ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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これだからマッドは

「やぁ久しぶりだねぇクラマハヤテ君!さぁさっそくあの時の話の続きを・・・」

「タキオンさん、ダメです。まだ我慢してください」

「そんなっ、また詳しい話をしてくれると約束したじゃないか!」

 

阪神大賞典に備えたトレーニングをしていたら、なんの前触れもなくマッドが突撃してきた。

いや、ね?たしかに菊花賞が終わったら私の詳しい話をするって感じの約束は・・・いやしてないわ。このマッドの妄想だったわ。ていうか、それを差し引いてもまさかトレーニングの最中にやってくるとは思わないじゃん。

あまりに突然の出来事にコントレイルとイッカクも完全に困惑しちゃってるし、須川さんに至っては頭を抱えて盛大にため息を吐いていた。

ちなみに、私個人としては驚いているというよりも「とうとうやりやがったな、このマッド」くらいにしか思っていない。いやまぁ、当然驚いているって言えば驚いているけど。

 

「あぁ、後生だから離してくれカフェ君!これでも相当我慢を重ねたというのに、まだ私に我慢を強いると言うのかい!?」

「ハヤテさんは休養明けで初めてのレースに向けて調整しているんですから、その邪魔をするのはダメです。すみません、ハヤテさんとトレーナーさん。この危険人物は私が責任を持って管理するので、最低でも春天までトレーニングに乱入させないようにします」

「あ~、おう、助かる。俺からも、あのバカトレーナーに言っておこう。どれだけ抑止力になるかは分からんが・・・」

「どうやら、トレーナーさんにいつもの実験と称してコーヒーに睡眠薬を混ぜたらしくて、その隙を突いたみたいです」

「いろいろと終わってんな・・・」

 

しれっと一服盛られているとか、トレーナーじゃなくてモルモットでは?

さすがは発光していないときの方が少ないと言われるマッドのトレーナー、心構えが普通のトレーナーとは一味も二味も違う。いや、単にマッドが頭のネジをいくらかぶっ飛ばしただけかもしれないけど。

 

「いや、あの睡眠薬はストレスで眠れないウマ娘のために開発したものであって、決してモルモット君を眠らせるために作ったわけでは・・・」

「それはそれでどうなんですか」

 

ウマ娘用の薬をヒトに使ってんじゃねぇ。

うーむ、なんか放っておくと後々になってとんでもないことをしでかしそうだな・・・。

でも、直近の休みはすでに予定が埋まっているから、あまり私の方から出向けないんだよねぇ。

でも、どこかでこのマッドのガス抜きはしておきたいし、どうしたものか・・・。

 

「・・・あーダメだ。やっぱ気になってしゃーないわ」

「すみません、この人はすぐに回収するので・・・」

「あっ、いえ、そっちじゃなくてですね」

 

いや、このマッドのこととか薬漬けの被害者になっているモルモットトレーナーさんが気になるのも事実だけど、それはそれとして気になることがあるのよ。

なにせ・・・

 

「なんか、前にも増してお友だちさん?がはっきり見えるみたいで・・・」

 

そう、前はなんとなくいるのが分かるだけだったカフェ先輩のお友だちさんが、今はけっこうガッツリ見えるようになっている。具体的には、白い靄がカフェ先輩に限りなく近いシルエットでまとまっているのが見えるようになっている。

えっなに?まさか霊感も強くなってんの?誰がそんなこと予想できるよ。

 

「なに、それは本当かい!?それはやはりあの菊花賞で何か変化があったということだね!?さぁその話を詳しくっモゴモゴッ!」

 

あっ、しまった。あのマッドを下手に刺激しちゃったか。でもお友だちさんが手で口を塞いでいるおかげで少し静かになった。

にしても、前も思ったけど、幽霊ってこんな昼間でもガッツリ物理的に干渉できるのか・・・なんかもう、一周回ってトレセン学園自体が何か曰く付きなんじゃないかと思いそう。暇があったら、今年の夏休みに許可貰って学園で肝試しでもしてみようかな。

まぁそれはそれとして、今はこのマッドをどうするか考えないと。

たぶん時間を作って満足するまで話すのが一番早いんだろうけど、このマッドがどれくらいで満足するか分からないのが博打になっちゃうんだよなぁ。もういっそカフェ先輩と一緒にお泊り会でもしようかな。

 

「・・・なぁ、考え込んでいるところ悪いが、いったん状況をリセットしてくれないか?俺としても、当たり前のように目の前で超常現象が起こっている現状を受け止めきれてないんだが。コントレイルとか誰でも見て分かるくらい怯えてるじゃねぇか」

 

思考にふけっているところを、須川さんに引き戻された。

あぁそうだ、今はトレーニングの時間だった。それなのにこのマッドは・・・。

 

「あーもう・・・また誘拐されるのも嫌なんで、お泊り会の予定を決めません?そこで満足するまで話すってことでいいじゃないですか」

「ぷはっ!本当かい!?」

「休暇前の一夜くらいならなんとか・・・すみません、カフェ先輩も一緒でいいですか?」

「構いません。元からこの人を監視するために同席するつもりだったので」

「いや本当に助かります」

 

天使か?この人。

イメージカラーは黒だけど黒衣の天使もそれはそれで・・・

 

「そんなっ、私がそんなひどいことをすると思っていたのかい!?」

「拉致監禁の前科があるの忘れたんですか?」

 

そういうところだぞ、このマッド。ここまで図々しいウマ娘もそうそういないでしょ。

お泊り会の約束は軽率だったかなぁ・・・。

 

「あ~、須川さんもそういうことでいい?」

「いろいろと言いたいことはあるが・・・マンハッタンカフェとお友だち?とやらが監視した上でやるっていうんなら、まぁいいか・・・どうしても心配なら、イッカクも同行させるって手もあるし・・・」

 

須川さんはめっちゃ微妙な表情を浮かべているけど、いつかのように拉致監禁事件が起こるよりはマシと判断したらしい。それは私も同感。なんならコントレイルも追加されそう。

そんなことを考えていると、マッドが名案だと言わんばかりにある提案をした。

 

「仕方ないとはいえ、私の信用がなさすぎるねぇ・・・あぁ、それならいっそここにいる全員で一緒に、っていうのはどうだい?」

「「「「「・・・は?」」」」」

 

とうとう頭がおかしくなったのか?いや、頭がおかしいのは元からだったか。

 

 

* * *

 

 

原則として、トレーナーはウマ娘の寮に入ることはできない。よほどの理由があれば例外的に入ることもできなくはないけど、少なくとも私は見たことがない。まぁ、私の場合はゴルシ先輩の件でなりかけたらしいけどね。

だから、ウマ娘とトレーナーでお泊り会なんて出来ないと思ってたんだけど・・・

 

「まさか、またここに来ることになるとは・・・」

 

今回マッドが選んだお泊り会の場所は、私が以前拉致されたマッドの自室と化している空き教室だ。たしかにここならトレーナーも一緒にお泊り会しやすい。まぁ、寮長に申請書を出しに行ったらものすごい顔をされたけど。どんだけ危険人物扱いされてるんだよ、あのマッド。

 

「話には聞いていたが、目に悪すぎないか・・・?」

「なんというか、人体模型が動きそうな感じがしますね」

「それってもうお化け屋敷通り越して心霊現象じゃないですか?いやその、すでに現象自体は目の当たりにしてますけど・・・」

 

すでにビビり散らかしているコントレイルを見た通り、現在は夜だけどすでに怪奇現象がちょいちょい起こっている。ラップ音とか笑い声とか、そんな感じのがね。

私はもうお友だちさんによるポルターガイストを見てるからなんとも思わないけど、マジでやばいんじゃない?トレセン学園の土地って実は昔は戦場とか処刑場跡だったりしない?こんなん下手に肝試しとかできないって。

 

「それに関しては、お友だち君がいるから大事にはならないだろうさ。それよりも、今はクラマハヤテ君の話だ!さぁ、ぜひとも菊花賞での話を聞かせてくれ!」

「んー・・・」

 

いや、どうしようか。

そりゃね?マッドに粘着されるくらいなら話しはするけど、この状況だとどこまで話せばいいのか分からないんよ。

前世のことは当然にしても、私の中にいるあの子たちのことは話そうかどうか微妙なラインなんだ。

あとは、コントレイルにもあまり話したくない。別にのけ者にしようとかそういうわけじゃないけど、ディーさんとあんな話をした手前、あまり変なことを教えたくはない。

そういうわけで、チラリと視線をコントレイルと須川さんに向ける。

それに気づいた須川さんは、ため息を吐きながらも踵を返した。

 

「・・・そういうことならわかった。コントレイル、お前もいくぞ」

「え?あ、はい、わかりました・・・」

 

須川さんに呼ばれたコントレイルは困惑しながらも大人しく従って教室の外に出ようとする。

その2人の背中をカフェ先輩が呼び止めた。

 

「待ってください。今はお二人だけだと危険なので、私も一緒に行きます」

 

・・・まぁ、すでに怪異減少が起こっている学校の中を零感の2人だけでっていうのは、そりゃ危険か。

カフェ先輩、っていうかお友だちさんが一緒ってなると、それはそれで怪現象が頻発しそうだけど。

 

「タキオンさんの監視ができないのは、少し心配ですけど・・・」

「それはまぁ、もしもの時は私とイッカクの2人がかりでどうにかします。なので、カフェ先輩は私のトレーナーさんと後輩を頼みます」

「わかりました。では、行きましょう」

「頼んだ。そら、コントレイルも行くぞ」

「えっ、僕もですか?でも、その・・・」

「心霊現象が起こっている中での肝試しなんて経験はなかなかない。せっかくだから活かしておけ」

「いやでも、レースでどうすればいいんですか!?」

「ここで一度怖い体験をしておけば、レースでビビることなんて滅多にないだろ」

「ちょっと須川トレーナーも投げやりになってないですか!?あっ、ちょっ、何かに押されてる!?せめて心の準備を・・・!」

 

必死に反論するコントレイルを余所に、お友だちさんがグイグイと背中を押して空き教室の外へと出していった。

なんというか、ちょっとウキウキしてたように見えたのは私だけか?自分が見える人が増えたのが嬉しかったのかな・・・?

 

「さて、それじゃあ場も整ったということで、さっそく話してもらってもいいかな!?」

「めっちゃテンション上がってますね・・・話しますから、ちょっと落ち着いてください」

 

その後は、前世のことを上手くぼかしながらマッドが満足するまで説明するのに苦労したこと以外は、思ったより平和な時間が続いた。

いや、拉致監禁が特別アレなだけで、これが普通のはずなんだけどね。

 

 

 

「えっと、その・・・大丈夫だった?」

「あ~、見ての通り実害はなくて無事だったから安心してくれ」

 

いや、コントレイルがぐったりしてる時点で無事じゃないし安心もできないけど?この学校マジで一回お祓いでもした方がいいんじゃない?




しれっとハヤテがカフェ先輩って呼んだりカフェがハヤテさんって呼んでいるのは、タキオン関連とお友だち関連がきっかけでカフェの方からちょくちょくコーヒーを差し入れしたからです。それでもハヤテが夜の校舎を知らなかったのは、怪我とかリハビリでドタバタしてたのをカフェが気遣ってあれこれ対策してたからですね。
まぁ、それはそれとして、仮にも“ウマ”娘がカフェインを摂取するのはどうなんだ・・・?
実際はカフェインレスだったりするんですかね?

ハヤテとタキオンがウマソウル談義をしている間、肝試し組3人は諸々の心霊現象に遭遇しましたが全カットです。
コントレイルも自分が省かれたことに対するもやもやとかがありましたが、そんなことを気にしてる暇がないくらいいろんなことがありました。
中にお友だちがいっぱいいるハヤテがセットになったらさらに倍プッシュで現象が起こってただろうことを知ったら、どんな反応をするんでしょうかね。
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