翌朝、わたしは、生徒会の皆さんやカタリナ様と同じ授業に出席することになっている。
「マリア~」
「はいここです。」
カタリナ様、ジオルド様、メアリ様、アラン様、
「うう...眠いです...。」
とおっしゃるのは、眠い目をこすっておられるソフィア様。どうやら昨晩読んでいたロマンス小説がおもしろくて朝が明けてしまったらしい。
「へえ~そうなんだ、おもしろそう(です)ね。」
「おすすめですわ。」
「眠れなくなったら困るからすこしづつにするわ。」
そんな話をしながら教室に入り、授業が終わるとわたしはカタリナ様に話しかける。
「昨日、魔法省でラーナ様と話す機会があって、光の魔力の謎や限界、それからカタリナ様がラファエル様の闇魔法を解呪できた理由を知りたいから一緒に来てくれたらうれしいというお話がありました。」
「う~ん、と言ってもあれは夢のお告げのおかげだし...具体的にどのように闇の魔力が解呪できたのか具体的なことが何一つわからないのよね...。相変わらずわたし土ボコしか使えないし...。」
カタリナ様は不安顔だ。さらにジオルド様の猛アタックにも戸惑っている感じだった。
それから一週間後の休みあけ、キース様がいなくなるという事件があった。
カタリナ様が、「キースがわたしの世話につかれたみたいで行方不明なの」と話してくれたが、わたしは、カタリナ様の周囲に悪意のようなまなざしがあるのを時々感じていたので内心でそれはないだろうと思っていた。そこで、ラーナ様にそれを話すと、
「ああ、わたしも気になっていた。カタリナをめぐる事件には、闇の魔力のかかわる案件が多い。最初のラファエルの件からはじまって、本人がさらわれ、今度は義弟だ。マリア、ソラ、特にマリアは入省前で申し訳ないが、闇魔力案件かもしれないから来てくれないか。」
「わかりました。」
「何かあった時のためにも僕がついていきます。婚約者を守るのが僕の務めなので」とジオルド様も一緒に行くことになったが、当然ひと悶着あるし、いくつか難題があった。まず生徒会メンバーでだれがいくかということだ。まずメアリ様とソフィア様はいきたがった。ジオルド様を見張る意味もあるだろうが、メアリ様はアラン様が引き止め、ソフィア様はニコル様が引き止める。メアリ様は当然、「こんな忙しいときに何で生徒会長が抜けるんですか?」
とおっしゃる。ジオルド様は、
「僕の仕事については、ほぼ終わらせましたし、次期会長のフレイにも引き継ぎました。それに、何かあったらニコルにも手伝ってもらうよう話してありますので万全です。」と涼しい顔だ。わたしは、副会長なので
「こんな忙しいときにすみません。」
と申し上げると、
「マリアさんは、今後の仕事にも関わりますし、代われる方がいないのですから。」
「闇の魔力案件が濃厚だしな。生徒会には申し訳ないが。」
ラーナ様もフォローする。
後の難題の一つは、カタリナ様の身の回りの世話だ。アンさんが「お嬢様一人では心配です。」とかなり渋っておられた。カタリナ様の「ちゃんとやるから」があてにならないとおっしゃられて、確かにそうだろうなとは思ったが、今回は闇の魔力がかかわる案件だ。キース様の行方不明はおおっぴらにされていないし、するわけにはいかない。そこで人数を絞っている。わたしは、「アンさん、わたしがカタリナ様の身の回りの世話をいたします。」とお伝えした。「マリア様がそうおっしゃるのなら...もうしわけありません。」
と謝られたが、わたしは、大好きなカタリナ様のお役に立てるのだから何の不満もない。もう一つの難題は行き先だ。どうやってキース様をさがすのかだが、これもラーナ様が人探しの道具だというクマのぬいぐるみを持ってきてくださり、解決した。まずクラエス家の使用人さんからキース様のお宝の品の入った小箱をあずかった。幼いころ、カタリナ様がキース様にあげたプレゼントなどが入っている。そのうちハンカチにクマのぬいぐるみに「におい」をかがせた。実際には、モノに込められた記憶と魔力を読み取るらしい。キース様をお探しする馬車の中で、わたしはラーナ様に、4つの属性の関連性や連続性、光と闇の魔力でわかっていること、カタリナ様が経験された闇の魔力の解除条件としてどのようなことが考えられるのか、魔法道具の魔力付与についてなどの質問をして、ラーナ様は熱心に答えてくださったが、わかっていないことが多く、忘れられた魔法がある可能性があるとおっしゃっていた。ジオルド様もあいづちを打ってくださり、ラーナ様は熱心にお話しされた。魔法学園での復習ではすまず、魔法大学院があればそこで習うだろう高度な知識でなんとかついていくのがやっとだった。
カタリナ様はお疲れのようでうたたねしている。
「最初の町についたからそろそろ起こすか」
ラーナ様がカタリナ様の寝顔をみながらポツリとおっしゃり、大き目な声でカタリナ様に話かける。
「カタリナ、とりあえず一つ目の町についたぞ」
「ゆっくりでいいから降りてくれ。足元に注意するんだぞ。」
「はい...。」
カタリナ様は眠そうに眼をこすりながら馬車を降りる。
「では、キースについての聞き込みを行う。これが地図と似顔絵だ。絵の上手い職員に描かせた。」
「この街はそれなりに広い。大人数だと目立ってしまう。わたしとカタリナ、ジオルドとマリア、ソラの3組に分かれて聞き込みをする。2時間後に馬車の場所に集合する。これが馬車の場所だ。」ラーナ様は地図の一点を指で指し示す。
「僕は可能ならばカタリナと行きたいのですが...。」
「ジオルド王子、これは魔法省の正式な業務だ。ジオルド王子とマリアは美男美女なので慣れていなくても聞き込みが効率的にできると考えた。王子といえども従ってもらう。」
ラーナ様のおっしゃる通り、わたしは、男性の視線、ジオルド様は女性の視線をひきつけるようで、かなり効率的に聞き込みを行うことができたがキース様の行方の手掛かりになりそうな情報は得られなかった。
「マリア、そろそろ時間ですね。」
ジオルド様はなんやかんや言っても紳士だった。危ない場面はとりたててなかったが上手くエスコートされているのは感じられた。
馬車の近くへ来るとカタリナ様、ラーナ様、ソラさんの姿が見える。
カタリナ様は途中でお菓子を買ったようだ。
わたしはおもわず「わあ、おいしそぅですね。」と口に出た。それぞれの街にそれぞれ個性のある料理やお菓子が作られているから旅の楽しみでもある。
よせばいいのにジオルド様は、「お菓子ばかり食べていたのではないですか?」
とおっしゃったせいで、ご自分の分は減らされて、カタリナ様はその分わたしにお渡しになった。再び馬車の中でお菓子を食べながら次の町へ行く。
「そうか、前世の記憶の可能性のある夢のお告げか...興味深いな。ソフィア・アスカルト嬢もカタリナを目覚めさせるために祈って窓をみたら異世界と思われるような見慣れないの少女の姿を見たと言っていたな。異世界とか夢とか闇の魔力が効果をあらわさない場所というか精神的な「空間」のようなものがあると考えるのが妥当なんだろうな。なるほど闇の魔力を無効化するひとつの条件についてはわかった。しかし光の魔力が闇の魔力を無効化する事象があってもいいはずだが謎も深まったな。」
そんなことを話しながら二番目の町についたときには、日が傾いて空が夕焼けになっていた。
「わあ~おおきな町ですね。」
「ああ、ここはお昼におとずれた町の倍以上の規模で、この周辺では最大の町だ。日もだいぶ傾いているようだから今日はここで泊まろう。ソラ、宿の手配を頼む。」
「わかりました。」ソラさんが返事をして宿探しが始まった。