ラーナ様の先ほどの表情からしてどうやら深刻な状況なようだ。この分だとまだ闇の魔力を使っている人物がいる可能性をお話しされるかもしれない。わたしはカタリナ様と一緒に女子グループの部屋へ行った。今日はあんな出来事があったのでお話しする気になれない。カタリナ様も同じようで、ほとんどお話しせずにちびりちびりとお茶をすする。この町の特産だというお菓子をカタリナ様はおいしいとおっしゃられて、
「おいしいわよ、食べてみない」とおすすめされるものの、
「今はちょっと...食欲がないのです。」
とお答えする。カタリナ様も一、二枚召し上がっただけで、手が止まる。
「わたしもあまり食べる気がしないわ。」とぼそりと話される。
「マリア、大丈夫?」
わたしは、正直まさかと思った闇の魔力とまたかかわることになったのがショックだった。きっとその表情は青ざめているのだろう。
「大丈夫です...」とお答えするのがやっとだった。ちっとも大丈夫じゃないと言っているのと同じだが今の私にはそうするしかない。
「マリア、どうしてそんなにおびえているの?そんなに恐ろしいものが見えたの?」
とお尋ねになる。わたしは、恐ろしいという気持ち、話すべきかどうかを含めいろんな考えが頭の中をぐるぐる巡って言葉が出てこない。
「一人でかかえこまないでわたしに話して。話せば少しは楽になるんじゃないかしら。」
とカタリナ様はおっしゃる。わたしはその優しい言葉に勇気をもらって笑みがこぼれた。
「そうですね...あの闇の魔力の気配は、本当に恐ろしくおどろおどろしい感じで、その不気味さ、気持ちの悪さが頭から離れないのです。」
するとカタリナ様はわたしを強く抱きしめた。
わたしは驚いて、自分の瞳孔が大きくなるのを感じたくらいだった。
「こうしてもらえば落ち着かない?」
カタリナ様がやさしく微笑まれる。安心感が体中に広がって行くのを感じる。
わたしは「はい...。」
とはにかむようにお返事をする。
ラーナ様がようやく宿に戻ってきて、皆を部屋に集める。
「大事な話がある。ここでちゃんと皆に話しておかなければならない。今回キースが家出をしたということで捜索をしたのだが、これがそもそも家出ではないことが分かった。」
ソラさん以外は、言葉が出ないほど驚いている。
「クラエス公爵からも捜索依頼が魔法省にだされていたが、今回のキースの失踪はほぼ誘拐だろうという結論に達した。」
「誘拐...ですか...。」
カタリナ様はかなりショックなようだ。
「ああ、キース・クラエスは誘拐されたのだ。」
「キースがいなくなった日、彼は実の母親に出会い声をかけられている。その母親についていって、何者かに引き渡されたのだ。母親は闇の魔力をかけられていて誰に引き渡したのか全く覚えていなかった。」
「それで、その闇の魔法を使ったのが何者か特定できたのですか?」
ジオルド様が質問される。
「先ほど何者かと言ったように、特定できていない。敵はかなり狡猾でなかなか尻尾をつかませてくれない。」
ラーナ様は悔しそうに表情をゆがめる。
「では、キースは結局どこにいるんですか?どこにいるか全くわからないんですか?」
カタリナ様の質問を聞いて、ラーナ様は思案顔になり、重い口を開く感じでお話になる。
「全くわからないわけじゃない。いちおう可能性のある場所の目星はつけている。」
「それはどこですか?キースはどこにいるの?」
カタリナ様は身を乗り出すような感じだ。
「皆に宿へ行ってくれと話した後、わたしはアレクサンダーを使ってキースの居場所をさがした。マリアが闇の魔力を持つ者をみたと証言しただろう。その黒いフードの人物が歩いて行った方向に一致したのだ。先ほどキースの誘拐に闇の魔力が使われた話をしただろう。闇の魔力は漏れたとはいえ厳重に取り締まられているから使える人物は限られている。だからアレクサンダーの示した方向とマリアの証言した闇の魔力の人物とが全く無関係とは思えなかった。皆も知っているように、マリアが闇の魔力の気配を感じることのできる時間はそう長くはない。そう考えてアレクサンダーにキースのいそうな場所を探させたのだ。」
「それで...わかったのですか?」
「ああ、アレクサンダーはある屋敷を特定してキースはここにいると示した。」
カタリナ様はすっくと立ちあがり、
「場所を教えてください。すぐに行きます。」
とおっしゃるが、すぐにジオルド様に肩をつかまれて
「こんな夜更けにですか?危険すぎます。カタリナ、落ち着いてください。」
強制的に着席させられる。
「ところで、ラーナ様、その魔法道具は正規の仕事に使うのは初めてなんですよね?それが指し示したからといってどこまで信用できるものなのですか?」
「確かに正規の仕事に使うのは初めてだが、魔法省内で実験している。ただ迷子になった職員とキースの場合と何らかの要因で違ってくるという可能性までは否定できない。しかしキース誘拐事件については闇の魔力がかかわっていることが明らかになったわけだから、彼の軟禁先に闇の魔力がとりついているということであれば、アレクサンダーの性能についてある程度の裏付けにはなるのではないか?」
「闇の魔力の気配をマリアに確認してもらうということですか。」
「そうだ。今回はマリアだけでなく、闇の魔力について経験のあるソラにも来てもらっている。なにか手掛かりをつかめるはずだ。」
「ラーナ様、もしかしてそれを見越してこの二人を....」
「高く評価していただいてありがたいが、ジオルド王子、それは買いかぶりというものだ。しかしわたし自身、ある程度は予想していたが、ここまではっきりと闇の魔力がこの事件にかかわっていたことが明らかになったことには正直驚いている。」
カタリナ様が行きましょうと言いながら再び乗り出そうとしたので、ラーナ様がとめる。
「カタリナ嬢、場所は町のはずれでここからかなり距離がある。今動くのはあまりにも危険すぎる。夜が明けてからだ。」
とおっしゃれた。
翌朝、黙々と朝食を食べ、アレクサンダー君が示したというキース様の軟禁されていらっしゃるという屋敷へ向かう。
馬車はかなりおんぼろなものを使う。治安の悪い場所を通るので、安全のためにあまり良い馬車を使うわけにはいかないらしい。しかも現場から一定の距離をおいた場所に馬車を置いてそこからは歩くということだった。
ゴミやがれきの山、ボロボロで破れた布のような汚い衣服を着た人々がたむろしたり、寝転がったり、死んだ魚のようなうつろな目をしている。
「目があったら付きまとわれる恐れもある。外を見るな。」
馬車を降りたらラーナ様から配られた薄汚れたマントをはおる。
そうしてラーナ様に案内され、10分ほど歩いたときだった。
「ほら、あそこだ。」
と指さされた場所には、これまでのがれきとゴミの山がとぎれて御殿ともいうべきか立派な屋敷が立っていた。中庭などもあるのだろう、かなり広い範囲を壁で囲んでいる。
「なんでこんなところに立派な屋敷が...。」
「立派というより、成金趣味といったところだろう。この町の元締めか何かの屋敷で、ろくな奴がすんでいるとは思えない。みろ警備も異様に厳重だ。」
がたいのいい筋肉隆々と言った屈強そうな男たちが鋭い目つきで周囲を警戒している。
「マリア、ソラ何かわかるか?何も感じないようならもっと近づくしかないが...。」
ラーナ様がわたしとソラさんにお尋ねになられた。