セリオス(綾音)「……待って」
セリオス(綾音)「こういう時は……」
セリオス(綾音)「みんな、ポーション飲んで少し休んでて」
セリオス(綾音)「秘策があるから」
紫苑「承知しました」
緊張に張り詰めていた空気の中、セリオス(綾音)は一歩前に出る。
敵意でも魔力でもない、まったく別のものを手にして。
セリオス(綾音)「これをくらえぇぇぇ!」
放り投げられたのは、戦闘とは無縁の小さな包みだった。
ミリム「?」
ミリム「なんなのだ?」
包みが弾け、中から甘い香りが広がる。
ミリムが恐る恐る口に入れた瞬間、目を見開いた。
ミリム「……っ!」
ミリム「な、なんなのだこれ……!」
ミリム「こんなにおいしいもの、いままで食べたことないのだ!」
初めて甘味を知った子供のように、表情が一気に崩れる。
それはかつて綾音が好んでいた、クッキー入りチョコレートを再現したものだった。
セリオス(綾音)「ミリムさん……いや」
セリオス(綾音)「ミリムちゃん、かな?」
ミリム「へ?」
セリオス(綾音)「もし私の勝ちなら」
セリオス(綾音)「もっとおいしいお菓子、あげるよー」
ミリム「ほ、ほしいのだ……!」
ミリム「でも、負けるのはいやなのだ……!」
セリオス(綾音)「あれれ?」
セリオス(綾音)「早く認めないと、なくなっちゃうかもよー?」
ミリム「……っ!」
ミリム「わ、わかったのだ!」
ミリム「今回は引き分け!」
ミリム「引き分けということにするのだ!」
ミリム「今回の件はすべて不問!」
ミリム「それに、今後一切、ここには手出ししないと誓うのだ!」
セリオス(綾音)「うんうん」
セリオス(綾音)「いいよ、はい」
今度は、ふわりとしたシュークリーム。
ミリム「おおー!」
セリオス(綾音)「よしよし」
セリオス(綾音)「いい子いい子」
ミリム「なあなあ」
ミリム「お前、魔王になろうとは思わないのか?」
セリオス(綾音)「魔王よりも、この国を育てるほうが楽しいからね」
セリオス(綾音)「それに、人間と敵対する可能性も高くなるし」
ミリム「でも魔王なのだぞ?」
ミリム「かっこいいとか、憧れたりしないのか?」
セリオス(綾音)「魔族間の統率力は魅力的だけどね」
セリオス(綾音)「それ以外の手段がない時以外は、ならないかな」
ミリム「……そっか」
ミリム「む?」
ミリム「さてはお前、魔王になるより楽しいことしてるな?」
セリオス(綾音)「まあ……楽しいと言えば楽しいかな」
ミリム「ずるいのだ!」
ミリム「ずるいのだぞ!」
ミリム「もう怒った!」
ミリム「仲間に入れるのだ!」
勢いよく抱きつかれ、セリオス(綾音)はもみくちゃにされる。
セリオス(綾音)「私はね」
セリオス(綾音)「戦いよりも平和が好きなんだ」
セリオス(綾音)「平凡な毎日の中にこそ、楽しいことはたくさんあると思ってる」
セリオス(綾音)「だから、あえて戦争の火種を作ることはしない」
ミリム「……そうなのだ」
セリオス(綾音)「だから」
セリオス(綾音)「この国で、何も壊さない、争わないって約束できるなら」
セリオス(綾音)「一緒に暮らさない?」
ミリム「……!」
ミリム「たのしそうなのだぁ……」
セリオス(綾音)「決まりだね」
セリオス(綾音)「私のことは綾音って呼んで」
セリオス(綾音)「私はミリムって呼ぶから」
ミリム「わかったのだ!」
ミリム「でも特別なのだぞ」
ミリム「本当は、呼び捨てにしていいのは仲間の魔王だけなのだ」
セリオス(綾音)「うん」
セリオス(綾音)「よろしくね、ミリム」
ミリム「よろしくなのだ!」
セリオス(綾音)「蒼影」
セリオス(綾音)「リグルドに頼んで、ミリム用の防爆部屋と広場を作って」
蒼影「はっ」
セリオス(綾音)「ミリム」
セリオス(綾音)「さすがに何も壊しちゃだめだとストレス溜まるでしょ」
セリオス(綾音)「数日後に家を建ててあげるから」
セリオス(綾音)「そこなら、町を壊さない程度なら爆発魔法使っていいよ」
ミリム「いいのか!?」
セリオス(綾音)「最大出力はなしでね」
ミリム「分かってるのだ!」