「生徒会室へ行きましょう。」
ジオルド様がおっしゃり、わたしたちは生徒会室へ移動する。
ニコル様とのささやかなお別れお茶会だ。
「今年は会長のシリウスがやむにやまれぬ事情で学園をやめることになったが、皆が生徒会をささえてくれてここまで来れた。感謝している。新会長のジオルド、副会長のキャンベル嬢とともに生徒会を、学園をもりたてていってほしい。」
「ニコル様、2年間お疲れさまでした。」「お疲れさまでした。」
「皆さん、召し上がりましょう。」
「カタリナ様、こちらもどうぞ召し上がってください。」
お母さんと考えた新レシピのお菓子だ。ふわふわのスポンジケーキの上にシロップをかけている。甘さも納得いくまで調整した自信作だ。
「うわあ、今日のも一段とおいしそうね。初めて見るお菓子だけどこれもマリアの手作り?」
「はい、新しく考えたのです。母と一緒に」
「まぁ、お母さまと?」
「はい。カタリナ様が私の作ったお菓子を喜んで召し上がってくださると話したら、カタリナ様は貴族令嬢だからおいしいものをたくさん召し上がっているはず、いつのおなじものだとあきてしまわれるのではないかと、一緒に新しいレシピを考えたのです。」
「そうなんだ。マリアのお菓子に飽きる日が来るとは絶対ないと思うけど、それでもうれしいわ。ありがとう。お母さまにもぜひお礼を言っておいて」
「はい、母にも伝えておきます。」
「なんか普段よりも少ない気がするわね。」
「義姉さん、ニコル様のお疲れ様会なんだよ。ただでさえ卒業パーティの時も結構食べていたでしょう。」
「カタリナ、そんなに一気に食べるとおなか壊しますよ。」
「お前はあるだけ食べちゃうからな。」
カタリナ様が食べ過ぎないように、わたしのお菓子をすこしでもほかのメンバーが食べれるようにとりわけ分を隠しているのは公然の秘密だ。カタリナ様、ごめんなさい、あなたが食べ過ぎないためなのです。
「カタリナ様、こちらのお茶もどうぞ」
メアリ様が差し出す。ナイスフォローです、メアリ様。
カタリナ様は、口にお茶をふくんだとたん何かに気が付いたようだ。
「このお茶...。」
そう、ラファエル前会長が入れた紅茶。
「メアリ、いつの間に会長のお茶の淹れ方を習得したの?」
「いえ、その淹れ方はおいそれと習得できるものではありませんわ。」
「お入りください。」
ジオルド様が声をかけると赤毛でグレーの瞳の好青年が入ってくる。
「かいちょう!」
「お前を驚かせるためにだまっておいた。」
アラン様が茶目っ気気味にカタリナ様に話しかける。
「もう生徒会長ではありませんが、僕をこうして呼んでくださってありがとうございます。」
「いえ、あんな不幸なことがあっただけなので...お疲れ様でした。これは私たちの気持ちです。」メアリ様をはじめ生徒会メンバーは花束をラファエル様に渡す。
「これはわたしからです。」
カタリナ様は、野菜束をわたし、ラファエル様も一瞬固まっていた。
「丹精込めた野菜です。」
と付け加える。
「ありがとう。もう一杯召し上がりますか?」
「ぜひ」
「わかりました。どうぞ、カタリナさん」
「いつものようにやさしい味ですね。ありがとうございます。」
紅茶を飲み終わるタイミングでソフィア様がカタリナ様に話しかける。
ニコル様のお疲れ様会のはずなのに「カタリナ様の食べ過ぎ防止し隊」になっている。
「カタリナ様、最近新しい小説のシリーズを買いましたの。とってもいいお話なのでぜひまた一緒に読みましょう。」
ソフィア様の小説のお話を聞いているとわたしもメアリ様も読みたくなって貸してもらうことになった。
「カタリナ、卒業したらまたしばらく会えなくなるが、妹を頼む。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「お兄様、いつでも訪ねてきてください。また1年も蚊帳の外では他の方に後れを取りますから」
お兄様大好きなソフィア様だ。
「カタリナ様、次の春は、畑では何を育てる予定ですか。」
メアリ様、絶妙なフォローです。カタリナ様の頭は畑のことでいっぱいになるでしょう。
「そうね~何を育てましょうか。ナス、トマト、にんじん、かぼちゃ、つくったしなぁ」
「今年もお手伝いしますよ。そのままデザートにできるメロン、キウイとか、そのまま食べられるキュウリとか....このあいだキャベツとかハクサイとかノザワナとかおっしゃっていましたね。」
「そうよそうよ、「ツケモノ」おいしいんだから。」
「「ツケモノ」?」
「あ~、そうか、この世界は「よーろっぱ」っぽいから、「にほん」の味はだめなのかな...。」
「その「ツケモノ」とやらいただいてみたいのですが?」
「わたしもです。カタリナ様」
メアリ様に続いてソフィア様も目を輝かせる。
「塩味、酸っぱさ、辛みが絶妙なのよ。」
「そうなんですか?わたしもいただいてみたいです。」
「じゃあみんなで育てましょう。メアリ、よろしくね。」
「はい、カタリナ様。たのしみですわ。」
「お前、畑もいいが、その頭の被り物なんとかならないか?農民のおばちゃんだぞ」
「花柄がいいかもしれないですわ、カタリナ様」
「わたしもそう思います。」
わたしたちは、もうすぐ2年生で上級生になる。ジオルド様が新生徒会長で、わたしが副会長だ。来年度も楽しみだし、どんな後輩がはいってくるのか楽しみだ。
さて、新学期になって2年に一度の大きな行事学園祭がある。新体制の生徒会初めての大仕事だ。グループごとに出しものの企画を持っていく。カタリナ様は野菜を売ろうとしたが、メイドのアンさんやジオルド様、キース様におもいとどまるよう止められていた。
困っていたカタリナ様に私は声をかける。
「カタリナ様、お野菜のことですか?」
「そうなの。この機会に食べてもらおうと思ったのに。」
「そのお野菜、わたしのお菓子に使わせてもらえませんか?」
にんじんは、キャロットクッキー、キャロットマフィンに使える。カボチャは、パンプキンパイやパンプキンタルトにできる。
「ありがとう、マリア。やさしいのね。」
「そうとなれば、カタリナ様、企画書です。これをちゃんと書かないと通りませんよ。」
わたしは、カタリナ様の希望を文書にまとめる。受け入れられにくいと思った考え方は、こう直しますのでとカタリナ様と話し合って企画書を練り上げる。
「ジオルド様、企画書です。」
「クラエス花壇の野菜を使ったパティスリー・キャンベルお菓子店?」
「はい。」
「う~ん、この学園は貴族が多いのでこういったものを売るのは...。」
「ジオルド様、マリアのお菓子はふだん召し上がってどうですか...。」
「確かにおいしいです。」
「生徒会のみんなも認めているじゃないですか。」
カタリナ様はここぞと力説する。
「そうですね...。」
わたしは、カタリナ様といっしょにジオルド様をみつめる。半泣き落とし作戦だ。
ジオルド様もついに折れた。
「マリアのお菓子はおいしいですし、どの家の菓子職人にも負けないと思います。それに野菜そのものを売るわけではないですからいいことにしましょう。それからこの企画書、表題を「パティスリー・キャンベル菓子店」ということで直してください。あくまでもマリアさんのお菓子だということを強調します。」
それでは、カタリナ様の名前が消えてしまう。
「せめて「クラエス家御用達パティスリー・キャンベル菓子店」ということにしてください。」
「わかりました。」
「「ありがとうございます。」」
しかし実はこれからが苦闘のはじまりだった。