「ラーナ様」
「なんだ?」
「二つも町を聞き込みしたのに、何の成果もない。ほんとうにこのクマはあてになるんですか?」
とカタリナ様がおっしゃる。
「実験済みだ。うちの魔法道具研究室にはすぐ迷子になる職員がいる。本人の名誉のために名前は伏せるが、迷子になるたびに発見しているんだ。」
ソラさんが笑いをこらえたように思えた。
アレクサンダー君は気持ちよさそうだ。ほんとうにかわいい。しかし、カタリナ様の方に顔がむいたときに、表情をしかめるように見えるのはきっと気のせいだろう。途中で2つほどの町に到着し、聞き込みをおこなうが手掛かりはない。三つ目の町で、夕方になった。町というより村という感じ。市場もなく、閑散としている。道には、雑草がところどころ顔を出している。
町はずれの馬車置き場に馬車をを置き宿を探すことにする。
道端にかなり草が生えている。
カタリナ様が、
「あ、この実、見覚えがある」とおっしゃられた。
楕円形をしていてひげのようなものが全体についている。一見虫のように見える。
「なんですか?それは?」
「やたらに服にくっついてくる実だよ。知らない?」
「初めて見ます。」
この町のようにかなり田舎に行かないとみられないものなのかもしれない。
「ほら」
カタリナ様はわたしの服に1個くっつけた。
「本当ですね。なんていう植物なんですか?」
カタリナ様は、しばらく考え込んだ後、
「う~んと...ごめん、名前はわからない。」
とお答えになった。
「そうですか。何て名前なんでしょうね。」
アレクサンダー君とカタリナ様がにらみ合っているようにも思えるけど、聖女と呼ばれるくらいの人格者のカタリナ様とかわいいアレクサンダー君だ。きっとわたしの考えすぎだろう。
ソラさんが宿を見つけてくださり、夕食をいただく。この町特有の料理。素朴でありながら味付けが上手くとてもおいしい。
「カタリナ、マリア、先に部屋へ行ってくれ。わたしは魔法省に連絡を入れないといけない。」
「どうやって連絡をとるんですか?」
そうするとラーナ様は、カード状の道具をとりだし、
「この音を運ぶ風の魔法道具で話をする。」
「へええ、スマホみたいですね。」
「「すまほ」とは何だ?」
「すみません。わたしの前世で遠くにいる人と話す道具です。絵が表示されたり、文字でやりとりもできます。」
「ほお、おもしろいな。カタリナ嬢の前世は、魔法の代わりに、「かがくぎじゅつ」が進んでいたらしいが、それも「かがくぎじゅつ」なのか?」
「そうです。」
「そうか、どこでも話ができるようになったらこの魔法道具は「スマホ」という名前にするか。うん、シンプルでいい名前だ。じゃあな」
わたしとカタリナ様は部屋へ向かう。
カタリナ様とわたしは、今日おとづれた町のことや学園でのことなどとりとめのないお話をした。
「今日の夕食もおいしかったけど、昼間の町のランチもおいしかったわね。」
「はい、あのスープは絶妙でした。レシピをお聞きしたので作ってみようと思います。」
しばらくお話しした後、わたしはお手洗いに行きたくなったので、
「お花摘みに行ってきますね。」
と言い残して部屋を出る。戻ってきた後、なんとアレクサンダー君が例の草の実だらけになっている。カタリナ様がひっくり返してしまったそうだ。そそっかしい方だなあと思いつつ、ひとつひとつ実をとってあげる。
「この実捨てましょう。」とアレクサンダー君に話しかけたが、なぜか首を横に振った。
翌朝、朝食のために食堂へ行くと、カタリナ様の頭にあの草の実がついていたとのことで、アレクサンダー君が捨てようとしてひっくり返したとかわいい身振り手振りで教えてくれた。
翌日、馬車を走らせる。もうすぐルサーブルとの国境に近いちいさな町へ近づいている。カタリナ様は、
「やはりあのクマの言うことが本当に正しいのでしょうか?家出でこんなところまで来るとは思えません。」というが、ラーナ様が
「魔法省では、家出でない可能性も含めて捜査している。カタリナ嬢はアレクサンダーとなにかあったのか?」とお聞きすると、カタリナ様はだまってしまった。ルサーブルとの国境に近い小さな街へつくと、ソラさんが聞き込みをしたいと言い出した。カタリナ様が「ソラと組んだことがないので一緒に聞き込みをしたい。」とおっしゃられた。するとジオルド様が「僕もカタリナといきたいのですが」とおっしゃる。するとソラさんとジオルド様が言い合いになる。どちらが紳士なのかという言い合いになるに及び、ラーナ様が
「こういう危険な場所の捜査は、ソラのほうが慣れている。カタリナ嬢が行きたいならソラと行ってもらう。」
「わたしは国でも熟練した剣技をもっています。カタリナを十分守れます。」
「ジオルド王子、敵がいるとしたら剣技では戦ってこない。気配を消して、しかもその剣技の裏を突いて攻撃してくる。二人とも生きて帰ってこれない可能性もある。大切な王子の身をあづかる者として承諾できないな。」
ジオルド様は、ソラさんに「わかっていると思いますがカタリナは僕の婚約者です」と言い、カタリナ様に「くれぐれも気を付けてください」とおっしゃる。
わたしは、数多くの美点をおもちなのに正直残念な方だなあと思った。
「わかっています。聞き込みの邪魔になることはしませんし、迷子にならないよう気を付けます。」とカタリナ様が語気を荒げる。ジオルド様は遠い目をされた。悔しいのだろうが、やはりここで粘るのはあまり利点があるとは思えない。二人が捜査へ行ったのを、待っている間気持ちがざわつくのを感じる。
ソラさんとカタリナ様が馬車に戻ってきた。特に手掛かりはなかったそうだ。これから行くのは、ルサーブルとの国境の街ノワールだ。治安が悪い街で、人身売買も行われている可能性があるという。ノワールには夕方についた。
一見賑やかだが、雰囲気の悪い人物も散見される。ある程度聞き込みを行ったら宿に入ろうということになった。
わたしの気持ちのざわつきは、この町に着いてから今までになく続いている。薄気味悪さもなんとなく感じる。わたしは、横をむいたとき見てしまって固まってしまった。闇の魔力としか思えない強い雰囲気をばらまくように放っている人物が路地を歩いて通り過ぎたのだ。皆さんもわたしの様子がおかしいのに気が付き立ち止まる。
「マリア、どうしたの?」
とカタリナ様の声がして我に返る。
「あ、いえ、一瞬見えたような気がして...」
とお答えする。
「何が見えたの?」
「えっと...その...あの奥の路地に闇の魔力を放っている人が通り過ぎたように見えたのです。おかしいですよね。闇の魔力は、もう取りしまわれてもう誰も使えないはずなのに...。」
するとラーナ様の表情が一気に険しくなった。
「それはどのあたりだ、マリア」
と聞き返される。
「気のせいなんじゃないかとおもうのですが...。」
「いいから話してくれ。」
「あの路地の奥に、黒いフードをかぶった人が通り過ぎていきました。」
「闇の魔力の強度はどのくらいに感じた?」
「体の周囲に漂っている感じで、それほど強いようには思えなかったのですが、非常に不気味な感じでした。」
「わかった、マリア、ありがとう。君を連れてきて正解だった。」
「みんな宿へ行こう。これからどんな危険があるかわからない。」
今度の宿もソラさんが手配してくれた。一番安全な宿だという。
ラーナ様は
「わたしはやることがあるから、皆は宿で休んでいてくれ。戻ってきたらちゃんと話す。」
とおっしゃられた。