ジオルド様が令嬢たちに近づき、
「これはいったい何事ですか?」
とたずねると令嬢たちは、ドヤ顔になり
「カタリナ・クラエスが公爵令嬢とジオルド様の婚約者という地位を利用し、平民であるマリア・キャンベルに犯罪まがいのいやがらせをしてきた証拠をつきつけているのです。」
と得意げに語る。
書類は生徒会役員たちにわたされた。
わたしは驚いた。確かにわたしが受けた嫌がらせが書かれているのだが、その犯人もしくは首謀者がカタリナ様になっている。わたしは胸が張り裂けそうな怒りがこみあげてきた。わたしの大切なカタリナ様になんてことをするのか。赦せない!わたしは生涯で感じたことのない激しい怒りで、つかつかと令嬢たちの前に来て信じられないことに彼女たちをにらみつけていた。
「この話はまったくのでたらめです。わたしはカタリナ様にこのようなことをされたことは一度もありません。それどころかカタリナ様はわたしを何度もかばってくださいました。このようなでたらめな話でわたしの大切な方を侮辱しないでください。」
わたしは叫んでいた。
令嬢たちは、しばらくだまっていたものの思い出したように
「何を言ってるの?マリア・キャンベル。わたしたちは、あなたのためにカタリナ・クラエスの悪事を暴いてあげたのよ。」
「そうよ。でたらめなんかじゃないわ。このように証拠も証人もそろっている。あなたの方こそ、この悪女の公爵令嬢の権力におどされているんじゃないの?」
「そうですわ。こんな悪女にだまされてかわいそうに。わたしたちはあなたの味方なのよ。」
しばらく黙って書類を読んでいたジオルド様だったが
「こんな状況証拠だけをもってきて、れっきとした証拠とは笑ってしまいますね。しかもカタリナが生徒会室にいた時間やあきらかにカタリナとマリアが一緒にいない時間がいくつも書かれています。」
笑ってしまうと言いながらジオルド様は信じられないくらい冷たい無表情だ。生徒会室ではみたことがない。
「そもそもこんな手の込んだ緻密な嫌がらせなんて単純な義姉さんにはできるわけがないよ。だいたい僕は義姉さんと一緒に過ごすことが多いけど、この時間帯にマリアさんに嫌がらせできるとはとても思えないし、証人と名乗る彼女たちには一度もあったことがないけど本当に義姉さんがこんな嫌がらせをしているところを見たの?」
キース様も信じられないくらい冷たい笑みを浮かべている。もちろんこんな冷たい表情のキース様をみたことがない。
「キース様のおっしゃるとおりですわ。カタリナ様はとても単純な方です。嫌がらせをするためにこんな緻密な計画を立てるなんて考えられません。何かの間違いではないですか?」
「そうだ、その通りだ。このバカは単純だからこんな手の込んだ嫌がらせなんかするわけがない。しかもジオルドの言う通りどう考えてもカタリナとマリアが一緒にいない時間があるぞ。」
この書類には確かに嫌がらせを受けた時間、詳しい状況が書かれていたが、正確すぎるためにカタリナ様の行動との矛盾がいくつもあった。
「カタリナ様がマリアさんをいじめたことなど一度もないし、そもそもカタリナ様がいじめをするために裏で動くとかそんな器用なことできませんわ。カタリナ様は、お菓子と畑とロマンス小説のことで頭いっぱいですから。」
「その通りだ。」
ソフィア様もニコル様も同意される。カタリナ様のクラスメイト達も声を上げる。
「そうよ。カタリナ様がそんなことをするはずがないわ。」「カタリナ様がいやがらせをなさるなんてありえないですわ。食べ物や「花壇」のことばかりお考えですから。」「そうよ。そうよ。何かの間違いじゃないの?」
クラスメイトに加えメアリ様、ソフィア様の同好会の皆さんも同意する。
「皆さんもそうおっしゃるようにわたしはカタリナ様から全く嫌がらせを受けたこともないし、それどころか何度もかばっていただいています。マリアちゃんが大好きだとも言ってくださいました。わたしはたしかにこの書類に書かれている嫌がらせを受けたことがありますがそれをしたのはカタリナ様ではありません。この書類に書かれた嫌がらせをした人たちをわたしはしっかり覚えています。何でしたらどなただったか申し上げてもいいのですが。」
わたしはきっぱりと話した。
食堂の中での空気がピリリと緊張を帯びる。何人かの令嬢が表情を変えたり、顔をふせたりし、そそくさと立ち去る姿も見られる。カタリナ様を糾弾していた令嬢たちも二の句を告げなくなっていた。それもそうだ。発言したのはわたしをスルーというか、歯牙にかけずにカタリナ様を目の敵にしていたジオルド様の元婚約者と噂される方など数人で、わたしに多少のいやがらせや罵声を浴びせた令嬢たちもいたのだから。
さすがに自分たちの立場が危ういことを悟ったのだろう。顔色を変えて背を向けるとそそくさと小走りに立ち去っていく。
わたしはその時に黒い煙かかすみのようなものが彼女たちにまとっているのを感じた。
闇の魔力だ。誰か学園に闇の魔力を持っている人物がいる。
だれだろうか...まさか、たま~に生徒会室で感じた冷たい視線。あの令嬢たち...。
カタリナ様は何が起きたかわからず言葉を失ってふらふらしながら突っ立ているといった感じだ。
「大丈夫ですか?カタリナ様?」
わたしは心配になってカタリナ様の顔を覗き込むようにして話しかけるとカタリナ様の顔に生気が戻る。
カタリナ様は笑顔でうなづき
「大丈夫よ。マリア、みんなありがとう。」
「いえ、むしろすぐに助けに来られなくてすみませんでした。」
「遅くなってごめんね。義姉さん。」
ジオルド様とキース様がカタリナ様の肩に手をおかけになってお支えになる。
そのときカタリナ様のおなかが『ぐ~~』となった。
皆さん苦笑して、
「さあ、早く食事にしましょう。」
とジオルド様が言うと皆さんうなづいてさっそく厨房に注文を入れた。
生徒会の皆さんとわたしは食堂での円卓を囲む。
おだやかな日差しが気持ちがいい。
「まさかあの令嬢たちがカタリナを呼び出すとは...ちょっと思いもよりませんでした。」
「たしかに少し異様でしたね。義姉さんを目の敵にはしていましたがここまでのことをするとは...。」
「こんなのでも一応公爵家の令嬢だからな。」
「アラン様、うぐうぐ...こんなのとか、一応とか余計です。」
と反論しつつもカタリナ様は食事に夢中だ。
「おまえなぁ。お前は公爵家の令嬢だ。娘がいわれのない侮辱を受けたのならいくら温厚で人格者のクラエス公爵でもだまっていないだろう。」
「この証拠書類...あんまりにもしっかり作られすぎていて...マリアさん、凄く正確に書かれているとおっしゃってましたね。」
「はい。メアリ様。だからこそ、ジオルド様、アラン様、キース様のおっしゃるとおり矛盾がところどころにあるんです。」
「メアリ様とマリアさんがおっしゃるようにあの令嬢たちがこんなしっかりした書類を作れるとはとても思えません。男性の貴族の方々のように領地や裁判の仕事をしてきたとはとても思えませんし。」
「そうだな。たまに息子がいなくてあととりのために領地や裁判の事務に係る令嬢もいるがそういう感じじゃなくてカタリナを目の敵にしてただけだったからな。おい、聞いてるのか?」
アラン様がカタリナ様をかるくこづく。
「なんですか、アラン様、おなかすいてるんです。」
「もうかなり食べたじゃないか。」
「アラン、そこまでにしてください。」
「いや、肝心の本人が...。」
「カタリナは婚約者の僕が守りますから。こんなふうに笑顔で食事しているカタリナも愛らしいです。」
アラン様は両手の平を外へ向けて呆れた感じだ。
そんな会話が聞こえるもののわたしは闇の魔力のことが気になって笑う気になれななかった。