ニコル様が
「ソルシェ貴族としての誇りはどこにあるんだろうな。その令嬢たちは。平民いじめとは恥ずかしい。だれの税金で食っていけてるのか自覚がないようだな。」とコメントする。冷静に見えるが静かな怒りを含んでいる。財政の話が出てくるところ、さすが宰相アスカルト様のご令息らしいと感じた。
「マリア、これからは僕たちと行動するようにしましょう。」
ジオルド様が提案してくださった。
皆さんはこの提案に一斉にうなづいてくださる。
「そうですわ。マリアさんお昼は私たちと一緒にお食事しましょう。」
「一緒にたべたほうがおいしいですし、そんな人たちにからまれないですみますわ。そうしましょう。」
「メアリとソフィアがいるなら安心です。」
「?ジオルド様ぁ。わたしの名前は?わたしもマリアと食事したいんですけど?」
「カタリナはわたしの婚約者ですからわたしといっしょに行動するということです。」
「ジオルド様。義姉はあなたのものではありません。」
「そうですわ。カタリナ様はあなたのものではありません。」
「カタリナ様は誰のものでもありません。そうだ、お兄様も一緒にお食事しませんか。」
「ああ、そうだな。」
「あの、今はマリアさんの話をしているのでは?」
「もちろんですわ。マリアさん、カタリナ様とも一緒に召し上がりたいですわよね?」
「は、はい...。」
「そうおっしゃってますわ。」
ジオルド様は苦笑いする。
「皆様のお心遣い感謝します。ジオルド様も」
わたしはペコリと頭を下げる。
「いいや、そんなことは当然です。一緒に学園を盛り立てる仲間同士なのですから。」
生徒会室のこの話し合いで生徒会の皆さんのうち少なくとも2~3名が必ず私と行動するようになった。同学年全員そろって行動することも多いが、メアリ様、ソフィア様とわたし、そこにカタリナ様とキース様が加わったり、カタリナ様、キース様とわたしの組み合わせが最小単位となった。そのため令嬢たちの刺すような視線は感じなくなってきたが、そのかわり男性の視線は感じるようになった。自分で言うのもおこがましいが特にメアリ様、ソフィア様と一緒にいるときはそのまま美少女の集団だ。男性の視線を引かないはずがない。ただその視線の性格もだんだん変わってきて、明らかにメアリ様目当て、ソフィア様目当て、わたし目当てと変わってきているのが分かるが、3人一緒にいるときは声をかけられることはないのでふだんは実害はない。これまでも何度か令息たちに声をかけられ、丁寧にお断りしたつもりだったがうわさが伝わって貴族令嬢たちの嫌がらせのネタにされたが、彼らは、ひまつぶしに嫌がらせををする貴族令嬢たちと異なり家を継ぐという目的があり、魔法学園は出会いの場でもあるのだ。
そのため、わたしは、ひとりになったわずかの時間を狙ったように貴族の令息たちから声をかけられる。最初はとある子爵家の令息だった。
「マリアさん、あなたは、ひまわりのように美しい。しかもあなたの光の魔力はすばらしい。どうかわが領地へきていただけないでしょうか?」
わたしは、せっかくのおさそいに考え込んだが、なぜか真っ先に頭に思い浮かんだのはカタリナ様の笑顔だった。わたしはカタリナ様ともっと一緒に過ごしたい。
「ありがとうございます。実はわたしにはお慕いしている方がいるのです。お声がけしていただいてありがとうございます。」と頭を下げ丁寧にお断りした。
「マリアさん、あなたの髪は黄金のよう、太陽の輝きのようだ。わたしの実家は伯爵家です。何不自由なく暮らしていけますよ。」
「マリアさん、あなたは美しいだけでなく優秀でいらっしゃる。どうか私を助けてください。光の魔力も素晴らしい。離散したというご家族もご面倒みますよ。わたしの実家は侯爵家ですから。」
「お誘いうれしく思います。ですが申し訳ありません。わたしにはお慕いしている方がいるのです。」
「その方はジオルド王子ですか?」
「申し訳ありません。その方にご迷惑がかかるといけないのでお許しください。」
その侯爵家のご令息は、何を思ったのか数日後にジオルド王子に剣術の相手を申し込んだという。そこそこ善戦してマリアのことを好きなのかと聞かれて、王子が動揺して剣を飛ばすことができたものの、王子は素早く剣を拾い上げてからの反撃で最後にはあっけなく打ち負かされたと風のうわさで聞いた。なにしろジオルド王子の剣技は、騎士団員とも互角にやりあうこともあるくらいで、王族貴族含めて騎士団長と騎士団の剣術師範以外勝てる者はいないという話なのだから。
「マリアさん、あなたはほかの貴族令嬢たちとは異なり謙遜で心遣いのできる方だ。わが男爵家はにはあなたのような方をむかえたいのだが。」
わたしの脳裏にはカタリナ様の姿が浮かんだ。
「こら、マリアに手を出さないで」
「....。クラエス公爵令嬢...。」
「申し訳ありません。」わたしが頭を上げてお断りすると、男爵家の令息は逃げるように立ち去った。助かったという感想だった。わたしの人格を褒められるというのはかなりピンチだった。しかもあまり容姿のいい方でなかったから逆に同情心がわいてしまって、この方はわたしのように苦労人だからやさしいのではないかと思ってしまった。
「?なにかまずかった?」
カタリナ様は聞きかえしてくる。
「いえ大丈夫です。」
「あんなキャラはゲームには出てこなかったのに...」
とカタリナ様は不思議なことをつぶやかれた。
「マリアちゃんはやさしいし、無欲だから逆に子爵家や男爵家のブサ面系のほうが要警戒だとは...これはうかつだったわ。」
わたしには理解不能なことをおっしゃる。わたしは無欲じゃないですよ、カタリナ様。あなたのおそばにいたいと考えているのですからと考えつつ、気になることだけを口に出した。
「カタリナ様。ちゃん付けになってます。」
「あ、ごめんねマリア。」
「いいえ、親しみをおもちなのはうれしいのですが、わたし自身が子どもになった感覚になるので...」
そんなこともあってわたしの時間は無事にすぎていった。数か月たち寒さを感じる季節になった。ある日の昼休み前連絡が入る。
「えっと、そうですか?」
「ジオルド様?」
「土魔法科の材料が足りないということです。キース君いってくれませんか?」
「わかりました。用意します。」
「水魔法科の教材ですか?どの教室へもっていけばいいのでしょうか?」
「こちらだそうです。メアリ嬢、よろしくお願いします。」
「風魔法科のリハーサルにニコル様とソフィア様に来てほしい?わかりました。」
「緊急の書類です。」
「ずいぶん多いですね。」
その時書類を持ってきたのは何か見たことのある令嬢たちだった。カタリナ様をにらみつけて嫌味を言っていたきつい目をした令嬢やわたしに意地悪した人もいる。
「昼休み直前だというのにいやにいそがしいな。」
「アラン様、この楽器の調子をみてほしいのですが....。午後の授業に使うので」
「わかった。行く。」
「マリアさん、この書類を届けてください。それから午後のダンスの授業の衣装が足りないので確認してほしいそうです。」
「わかりました。」
事件はこの直後の昼休みに起こった。
わたしたちは何とか仕事を終えて生徒会室にもどってきた。
「メアリ様どうですか?」
「こっちはおわったわ。」
「私も終わりました。」ソフィア様もいらっしゃる。
ニコル様もうなずいている。
「俺も終わったぞ。」
「じゃあ昼食にしましょうか」
「何か忙しかったですね。」
「こんなことはそんなにないのだが...。」
ようやく食堂へ向かった時だった。なにやら食堂の反対側の入り口付近で、書類を生徒会室に持ち込んだ令嬢たちがカタリナ様をにらみつけている。
食堂全体が不穏な雰囲気になっていて、カタリナ様は分厚い書類を持たされ呆然としていた。