今日も私は生徒会室へお菓子を持っていく。
「マリアのお菓子ですか。おおおいしいですね。疲れが吹き飛びます。」
まずジオルド様。その笑顔普通の女の子なら陥落してしまうだろう。
「マリアさん、素晴らしいです。この口当たりにこおばしさ。シリウス会長の入れてくださった紅茶の味にもぴったりで、わたしが書いているロマンス小説のお茶会の場面に生かしたいです。」
「おいしいですわね。この口当たり、香ばしさ、絶妙な甘さ加減、うちの菓子職人にも習わせたいです。」
「マリアさん、義姉さんのためにすみません。でも本当においしいですよ。また持ってきてください。」
「ああ、普通にうまいな。また作ってきてくれ。楽しみにしている。カタリナに食べられないよう俺の分とりわけておいてくれ。」
「アラン様、何を失礼なこと言っているんですか。」
「だってほんとうだろ。やめられない~止まらない~マリアのお菓子♪とか歌って全部食べちゃったのはどこのどいつだよ。」
皆さん苦笑している。メアリ様などは笑いをこらえている。
後で聞いた話だがカタリナ様の前世で、デイスプレイとかテレビといった魔法道具のような板にお菓子の広告が動画で映っていたらしい。
生徒会室は明るい話題が絶えず、また忙しいときは皆さん熱心に仕事をされているのでいずれにしてもわたしにとって落ち着ける安らぎの場であったが、授業の合間の休み時間や昼休みはそうではない。
学園の食堂は貴族の皆さんが利用するだけあっておしゃれなレストランのようだ。寮の食堂は分かれているので気兼ねなく利用できるが、学園の食堂を利用するのは気兼ねしてしまう。だからわたしは、お弁当をつくって、中庭のベンチで食べていたのだが、ある日、中庭でさあ食事といったときにいつのまにか見知らぬ貴族の令嬢たちに取り囲まれていた。
「平民のくせに少しばかり光の魔力をもっているからってつけあがってるんじゃないわよ。」
「どうせ特別扱いされて学力テストもひいきされたに違いないわ。家庭教師もいないのにどうやってあんな成績をとれるのかしら。」
「仕方なくあなたの相手をさせられている生徒会の皆さんはお気の毒ですこと。すこしくらい遠慮ってものはないの?。」
わたしはひたすらうつむいて嵐の過ぎ去るのを待った。
「その被害者面が気に食わないのよ。あなたの立場を思い知らせてあげるわ。」
嘲笑するように腕を振り上げた令嬢の手からは炎が浮かび上がった。そのときだった。
「あなたたち、何をしているの?」という凛とした声が響く。
次の瞬間、黒い服の令嬢が悲鳴をあげてあおむけにひっくり返った。足元には高さ5~10cmくらいお饅頭状に土が盛り上がっている。
「マリアちゃんが光の魔力を持っているからってひいきされてるなんて言いがかりもいいところだわ。この学園は完全な実力主義、ひいきなんて存在しないわ。もしそうなら恥ずかしいけどわたしが80位ってことはないはずよ。マリアちゃんは必死に努力しているの。教科書やノートにはぎっしり書き込みがある。だからテストはその努力の結果なの。」
気が付くとカタリナ様がわたしをかばうように令嬢たちの前に立ちふさがっていた。
ああ、カタリナ様はわたしの努力を認めてくださっている。
「それに生徒会の皆もわたしもマリアちゃんが光の魔力を持っているからひいきしたり、つきあっているわけじゃないわ。努力家で何についても一生懸命なマリアちゃんが好きだから一緒にいるのよ。」
わたしは目じりとほおがほてってきた。うれし涙が頬を伝ってくる。光の魔力をもってこのかた本気でわたしのことを理解してくれようとした人はいなかった。
「あなたたち、こんな事続けているといつか破滅するわよ。」
カタリナ様は令嬢たちをにらみつけ、令嬢たちは、青くなり
「す、すみません...」
と言いながら一目散に走り去っていった。
カタリナ様は、光の魔力を持っている特別な子だからではなく、マリア・キャンベルを好きだと、一緒にいたいと言ってくれた。
わたしはうれしくて涙がとめどなく流れてしまう。わたしをわかってくれる人、その人は
明朗な人柄で公爵令嬢で第三王子の婚約者。身分も人柄も最高を極めた方。カタリナ様は
驚いたように
「ま、マリアちゃん!」
と呼んでくださり、わたしの背中をなでるように手を置いてくださる。
その手のぬくもりを感じつつも思わずお聞きしてしまう。
「クラエス様、わたしの名前...。」
カタリナ様は、はっと何かに気が付いたようにバツの悪い顔になり、
「あ...あの、そうだね。ごめんね。いきなりなれなれしく呼んでしまって...。」
わたしは首を大きく横に振った。ファーストネームで呼ばれるのが嫌なのではない。
「いえ、全然かまいません。あの...むしろ「ちゃん」づけではなく、わたしのことはマリアと呼んでください。」
カタリナ様は満面に広がる笑顔で
「ありがとう。マリア」
とお返事してくださった。あとから聞いた話だが、カタリナ様は、頭にきたので心の中の声がそのまま出てしまったそうだ。ほほえましい。
さてわたしも勇気を振り絞る。
「あの...その....もしよろしければ、生徒会の皆様のように私も『カタリナ様』と呼ばせていただくをお許しいただけませんでしょうか?」
カタリナ様は、一瞬きょとんとした顔をされる。何をいまさらといった感じだ。
「そうね。いままで気が付かなかったけどわたしたちもうとっくに友達なのだから苗字で呼ぶのおかしいわね。好きなように呼んでもらっていいわよ。あ~様付けもいらないかも。」
わたしはむしろ青くなった。
「いえそんなわけにはまいりません。平民の分際でカタリナ様を呼び捨てとかありえません。」「あ~そうか。またマリアがいじめにあうきっかけになってしまうわね。めんどくさいなぁ。じゃあそれでいいわ。」
カタリナ様は微笑まれる。
「ありがとうございます。カタリナ様」
わたしも笑顔で返し、カタリナ様とずっと距離が近くなった感じだ。
「さあマリア行きましょう」
カタリナ様が差し出された手をとったところキース様がやってきた。
「あれ?義姉さんここにいたの?」
「ああ、キースどうしたの?」
「探したんだよ。マリアさんも昼食は?」
「これからです。」
「じゃあいっしょにいきましょう。」
キース様は笑顔をむけられた。
「さあ義姉さん、行くよ。?マリアさんはなんで顔が赤いの?」
無言な私をみて
「!まさか...また...またか...いったいどれだけタラシこんだら気が済むんだ...。」
とキース様がぼそぼそとつぶやかれた。
昼食の後次の時間割はたまたま授業がなかったので生徒会室へ行くと
「あの、今日ね、マリアを貴族令嬢たちが火の魔法でいたぶろうとしていたの」
「「なんですって、とんでもない話です。マリアさん大丈夫でしたか?」」
ソフィア様とメアリ様は怒りの表情から心配顔になる。
「またですか。あきれた話です。生徒会としても捨て置けません。おなじようないじめが男爵家や地方出身者、母親の身分が低い者におこなわれていないか調査する必要がありますね。」とシリウス会長。
「そんなことがあったのか。いくら成績で負けたからってありえないだろ。」とアラン様。
「ソルシェの貴族ともあろうものが高貴なる者の義務を果たさず、平民いじめとは困ったものです。マリアさん、すみません。王族として責任を感じます。」
「高貴なる者の義務」なる言葉が出るところはさすがジオルド様だ。
「そうだな。マリアには何の落ち度もない。ただ、順位のことはさほど気にしないとは言ってもくやしくないわけじゃないからな。次回は負けないぞ。」
アラン様は明るく歯を見せて、こぶしを作っていたずらっ子のような笑顔をされる。
「アラン様...。」
わたしは苦笑してしまう。