そりゃまぁメインストーリーでモンジューが正式にウマ娘化したりロンシャン競馬場が再現されてたりしてましたけど、いよいよシナリオにってなると鳥肌がやばい。
とりあえず、どうせだからオルフェーヴルの実装はよ。
コントレイルの勝負服が届いてから少し経ち、今日はホープフルステークスに出走する上位人気ウマ娘の記者会見が行われる日だ。
ちなみに、先日開催された有馬記念ではアーモンドアイ先輩が9着に敗れ、リスグラシュー先輩が優勝した。残念と言えば残念だけど、距離適性とか途中から降りだした雨とかが重なってアーモンドアイ先輩にとっては逆風だったから仕方ないとも言える。
それよりも、今はコントレイルのインタビューだ。
今回のホープフルステークスでは、コントレイルが堂々の一番人気となった。ディープ家のウマ娘ということもあって、注目度は高いはず。
「大丈夫?緊張とかしてない?」
「はい、問題ないです」
本当は私は来なくてもよかったんだけど、どうせトレーニングはできなくて暇だし心配だったから同行することにした。
現在は記者会見が行われるホテルの控室で私が一方的にコントレイルに構っている状態だ。
「本当?無理とかしてない?」
「本当に大丈夫です」
「少し落ち着け、ハヤテ。お前が緊張してどうする」
「いや、別にそういうわけじゃないけど、私が初めての時はガチガチに緊張してたから、ちょっと心配になって」
「だとしたら、その心配は無用だ」
須川さんが呆れながら私の首根っこを掴んでコントレイルから引きはがした。
「どゆこと?やっぱディープ家関連で?」
「それもある。が、どちらかと言えばハヤテの方だ。お前、ここ最近は雑誌やテレビ番組のインタビューに出ずっぱりだっただろ」
「そういえばそうだったね」
別に例の噂が関係してたわけじゃないだろうけど、ちょうどあの噂が収束したタイミングでそういう依頼が私のところに舞い込んできた。
内容は、だいたい菊花賞のことと脚の怪我のこと。その流れで、コントレイルにも質問とかして・・・
「あー、なるほど。私のインタビューの流れで慣れたりした?」
「はい。なので、心配しなくても大丈夫です」
そういうことなら、たしかに心配はいらないか。
よくよく考えれば、その時のインタビューでも割と堂々としてた気がするし、本当に無用な心配だったか。
「そういえば、この中に知り合いっている?」
「一応、クラスメイトもいますけど、あまり話したことはないですね」
「そっか」
それはそれでいいのか悪いのか・・・まぁ、気にしたところでしょうがないか。
「コントレイルさん。時間になりましたので、移動の方をよろしくお願いします」
そんなことを話していると、とうとう係の人が来てコントレイルを呼び出した。
「それじゃ、頑張ってね。私は須川さんと一緒にいるから」
「はい。いってきます」
そう言って、コントレイルは係の人を後ろをついていって会場へと向かっていった。
* * *
「こちらが会場になります。時間まで今しばらくかかりますので、もう少しお待ちください」
「わかりました・・・ふぅ」
スタッフさんに会釈してから、僕は思わず息を吐いた。
ハヤテ先輩にはあまり心配をかけさせたくなかったからあんな風に言ったけど、それでもジュニア級とはいえ初めてのG1レースの舞台だから、本当はちょっとどころじゃないくらい緊張してる。
それにしても、ハヤテ先輩が緊張していたっていうのは、少し意外だった。普段から割と好き勝手というか、あまり周りの環境を気にしない部分があったし、皐月賞の時の記者会見も堂々としていた上にあんな挑発までしてたから、緊張とはあまり縁のない人だと思ってた。
でも、ハヤテ先輩だってジュニア級の時期があって、しかも地方から中央に移籍してきたんだから、その時の不安は僕とは比較にならないんだろうなって今なら思える。
・・・最初は自分の目標のためにハヤテ先輩と同じトレーナーに教えてもらおうって思っただけだったけど、今ではその認識が根底から変わってきている。
僕はずっとあの人・・・ディーさん、ディープインパクトさんに憧れていた。
誰よりも強くて、誰よりも自由で、誰よりも走ることが好きだったあの人に。
ディープの家に生まれたウマ娘はもちろん、中央でも地方でもあの人の走りに魅せられてレースで活躍することを夢見たウマ娘は多い。もちろん、僕もその一人だった。
それが強くなったのは、トレセン学園に入学する数年前。
『こんにちは。えっと、コントレイルちゃん、だったよね?』
僕がディープ家の本邸の庭で走って遊んでいた時、たまたまディーさんが声をかけてくれた。
ディーさんはトレセン学園のウマ娘で、もちろん学園にも通っているんだけど、史上2人目の無敗の三冠ウマ娘になってからディーさんを中心にした新しい派閥が作られることになって、その関係で本来なら学生の領分を越えたこともしなければいけないことがあった。
その日も何か用事があって、その間の休憩時間で気分転換に走ろうと庭に向かったら、偶然先に走っていた僕を見たのがきっかけだったらしい。
それ以来、僕はディーさんから気に入られて、時折ディーさんの用事に僕も連れていかれるようになった。
理由が気になって聞いてみたら、
『うーん、何て言うんだろ。コンちゃんには何か運命的なものを感じたんだよね』
って話してくれた。当時の僕は曖昧すぎて分からなかったけど、それでもディーさんが言ったことだしそういうのもあるんだってことで納得した。ちなみに、“コンちゃん”呼びは会ってから1週間も経たないうちに定着した。
そんなこともあって、あの“英雄”と呼ばれたディーさんが、僕にとって一番身近なウマ娘になった。
そして、ディーさんと一緒に過ごしているうちに、ディーさんに対する憧れがどんどん強くなっていって、いつしかディーさんみたいになりたいと思うようになっていった。
いつかディーさんみたいに、僕も“無敗のクラシック三冠ウマ娘”になりたいって。
それをディーさんに言ったら、笑顔で頭を撫でてくれた。
『うん。コンちゃんなら、きっとなれるよ』
それから僕は、“無敗のクラシック三冠ウマ娘”を目標にして自主トレーニングをするようになった。
ただ、ディーさんからは期待されていたけど、他の本家の人は逆に僕のことをあまり評価してくれなくて、教官による指導も後回しにされることが多かった。
それでも、僕のことを信じてくれたディーさんのために必死に頑張った。
まぁ、頑張り過ぎて怪我もしちゃったけど。
ハヤテ先輩のことを知ったのは、ちょうど怪我の療養をしているときのことだった。
きっかけはレースじゃなくて、聖蹄祭の大食い大会。あのオグリキャップ先輩と並んで話題になっていて、それからハヤテ先輩のことを調べ始めた。
地方から中央に移籍していたウマ娘で、あのシンボリルドルフ会長からも期待されているってことでメディアが盛り上がっていたってこの時になって知ったけど、正直に言って最初は半信半疑だった。
地方で名を上げたウマ娘が中央に挑んでくるのはそこまで珍しい話じゃないけど、そのほとんどが地方へと戻っていくのも珍しくない話だ。
地方から中央に移籍してからの初戦で勝てる確率は約10%。重賞ともなると確率はもっと下がる。
すぐに出戻るとまで思っていたわけじゃないけど、それでも長続きしないんだろうなって、心のどこかで思っていた。
だけど、デビュー戦の走りを見て、その考えはすぐに吹き飛んだ。
“逃げて追い込む”ような、規格外の大逃げロングスパートにも驚いたけど、その時の走っている姿が僕の目から見ても楽しそうで、その様子がどこかディーさんと重なった。
そのことに気付いてからは、一気にハヤテ先輩のことが気になって、ハヤテ先輩が出るレースは出来る限り現地で観戦した。
そして、あの致命的な出遅れから逆転勝ちした皐月賞を観て、この先輩となら僕の目標でもあるディーさんに近づけると確信した。
だから、あの場でリギルのスカウトを断ってでも須川トレーナーに逆スカウトみたいな形で指導を頼んだ。
正直に言えば、あのリギルで指導を受けるのもかなり惹かれたけど、それでも初志貫徹したかったからハヤテ先輩と須川トレーナーを選んだ。
地方から現れた奔放なウマ娘と、その才能を見出したトレーナーを。
でも、すぐそばで見たハヤテ先輩からは、レースとはまた違った印象を受けた。
自由なようで繊細で、いろんな先輩から好かれていて、トレーニングも真面目にこなしている。
あと・・・ものすごい食べる。たしかに体作りには相応の食事が必要だけど、それにしても量が多い。多すぎる。
それで体重が増えることがあっても見た目にほとんど変化がないんだから、こればかりは本当にどうにかしてると思う。
まぁ、そういうところも含めて、今の僕はハヤテ先輩に強く惹かれているんだってことを実感している。
だからこそ、ハヤテ先輩がダービーで負けた時は自分のことのようにショックだったし、精神的に不調になっていたときはすごい心配だった。
きっと、ハヤテ先輩は僕にとって・・・
「お待たせしました。記者会見の準備が整いましたので、順番に入場をお願いします」
そんなことを考えていると、係の人が会見の準備が終わったことを伝えに来て、人気が低い順に会場へと入っていった。1番人気の僕は最後だ。
『それでは最後に、1番人気のコントレイル選手、お願いします!』
司会の紹介が聞こえたところで、僕も記者会見の会場に入った。
その途端、ドアの前で見ていた時よりも圧倒的に多くなったフラッシュに晒されて、思わず目を閉じそうになった。
目だけ動かして辺りを見渡すと、関係者席のところでハヤテ先輩が座っているのが見えた。須川トレーナーがその後ろで立っているあたり、ハヤテ先輩の怪我を考慮して用意してもらったのかもしれない。
それからは、それぞれがホープフルステークスについての意気込みを語っていく。
内容はありきたりなものが多かったけど、2番人気から5番人気の4人ともが、終始僕のことを意識しているみたいだった。
『それでは最後に、コントレイル選手お願いします』
そして、最後に僕の番がやってくる。
マイクを受け取った僕は、チラリとハヤテ先輩の方を見てから口を開いた。
「僕はディープインパクトさんに、そしてクラマハヤテ先輩に憧れて、ここまで来ました。なので、僕の憧れの2人に恥じない走りをしてみせます」
そう言うと、ハヤテ先輩が遠目でもわかるくらい目を見開いて驚いているのが見えて、思わず笑みがこぼれた。
見ていてください、ハヤテ先輩。
ディーさんが成し遂げて、ハヤテ先輩があと少しのところで叶えられなかった“無敗のクラシック三冠”、僕がとってみせますから。