入学式のあいさつで登壇したのは赤毛のやさしい感じの生徒会長だった。シリウス・ディークと名乗った生徒会長は、あいさつを充実した学園生活を過ごされることをお祈りします、と締めくくると拍手が起こった。わたしも拍手した。
さて最初のHRで自己紹介をする。
「次マリア・キャンベルさん」
指名された自己紹介で爵位がないことを話さなければならず、わたしは刺すような視線にさらされた。
授業が終わって休み時間になると、貴族令嬢たちに、目ざわりだ、平民のくせに生意気だとからまれるようになった。そのためはちあわせないように気をつけて魔法学園の敷地を歩き回るようになり、時々自分がどこにいるのかわからなくなって、木登りして確認するようになった。
そんなある日、寮へ帰ろうとして木に登ると
「あの、どうして木に登ってるのですか?」
という若い男性の声が聞こえた。みると金髪で青い瞳の好青年に話しかけられている。
わたしは、焦って木から降りる。
「実は、寮に帰ろうと思ったのですが、道に迷ってどこに自分がいるのか高い場所から確かめようとおもったのです。」と話すと、
「レディが木登りなどして下着が見えでもしたら大変です。僕がよろしければお送りしましょうか?どちらですか?」
「はい。ありがとうございます。子爵から平民の女子寮です。」
わたしはぺこりと頭を下げた。青年は笑顔を浮かべて
「こちらです。」
と案内してくれた。
「ありがとうございます。わたしはマリア・キャンベルといいます。あの...お名前をお伺いしても...。」
「ああ、僕ですか。ジオルド・スチュアートっていいます。」
「え?もしかしてジオルド殿下でいらっしゃいますか?」
「はい。でもここでは同じ生徒ですからジオルドさんでいいですよ。」
「いえ、殿下に「さん」ではまずいです。アラン様も入学されているのでスチュアート様ではまずいのでせめてジオルド様とお呼びいたします。」
「いいですよ。マリアさん。それではよろしくお願いします。」
「こちらこそお願いします。」
これがジオルド様との出会いだった。
ある日のこと、いい匂いがしたので厨房へ行ってみた。
「ん、どうしたんだい。」
「いいえ、いい匂いがしたので。食堂で売っているお菓子はおいしいですね。」
「そうかい。ありがとう。」
「実は私もお菓子をつくるのですが、あの香りと焼き加減はどうするんですか?」
厨房の人は丁寧に教えてくれた。
「今日は材料が余っているからつくってみるかい?」
「はい、ありがとうございます。」
わたしはお菓子をつくると厨房の人に試食してもらった。
「おおお、おいしいね。こないだ教えたことを吸収してこんなにうまく作るとは。いつでもきていいよ。そうだ、君の作ったものも売店にならべようか。」
「いえ、わたしは平民なので、わたしがつくったということがわかったら...。」
「そんなの関係ないよ。われわれだって平民だ。メイドや侍従になれなくて料理が得意だからここで働いている。それにだれが作ったとか名前は出さないよ。」
「ありがとうございます。」
こうしてわたしは厨房をお借りしてお菓子を作ることができるようになった。わたしの作ったお菓子も食堂の売店に時々並ぶようになった。
さて生徒会入りが決まる学力テストの時期になった。わたしはがんばったかいがあって、アラン様を抑えて学年2位になった。
(ジオルド様は1位か...さすがにすごいなあ...。)
メアリ様、ソフィア様、キース様が優秀な成績で生徒会に来ることになった。
「はじめまして。マリアさん。わたしはメアリ・ハントですわ。」
「マリアさん、はじめまして。わたしは、ソフィア・アスカルトです。」
「学年2位とかすばらしいですわ。平民でいらっしゃるなら家庭教師無しってことでしょう。かなり努力なされたのでしょう。心から尊敬いたしますわ」
「はい。」
「この赤い髪の毛は平民だったお母さまからうけついだものです。わたしだけ母親が違っていたのです。ですから身分の賤しさを表しているとか言われてきましたわ。でも今は努力をして社交界の華とまで呼んでくださっている方もいます。マリアさんもたいへんご苦労されたのでしょう。お察しします。生徒会に入るのは実力が全てですから。」
「わたしは、この白い毛が老人のよう、赤い瞳は血のようだと言われてきましたが、ある人は、絹のような髪、ルビーのような瞳とおっしゃってくださってその方のおかげで何事にも前向きに取り組めるようになったのです。マリアさんにもそのような方が現れるといいですね。」
「その話はカタリナ様のことではなくて?」
「そうです。メアリ様。」
「そういえば、カタリナは生徒会に入れなかったんですよね。」
「私たちの幼なじみで大切な友人ですのに...。」
「う~ん、教師に相談してみましょう。生徒会室には相談事があれば一般生徒も入れます。カタリナは私たちの大切な友人ですし。わたしの婚約者で貴族の最高位の公爵令嬢ですから出入りしても問題ないでしょう。」
かなり強引なことを言ってるなと感じたが、さすがは王子様。先生方に、相談事があれば生徒会室に一般生徒も入れる、ジオルド王子の婚約者であって、何かあった時は手伝ってもらっても問題ない、メアリ様やソフィア様のアドヴァイザーとしても来てほしい、また生徒会室以外に放置すると何をしでかすかわからない、それに余裕のある時は勉強を見ることができるというキース様の意見もあって、むしろ生徒会室でその行動を管理できた方が生徒会としても助かるという論法で、カタリナ・クラエス様については、生徒会室に出入り自由ということになった。
さて生徒会室には、差し入れでお菓子が届けられることがある。その日は、わたしは自分の仕事を終え、手がすいていた。カタリナ・クラエス様が勉強していた。
「クラエス様、休憩なさってはいかがですか?こちらにお菓子があります。」
「あ、はい...ありがとう。」
クラエス様はお菓子をお召し上がりになった。
「おいし~い。」
満足そうな笑みをうかべ歓喜の声をあげられる。
「生徒会への差し入れでいただいたものです。高級店のものでおいしいですよね。」
「ほんとね。えっと、ところでキャンベルさんはお菓子をつくってこないの?」
わたしは驚いた。わたしがお菓子を作るのが当たり前かのような、作っていることを知っているかのような口ぶりだったからだ。
「どうして、クラエス様は、わたしがお菓子を作ることをご存じなのですか?」
するとクラエス様は、申し訳ないような、考え込むような複雑な表情をされた。
後でお聞きしたところ、マリアちゃんを脅しているように思われたら申し訳ないかとおもって一瞬言葉につまったんだということだったが、
「食堂の料理人さんに聞いた....のよ。ほら、魔法学園の食堂って、ティータイム用のお菓子もおいしいでしょう。」と詰まりながらお答えになられた。
「確かにそうですね。わたし、実は料理人さんと仲良くなって空き時間に厨房の施設をお借りすることがあるんです。お菓子が香りのつけ方や味の引き出し方を上手く感じたので何かコツがあるのかお聞きしたら親切に教えてくださったので、試作品を作ったら喜んでいただけたのがきっかけで...。ただ売り物のようにお出しできるようなものでは...」
実は出しているのだが公然の秘密だ。確かに生徒会室で本当のことを話しても大丈夫かもしれないが、どういう形で漏れるかどうかわからない。意地の悪い貴族令嬢たちにつたわろうものなら....その警戒心が決して無駄ではなかったことが意外な線から明らかになるがそれは後の話になるからとりあえず置いておく。クラエス様がお話をつづけられた。