ただ走りたいだけ   作:リョウ77

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『好きの逆は無関心』って言うけど、別に無関心は悪くなくない?

「まずいな」

「ん?どうかしたんですか?」

 

須川さんの特別トレーニングをこなすようになって、そろそろ3週間が経とうとしている。

その間にいろいろなこと(主にイッカク関連)があったけど、自分でもけっこう自信が持てるくらいには上達していると思う。

なのに、今さらになって何かまずいことって、なんだろう?

 

「・・・なぁ、クラマハヤテ。俺とお前が会って、そろそろ3週間くらいになるよな?」

「そうですね。え?まさか告白でもするつもりですか?さすがに年増はちょっと・・・」

「最後まで話を聞け。んで、今までずっと走りの練習をしてたよな?」

「そうですね。それが課題でしたし」

「中央の移籍とデビュー戦、だいたい1ヵ月を目安にしたよな?」

「そうですね。あと1週間ですか。時が経つのは早いですねー」

「この3週間で、お前は確実に速くなった。それこそ、中央でも通用すると断言できるほどにな」

「え?本当にどうしたんですか?」

 

まさか、今さらになって中央への移籍が難しくなったとか!?

まぁ、別にいいけど。ていうか、むしろそうだよねって思う。地方で碌に成果を挙げないまま中央に行けるわけないって。

須川さんの今までにないレベルで切羽詰まった様子を見ると、それくらいしか思い浮かばない。

 

「なぁ。お前さんは、レースで1着になったウマ娘が何をするのかは知ってるよな?」

「さすがに知ってますよ。ウィニングライブですよね?」

 

この世界では、レースに勝ったウマ娘は報奨金とかの他にステージでダンスを踊る権利が与えられる。

内容は時と場合によって様々で、1人で踊ることもあれば、出走した全員が躍る中でセンターを担当することもある。

ていうか、よくよく考えると頭おかしくない?全力で走った後に全力で踊らないといけないって。苦行かな?

まぁ、その分知名度も人気も爆上がりになるし、場合によっては企業からの援助を受けるきっかけにもなり得るから、悪いことばかりってわけじゃない。

当然、中央のウィニングライブ、それもG1でのレースにもなると、その宣伝効果は計り知れない。

だから、ウマ娘はこういうトレーニングとは別にダンスのレッスンを受ける必要が・・・

 

「・・・そういえば、今まで一度もダンスの練習したことないですね」

「そうだよ、なんで今まで気づかなかったんだ・・・」

 

まぁ、それだけ前までの私の走り方がひどかったのもあるだろうし、ようやくマシになったからこそ他のことに目を向ける余裕が出てきたとも言えるよね。まぁ、だったらなんで先週の時点でなんで気づかなかったんだって話になるけど。

 

「聞きたいんだが・・・授業でやったりしないのか?」

「ないですね。基本的に自分でどうにかするように、と。なので、基本的に各自でダンス教室に通うことになってます」

 

身も蓋もないことを言っちゃうと、ダンスまで教えれるトレーナーって地方だとけっこう少ないんだよね。少なくとも、浦和トレセン学園(うち)にはいないはず。その証拠に、ダンスの授業なんてないしね。

 

「ちなみに、中央だと授業であるんですか?」

「授業ってーか、トレーナーとは別にダンスの講師が勤務してるから、スケジュール組んでトレーニングの時間にレッスンするって感じだな。なんなら、疑似ステージも敷地の中にある」

「あー、そういえばファン感謝祭でもなんかやってましたよね」

 

中央トレセン学園で行われるファン感謝祭ってテレビでも生中継で放送されたりするんだけど、ステージでイベントやってる様子が流れてるときに「どっかの施設借りてるのかなー」とか思ってたけど、あれ敷地内だったのか。マジで規模が違うな。

・・・ここまで言われて気づいたけど、そういえば私、トレセン学園に入ってから一度もダンスの手ほどきを受けてないや。

 

「念のために聞いておくが、ダンスの心得は?」

「子供の時にお母さんに褒められたことがあるくらい、ですかね?」

「須川トレーナーは指導できないんですか?」

「無理だな。この業界に入ってから、ずっと走りしか教えてない」

「私も、誰かを指導できるほどの知識はないですし・・・」

 

いや、そりゃそうでしょ。さすがにダンスも教えられたら引くレベルだよ。

でも、盲点だったなー。今まで走りのことしか教えられなかったし、それしか考えてなかったから完全に頭から抜け落ちてた。

 

「え、どうします?あと1週間でどうにかなるんですかね?」

「お前次第だな。ていうか、今からレッスン受けれるところなんてあるのか?」

「難しいと思います。飛び入りというのもそうですけど、1週間くらいですぐにやめるってなると、さらに厳しくなりますね」

「あぁ、言われればそうだったな」

「須川さん、早い段階で中央に移ることはできるんですか?」

「無理だな。これは違うときに言おうかと考えてたんだが、クラマハヤテの中央移籍について条件を出された。来たる中央でのデビュー戦で勝利すること。それが最低条件だとさ」

「え?そんなことがあるんですか?」

「普通はない。が、タイミングが悪かった。浦和トレセン学園に入学した後でデビュー戦も待たずに移籍申請、さらに入学以前も目立った成績がないから、このデビュー戦で中央にふさわしいかどうか判断するつもりだそうだ。逆に結果次第では、こまごまとした試験は省かれるらしい。まさに異例中の異例だな」

「というか、よくそんな要望が通りましたね・・・」

 

イッカクが呆れながらそう呟いた。

まぁ、そうだよね。前例があるとはいえ、よく地方出身のウマ娘に対してそんなに融通を効かせてくれたと思うよ。

 

「そいつはさておきだ。どうする?誰か当てはないのか?」

「ないな~」

「私もないですね」

 

う~ん、さすがに素人の練習で1週間は限度があるよね。

誰か、ダンスレッスン関連でコネを持ってそうな娘は・・・

 

「・・・あ」

「なんだ?」

「ダメ元だけど、伝手が多そうな娘なら心当たりがある、かも」

 

これでダメだったら諦めよう。

 

 

 

「そういうわけで、どこか紹介してもらうことってできる?」

「えぇ・・・」

 

私が頼ったのは、ビクトメイカーだ。頼られた当人はすっごい困惑してるけど。

なんでビクトメイカーを頼ったかと言うと、前に3人がかりで私をいびってたとき、ごく自然な様子で真ん中に立ってリーダー面していて、しかも他の2人からそのことに対する不満が感じられなかったから、たぶんグループを形成してそのトップに立ってたんじゃないかと予想したわけだ。

ただ、トレーニングの最中にいきなり呼び出しちゃったから、周りからすごい目立ってる。

 

「・・・一応、紹介はできなくもないけど・・・」

「本当!?」

「というか、私の親戚がダンス教室をやってるから、そこでやらない?」

「え、そうなの?ていうか、いいの?」

「えぇ。その・・・罪滅ぼし、って言うほど大袈裟ではないけど、何もしないのは失礼だし・・・」

「私は別に気にしてないからいいんだけど・・・まぁ、これでチャラってことでいいよ」

 

意外と律義なんだね。

 

「それで、いつからなら大丈夫?」

「あなたがいいなら、今日トレーニングが終わった後でもいいよ。寮の門限があるから長くはいられないと思うけど、顔合わせくらいはした方がいいだろうし。向こうには私が連絡しておくから」

「ほんと?ありがとう!」

 

やっぱ、頼るべきはコネだね!

イッカクにはすごい微妙な顔をされたけど、頑張って説き伏せて納得してもらった。

心配してくれるのは嬉しいけど、さすがにレッスンにまでついて来ようとするのは過保護だと思うよ?

 

 

 

トレーニングが終わった後は、さっそくビクトメイカーと一緒に件のダンス教室に向かった。

その道中でふと気づいたことなんだけど、こうしてイッカク以外の誰かと一緒に歩くことって、初めてなんじゃない?トレセン学園が全寮制だからってのもあるかもしれないけど、それでも休日とかも含めてイッカク以外の誰かと一緒に居たことなんてなかった。

私がいろんな意味で避けられてたってのもあるんだろうけど、やっぱりイッカクが遠ざけてたのかな~。

そう考えると、ビクトメイカーって私にとって希少な存在なのかも。

道中で、ビクトメイカーからいろんなことを話した。

ビクトメイカーはその親戚のダンス教室の関係で交友関係が広くて、あの時の2人もその知り合いらしい。それで、ダンス教室のメンバーの中で1番脚が速いってことで、自然とリーダー格みたいな扱いを受けるようになったんだって。ウマ娘は基本的に脚が速いってのがステータスになるから、特別珍しいことでもないらしい。

私に突っかかったのは、イッカクに(あくまで一方的にだけど)憧れてて、イッカクが私に対してあれこれしてたのが私がそうさせてるんだと思って気に喰わなかったんだと。でも、イッカクの闇落ち?ヤン?な一面を見て「あれ?」ってなって、それで冷静になって悪いことをした自覚が芽生えて、それで謝った、ってのが真相だったらしい。

正直、すっごいどうでもよかった。だって、実害皆無だったからね。

私からすれば、2回だけちょろっと絡まれた後になぜか謝罪されたくらいのことでしかないから、そんな隠してた罪を告白するかのように言われても「で?」としか言いようがない。

そりゃあ、実害があったら話は別だけど、絡まれた以外は特にこれといったことはされてないしね。

多分だけど、根はいい子なんだろうねぇ。ただ、良くも悪くも真っすぐってだけで。

だから、どうしても謝罪とか贖罪がしたいんだろうね。

正直な話、気にしてないというか割とどうでもいいんだけどねぇ。

何度も言ってるけど別に実害はないし、極論を言えば、私の邪魔をしなければ好きにしてくれていいんだよね。皆で無視しようが陰口を叩こうが、まったくとは言わないけどそんなに気にしない。

だって、まだ確定じゃないとはいえ、予定通りにいけば私は中央に移籍になって一切かかわらなくなるから。

むしろ、ハブられた方がすっきり移籍できるまである。

理解されないかもしれないけど、これが私の偽らざる本心なんだよね。

ビクトメイカーの手前、そんなこと口が裂けても言えないけど。

いろんなことを話しているうちに、私たちは目的のダンス教室についた。

ちなみに、学園でのいじめ(私からすればイビリにも満たないけど)に関しては言わないことにしている。あくまでダンスレッスンが目的であって、別にビクトメイカーを反省させたいわけじゃないし、むしろそれで余計な時間を過ごしたくないからと私がごり押した。

ただ、レッスンを受ける動機はそのまま話すことにしている。さすがにそこまで誤魔化せる自信はないし、そもそも誤魔化す必要もあまりない。

それからは顔合わせもつつがなく終わって、どうせだからとレッスンはビクトメイカーが面倒を見ることになった。どうやら指導できるくらいうまいらしい。

それで、軽く私のダンスを見てもらったんだけど、

 

「・・・なんか、思ってたより上手いわね?」

「そう?」

 

自分じゃよくわかってなかったけど、ビクトメイカーから見て私のダンスはけっこう上手いらしい。

 

「子供の頃にお母さんから褒められた程度って聞いてたけど」

「あー、子供の頃になんやかんやあってお母さんから教えられてたから」

 

さすがに家の中で走るわけにもいかなくて、でもさすがに何もしないのは落ち着かないからってことでテレビ見ながら踊ってたりしてたんだけど、それで母さんが現役時代のことを思い出したのかやけに熱を入れて私にダンスの基礎を教えてくれたんだよね。そのおかげと言うべきか、ダンスの基礎動作は私の身体に染みついてる。

 

「これならよっぽど大丈夫だと思うけど、中央でデビューするならもっと気合入れた方がいいよね」

「あー、たしかにそうかも」

 

中央なら、ダンスのレベルまで高くても不思議じゃない。というか規模が段違いでも不思議じゃない。

デビュー戦とはいえ、人は多いだろうからみっともない姿は見せられないね。

 

「それじゃあ、普段のトレーニングも合わさってきついかもしれないけど、デビューに向けてがんばろっか!」

「よろしくお願いします、先生!」

 

そうして、ビクトメイカーの個人レッスンが始まった。

残りは1週間しかないけど、気合を入れて頑張っていこう!




今年最後の投稿です。
無料10連でタマモクロスが引けない・・・!代わりにカワカミプリンセスが出ましたがちがうそうじゃない。
シングレがきっかけで始めたんでぜひ欲しかったんですけどね、これは望み薄かな・・・。

追記
最後の最後で花嫁エアグルーヴが出ました。ふざけんな。
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