さて文化祭が終わって日常の日々が戻ってきた。
わたしにまたまたお見合いの話が来た。何度目だろうか。
「あと1時間か....。」
「先日話していたお見合い?」
「ええ、お見合いはしないって言っているのにお父様はいつになったらあきらめるのかしら。」
「高位の貴族令嬢ならではのなやみね。」
「わたしは、あなたといっしょに魔法省で働きたいのよ。そしてラーナ・スミス様のようになるの。」
「二人とも~なにか手伝うことある?」
カタリナ様が声をかけられる。
「大丈夫です。これはわたしたちの仕事ですので」
即答でジンジャーが断る。
「そう。じゃあこのごみはかたづけておくわね。」
「カタリナ様、ありがとうございます。」
「どういたしまして~お菓子食べてばっかだしこのくらいはしないと。」
時計を見る。
「しかたない。わたしは帰ります。」
「フレイ、お疲れ様。」
その日、わたしは、ニコル様とお見合いをすることになっている。
ニコル様もお見合いに乗り気に見えない。
これはチャンスだとばかりにニコル様に「先制攻撃」をする。
いやこの場合「先制援護」といったほうが正確なのかもしれない。
「わたしは、婚約するつもりはないのでご安心ください。」
ニコル様は驚いたようだ。
わたしは出されたお茶に口をつけながら、ニコル様の言葉を待つ。
「このお見合いがあなたの本意ではないことはわかりましたが、なぜ安心してください、なのですか?」
「だって、アスカルト様もお見合いに乗り気ではないのではありませんか?」
ニコル様は再び固まってしまった。
「もしかしてご自覚なさっていませんでしたか?」
「ああ、俺はちゃんとお見合いするつもりでいたんだが...。」
「そうですか。あえて言わせていただくと女性は鋭いですから相手が乗り気かどうかくらいはわかるものです。」
するとニコル様は安心なさったように
「....このままでは、俺は婚約者を作ることはできない。」
と言った後で、一見ポーカーフェイスに見えるその顔に「しまった」という気持ちがにじみ出ていた。これはわたしに心を開いたなと思った。
「それはどうしてですか?」
とたずねる。
「小さいころから片思いの女性がいるんだ。妹の友人なのだが彼女には婚約者がいる。だから想いを断ち切って別の人を見つけて婚姻しなければと考えている。」
「よくわからないのですが、アスカルト様はなぜその想いを断ち切らなければならないんですか?婚約者がいるだけのことですよね?それとも二人は愛し合っているんですか?」
「彼女の婚約者は、彼女のことを愛している。」
「相手の女性本人はどうなのですか?」
「今はまだそうではないようだが...。」
「それなら問題ないじゃないですか。アスカルト様が彼女の心を射止めて奪ってしまえばいいと思いますが...。」
「その婚約者は俺の友人でもあって親しくしている。常識的に考えて婚約者から奪うなんてありえないことだ。」
わたしは、ニコル様にとどめを刺すことにした。あとはいかにニコル様のプライドを傷つけずに自覚させることだ。わたしは全て知っている。ニコル様の想い人は間違いなくカタリナ様で、妹のソフィア様がさかんに兄であるニコル様とカタリナ様が結ばれるようニコル様の魅力をしつこく語って聞かせているのを毎日のように見ているのだから。
わたしはクスクス笑みをうかべて
「ニコル様は、すごい色気をお持ちで、その色気をまき散らされて、その色気にあてられる方は、老若男女数が知れないのです。心当たりがありませんか?」
「妹がそう言っていたし、見も知らない者においまわされたこともある。」
「それなのに常識的にって、おうわさに聞いた通りまじめな方なのですね。」
「なんでそんなに俺のことを知っているんだ?」
「アスカルト様のことは生徒会の先輩たちがよくお話しされているのです。特にソフィア様はよくお話しされているので。」
「君は魔法学園の生徒会に入っているのか?」
ニコル様の口調に焦りが混じったのを感じた。
「え、お見合いの資料に書いてあったと思うのですが...やはり、ほとんど目を通されていないか字面を追っているだけなのですね。」
ニコル様は押し黙ってしまった。必死に頭を回転させているのだろうがわたしはお構いなしに話を続ける。
「いろいろお話を伺っていたので一度お会いしたいとは思っていたのです。ところでソフィア様は今回のお見合いの件は何もおっしゃってなかったのですか?もしかしてご存じないとか...」
「ああ、妹には話していない。」
「そうでしょうね。アスカルト様がお見合いなさると聞いたら、ソフィア様が大反対なさるでしょうから。」
「君は、どうしてそこまでわかるんだ?」
「ソフィア様には、アスカルト様と結ばれてほしい方がいらっしゃるようなので。はっきり申し上げるとカタリナ・クラエス様に頻繁にアスカルト様のすばらしさをお話しされています。」
ニコル様は、頭を抱えている。
「ソフィア様は、カタリナ様を慕っておいでなので、カタリナ様がお兄様のお嫁になってほしいとお考えなのでしょう。よく小説のお話をお二人で楽しそうに話しておられますから。」
ニコル様は観念したという雰囲気をただよわせたが、気を取り直して話題を変えてきた。
「君は、先ほど誰とも婚約するつもりはないと言っていたな。それはどうしてなんだ?君は美人で優秀だし、さらに言えば侯爵家の令嬢だ。引く手あまただろう」
「それは、わたしが自分の力で生きていきたいからです。」
「それと婚約しないことと関係があるのか?」
「あります。どこかの貴族と結婚したらその家の奥様になってしまうじゃないですか」
「なぜ貴族の奥様ではだめなんだ?」
「嫁いだ家のために尽くすのも立派なことだとは思います。しかしその家に縛られてしまいます。わたしは家に縛られずに、外でバリバリと働きたいのです。」
「外でバリバリ働くとは、男性のように働くということか?」
「はい。貴族の奥方として嫁ぎ先に縛られるのではなく、男性のように外で働きたいのです。」
「ただ貴族の間では、難しいと思うが...。」
「はい。親にも反対され、早く結婚するようせかされていますし、難しいことなのはわかっています。」
「なのにどうして...」
「あこがれている人がいます。ラーナ・スミス様でしょうか、魔法省で女性であるながら部署長にまでなりました。カタリナ様誘拐事件でも、キース様誘拐事件も解決されました。最近は、公爵令嬢であるカタリナ様が、魔法省に入られるというお話があり、希望の光が見えてきました。」
「カタリナのことだが、あれは、表ざたにはされていないが、ラファエルにかけられた闇の魔力を解呪したこと、あと闇の使い魔の「ポチ」の世話役ということで、特例的なもので、婚姻までの期限付きなのだが」
「わかっています。でも諦められないからやれるだけやってみるつもりです。」
と言ってから、わたしは笑みを浮かべ話をもどす。
「だからアスカルト様もあきらめずにカタリナ様にあたってみたらどうでしょうか?やれるだけやらないとなにもかわりませんよ。それにキース様もメアリ様もあきらめる様子がないではないですか。アスカルト様だけが無理にあきらめるなんてもったいないですよ。」
わたしは微笑む。ニコル様は観念したという感じだが、
「もう自分は、学生じゃない。伯爵家を存続させていく責任がある。」
「社会に出たからといって全ての方が婚姻しているわけではないと思いますが...。」
私は、ニコル様にそのようにお応えした。