さて学園祭が始まると、昼間は「クラエス家御用達パティスリー・キャンベル菓子店」の店番だ。ソフィア様、カタリナ様、メアリ様、わたしのクラスメートや愛好会の皆さま、わたしに声をかけてくださった貴族の令息の方々などが買われていって、みるみる棚の菓子の包みがなくなっていく。大繁盛だった。
「マリアさん。」
と店頭で声をかけられ、ふとみると赤い髪に灰色の瞳の見覚えのある好青年がいる。
元生徒会長のラファエル様だった。
「ラファエル様、お久しぶりです。」
「売れているかな。マリアさんのお菓子は折り紙付きだからね。」
「はい。ありがたいことに多くの方に買ってくださって残り少ないです。」
「じゃあ、職場の分として7個いただこうかな。」
「はい。こちらになります。」
代金をいただく。あと2個になった。
「ラファエル様は、今日はどうなさったんですか?」
「一番下っ端だからね。魔法省勧誘の出店さ。生徒会メンバーは推薦で入れるけど、いつも入省してくれるとは限らないから優秀な人材が受験してくれるよう宣伝。」
「そうなんですか。」
「マリアさん、生徒会副会長で、光の魔力保持者という時点で推薦で魔法省にはいれるけどどうする?」
「早速勧誘ですか。そうですね~わたし、最初は、自分の街へ帰って静かに過ごそうかと考えていましたが、魔法学園で大切な方々と出会えたので、都に残って働きたい、貴族の方々と気兼ねなくお付き合いできる立場が欲しいと考えてきましたので入省したいと思います。それに光の魔力保持者ですからその意味でも先輩方が入省を期待してくださってると思いますので。」
「そうか、ありがとう。」
そんなところにカタリナ様がやってきた。
「マリア~ !?」
カタリナ様の表情がいぶかしげになる。ラファエル様に気が付いたようだ。
「ラファエル、お久しぶり。」
「お久しぶりです。カタリナ様」
「来てくれたんだ。」
「魔法省の出店ですよ。一番下っ端なものですから。」
ラファエル様が話している間にカタリナ様分をとりだす。
「カタリナ様、召し上がりたいだろうと思って取り分けておきました。」
「ありがとう。」
「わたしの作ったお菓子なんて売れるのかな...と思いましたがあと2つです。」
「おお、すごいわね。」
「カタリナ様が宣伝してくださったおかげです。」
「わたしが提案したんだから当り前よ。ほんとはもっと手伝いたかったんだけど....。」
「いえいえとんでもないです。」
「わたしは確かに宣伝はしたけど、宣伝しただけではこれほどの売り上げにはならなかったわ。マリアのお菓子が本当においしいから売れたのよ。」
「ありがとうございます。これまで試食という考え方がなかったのでそれがよかったんだと思います。」
「そういえば、マリアさんは魔法省への入省を決めたんだよね。」
「そうなの?マリア?」
「はい。学園を卒業した後、入省することに決めました。」
「でも、マリア、卒業したら家に帰って静かに暮らしたいと前言ってなかった?」
「確かに入学してからしばらくはそう思っていましたが、それではカタリナ様のそばにはいられませんから。」
「?」
「卒業式にもお話ししましたが、わたしは、カタリナ様のおそばにいたいのです。でもわたしはただの平民ですから公爵令嬢でいらっしゃるカタリナ様のおそばにいるにはそれなりの地位が必要です。幸いにもわたしは光の魔力保持者で、魔法学園生徒会メンバーという魔法省推薦枠にいますから、魔法省に入ることにしました。」
わたしは、カタリナ様と見つめあってしまう。
「二人の世界をつくっているところ申し訳ないのですが僕もいるんですけど...」
ラファエル様の声で我にかえってしまう。
「二人の世界だなんて...。」
カタリナ様とわたしは苦笑してしまう。
「しかし、マリアさんは光の魔力保持者で魔法学園生徒会メンバーだから希望しさえすれば入省できるとはいえ、皆の憧れの職場への入職動機がカタリナ様のそばにいたいからというのは、さすがというしかないね。」
ラファエル様が苦笑される。
「不純な動機だとはわかっていますが、入職するからには全力で職務を全うするつもりですのでよろしくお願いいたします。」
「うん、大切な人のそばにいたいというのは、それはそれでいいんじゃないかな。ただカタリナ様がジオルド様と結婚してお城に入ってしまったら、せっかく魔法省に入職しても会えなくなってしまうんじゃないかな。」
わたしは蒼くなってしまった。形ばかりの婚約だと聞いていたので、ないもののようにしか意識していなかったが...「そういえばカタリナ様は、ジオルド様の婚約者でしたね。」とつぶやいてしまう。
なぜかカタリナ様も蒼くなっている。
「なぜカタリナ様まで蒼くなってるのですか?」
ラファエル様がお尋ねになる。
「婚約しているから学園を卒業したらすぐに結婚...公爵令嬢さえせいいっぱいなのに王族だなんて...。」
「お城に入られてしまったら会えなくなってしまいますね。それはいやだわ。」
「それなら、カタリナ様も魔法省に入ってしまいますか?」
「えつ、そんなことできるの?魔法省に入れば結婚しなくていいの?」
「結婚がなしになることはありませんが、魔法省は貴族に対する逮捕権を持つなど国王に次ぐ権限を持つ機関です。それなりの地位を持った方が入省の根拠となる事実を持って推薦するなら入省が可能です。入省すれば無理にお城へ引っ張っていくようなことはなくなるでしょう。」
カタリナ様の目と顔が打算でくるくる変化している。
メアリ様が王族は大変だと吹き込んでいるようだから結婚は避けたいんだろう。ジオルド様にはかわいそうだがわたしもカタリナ様にはさっさと結婚してほしくないというのが本音だ。カタリナ様はわたしを認めてくださった大切な友人だ。
しかししばらくしてカタリナ様ははっと何かに気が付くとたちまち顔が曇った。
「あの、ラファエル、でも私の魔力って土ボコくらいしかつくれないし...。」
「ああ、たしかに魔力や魔法が強い人が多いですが、そうでない人もいるんですよ。入省試験に優秀な成績を収めるか、魔力が弱くても魔法学園で生徒会に入れる学力のある場合とか、そのほか魔力や魔法に強い興味関心があれば入れる場合もすくなくないですから。」
「やった!」
とカタリナ様は一瞬おっしゃるものの再び不安顔になる。
「とはいったものの、知り合いはラファエルだけだし、うちの両親はなんと言うか...。」
「大丈夫ですよ。推薦状は僕の上司が書いてくれます、カタリナ様は、僕の闇の魔力を解呪したでしょう。だから僕の上司が注目しているんですよ。」
「えっ...わたしを知っているの?」
「ええ、そのうち学園にもあいさつにいらっしゃるのではないでしょうか。」
わたしはこぶしをにぎりしめた。お二人に話しかける。
「あの...」
「マリア、どうしたの?」
「その方の推薦状がいただけたら、わたしたちは一緒に魔法省に入れるということですよね?」
「そういうことになるね。」
「カタリナ様、一緒に魔法省にはいりましょう。私にできることなら何でも協力します。」
「僕も協力するよ。」
「みんなで頑張りましょう。」
3人でこぶしをふりあげる。
「カタリナ様」
ふと見ると、わたしたちの次くらいにカタリナ様とと親しいクラスメイトの方々がいらっしゃった。
「こちらにいらしたのですね。いっしょにまわりませんか?」
「さっきはお菓子をお買い上げいただきありがとうございました。」
「いいえ、野菜の臭みが消えていてとてもおいしかったですわ。」
「かぼちゃ嫌いのわたくしのフィアンセが驚いていました。」
「よろしければ後日レシピをおしえてくださいませ。わたしの所の菓子職人にも作らせます。」
「じゃあ、マリアあとでね。」
「はい。」
お褒めの言葉を言い残してカタリナ様と連れ添って行かれた。
第19話投稿時に末尾を加筆修正しました。