ドレスを選んで二日後、上級生を送る卒業式だ。ニコル様が卒業生代表のあいさつをされる。老若男女問わず顔を赤らめ、ため息が漏れる。カタリナ様がおっしゃるように、魔性の魅力が発揮されているというところだろう。どうやらわたしは、カタリナ様のいうところの「いけめん」耐性があるようで、わたしはニコル様の魅力よりも、あいさつの内容が在校生への思いやりや激励、これから宰相の息子として精進する決意が朗々と語られるのに聞きほれた。さすがニコル様と思ってお聞きしていた。ニコル様がわたしを必要とされるなら結婚してもいいくらいには素敵な方だとは思うがそれだけだ。それは在校生代表のジオルド様にも言える。わたしを守るために一位をとったという話には、正直心を動かされた。しかしジオルド様はカタリナ様がお好きだし、わたしもカタリナ様をお慕いしているのでどうも恋愛、結婚を考える相手には考えにくい。そんなことを考えているうちにジオルド様のあいさつが始まった。たくさんの女の子がほおを赤らめてためいきをついている。ジオルド様のあいさつも卒業生へ敬意や感謝、これから学園の生徒たちを引っ張っていく決意や学問、魔法、武道へ一層精進する決意が語られた。すばらしいあいさつだった。
式は終了して、学園の敷地内でもパーティ可能な大きな中庭で、立食形式の卒業パーティになる。
「マリア~」とカタリナ様が声をかけてくださる。「はい。いきましょう。」
最初にニコル様の所へ向かう。あいさつは短めにしてください、との学園事務の方の呼びかけで人だかりがあるものの、それほど待たずにお会いすることができた。すでにわきにある台の上までたくさんの花束。さすが人気者だ。わたしは、用意してきた花束をわたす。わたしを象徴するのがかすみ草やすずらんだという話なのでそれは必ず入っている。カタリナ様は、ほれぼれするようにコメントする。
「素敵ね~マリアらしい。すばらしい花束だわ。」
「ニコル様、在校生への激励、将来への決意、あいさつ素晴らしかったです。」
「ありがとう。マリアさんにほめられてほっとしたよ。」
「「え?どうしてですか?」」カタリナ様と、ハモった。
「あいさつしているのに、なぜかため息ついたり、ほおを赤らめたりしている人が多かったから。内容をしっかり聞いている人にほめられたからね。」
カタリナ様は、確かに~と言って苦笑し、
「ニコル様、これはわたしからです。」
となにやら束をお渡しになった。これは、丹精込めて作った野菜だ。カタリナ様らしいと感じた。ニコル様はかたまってしまった。ああ、そうか、卒業パーティに渡すものとしてはまずかったんだな、と私は感じた。カタリナ様の心がこもっているのは間違いないのに...
そこへアラン様が来た。ニコル様の手元をみて
「なんだ、これは?草か?」
その声を聴いてジオルド様やキース様もよってくる。
「失礼な!草じゃありません。野菜です。」
「野菜?」
アラン様がニコル様の手元にあるたばをいぶかしげな目で見ると、ニコル様は、手元のたばを確認する。
「花束ばかりもらっても困ると思って畑で取れた野菜を包んだのです。花は飾っても時間がたてばしおれるので捨てるしかないですが、これなら捨てずに食べることができますから。」
「って、どう見ても草だろこれ....っていうか野菜束って...。」
アラン様は爆笑した。
ニコル様はほほえんだ。
「カタリナが丹精込めて作った野菜なんだな。ありがとう。大切に食べるよ。」
「新鮮でおいしそうです。」
ジオルド様は、うつむいて肩を震わせている。どう考えても笑いをこらえているそれだ。
キース様からは、義姉さん...といいたげなあきれた視線がみてとれた。
「さて、ジオルド行くぞ」
「例の演奏ですね。」
「ああ」
舞台へアラン様とジオルド様が上がる。
「ここで卒業する先輩方へのサプライズで、俺たちが演奏します。」
お二人はバイオリンデュオを始めた。
「この曲って、先日二人に聞かれたわ。どんな曲が聞きたいかって」
なるほど、皆さんカタリナ様に夢中だからな。
「わたしも今日はずっとカタリナ様と一緒でうれしいです。」
と話すが、なにやらカタリナ様は焦れている様子だ。
何をお考えなんだろう。
「ねえ、マリア、あなたは好きな人はいないの?」
とお聞きになる。わたしは驚いてしまった。わたしの好きな方はきまっている。
ほおがほてっている。
「わたしは、カタリナ様をお慕いしております。」
と答えるのだが、カタリナ様は、納得できないと言いたげな表情だ。
「あの、マリア、それはそれでうれしいんだけど、気になったり、お付き合いしたいと思うような男性はいないの?」
と聞き返された。
「気になったり、お付き合いしたいと思うような...男性...ですか....。」
わたしは考え込んでしまう。生徒会でお会いした男性の方々は身分、人格、能力、容姿、財力どれをとってもソルシェでは最高位の方々ばかりだ。しかしだからといって積極的に気になったり、お付き合いしたいとは思わない。
「...う~ん...いないですね。」
「へ?」
カタリナ様が奇妙な声をされる。
「わたしには、気になったり、お付き合いしたいと思うような男性はいません。わたしが気になるののも、お慕いしているのもカタリナ様なのです。」
わたしは、カタリナ様の手を取った。
「ですからこれからもカタリナ様のそばにいさせてください。」
というや否やどこからともなくメアリ様がとんできた。
「マリアさん、ぬけがけはいけませんわ。わたしもカタリナ様とずっといっしょですわ。」
わたしからカタリナ様の手を抜き取って微笑まれる、
「私もです、私も。カタリナ様、ずっとずっとそばにいさせてください。」
今度はソフィア様がカタリナ様の手にご自分の手をのせられる。ソフィア様のそばにはもちろんニコル様がいらっしゃって「ならば俺も許される限りともに」とつぶやかれる。キース様に、演奏を終えたジオルド様、アラン様もいらっしゃる。ジオルド様がカタリナは僕の婚約者だと言えば、義姉に王妃はつとまらないし、わたなさい、とキース様はおっしゃる。
「卒業パーティをこれにて終了します。」
学園事務の方のアナウンスがなされ、生徒たちは、帰宅する者、別れを惜しんで場所を移す者さまざまに散会していった。