「いいえ、ここからでも充分です。」
「具体的には何か見えるのか?それとも見えないのか?」
「闇の魔力が充満しています。先日の人物とよく似ています。」
「僕も、マリアさんほどはっきりはしませんが、あの独特な気配をなんとなく感じますね。」
「ここにキースがいるのね。助けに行かなくちゃ」
「こんな警備が厳重な場所に無策で突っ込んでいくつもりですか?カタリナ、落ち着いてください。」
ジオルド様の表情は怒っていて、カタリナ様を強く引き留めた。
「す、すみません」
「ラーナ様、確かにこの屋敷にキースがとらわれている可能性は高いと思います。乗り込みますか?」ジオルド様がお尋ねになる。
「う~む」
ラーナ様は考え込む。
戦闘になったらラーナ様の風魔法、ジオルド様の剣技、ソラさんの護身術兼格闘術で切り抜けることになる。ただわたしは、ぞわぞわする闇の魔力にあてられそうだ。皆さんにどんな危険があるかわからない。
「あ、あの...。」
「どうしたマリア、顔色が悪いぞ。体調がすぐれないなら宿にもどるか?」
「いいえ、大丈夫です。それよりもあの屋敷にまとわりつく闇の気配は強烈でおどろおどろしいのでどんな危険が待ち構えているかわかりません。何しろ屋敷全体が闇に呑み込まれているような感じなのです。」
「僕もマリアさんのように完全にはわかりませんが、あの屋敷は、薄気味悪く感じます。ここにいるだけでも背筋がぞわぞわする感じで 、警備を潜り抜けてもその先を想像するだけでも不気味です。」
「そうか、それほどまでに危険な場所にただのりこむのは得策ではないな。それでは魔法省に連絡をとってみよう。」
ラーナ様は近くにある高い建物に登って行った。
しばらく皆さん黙っていたが、ジオルド様が話しかけてくる。
「マリア、話すのが嫌でなけければ教えてほしいのですが、あの屋敷の闇の魔力は前のものとどのように違うのですか?」
「はい、上手く言えなくて申し訳ないのですが、闇の濃さのような違いでしょうか?」
「闇の濃さですか...。」
「はい。わたしには、闇の魔力が黒いかすみか煙のように見えるのですが、これまで濃いと感じた闇の魔力は、ラファエルさんにとりついていたもので単純な復讐心ヵらくるもので濃いとは言ってもある意味あっさりしたかんじのものでしたが、今回のものは,なんというか汚水というか粘液というかどろどろとした濃さでぞわぞわするのです。」
「僕もぞわぞわします。近づいたら取り込まれそうなそんな不気味な感じです。」
「そうですか...。」
ラーナ様が戻ってきた。
「だいぶ危険な場所ということで魔法省に応援を頼むことにした。従って今日は宿に戻り、魔法省の応援を待つことにする。」
カタリナ様が叫ぶように話す。
「??それではいつ屋敷に向かうことになるのですか?」
ラーナ様は少し困り顔になって答えた。
「特急で応援を頼んでいる。しかしわれわれもここまで馬車で3日かかっている。応援が到着してからだから明日以降になるだろう。」
「明日以降ですか...。」
「あの、ラーナ様」
「どうしたカタリナ」
「わたし、待てません。」
「何を言う、非常に危険な場所だ。もしかしたらカタリナ嬢自身もとりこまれてしまうかもしれないのだぞ。」
「危険な場所だということはよくわかりました。それほど危険なら、キースが明日まで無事である保障はないというこよですよね?」
「今こうしている間にもキースに何かあったらと思うのにこのまま待機して待つなんてわたしにはできません。」
「カタリナ嬢、はっきり言おう。キースは無事な可能性がが高い。なぜならこのアレクサンダーは魔力の高い人間をさがせるのだが、魔力のない人間の人探しには向かないのだ。まあ、そこは試作品の試作品たるゆえんでもともとジェフリーの依頼でつくったわけだからな。また死者になっていたら魔力のない人間と同じになるから反応しない。縁起でもない話になるが」
「そうであってもこれからキースに危害が加えられたりするかもしれません。身代金やら何か条件があれば、わたしのときのように犯人から条件がだされるのに、全くそういうことがない。このまま待機するなんて考えられません。どうかわたしだけでもいいのであの屋敷に行かせてもらえませんか?」
わたしもソラさんも驚いたが、カタリナ様としてはいてもたってもいられないのだろう。
「ラーナ様、僕からもお願いします。」
「「え...ジオルド様」」
わたしとカタリナ様は驚いてジオルド様を見る。
ジオルド様は困ったような笑みを浮かべてカタリナ様をみるとラーナ様に向き合って
「僕がついていきます。カタリナだけにはしません。ですから許可していただけないでしょうか?」
「ジオルド王子、本気か?」
ラーナ様はいぶかしげな表情だ。
「もちろんです。」
「こういう顔をした時のカタリナは止まりません。止めたところで一人でも乗り込んでいくでしょう。その方が目が届かない分はるかに危険です。」
カタリナ様がひるんでいる。ジオルド様はカタリナ様に微笑みかける。
「あなたの考えそうなことはわかりますよ。」
ぼそりとカタリナ様にお話しされる。
「う~む」ラーナ様はしばらく考え込んでいたが、
「そうだな、相手は何の条件を示していないなら、キースに危害を加えることが目的な可能性もあるし、危険な場所だからこそ早めに助けなければならないのも確かだ。ただし、単独行動が最も困るから君たちだけというのは許可できない。」
「ラーナ様...。」
「わからないか?いっそこのメンツで乗り込むかということだ。」
「ありがとうございます。ラーナ様」
「ただ、正面から入れてくれと言って素直に入れてくれるわけじゃないのはわかるだろう。入れそうな場所や手薄な場所をさがすしかない。おそらく具体的な侵入者を想定していないだろうから罠の可能性は薄いだろう。」
ラーナ様は、たよりがいのある部下を見つめて
「ソラ、頼めるか」
「そういうことなら任せてください。そうときまったら全力を尽くしますよ」
ソラさんは、にやりと笑みを浮かべた。
「一人で大丈夫なの?」
カタリナ様がおたずねになるが
「わたしはスラムや治安の悪い場所で育ってきましたからこういう場所を探るのは得意なのですよ。しかも一人のほうが動きやすいので任せてください。」
ソラさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべて答える。
わたしたちは屋敷から離れた場所でソラさんを待つことにする。
カタリナ様はジオルド様にお礼を言っていた。
ジオルド様は困ったような笑顔で、
「あの顔をした時のカタリナはとまりませんからね。」
「あの顔ってどんな顔ですか?」
「こうと決めた時の顔ですよ。僕らは8歳のころからつきあっているんですよ。それに...。」
「それに?」
「すぐに助けに行くと言うだろうと思っていましたよ。助けを求める人がいたらあたりまえのように走って助けようとする。それがカタリナですから。」
カタリナ様は目を白黒させている。
「怒っているわけではないのですよ。むしろカタリナのそういうところを僕は好ましくも思っているのですよ。だって君は、とらわれているのがキースではなく僕であっても駆けつけてくれるでしょう。」
「はい。そのとおりです。」
それまで戸惑っていたカタリナ様はこの質問に関しては即答だった。そうだ、そういう人なのだ。カタリナ様は。平民であるわたしをかばって悪口を言われているのを何度も聞いている。損得や社交界でどうあつかわれるかとか考えない。
「君のそういうところが好きですよ。」
とジオルド様はカタリナ様の頭をなでる。
「だからこの事件が解決したら覚悟してください。」
とつぶやいた気がした。