それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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∅14 ミリム

セリオス(綾音)「……待って」

セリオス(綾音)「こういう時は……」

 

セリオス(綾音)「みんな、ポーション飲んで少し休んでて」

セリオス(綾音)「秘策があるから」

 

紫苑「承知しました」

 

緊張に張り詰めていた空気の中、セリオス(綾音)は一歩前に出る。

敵意でも魔力でもない、まったく別のものを手にして。

 

セリオス(綾音)「これをくらえぇぇぇ!」

 

放り投げられたのは、戦闘とは無縁の小さな包みだった。

 

ミリム「?」

ミリム「なんなのだ?」

 

包みが弾け、中から甘い香りが広がる。

ミリムが恐る恐る口に入れた瞬間、目を見開いた。

 

ミリム「……っ!」

ミリム「な、なんなのだこれ……!」

ミリム「こんなにおいしいもの、いままで食べたことないのだ!」

 

初めて甘味を知った子供のように、表情が一気に崩れる。

それはかつて綾音が好んでいた、クッキー入りチョコレートを再現したものだった。

 

セリオス(綾音)「ミリムさん……いや」

セリオス(綾音)「ミリムちゃん、かな?」

 

ミリム「へ?」

 

セリオス(綾音)「もし私の勝ちなら」

セリオス(綾音)「もっとおいしいお菓子、あげるよー」

 

ミリム「ほ、ほしいのだ……!」

ミリム「でも、負けるのはいやなのだ……!」

 

セリオス(綾音)「あれれ?」

セリオス(綾音)「早く認めないと、なくなっちゃうかもよー?」

 

ミリム「……っ!」

ミリム「わ、わかったのだ!」

ミリム「今回は引き分け!」

ミリム「引き分けということにするのだ!」

 

ミリム「今回の件はすべて不問!」

ミリム「それに、今後一切、ここには手出ししないと誓うのだ!」

 

セリオス(綾音)「うんうん」

セリオス(綾音)「いいよ、はい」

 

今度は、ふわりとしたシュークリーム。

 

ミリム「おおー!」

 

セリオス(綾音)「よしよし」

セリオス(綾音)「いい子いい子」

 

ミリム「なあなあ」

ミリム「お前、魔王になろうとは思わないのか?」

 

セリオス(綾音)「魔王よりも、この国を育てるほうが楽しいからね」

セリオス(綾音)「それに、人間と敵対する可能性も高くなるし」

 

ミリム「でも魔王なのだぞ?」

ミリム「かっこいいとか、憧れたりしないのか?」

 

セリオス(綾音)「魔族間の統率力は魅力的だけどね」

セリオス(綾音)「それ以外の手段がない時以外は、ならないかな」

 

ミリム「……そっか」

 

ミリム「む?」

ミリム「さてはお前、魔王になるより楽しいことしてるな?」

 

セリオス(綾音)「まあ……楽しいと言えば楽しいかな」

 

ミリム「ずるいのだ!」

ミリム「ずるいのだぞ!」

ミリム「もう怒った!」

ミリム「仲間に入れるのだ!」

 

勢いよく抱きつかれ、セリオス(綾音)はもみくちゃにされる。

 

セリオス(綾音)「私はね」

セリオス(綾音)「戦いよりも平和が好きなんだ」

セリオス(綾音)「平凡な毎日の中にこそ、楽しいことはたくさんあると思ってる」

 

セリオス(綾音)「だから、あえて戦争の火種を作ることはしない」

 

ミリム「……そうなのだ」

 

セリオス(綾音)「だから」

セリオス(綾音)「この国で、何も壊さない、争わないって約束できるなら」

セリオス(綾音)「一緒に暮らさない?」

 

ミリム「……!」

ミリム「たのしそうなのだぁ……」

 

セリオス(綾音)「決まりだね」

 

セリオス(綾音)「私のことは綾音って呼んで」

セリオス(綾音)「私はミリムって呼ぶから」

 

ミリム「わかったのだ!」

ミリム「でも特別なのだぞ」

ミリム「本当は、呼び捨てにしていいのは仲間の魔王だけなのだ」

 

セリオス(綾音)「うん」

セリオス(綾音)「よろしくね、ミリム」

 

ミリム「よろしくなのだ!」

 

セリオス(綾音)「蒼影」

セリオス(綾音)「リグルドに頼んで、ミリム用の防爆部屋と広場を作って」

 

蒼影「はっ」

 

セリオス(綾音)「ミリム」

セリオス(綾音)「さすがに何も壊しちゃだめだとストレス溜まるでしょ」

セリオス(綾音)「数日後に家を建ててあげるから」

セリオス(綾音)「そこなら、町を壊さない程度なら爆発魔法使っていいよ」

 

ミリム「いいのか!?」

 

セリオス(綾音)「最大出力はなしでね」

 

ミリム「分かってるのだ!」

 

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