償うために活動を再開して地方に眠っていた才能を見つけだして育て上げたという話は、いかにも劇的な話だ。

それが会長の口から語られたとなれば、特にウマ娘に対しては効果覿面だろう。

・・・まぁ、須川トレーナーからしたら、すごい複雑なんだろうけど。

それに、噂っていうのは、どこかのタイミングで情報が捻れがちだ。僕は知らないけど、今はどんな噂が流れているのか・・・。

でも、ふと気になることを思い出した。

 

「そうなると、例のベテランのトレーナーさんってどうなったんですか?」

「地方に移籍することになった」

 

僕の疑問に答えたのは須川トレーナーだった。

苦い表情を浮かべたまま、事情を説明し始めた。

 

「言っちゃあアレだが、会長殿は言わずもがな、ハヤテも現役の中ではアーモンドアイに引けをとらないくらいの人気と影響力がある。それこそ、場合によっては自身のトレーナーを上回るほどにな。その二人がポジティブイメージの噂を流したんだ。ネガティブなことを吹聴したあいつは担当からも疑念を抱かれるだろう。『今になっても過去の嫉妬を引きずっている』なんて思われたら、それこそあいつから離れるウマ娘もいたかもしれない」

「そうですか・・・」

 

そういう風に言われると少し申し訳なく思うけど、先に手を出してきたのは向こうの方だ。こればっかりは割りきるしかないのかもしれない。

 

「それじゃあ、私がいなかった間、コントレイルがどれだけ成長したのか、私に見せてよ。もうすぐレースでしょ?」

「・・・はい、わかりました!」

 

それにやっぱり、僕にとってはハヤテ先輩の方が大事だから。

ハヤテ先輩が走れない間は、僕ががんばらないと。

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