「確かにすべての人が婚姻しているわけじゃない。ただ貴族社会では家のために婚姻しないわけにいかないだろう。」
とニコル様はお応えになる。
「確かに私も家のために婚姻するものと言われて育ちました。しかし、それってよく考えるとおかしいです。本人たちの気持ちはどうなるんですか?」
「気持ちだけではどうにもならないだろう。」
「無理やり婚姻を結んで不幸になる方も少なくないはずです。現にラファエル様の事件の発端は、愛されなかったデイーク侯爵夫人が闇の魔力に手を出したわけですし。」
「....。」
「アスカルト様も無理に婚姻なさる必要はないです。何よりほかの方を想っているあなたと結婚する女性がかわいそうです。」
ニコル様ははっとして
「そうか。俺は自分のことばかりで相手のことを考えていなかった。君のおかげでそれに気づけた。ありがとう。」
ニコル様は嬉しそうに笑みをうかべた。わたしはちょっと申し訳なく思った。ニコル様はまじめなだけで悪意はない。
「わかってもらえてうれしいです。だけどアスカルト様も家のためをお考えでお見合いをなさってきたのでしょう?」
ニコル様はしばらく考えているようだったが
「やはり俺のためだ。早く家族を安心させたい、喜ぶ顔が見たいと思ってしていることなのだから。」
わたしはため息をついた。
「本当に噂通りまじめな方ですね。でもそのようにアスカルト様があせって結婚相手を探すことをご家族はのぞんでいらつしゃるのでしょうか。」
ニコル様はまたしばらく考えこんで
「....正直それはわからないな...。」
「そこは、確認した方がいいとおもいますよ。」
「ところで去年の生徒会ってどんな感じでしたか?」
「ああ、なぜか俺とラファエルだけになってしまったが、ジオルドたちが来てくれて安心した。ジオルドたちの世代は本当に仲がいい。カタリナの人柄や平民であるマリアがいるせいか分け隔てない感じだった。当初はカタリナが生徒会室出入り自由にしないと職を辞しかねない勢いだったからあせったが先生方が譲ってくれて安心した。カタリナの破天荒さは魔法学園にもうわさで入ってきてたからカタリナを「管理」する意味で先生方もやむをえないと考えたらしい。去年はラファエルの紅茶とマリアのお菓子の両方があったからティータイムは歴代でも最高だったんじゃないか。おいしいおいしいといいながらももっとこうしたらと話していってマリアのお菓子がますます絶品になっていったから。」
「たしかに差し入れのお菓子のほうが高級店のものなのに見劣りする感じです。マリア先輩のお菓子はほんとにおいしいですから。かぼちゃの苦手な弟に食べさせてかぼちゃが入っていると言ったらおどろいてましたから。」
「ああ、うまくあの臭みを消してるからな。俺も驚いた。ところで、君も今年は、文化祭でいろいろやってもらったみたいだけど、来年は魔法競技祭、通称四科戦がある。去年は生徒会の1年生が上位を独占したからな。ジオルドとアランのチームのカルナックブレイクはすごかったぞ。」
そんな感じで生徒会や学園の思い出話やわたしたちの世代の学園の様子などとりとめのないお話をした。お互いに分かれる際に私はニコル様に
「アスカルト様は、お好きな方については内密にされてるんですよね。もしこまったことがあったらわたしが相談に乗りますよ」
わたしは、ニカッとほほえむ。いたずらっ子のような笑みに見えたかもしれないがそうだとしたら上手くいったということだ。わたしとニコル様はそれぞれ挨拶をして馬車に乗り込んでその日のお見合いもどきは終わった。
さて期末試験、わたしは1位になり、次期生徒会長になった。ジンジャーが2位で副会長ということになる。これからの生徒会はわたしがまとめていかなければならない。ジンジャーとほかのメンバーが融和できるように。ジオルド様からは事務の引継ぎを受けていく。王族の方々は皆聡明でだれが王位を継いでも安心だなと思う一方、不毛な継承争いが起こらないようジェフリー様が取り計らっているようだ。現国王が即位する前の王位継承争いは、殺し合いや闇魔法が使われるなどいろいろ大変だったから前車の轍を踏むまいとのことだろう。
それはともかくわたしとジンジャーは、生徒会劇の時にジオルド様に相談していた1年生のアルフレット・ヴァレリー君から相談を受けた。先輩方がやってきたこのような仕事が次期役員がきまると引継ぎの意味で任されていく。ヴァレリー君はソフィア様のファンで、生徒会劇の配役のことでいろいろ動いたこともある。シェナ様のことをジオルド様に伝えたのも彼だが文学青年である彼は、ソフィア様の愛好会(ファンクラブ)正式名称「文学を楽しむ集い」に入りたいと思っているが女子ばかりで半ば男子禁制なため困っているということだった。
問題なのは、「文学を楽しむ集い」に入りたがっているのは彼だけではなく、そろいもそろって文学青年である上にソフィア様に恋愛感情を持っているということだ。そのためソフィア様の気を引こうとして「集い」が荒れてしまう可能性があるということだった。
「う~ん、出会いの場としてソフィア様以外の令嬢と仲良くなればいいんでしょうけど、ソフィア様の存在感は大きいですから。」
ジンジャーがぼやくようにつぶやく。
読書サークルを兼ねる「集い」は、熱心な文学少女の集まりで結束が固く男子の入る余地がないが、逆に言えば、出会いの可能性を自ら狭めている女子たちと言える。
「でも「文学青年」たちは、カタリナ様やメアリ様、マリア先輩には無関心なんですよね。御三方ともソフィア様の影響でロマンス小説はお好きだけど...。」
「そういえば今度カタリナ様のお宅でメアリ様、ソフィア様、マリア先輩を誘ってお茶会があるって聞いたけど...。」
ジンジャーは(わたしには関係ないけど情報提供)という口ぶりだ。
「規模を大きくして「文学青年」たちとソフィア様のサークルメンバーを誘えないか聞いてみようかしら」
「どうしてそう考えたの?」
「クラエス家のお茶会ならカタリナ様がホステスだからソフィア様に「文学青年」たちはやたらに接近できないはずでしょ。それに親友四人でロマンス小説を楽しむ会なのは見え見えだし」
「さすがフレイね。」
「上級貴族でよかったと思うのはこういう駆け引きを覚えられたってことね。」
「なんか会長にならなくてよかったとおもっちゃった。」
「ジンジャー、そんなこといわないでよ。まさか会長になるのをさけたいから試験の手を抜いたんじゃないでしょうね。」
わたしはジンジャーを軽くにらむ。
「そんなに私が器用じゃないことはフレイが知ってるでしょ。」
わたしたちは、男性陣がたまたまいないときをみはからってカタリナ様に「文学青年」たちの名簿を見せながら、相談を持ち掛けた。
「2週間後のお茶会ですけど、規模を大きくしてソフィア様のサークルメンバーとこの男子生徒たちを招いていただけないでしょうか?」
「う~ん、どうしよう。男の子を招くとなると...。」
「ジオルド様ですね。」
「うん...。」
「いつもそういう時はアラン様は参加しないんですけどね。あの腹黒王子は...」
メアリ様のつぶやきにわたしは苦笑する。
「それについてはなんとかします。それよりも、カタリナ様、この青年たちは文学好きで、ソフィア様のサークルに入りたいと考えているようですが、そのまま入っていただくと困るのはご存じかと思います。なので、クラエス家のお茶会ならソフィア様に簡単に近づくことができないのですが、内容的には文学や詩の話ができる。それにソフィア様以外の令嬢たちと彼らが話す機会、つまり出会いの場をつくることができるのではないかと考えたのです。」
「それはすてきですねえ~」
ソフィア様が目を細め、顔をあからめてつづける。