さて、アレクサンダー君だが、ジェフリー様に引き渡す予定がわたしから離れたがらないということで、わたしの「ペット」になることになった。人の居場所を探すのに大活躍するだろう。
一方、闇の使い魔の黒い子犬は、ポチちゃんと名付けられた。かわいいお名前だ。いろいろ取り調べようとしたが、カタリナ様から離れるのをかたくなにいやがり、逃げるときには、黒いかすみになったり、ついにカタリナ様の影にもぐることを覚えて、引き離せなくなった。
「こうなったらカタリナに面倒をみてもらうしかないな。」
とラーナ様はつぶやくが、あまり残念そうに見えない。
結論として、カタリナ様になつききっているのは、キース様からエネルギーを吸収していたからで、カタリナ様が「子犬のようになってくれたら」という願いに反応したからということで、害はないだろうという結論になった。
またラーナ様があまり残念そうでなかったのは、ラーナ様が個人的に気に入っていたカタリナ様を「闇の魔力を解呪した実績があり、現在は闇の使い魔の使い手である」として魔法省へ入省させることが公式に認められることになったからだった。
さて数日後、キース様が目を覚ましたという情報が生徒会室にもたらされ、みんなで快気祝いにとクラエス家にいくことになった。
キース様の寝室の隣の部屋まで案内されたが、カタリナ様とキース様の話し声が聞こえてきた。
「カタリナが一人の女性として好きなんだ。」という声が扉越しに聞こえるに及んで耐えられなくなったジオルド様が扉を開ける。
「そこまでです。キース。カタリナは婚約者である僕のものです。」
「何をおっしゃってるんですか?ジオルド様。カタリナ様はあなたのものではありません。」
「そのとおりだ。カタリナはお前のものではない。」
「そうです。カタリナ様は誰のものでもありません。そうですわ、カタリナ様、おすすめの小説を持ってきました。」
「ソフィア、具合を悪くしているのはカタリナではなくキースだぞ。お見舞いの品がおかしくないか?」
皆さんのお話をききながら
「私は、お菓子をつくってきました。皆さんで召し上がりましょう。アレクサンダーもいます。」
ジオルド様がカタリナ様をさっとだきしめて
「カタリナは僕のものです。」
と耳元でささやいている。
しかし、キース様が引き寄せて
「だめです。ジオルド様にわたしたくありません。」
「いうようになりましたね。キース」
二人はにらみ合っている。
カタリナ様は、どうしていいかわからずに突っ立っている状態だったので声をおかけする。
「カタリナ様。こちらにお菓子を用意してあります。お茶にしましょう。」
「あ、そうなの、マリア、ありがとう。」
クラエス家の使用人の皆さんは素早く動いてお茶会の準備がたちまちととのった。お茶会になって、二人のにらみあいはうやむやになった。
キース様が療養を終えてから数日後、いよいよわたしたちの卒業式だ。ジオルド様が卒業生代表、生徒会長としてあいさつをしている。7割近くの女生徒たちは、頬を染めて見つめている。
卒業式はわりとあっさりだったが、例によって卒業パーティの盛り上がりはすごい。ジオルド様なんかどこにいるかわからない感じだ。アラン様も同じだがその周囲から漏れてくる話の内容はその演奏をたたえる声が多く聞こえてくるのが大きな違いだ。メアリ様、ソフィア様の周りのにも多くの生徒たちが取り囲んで卒業を名残惜しむ会話が聞こえてくる。
メアリ様の周りからは社交界の華と称えられるメアリ様の立ち居振る舞いを称える話題、ソフィア様の周囲は趣味の小説の話や、その教養をたたえる話題が聞こえてくる。そんなときにどうやらカタリナ様と次期会長のフレイさんと副会長のジンジャーさんが話している。ジンジャーにフレイのドレスが本人のプロポーションが良すぎて着れないとかいう会話の後、
「わたしのドレスをかしてあげるわよ。」
という声が耳に飛び込んできた。
「え~カタリナ様の??」
「ジンジャーなら私のサイズで問題なく入りそうだし...。」
「パーティが終わったらドレスを合わせましよう。」
どこから聞きつけたのかメアリ様が3人のもとへ息を切らしながら
「カタリナ様、今ドレスを貸すという話が聞こえたのですが...。」
走っていく。
「わたしにも、わたしにもドレスを貸してくださいませ。」
「メアリ様ばかりずるいですわ。わたしもお借りしたいです。」
とおっしゃるのが聞こえてくる。するとほかの女生徒たちも
わたしもわたしもと言い出しパニック状態になっている。
それを見たのかキース様、ジオルド様、アラン様、ニコル様がいらっしゃる。後輩のフレイ嬢もいて、カタリナ様の周囲にあつまった女性たちをなだめていた。
私の周りにも多くの後輩やクラスメートがあつまってきていて会話を楽しんでいた。後輩の男の子や女の子に尊敬のまなざしで見つめられて気恥ずかしい感じだ。
「平民のご出身と聞いていますが、家庭教師無しで生徒会にお入りになられたんですね。」
「すごいですね。我々は、頑張ってもあの成績は取れません。」
「どこかの令嬢と勘違いされて辛い思いをされたようですが、むしろマリア先輩はどこ行っても通用します。」
「魔法省に入られるそうですね。凄いです。」
同級生はそれとなく、後輩の男の子は上気した目で口説いてくる人さえいた。やっぱり優秀な夫人がほしいということのようで、領地経営の話を持ち掛けてくる人もいた。私が答えるとその答えに満足したようで、魔法省をやめてもらえないかと口説いてくる人が増えて、逆に困ってしまった。それをみた後輩の女の子たちが
「マリア先輩が困ってるじゃない」
同級生の女の子たちは、
「カタリナ様がいないならわたしたちがみはってるんだから」
みんな私よりも身分の高い貴族の令嬢なのにかばってくださる。
「いいだろう。優秀な妻がいれば助かるんだから。」
「マリア先輩のお気持ちがだいじじゃないですか。」
「ごめんなさい。」
わたしは丁重に謝った。ちなみにわたしを嫌っていた令嬢たちにはスルーしていたのでその意味でもホッとできる卒業パーティだった。もっともわたしに好意的な同級生や後輩の環が彼女たちを近づけなかったという面もある。
卒業パーティが終わると今度はお城でジオルド様とアラン様の卒業パーティだ。
アラン様とメアリ様が
「マリア、うちの馬車に乗ってくれ。」
「マリアさん、一緒に行きましょう。」
と誘ってくださる。後で聞いた話だが、アスカルト家は、誰も私を乗せる馬車がなかったら乗せてくださるおつもりだったが、アラン王子がわたしをまねいたので遠慮したらしい。ジンジャーさんは、ドレス合わせしてからクラエス家の馬車でお城にやってきた。
お城のパーティにきてからが大変だった。エスコートがいらない会と思って油断していたのがたいへんなことになった。
令嬢たちの意地悪がなくなった半面、わたしは、あっというまに男性たちに声をかけられた。わたしの容姿をほめるだけでなく、いかに優秀かということで口説いてくる。ダンスにも誘われた。ドレスの贈り物もいただいた。断ろうとしても断り切れずに受け取らざるを得なかった。わたしはメアリ様をはじめ友人になってくださった皆さんから貴族の礼節を込めた態度で丁重にお断りし続け、くたくたになった。
なかには、人柄まで褒められてことわるのがまずいのではないかとさえ思い始めて、それを見かねた同級生やフレイさん、ジンジャーさんがわたしを見つけて引き離してくれた。
ドレスのサイズは半分はピッタリなものでどうやって計ったのか気持ち悪く感じた。
「男性たちに囲まれていたマリア先輩をお連れしました。」
「疲れました。」
「すまなかったマリア。こういう事態は予測できたな。エスコート役をみつくろっておけばよかったな。」
ニコル様が謝られる。
「いいえ、次々にお誘いいただいて知らない方ばっかりだったので、お断りしてしまいました。どなたかにお願いすればよかったのです。」
「今日のドレスはどうしたの?」
カタリナ様がおたずねになる。