「そんなことがあったの?」
「うん。あ、実害はなかったから、そこは心配しなくても大丈夫だよ」
「本当?ケガとかない?」
「ほんとほんと」
教室に着いた後、イッカクにさっきのことを話したら、たいそう心配された。
いやまぁ、私もけっこう驚いたけど、そこまで心配になることかな?さすがにちょっと大げさな気がする。
「実は、私の方もさっきまでハヤテちゃんのこととかいろいろと聞かれてたんだけど、ハヤテちゃんのことを生意気だって言ってた娘がいたから、まさかと思って・・・」
「あー、どうだろ。どちらかと言えば、他のクラスに多そうだよね、そういうの」
ただでさえクラスメイトにも「なんか知らないけど中央のトレーナーの人にスカウトされて、イッカクも私にアシスタントとしてついてくることになった」くらいしか言ってないから、情報がすごい勢いでねじ曲がったんだろうね。
それこそ、私がイッカクの弱みを握って脅したとか、そんな感じで。
いや、会って昨日今日の相手を脅す度胸なんて私にはないって。
「それで、どうする?先生に相談する?」
「う~ん、今はまだ放置でいいんじゃない?特に被害が出てないのに相談しても意味ない気がするし」
なんだったら、先生側もちょっとくらい私のことを疎ましく思ってそうだしね。
さすがにないとは思いたいけど、いじめた側の「悪気はなかったんです」発言をそのまま真に受けても私は驚かないよ。
「そっか・・・私がどうにかした方がいいかな?」
「いや、それもいいよ。イッカクが動いたら動いたでこじれそうな気がするし」
というか、軽く目のハイライトが消えてるイッカクに任せたらどうなるか怖いから、むしろ何もしないでほしい。
これ、先生のことは言わない方がいいかな。
ていうか、すでに他のクラスメイトから距離を置かれているあたり、すでに何かやらかしたな?
「まぁ、その辺りのことはおいおい考えるとして、とりあえず今日はどこで練習する?できれば人目のつかないところがいいと思うけど、どこか心当たりとかある?」
「えっと、私がいつも練習してたところに行く?けっこう穴場で人も少ないんだ」
「ほんと?さっすが」
こういう時の地元民は本当に頼りになるね。
でも、どういう場所なんだろ。人が少ないってことは、自然の中だったりするのかな?
う~ん、放課後が待ちきれなくなってきた。
* * *
「待ちなさい!!」
「うわでた」
昼食を食べてから放課後、さぁトレーニングに行くぞと思っていたら、またさっきの3人組から声をかけられた。
関わりたくないから返答は1つ。
「やだ」
「あなたに拒否権はありません!」
うわー、めんどくせー。
ていうか、そういうのってどちらかと言えばお嬢様学校とかそんな感じのところでするんじゃないの?そこそこ都会とはいえどちらかと言えば地方の片田舎だよ?
場違い感すげー。
「いやだからさ、そういうのは私じゃなくてイッカクに言ってって言ってるじゃん。あ、でもここにいるし、ちょうどいいから言いたいこと言ったらどう?」
「ぐっ・・・イッカクさん」
「ごめん。ハヤテちゃんのトレーニングをするから後でね」
わぉ、ばっさり。
「後で」って言っておきながら二度とその時がこないやつなんだろうね、これ。
ただ、自分から話を振った手前、その返しをされるとちょっと気まずい。
ていうか、せめてイッカクの口から否定の言葉を出してほしい。そうすれば後腐れはなくなるから。
たぶん、
「えーと、イッカク?別に私は時間とか気にしないから、少しくらいは話を聞いてあげたら?」
「大丈夫だよ。だって、この子たちなんでしょ?ハヤテちゃんのこと悪く言ったの」
うん、そうだよ。大正解。
敢えて「どうしてわかったの?」とは尋ねないでおこう。態度でわかりそうだもんね、これ。
「私は、何があってもハヤテちゃんと一緒にいるから。だから、早くトレーニングに行こ?」
「う、うん」
ね?見ればわかるでしょ?むしろ私が困ってるって。
あの3人が見るからに挙動不審になっているあたり、ちょっとは私の状況を理解してもらえたと思ってもいいのかな?
「それじゃあ、また機会があったらね」
とりあえず、それだけ言ってその場を後にした。
できれば、その機会が来ないことを祈ろう。
* * *
「ねぇ、ちょっといい?」
「うげっ」
翌日、今日はイッカクと別々で私だけ先に登校しているときに限って3人の・・・
「・・・あれ?今日は1人?」
珍しく、今日は真ん中の黒髪の娘だけだった。
「言ってなかったけど、あの2人とはクラスメイトってだけで特別仲がいいわけじゃないの」
「なんだ、取り巻きとかそういうのじゃなかったんだ」
「取り巻きって、そんな風に見てたの?」
「うん」
だって、基本的に真ん中陣取ってたし、他の2人はあまり喋ろうとしなかったし。
「ま、まぁ、あの中では私が一番速いけど、だからってそんな不良みたいなことはしないわよ」
「どちらかと言えば、不良ってよりは悪役令嬢みたいなノリだったよね」
ラノベとか漫画で見た気がする。
「それで、昨日のことなんだけど・・・」
「あー、うん。イッカクのことだよね?あっ、そう言えば、まだ名前聞いてないや」
「私はビクトメイカー。昨日のことは、その、勝手な決めつけでいろいろと言ってしまってごめんなさい。それで、イッカクさんのことなんだけど・・・」
「う~ん、なんて言えばいいのかなぁ・・・」
私も、けっこう困惑してるからね、イッカクのあの態度には。
「私も聞きたいんだけど、イッカクってけっこう執着心が強かったりするの?」
「いえ、そういう話はきいたことないですけど・・・」
「そっか~・・・まぁ、私も何が正解とかはわからないんだけどね」
そう前置きしてから、イッカクとは入学した初日に一緒にランニングをしたこと。その時点でイッカクに意識されていたこと。内容はわからないけど、須川さんと何かを話してアシスタントとしてでもいいから私について行きたい覚悟を決めたこと。須川さんから周囲を魅了するウマ娘はたまにいて、私もその類だと言われたことを話した。
「そうなんですか・・・」
「ぶっちゃけ、私もあまり実感が湧かないから何も言えないんだけど、本人も自覚なかったんじゃないかな?」
あるいは、そこまで夢中になれるものがなかったとか。
個人的には後者な気がするけどね。
「イッカク、なんかすごい勢いでアシスタントの勉強し始めたから・・・一応、私の方からも『少しは自分のトレーニングもした方がいいよ』って言ってあるんだけど、完全に後回しになっちゃってるし・・・」
私がイッカクの走っている姿を見たのは試走のときくらいだけど、風になびく白髪が綺麗だった記憶があるから、まったく走らなくなるってのはすごいもったいないって思うんだよね。
でも、仮にイッカクが自分のトレーニングをしたとして、それで中央でうまくやっていける可能性はどうしても低くなっちゃう。
手段を選ばないんだったら、イッカクを問答無用で私から離れさせるなり、アシスタントの編入試験の失敗を祈るなりっていう方法があるけど、前者はなんかあらゆる手段を尽くしてでも追ってきそうな気配がイッカクにはあるからできないし、後者はヒトとしてダメだから論外。
ほんと、どうすればいいんだろうね。
現状一番いいのは、両立させることかな。
私の面倒を見るだけじゃなくて、自分も軽くでいいから体を動かすなり走るなりして練習を続けさせる。
というか、それくらいしかできることないよね。
「まぁ、こうなっちゃった責任が私にあるってのも間違いじゃないからさ、私の方でどうにかするよ」
本当に遺憾だけどね。否定したくてもしにくいから仕方ない。
あーいう重い女の扱いの心得なんて私にはないけど、どうにかするしかないよね。
「その・・・私でよければ、相談に乗りましょうか?」
「お詫びのつもりで言ってるなら、別にいらないよ。むしろ・・・」
「ハヤテちゃん?」
言葉を続けようとしたところで、背後からゾっとするような寒気を帯びた声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、そこには笑顔のイッカクが立っていた。
ただ、目が笑っていない。
ついでに言えば、視線が向いている先にいるのは私じゃなくてビクトメイカーだ。
「その娘、昨日ハヤテちゃんのことを悪く言ってたよね?何を話してたの?」
「えっとね、その昨日のことについて謝ってくれてたんだ」
嘘ではない。
本題はイッカクのヤンデレ疑惑についてだけど、謝罪の言葉はもらってるからね。
だから、あながち間違いではない。
「ほら、ビクトメイカーも謝って」
「え?あ、その、昨日はクラマハヤテさんのことを悪く言ってすみませんでした」
「そっか・・・ハヤテちゃんがいいなら、私もいいよ」
ふぅ、危機は脱した。
「・・・そういうことで、昨日のこととかは本当に気にしなくていいから。じゃあね」
「あっ・・・」
言いたいことだけ言っておいて、さっさとその場を後にした。
・・・今のイッカクは、言ってしまえば不安定な状態だ。できることなら、トレーニング以外のことでイッカクの手を煩わせたくない。
だから、ビクトメイカーから謝罪以外の何かを受け取ろうとも思わない。
それを理解してもらえたかはわからないけど、そうであることを祈ろう。
あるいは、もう一度話す機会があってもいいかもしれない。
・・・本当、前途多難というか、どうしてこうなっちゃったのかなぁ・・・。
今回は短めです許して。
マジで最近、体調があまりよくない日が続いてつらい・・・。
研究室関係でいろいろとやることもあるので、投稿ペースは上がらないでしょうね。