わたしとラーナ様は話しながら、ソラさんは宿を探しながら歩く。
しばらくしてラーナ様が、宿泊施設らしい大きな建物の前で止まる。
「ここなら規模が大きいから泊まれるんじゃないか?」
「そうですね。交渉してみます。」
しばらくして受付からソラさんが戻る。
「とりあえず男女に分かれて止まるよう二部屋とりました。」
「あれ?ジオルド様とカタリナ様がいらっしゃいませんね。」
「そうだな。」
ラーナ様は少し顔をしかめ、ソラさんは軽く舌打ちする。
「なんとなく心当たりがあるので見てきます。」
6~7分ほどたっただろうか。ソラさんがジオルド様とカタリナ様を連れてくる。
何やらジオルド様は不機嫌そうだ。
「部屋の空きが少なくてすみません。男女分かれるのが限界で、一人部屋までは無理でした。」
ソラさんの説明で、わたし、ラーナ様、カタリナ様の女子とジオルド様、ソラさんの組み合わせで泊まる。カタリナ様はウキウキされている。
「このベッドでいいですか?」とおっしゃり、わたしとラーナ様の間のベッドを選ばれる。前世の学校で名所旧跡巡りをして夜はクラスの友人たちと泊まる「しゅうがくりょこう」のようでウキウキされるのだそうだ。その「しゅうがくりょこう」では、枕投げなる遊びがはじまるのだという。
「う~ん、メアリやソフィアにも来てもらいたかったな。パジャマパーティや枕投げができたのに...。」
と言い出す。さすがにラーナ様が
「カタリナ嬢、遊びにきたんじゃないぞ。キースを連れて帰らないといけないんだろう。」
とおっしゃり、
「そうでした。すみません。」とおっしゃる。わたしは、
「キース様が行方不明になられて不安をまぎらわしたいんですよね。」
と申し上げると
「マリア、ありがとう。」
と少々涙ぐんでおっしゃる。ラーナ様は苦笑してそれ以上何もおっしゃらなかった。
夕食になり、楽しく会話をしながら召し上がるが、カタリナ様のテンションは高い。
「あれもおいしそう、これもおいしそう。」
といろいろ手を出される。
ジオルド様が苦笑しながら
「そんなに食べたらおなか壊しますよ」
と忠告されるのだが、食べ物のスイッチが入ったカタリナ様は止まらない。
ついにはおなかパンパンなようなご様子であるくのがやっとの状態だ。
ジオルド様が、だからいったのにという顔をされる。
部屋に戻ってしばらくすると、ラーナ様が
「用があるのでちょっと出かけてくる。」とおっしゃって外へ出られた。カード状の風の魔法道具をお持ちになられていたから魔法省と連絡を取るのかもしれない。カタリナ様は満腹なようで、しばらくしてから寝てしまった。
日が落ちて暗くなっていたので、カタリナ様の顔のほうに光がいかない場所を選んでランプをつけた。
わたしは、膝の上で魔法道具であるクマさんのぬいぐるみの毛づくろいをしていた。このクマさん名前があるようでアレクサンダー君というそうだ。
1時間ほどたっただろうか、視線を感じたのでそちらを見たらカタリナ様が目を覚まされていた。横になりながらも、なにかわたしに見とれているように思われたが気のせいだろう。
「お目覚めになられたのですね。おなかの調子はだいじょうぶなんですか?」
と尋ねる。カタリナ様は目を輝かせ、勢いよく起き上がり、
「もう大丈夫。全快よ。」
と微笑みながらおっしゃる。
「よかったです。」
明日からも忙しいし、元気になられてよかったとわたしも自然に笑顔になった。
アレクサンダー君は気持ちよさそうだ。
「?マリアは何をしているの?」
「あ~この子のお手入れを少し...。」
「この子とってもかわいいですよね」
カタリナ様は無言でアレクサンダー君をじっと見ている。
もしかしてさわりたいのだろうか
「あ、カタリナ様も触りたいですよね、どうぞ」とわたしはアレクサンダー君をカタリナ様に渡す。しかし、なぜかカタリナ様は無表情であまりうれしそうに感じられない。
なぜなのか私にはわからず、しばらくしてトイレに行きたくなったので、
「あ、お花摘みに行ってきます」と言って部屋を出た。
お手洗いから帰ってくるとアレクサンダー君とカタリナ様はベッドの上でずいぶん離れた位置にいた。
「あれ?カタリナ様、この子はいいんですか。」
「ええ、もう十分だわ。」
「じゃあ、今日はわたしが抱っこして寝ちゃおうかな」
やがてカタリナ様もパジャマに着替えてご自分のベッドにはいった。
わたしは楽しくておもわず笑みがもれてしまう。
「どうしたの?マリア」
どうやら含み笑いが聞こえたようだ。
「私、なんだかとてもうれしいんです。」
「うれしい?」
「ええ、前もお話ししましたが、わたし、魔力が発現してからお友達がいなかったのです。だからこうして身内以外の誰かとお泊りできるのがとてもうれしくて...カタリナ様がいつかおっしゃっていた「しゅうがくりょこう」ですか?お友達とお泊りするの」
かたかったカタリナ様の表情がなんとなく柔らかくなるのを感じたもののだまっておられる。
「あ、キース様がいなくなって大変な時に不謹慎なことを申し上げました。すみません。」
「ん、そんなことないわ。わたしもマリアとお泊りできるの楽しいなと思ってたから。今度は、メアリやソフィアも誘って出かけてみんなでお泊りしよう。」
「はい。」
わたしは即答だ。大親友のメアリ様、ソフィア様と4人でパジャマパーティでガールズトーク。考えたただけでわくわくする。キース様を見つけたら今度こそ、心おきなく楽しめるだろう。
「カタリナ様」
「なあにマリア?」
「わたし、ベッドに入るたびに寂しい想いをして、泣いていたこともあるんです。でも学園に入ってカタリナ様にお会いしてからは、とても楽しくうれしい気持ちで眠ることができるんです。」
「だからわたしがごうしていられるのは、カタリナ様のおかげなのです。」
「何言ってるの、マリア、あなたは本当に努力してきたじゃない。わたしはそれをよく知ってるわ。今のマリアがあるのは、マリア自身が頑張ってきたからでわたしはなにもしていないわ。」
ああ、この方はいつもそうなのだ。わたしを認めてくださるだけでなく、決して誇らず恩を着せてやろうとは全く考えない。わたしは目頭が熱くなり、ほおがほのかにほてってくる。それからうれし涙がにじんでしまう。
「カタリナ様、ずっとおそばにいさせてください。」
「....はい」
そのお返事は、裏返ったような声に聞こえた。なぜかカタリナ様のお顔もほてって紅くなっているように見える。しばらくしてわたしは心地よい眠気につつまれて意識が消えていった。
翌朝、わたしは目を覚ますと、カタリナ様はまだお休みになっておられた。しばらく起こさないようにしていたが、いつまでもぐっすり眠っておられて起きる様子がないので、「カタリナ様、そろそろ起きないと本当に寝坊してしまいます。」と声をおかけする。わたしは身支度をすると、今度はカタリナ様の身支度をお手伝いする。たしかに貴族令嬢は、平民の私と違って身支度に手間がかかるようだ。
宿のロビーへ行くと、ラーナ様が紅茶を召し上がっていた。ジオルド様もいらっしゃっている。
「ソラは?」
とカタリナ様がおききすると、
「ああ、聞き込みに行っている。じきに戻ってくるはずだ。」
とおっしゃる。
「お待たせしました。」
「どうだ?」
ソラさんは横に首をふる。
「手掛かりはつかめませんでした。」
「じゃあ次の街へ行こう」
わたしたちは馬車に乗り込んだ。