「なんとか、終わった...。」
カタリナ様はほっと息をついている。
「カタリナ様お疲れ様でした。」
「おもしろかったですよ。楽しませていただきました。」
とラファエル様。
「主人公をいじめる演技すばらしかったですわ。」
1年生のフレイさん。
「あまりにも迫真の演技で、劇であることを忘れそうになりました。」
カタリナ様の演技は、真に迫っていて、これ本当に演技?と思うほどだった。
「まるで別人のようでしたわ。」
「カタリナ様は演技の才能もおありになるのですね。」
「みんな、ありがとう。それほどでもと思うけど、そういってもらえるとうれしいわ。」
さて、劇が終わると1時間後に舞踏会だ。
カタリナ様が出てこないので控室へ行ってみる。
「ありがとう。後で行くから。」
どうやら劇をやった安堵感でぼうっとしておられるように見えた。確かにいきなりの配役だったし、無理もないかなとその時は思った。
「後片付けをしている子もいるようですからいっしょにいらしてくださいね。」
「わかった~、ありがとう。」
舞踏会の会場についても、話題はカタリナ様の演技のことだ。
「さっきの義姉さんの演技には驚かされたよ。」
「そうですわね。いつものお優しい雰囲気とは全く別人でした。」
「あいつにあんな才能があるとはなあ...」
「カタリナ様は多才な方ですわ。」
「それにしても、ちょっと遅すぎる気がするのですが...。」
異変に気づき始めたのはジオルド様だった。
「確かにそうですね。」
「後片付けの子と一緒に来るようお話ししておいたのですが...。」
わたしの心に悪い予感がシミのように生まれ、じわじわ広がり始める。
その晩は、舞踏会もそこそこに、カタリナ様の目撃証言を集めた。
何かあいまいなものが多く、わたしの心の悪い予感がますます大きくなっていった。ついに、カタリナ様の行方がわからないまま、一晩明けた。
そして翌日、ジオルド様に、脅迫状が届いた。
「カタリナ・クラエスの身柄はあづかった。無事に返してほしくば、王位継承権を放棄せよ」
という内容だった。当然差出人の名前はない。表向き王位継承権を放棄する旨内外に公式に発表すれば、手放すということだ。しかし本当に手放すかどうかそんな保証はない。その日の生徒会室は重苦しい空気につつまれていた。
「つまり、カタリナ様は誘拐されたと...。」
「そういうことになります。身代金ではなく、僕の王位継承権の放棄が条件ですから、下手人はある程度は絞られますが...。僕が彼女に執心していたことがこのように利用されるとは...」
「まあ、こう名指しで書かれたら気に病むのも無理はないが、メアリが誘拐されて俺に脅迫状が届く可能性だってあったわけだからな...。」
「それでジオルド様はどうなさるのですか?」
「カタリナが戻ってくるなら、王位継承権などいくらでも放棄しますよ。でもそれには時間がかかりますし、ほかにも懸念があるのです。」
「これだけ強引なことをする相手だからその間にカタリナの身に何かあるかもしれない、またジオルドが王位継承権を放棄したとしても無事にカタリナが戻ってくる保証はない。」
「要するにそういうことです。本当の相手の狙いもわからない。」
「どういうことですか?お兄様」
「犯人の姿をカタリナが見ているなら、口封じに殺される可能性もあるということだ。」
「そんな...勝手にさらっておいて姿を見られたからと言って殺すなんて...。理不尽ではありませんか。」
「理不尽も何も、そういう可能性もないとは言えないということだ。犯人がイニシアチブをもっているわけだからな。」
「犯人は、自分の優位を最大限に生かして王位継承権の放棄の手続きに時間がかかっている間に、さらに身代金だなんだと第二、第三の要求をだして身の安全を確保してトンズラするか、顔を見られているから口封じにカタリナを殺すか、いずれにしてもジオルドが要求をのんだからと言って解決する話とは思えない。それよりもあいつの居場所をさがしたほうがいい。」
「アラン様、たまにはいいことをおっしゃいますね。」
「たまにはが余計だ。」
「ふふ...失礼しました。そうなると怪しい人物や屋敷を片端からあらうことになりますか...」
メアリ様の笑みなんとなく黒くなっている。
「いや、手あたり次第は、ちょっと時間がかかるのでは」
[あの...事件には、闇も魔力がかかわっているように思えるのですが...。」
「はい、僕もそうではないかと思い始めています。」
「カタリナ様の目撃証言がかなりあいまいなものが多く、昨年の事件によく似ているように思えます。もし、本当に闇の魔力が使われたのならわたしが怪しい人をみていけば見分けられるのではと思うのですが...」
それまでしずんでいたアンさんの顔が明るくなったような気がした。
「なるほど...しかし、闇の魔力が見分けられるのは、使っているときとその直後1時間程度ですよね,,,、」
「はい...。」
「くやしいことですが、もう半日以上たっています。たとえ当人が通ってもわからないのではないですか...」
「そう...ですね...。」
「やはり片端から調べるしかないようですね,,,」
「ちょっとどこへ行くメアリ!落ち着け!」
その時ドアをたたく音がした。そして赤毛に灰色の瞳を持つ好青年が姿を現す。
「ラファエル様!」
「メアリ様ではないですか?そんなに急いでどちらへ向かわれるのですか?」
「わたしは、カタリナ様を探しに行きたいのです。」
「どうなさるおつもりですか?」
「とりあえず怪しいと思える人物や屋敷をつぶしていくつもりです。」
「それは、無謀すぎですよ。」
「じゃあどうしろとおっしゃるのですか?こうしている間にもカタリナ様に危険が及んでいるかもしれないのですよ。」
「安心してください。カタリナ様に危険が及ぼことはまずありません。」
「??それはどういうことですか?」
「カタリナ様には、最強の護衛がついています。ソルシェでも一線級の魔法師です。ですから危険が及ぶことはありません。」
「ですので皆さん、もう少しお待ちください。敵は必ずスキを見せます。その際一挙に敵を叩き、カタリナ様を助け出します。」
とおっしゃられた。
そうしてカタリナ様が戻ってきたのは2日後だった。
「みんな心配させてごめんね。魔法省の捜査が入って解放されたわ。」
「おかえりなさい、カタリナ様」
「ご無事で何よりでした。」
捜査の経過についてラファエル様からお話がなされた。
主犯は、デイビッド・メイスンというジェフリー派の貴族で、当然ながら王位に即くつもりのないジェフリー様の意向と関係なく、闇の魔力を持つ執事ルーファス・ブロードを使ってセリーナ様を洗脳し、カタリナ様をさらうことで、その罪をセリーナ様とイアン様に着せるとともに、ジオルド様に王位継承権を放棄させようとして仕組んだものだった。しかし闇の魔力を捜査していた魔法省の網にかかって、メイスンが逮捕され、逮捕された以上実行犯のルーファス・ブロードの存在も明らかになったというわけだった。弟たちを溺愛するジェフリー王子がデイビッド・メイスンを簡単に赦すわけがないのは自明だった。
そんなことを考えていると、アンさんが
「カタリナ様、お客様です。」
と部屋に招いて入ってらっしゃったのは、イアン様とセリーナ様だった。