「パテイスリー・キャンベル菓子店」を開くために思わぬ関門があった。
カタリナ様は木登りが得意とか普通の公爵令嬢にはない特技を持っている方だが、やはり直接厨房に立ったことはないのは、普通の公爵令嬢と同じだ。当たり前と言えば当たり前だが、料理に慣れていらっしゃらない。クッキーを焼こうとしたら火の加減を強くしすぎてしまう。私が昔やった失敗だ。また長い時間焼きすぎたり、充分でない時間で取り出してしまったり。
わたしが、お母さんに頼らずに昔学校へもっていくお菓子を作って失敗した時のようだ。その苦労が分かる私は、「初めてだから仕方ないですね。」とおなぐさめするしかない。しかし、厨房の方はコンロなど器具を傷めることにつながるので、「クラエス嬢をどなたかひきとってください。」ということになってカタリナ様は厨房にはいれなくなり、わたしが全て作ることになった。
今度は、カタリナ様は包装しようとするが、公爵令嬢がふだん包装なんてやらないので何回もやりなおしをされる。袋が破れることもある。わたしも慣れるまで包装の仕方には苦労した。「初めてだから仕方ないですね。」とおなぐさめするしかない。カタリナ様は、「マリアはやさしいのね。」とおっしゃるが、わたし自身苦労してきたし、慣れないことをされているので仕方ないと本気で思っているのだ。でも見かねたジオルド様から「材料を無駄にしてきたし、包装袋が無駄になるからカタリナは別の仕事をしてください。」と注意を受け、カタリナ様はそれでは試食をということになった。しかし、いやな予感が的中する。カタリナ様はわたしのお菓子が大好きなのだ。おいしい、おいしいと食べまくってしまう。やめられない~止まらない~マリアのお菓子♪とか歌いだし始めるに及び、アラン様が蒼くなり、「お前全部食べちゃう気か!それじゃあ開店できなくなってマリアが困るじゃないか!」とお菓子を取り上げた。調理や包装の失敗は無駄にはなるが同情の余地はある。しかしさすがに試食のはずがやめられない止まらないで開店できなくなるのは困る。見かねたキース様が、「義姉さんは、マリアさんのお菓子がおいしいことをよく知ってるんだからお店の宣伝をしたら」と言ってくださった。
さすがに試食で食べきってしまわれたらお店が開店できない。わたしが申し上げる前に気が付いてくださったアラン様とキース様にお礼を言った。
「平民であるマリアが、公爵令嬢のカタリナに抗議したとか変な風に伝わったらまたマリアがいじめられるネタになるからな。」王族でいらっしゃるがゆえのご配慮だ。
「義姉さんが迷惑かけてごめんね。」こちらは家族としての謝罪だ。
「クラエス家御用達パティスリー・キャンベル菓子店」は、カタリナ様がチラシをつくって宣伝し、試食用を置いて満足いただけたら買っていただくことにしたら、口コミで伝わってどんどん売れるようになった。
さて一方で、この学園祭では、わたしは、菓子店のほかに大事な出しものの担当というか配役になっている。
生徒会メンバーは、美男美女の集まりなので人気があるのだ。ジオルド様が人寄せのために分散配置の指示をしたが、そのほかに生徒会劇をやってほしいとの要望が多く寄せられたため、ジオルド様が「これは無視できないですね」といってソフィア様が
「それではわたしがシナリオを作ります。」と手を挙げた。
世紀のラブロマンスをつくるんだと、かなり試行錯誤してつくったのは、子どももよく知っている童話を上手に膨らませた素晴らしいシナリオだった。
はじめはメアリ様、ソフィア様と一緒にカタリナ様にも声をかけたが、「木や石の役ならやります」「力仕事ならやります」「生徒会メンバーではないし」と断られた。
「一夜限りのプリンセス」と題された劇の配役は、ジオルド様が王子様になったのは順当だった。さて主人公だ。
「主人公はだれにしましょうか?」
「わたしは、マリアさんがいいとおもいますわ。」
とメアリ様。するとソフィア様もほほえんで
「実は、わたしはマリアさんを想定してこのシナリオを書いたのです。」
「え?どうしてですか?」
「この主人公って、末娘で、だれにでも優しくて努力家で苦労して苦労して王子様とむすばれるじゃないですか。平民から魔法学園で努力して生徒会にはいったマリアさんにだぶるんです。」
「わたしもそう考えて...。」
「なるほど....でも農作業好きなのはカタリナとだぶる気が...。」
「今はカタリナ様のことは考えないことにしていますから。」
なにかメアリ様とソフィア様が怖いオーラを出している。
後で聞いたのだが、(劇とはいえ、ジオルド様にカタリナ様を近づけるわけにはいかないわ。)ということらしい。まあそんなことだろうと予想はしていたが。
「あの、それでは、植物を育てることが上手なメアリ様がいいのではないでしょうか?主人公の名前もマリアンヌでメアリ様のお名前と語源的に近縁な名前ですし、無理にわたしにしなくても...わたしと違って侯爵令嬢で、末っ子ですし...。」
するとジオルド様とメアリ様のあいだに黒い雰囲気がたちこめる。
いくら劇でもこの相手とは無理だ、と二人の空気が語っている。
わたしはしまったと感じる。
「し、失礼しました。」
「マリアさん、納得いただけましたか。いちばんマリアさんがやるのがまるくおさまるのです。」
「令嬢たちのいじめもへってきたろ。なにかあったら俺たちが守るから。」
アラン様がそうおっしゃってメアリ様もうなづく。
「わかりました。引き受けます。」
生徒会の皆さんのおかげで令嬢たちに絡まれるのはなくなったかわりにわたしの素性が学園内に伝わってわたしに好意的な方々もじわじわ増えてきていた。生徒会の皆さんのおかげもあってわたしやカタリナ様に対して悪意を向ける方々があの食堂の事件以来肩身を狭くしてわたしやカタリナ様に対してはスルーするようになってきていたので、目立つ役でも大丈夫だろうと引き受けた。村人はキース様、継母役はメアリ様になった。伴奏の担当はアラン様、ニコル様は魅力的過ぎて観劇者がメロメロになる可能性があるということで外された。そのため、生徒会メンバーでは足りなくなるので、義姉役は、わたしとカタリナ様のお知り合いから特別にシェナ・ネルソン様に来ていただいた。シェナ様は、以前ほかの令嬢たちとわたしを中傷したこともあるお方だが、カタリナ様とお話したり、わたしと図書館で出くわして課題を一緒にやる機会などあって、わたしのことを認めてくださった方だ。
「う~ん、劇とはいえまたマリアさんをイジメる役はトラウマなのですが...。」とおっしゃっていたが、ほかにお願いできそうな方に心当たりがなかったので、生徒会ぐるみでお願いした。
お菓子店の準備に生徒会の仕事、劇の練習と忙しい日々が続く。
ジオルド様とペアで演技することもあった。
学園祭の前日までに練習は一通り終わって仕上げることができた。あとは本番を待つだけだ。