ある日学園の中庭。
「なんでジオルド様はあんな女がいいのかしら。」
「そうね。魔力もないし、成績も平均点で、こないだ80位だったじゃない。」
「あんな成績で公爵家はなにもおっしゃらないのかしら。」
「マナーだって中途半端だし、ちっともエレガントじゃない。」
「スザンナ様やメアリ様はお美しくて優秀な方だし、セリーナ様も品があってかわいらしい方だけど、あの女は吊り目でおバカでどう見ても王子の婚約者につりあわないわ。」
「そうよそうよ。あんな女身分だけじゃない。すてられればいいのに。」
「しかもどろんこがすきみたいだし。賤しいどろんこがあの女にふさわしいわ。」
そんなうわさ話が聞こえてきた。わたしも誰の話かわかったが、陰で隠れているジンジャーもわかっていたみたいだった。
次の瞬間突風が吹いてきて、令嬢たちの髪の毛をぐちゃぐちゃにし、ドレスをまくり上げた。
「なに、なんなの??」
何やら満足顔のジンジャーがなんの偶然かわたしのいるほうにあるいてきた。ジンジャーはむやみやたらに学園内で魔法を使わないようにといわれているが、カタリナ様の悪口に納得がいかずにこっそり魔法を使ったに違いなかった。わたしは、思わず笑顔になってしまう。そしてジンジャーに
「ここまでしているのに自覚ないんだ?」
「何の話?」
「やっぱりジンジャーもカタリナ様のこと大好きだってこと。」
ジンジャーは、ほおを膨らませ、顔を赤らめつつもわたしをにらみつけてきた。
さて今年は文化祭の年だ。
魔法学園の文化祭は食の祭典とも呼ばれ、様々な飲食店の出店が並び、新作を発表する場でもある。今年は、料理サークル以外でもマリア先輩がジオルド様に企画書を提出して認められたので、菓子店を出すことになっている。
「フレイ、マリア先輩の「パティスリー・キャンベル菓子店が向こうにあったけど。」
「え、それはどこ?」
「向こうのブース列の三つ目」
「行きましょう。」
看板に「クラエス家御用達パティスリー・キャンベル菓子店」と書いてある。
「「なぜわざわざクラエス家御用達」と書いたのかしら。」
「カタリナ様の「花壇」の野菜を使ったってことはあるんでしょうけど..」
わたしとジンジャーは話しながらマリア先輩のお店に着く。
「いらっしゃいませ、あ、ジンジャーさんにフレイさん。」
「こんにちは。マリア先輩。えっとおすすめは...。」
「在庫があと半分しかないんですね。」
ジンジャーがつぶやくように言う。
「おかげさまで皆さんに好評で...試食したらおいしいおいしいと皆さんおっしゃられて...」
「たしかマリア先輩のお菓子は学園の食堂にこっそり出されているんですよね。」
「ええ、1/3くらいはそうですね。昨年度は、平民の作ったものなどという感じでしたが、この売上だと、今年度は生徒会副会長のマリア・キャンベルお手製ということで逆にわたしのお菓子しか売れなくなりそうで、厨房の方に迷惑がかからないか心配です。」
わたしとジンジャーは苦笑するしかない。
マリア先輩は何か気付いたように
「えっとおすすめでしたね。いままで生徒会にも出したクッキーやマフィンもありますが、カタリナ様の野菜をつかったキャロットタルトやパンプキンパイ、パンプキンタルトもあるので...難しいですね。ただカボチャ嫌いな人にも抵抗なく食べられるようにした点は自信作です。」
「試食してみていいですか?」
「どうぞ。こちらに小さく切ったものがあります。一通り味わえるようにしました。」
「「うん、おいしいです。さすがです。」」
わたしもジンジャーもハモってしまった。
「キャロットタルト、パンプキンタルトとレーズン入りマフィン、チョコチップクッキーください。」
「わたしも同じものでお願いします。」
わたしとジンジャーはほくほく顔だ。
「早めに行ってよかったわね。あの調子だと売り切れも時間の問題かも。」
「うん。食堂の売店でも売り切れないうちに買うようにしないと。」
「カタリナ様とメアリ様、ソフィア様が買っていく分を見込んで作るからすぐには売り切れないでしょうけど...。」
「お菓子の名前しか値札には書かれないけど、わたしたちにとってはバレバレだね。」
「ある意味生徒会役員の隠れた特権かも。」
そんなことを言いながら生徒会室へ行く。仕事の後の楽しみだ。
さて、生徒会の上級生の皆さんは美男美女ぞろいで人気がある。ジオルド様が人寄せのために分散配置の指示をしたが、そのほかに生徒会劇をやってほしいとの要望が多く寄せられたため、ジオルド様が「これは無視できないですね」とおっしゃる。
ソフィア様が「それではわたしがシナリオを作りますわ。」と手を挙げた。
世紀のラブロマンスをつくるんだと、かなり試行錯誤してつくったのは、子どももよく知っている童話を上手に膨らませた素晴らしいシナリオだった。
はじめはメアリ様、ソフィア様がマリア先輩と一緒にカタリナ様にも声をかけたが、「木や石の役ならやります」「力仕事ならやります」「生徒会メンバーではないし」とお断りになった。「一夜限りのプリンセス」と題された劇の配役は、ジオルド様が王子様になり、マリアさんがヒロインの「プリンセス」になった。ヒロインの配役は美しいマリアンヌという末娘で、最初マリア先輩が貴族令嬢たちの嫉妬を恐れてメアリ様を推薦したが、その時にジオルド様とメアリ様の周りに漂ったどす黒い雰囲気は一生忘れないだろうと思うくらい恐ろしいものだった。マリア先輩が蒼くなって即答でヒロイン役をやりますと言い出したくらいで、たとえ劇であってもカップルとしては絶対あり得ないと万人が再認識させられた。村人はキース様、継母役はメアリ様になった。伴奏役はアラン様、ニコル様は魅力的過ぎて観劇者がメロメロになる可能性があるということで外された。そのため、生徒会メンバーでは足りなくなるので、義姉役は、生徒会ぐるみでシェナ・ネルソン様にお願いしたものの、当日になってけがをされて出演できなくなった。
「ジオルド様、シェナ様がけがをされて舞台にあがれないそうです。どうしましょうか?」
1年生の気弱そうな男子生徒がジオルド様に伝える。生徒会室に重苦しい空気が流れる。皆さん顔を見合わせている。
皆さん顔を見合わせる。
この代役は1年生がやるわけにはいかないし、さすがにマリア先輩をイジメてきた令嬢たちに無理やり頼むわけにはいかない。要は演技をしてもらえればいいんだし、テストじゃないんだからセリフのメモをこっそりみるのもありだ。それに誰もが納得がいく人であればいい。緊急の代役なら皆さんが気心が知れていてフォローできる人がいい。
「わたしはカタリナ様がいいと思います。」
「何を言うのよ。フレイ」
「わたしもカタリナ様がいいと思います。カタリナ様なら誰もが納得すると思います。」
「ジンジャーまで...。」
ジオルド様が笑みを浮かべ、
「カタリナ、セリフもそれほど多くないんだから大丈夫ですよ。お願いします。」
「わたしもカタリナ様にお願いしたいと思いました。ぜひお願いできませんか?」
舞台監督のソフィア様。
「カタリナ様、一緒に思い出をつくりましょう。」
マリア先輩はほんとうにカタリナ様のことが大好きなんだなあと感じられた。