「あ、これは魔法省からレンタルしたものです。ジンジャーさんから聞きました。ジンジャーさんのドレスはカタリナ様からお借りしたもののようですね。わたしもお借りすればよかったです。」
「マリアさんのいうとおりでわたしもカタリナ様からドレスをお借りしたかったです。」
「メアリ様は、ご自分のドレスをたくさんお持ちではないですか。義姉さんのを借りてもサイズがあわないかもしれないでしょう?」
「それはそれ、これはこれですわ。」
「そんなに堂々と宣言されても...。」
「さっきパニックになったろ。その話はやめろ。」
「義姉さん、義姉さんてば...あ~これはこっちの話聞いてないやつだ。」
「カタリナ様は、何か周りを威嚇されているようで、こちらの話はお耳に入っていないようです。」
「義姉さん....わかりやすい状況把握ありがとう、ジンジャー。」
「いいえ、マリア先輩のことが心配なのでしょう。なにしろどうやってサイズぴったりのドレスを贈ることができたのか...」
「あつ...。」
カタリナ様がテーブルの上のソースチューリンにぶつかってひっくり返してしまったようで、ドレスにべっとりソースがついている。
「キース、ごめん、マリアのこと頼んだわ。くれぐれもしっかり守ってあげて」
「それはいいけど義姉さん、汚れを落としたらすぐに戻ってきてね。」
「わかった、わかったわ。」
しかし、いつまでもキース様と一緒にいるわけにもいかず、彼は令嬢たちに声をかけられたら踊らなければならないし、カタリナ様ももどってきたらジオルド様につかまって踊っている。踊り終わるとキース様に「あちらで令嬢たちがお待ちです」と伝えられて踊り始めていた。わたしも多くの男性に声をかけられるが、見知らぬ人ばかりで、しかもしっかり踊れる自信がなかったので丁重にお断りし続けた。声をかけてきたのに、なぜか途中であきらめたようにわたしから離れる男性がいると思ったら、カタリナ様がにらんでいるようだった。
そうこうしていくうちに皆さん一通りダンスを終えたようで残りの食事を始める方もちらほら姿が見える。
「マリア、こっちこっち」
カタリナ様が手招きしてくれる。
メアリ様とソフィア様もいらっしゃって、ダンスを終えて残った食事を食べ始めようとしていたところだった。しばらく食事した後
「これにてジオルド殿下アラン殿下卒業記念パーティは閉会いたします。気を付けてお帰りください。お泊りの方はそれぞれのお部屋をご案内いたします。」
司会者の宣言でパーティは終了した。メアリ様のお部屋で女子会、パジャマパーティをすることになっている。カタリナ様、ソフィア様ともご一緒で、実は今日一番の楽しみだ。
メアリ様の部屋に集合したが、カタリナ様がいらしていない。
「カタリナ様がおそいですね。」
「様子をみてきますね。」
なにもなければよいのだがと思っていると間もなくカタリナ様もメアリ様に連れられて現れた。パジャマの上にガウンをお召しになっている。
「カタリナ様、お疲れのようですが大丈夫ですか?」
「お菓子ならこちらに。どうぞ。」
「お茶もジュースもあるので、召し上がってください。」
「ありがとう。」
カタリナ様は、もぐもぐごくごくお召し上がりになる。
「うん、おいしい。みんなの顔見て、お菓子食べたら元気出たわ。」
「ほんとに今日は、予定びっしりで疲れましたね。」
「学園の卒業パーティのあとにお城でパーティでしたからへとへとです。」
「ああ、そういえばマリアは学園以外のパーティははじめてだったものね。」
「はい。皆さんにおしえていただいたようにふるまったつもりですが、たくさんミスしていたのではと心配でした。」
「いえ、だいじょうぶでしたわ。初めてとは思えないほど完璧でしたわ。」
「そういっていただけると嬉しいです。たくさんの方にお声がけいただいたので、せいいっぱいで粗相がなかったかと心配で。」
「本当にすごい人数にお誘い受けてましたものね。」
「でもマリアさん、どの方のお誘いもお受けにならなかったんですよね。」
「えつ?そうなの?マリア」
「はい。ちゃんと踊れる自信がなかったので。」
「わたしもダンスは苦手だけど、みんなが上手くリードしてくれるからそれなりになるけど...。」
「カタリナ様の場合は、ジオルド様やキース様なので上手さが特別ですので。でも男性のリードに委ねれば寄れなりに踊れますし、マリアさんも学園のダンスレッスンの授業は受けているでしょう。」
「はい。ですが、見知らぬ男性に身をあづけるのはちょっと気が引けます。」
「それもそうですわね。わたしも面識のない方はお断りしてますから。」
「でも素敵な方なら踊ってみてもよかったのではないでしょうか?そういう方はいらっしゃらなかったのですか?」
ソフィア様の目はキラキラしている。
「素敵な方ですか....。」
素敵な方といえば生徒会メンバーの男性たちだ。身分、容姿、財力、人柄、能力全て最高峰の方々だ。そんな皆さんに見慣れているわたしからすると素敵な方と言った場合思い当たらない。
「マリアはどんな方が好みなの?」
「好みの方ですか....。」
どうしてもカタリナ様の顔が浮かんでしまうが、カタリナ様のどういうところがいいのかというと...
「いつも笑顔で明るい方がいいですね。あと私のお菓子をおいしい、おいしいと召し上がってくださる方がいいです。」
「わたしも明るくて元気な方がいいです。髪が茶色で、瞳が水色な方がいいです。」
とおっしゃるメアリ様。アラン様は銀髪で瞳が黒い。誰のことをおっしゃっているんだろう?もしかしてカタリナ様?
「カタリナ様はどのような方がいいんですか?」
「わたしは...う~ん、思い当たらないなぁ。ソフィアはどうなの?」
ソフィア様は、ロマンス小説の主人公の王子、騎士、将軍、軍師、魔法使い、盗賊やヒロインの相手、主人公の味方の軍師、盗賊、騎士や魔法使いの名前が挙がる。
「ソフィア、それって小説...。」
カタリナ様が苦笑しながらもお聞きになっている。わたしやメアリ様もロマンス小説はきらいではないので苦笑しながらも聞いている。
「そうだ、最近うしわれし国の王子様の物語の新刊が出たんです。どうですか?」
「ダッタ国に滅ぼされたミング国のユーロー王子が有志を集めて立ち上がる?おもしろそうね。」
「はい。こちらのハクト国のビング王子のお話もおもしろいです。」
カタリナ様、メアリ様、わたしもそれぞれソフィア様から貸していただくことになった。
「そういえば、最近ブレーモン通りにプランタンというお菓子屋さんが開店したんです。味付けが上品なのでおすすめです。」
「そうなの?」
「心当たりがあるので私もためしてみたいです。」
「学園の食堂に出すの?」
学園の食堂に出していることは親友である皆さんだけ話してある。はじめはわたしのものだと平民のものなんかと避けられるから話してなかったのだが、2年生になってからはわたしのものだとばれると、逆にわたしのものだけが売れてほかのお菓子の売り上げが下がりかねないので秘密になっている。皆さんはわたしのものを選んで買ってくださる。
「う~ん、皆さんも卒業ですから、学園で召し上がることはもうないですもんね。」
「魔法省で副業が認められればクラエス家で援助するわよ。」
「ハント家もパトロンになりますわ」
「アスカルト家もです。」
「ありがとうございます。」
「最近コリンナ商会の髪留めでこんなのがあったんです。」
「そうなの?色合いがすてきね。」
「この櫛もカキやアワビの貝殻の内側を使うとこんな感じに」
「角度を変えると色合いがかわるのね。」
「この腕輪も」「ネックレスがすてきで」
えんえんと楽しくお話が続いた。
話しつかれてふらふらになり自分の寝室にもどる。辛いこともあったが、終わってみたら楽しく思い出の多い学園生活だった。週間の春休みが終わったらいよいよカタリナ様と一緒の魔法省の入省式だ。メアリ様やソフィア様と会う機会が少なくなるのは残念だが、新たな出会いもあるだろう。楽しみだ。