それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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∅11 国の拡大

オーク全軍への命名は、想像以上に過酷だった。

一体一体に名を与えるたび、魔力が削られ、意識が遠のく。

それでも途中で止めるという選択肢はなかった。

結果として、十日間を丸々費やすことになった。

 

カエデが補助に入ってくれたおかげで全員の名前と個体差を把握できているが、彼女がいなければ到底覚えきれる数ではない。

名を得たオークたちは、明確に変わり始めていた。

 

ほどなくして、ガビルたちリザードマンの一団が国境へ現れた。

本来いるはずのリザードマンの国から追放されたらしく、事情を抱えたままテンペストへ流れ着いたのだという。

 

それから三か月。

オークたちは名を得たことでハイオークへと進化し、カイジンたちの指導を受けながら鍛冶や建築、整備といった技術職に就いていた。

かつての貪欲さは消え、働くことそのものに誇りを見出している様子がはっきりとわかる。

 

国土の拡張に伴い、防衛設備と地下シェルターの拡大は避けられなかった。

地上と並行して地下都市の建設が進められ、対空対地用のミサイルポッドや迎撃装置も次々と配置されていく。

もはや単なる魔物の集落ではなく、明確な国家の姿を帯び始めていた。

 

セリオス(綾音)「予想よりも早く、大都市にできそうだね」

 

眼下に広がる建設区画を見下ろしながら、率直な感想がこぼれる。

 

カエデ「そうですね。今の人口比率でも中規模都市相当です。このまま人口が増えれば、自然とそうなります」

 

セリオス(綾音)「あとは兵装ビルと大規模ビル、それに貨幣システムか」

 

国の根幹に関わる部分だけに、思考は自然と慎重になる。

 

セリオス(綾音)「悩ましいね。現金にするか、オンライン管理で仮想通貨にするか」

 

カエデ「仮想通貨の方が管理は楽ですよ。私なら全体管理もできますし」

 

セリオス(綾音)「そうね。それなら仮想通貨でいきましょう」

 

方針が決まった、その直後だった。

蒼影が気配もなく現れ、低い声で告げる。

 

蒼影「綾音様、緊急事態です」

 

蒼影「ペガサスの軍勢、百を確認しました」

 

一瞬で空気が張り詰める。

 

セリオス(綾音)「第1種戦闘態勢のまま待機。対空砲は許可が出るまで使用禁止」

セリオス(綾音)「鬼人特殊部隊は即時出動。非戦闘員は地下都市へ退避させて」

 

蒼影「はっ」

 

次の瞬間、都市全体に冷静だが緊迫したアナウンスが流れる。

 

アナウンス「第1種戦闘態勢が発令されました。非戦闘員は速やかにE4エリア大型エレベーターより地下へ避難してください。繰り返します。非戦闘員はE4エリア大型エレベーターより地下へ避難してください」

 

ほどなくして敵性識別が完了する。

ペガサス部隊を率いて現れたのは、ドワルゴン王国の軍。

 

その先頭から、一人の男が悠然と降り立った。

圧倒的な威圧感と、王としての風格を隠そうともしない存在。

 

ドアルゴン「スライムか」

 

セリオス(綾音)「その呼び方、やめてもらっていいですか」

 

一歩前に出て、はっきりと言い切る。

 

セリオス(綾音)「私はリムル・セリオス」

セリオス(綾音)「ジュラの大森林盟主にして、テンペストの国王です」

 

そう告げると同時に、姿が揺らぐ。

次の瞬間、シズに酷似した人型へと擬態する。

 

セリオス(綾音)「こちらの方が、イメージに近いでしょうから」

 

ドアルゴンの視線が鋭く細まる。

 

セリオス(綾音)「それで、これだけの戦力を集めてどうされました?」

 

ドアルゴン「単刀直入に言う。リムル、貴様を見極めに来た」

 

ドアルゴン「俺の剣で、貴様の本性をな」

 

ドアルゴン「この森の盟主などとほざく貴様に、分というものを教えてやらねばならん」

 

挑発と殺気が、隠しもせず叩きつけられる。

 

セリオス(綾音)「これは決闘の申し込みと受け取っていいですね」

 

ドアルゴン「そうだ。その看板が飾りでないなら、俺の申し出を受けるがいい」

 

セリオス(綾音)「いいですよ」

セリオス(綾音)「さすがに殺すわけにはいかないので、こちらはそちらの剣を伏せた時点で勝ちという条件でよろしいですか」

 

ドアルゴン「うむ」

 

静かに、だが確実に。

戦いの幕が上がろうとしていた。

 

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