その後、セリオス(綾音)は案内役としてミリムを伴い、テンペストの街を巡りながら住人たちに紹介して回った。
魔物たちは突然現れた桁外れの魔素を放つ少女に最初こそ身構えたが、セリオス(綾音)が笑顔で説明すると、次第に空気は落ち着きを取り戻していった。
夜。
場所は国賓用ホテルの敷地内に設けられた露天風呂。
天然の岩に囲まれ、地下深くのマグマ熱を利用して湧き上がる湯気が夜空に溶けていく。
ミリム「ぷはぁーなんだこれはーすっごく気持ちがいいのだー」
湯船に肩まで浸かり、ミリムは心底楽しそうに声を上げる。
普段の破壊衝動を感じさせない、無邪気そのものの表情だった。
セリオス(綾音)「温泉。マグマの熱で温められたお湯を使った、体と心を休めるための施設だよ」
ミリム「すごいのだー。およげるのだー」
そう言って勢いよく水面を蹴り、湯船の中を移動し始める。
朱菜「お風呂で泳いではいけません」
ぴしりとした声が響く。
紫苑「えっ」
思わず声を漏らした紫苑を、朱菜は一切の容赦なく見据える。
朱菜「だめですよ」
その後、臨時クデュックサミットが開かれ、ミリムの応対役はセリオス(綾音)が務めることになった。
他国との関係、魔王という存在の扱い、その全てに慎重さが求められる状況だった。
合間を縫って、セリオス(綾音)はベスターの研究施設を訪れ、回復薬の量産化計画に立ち会った。
試行錯誤の末、安定供給の目処が立ち、場の空気が緩んだ、その瞬間だった。
遠くから、地鳴りのような爆発音が響く。
セリオス(綾音)「たぶんミリムだと思うけど、念のため。発電施設が近いから確認して」
蒼影「今回の爆発による施設への影響はありません」
即座に戻ってきた報告に、セリオス(綾音)は小さく息を吐く。
セリオス(綾音)「よかった。人的被害は?」
蒼影「なしです」
セリオス(綾音)「……ならいい。いちおう現場に行くね」
爆心地へ向かう途中、蒼影から簡潔な説明が入る。
セリオス(綾音)「蒼影、何があったの?」
蒼影「新たな客人が来訪しました。それに対しミリム様が激怒し、爆破魔法を使用したとのことです」
セリオス(綾音)「分かった」
爆心地には、抉れた地面と焦げた建材が残り、その傍らにリグルドが倒れていた。
セリオス(綾音)「大丈夫?無理しないで、ゆっくり休んで」
リグルド「ありがとうございます」
その様子を確認し、セリオス(綾音)の胸に安堵と怒りが同時に湧く。
カエデ「町の防犯カメラ映像を参照しますか?」
セリオス(綾音)「うん」
映像には、口論の末にリグルドへ手を出した客人と、それを見て激昂し、一瞬で相手を吹き飛ばすミリムの姿が映っていた。
ミリム「こやつがふざけた真似をしたから、お仕置きしといたのだ」
セリオス(綾音)「いい?お仕置きしてくれたのはうれしいけど、爆破魔法は禁止。周りにも被害が出るし、オークたちが一生懸命作ってくれた建物や道路を壊してしまうからね」
セリオス(綾音)「今回は巻き込まれた人がいなかったからいい。でも国内では特に爆破魔法は禁止。守れなかったらごはん抜きね」
ミリム「それは嫌なのだ」
セリオス(綾音)「なら、守ること」
内心で、もっと話が通じる存在がいればと思わずにはいられなかった。
その後、事情聴取のため客人は別室へ移送された。
セリオス(綾音)「何しに来た?まさかリグルドを殴って終わり、ってわけじゃないよね」
客人「下等なスライム風情に、この俺が答えるとでも?」
セリオス(綾音)「……この魔素を前にして、まだそんなことが言えるんだね」
セリオス(綾音)「あなたの態度次第では、魔王カリオンと私たちが敵対する可能性がある。それでもなお、この態度を取るの?」
フォビオ「偉そうに。この町はこんな下等な魔物に従うのか?」
フォビオ「雑魚ばかりで大変だな。ミリム様に気に入られてるからって調子に乗るなよ?」
セリオス(綾音)「そこまで言うなら、コロシアムに行く?もちろん非殺傷だけど」
一瞬の沈黙の後、声色を落ち着かせる。
セリオス(綾音)「冗談はさておき。返答次第では本当に戦争状態になる可能性もある。よく考えて答えてほしい」
フォビオ「……ちっ。ジュラの大森林を支配してる謎の魔人をスカウトしろって言われて来たんだ」
セリオス(綾音)「話は分かった。今回はここまで。お引き取りください」
紅丸「よろしいのですか?」
セリオス(綾音)「ええ。リグルドが攻撃された以上、宣戦布告も選択肢ではある。でも私は平和的に解決したい。交渉の余地は残す」
セリオス(綾音)「カリオンへ伝えて。交渉するなら日時を改めて連絡を。それと、戦争を選ぶなら覚悟をして来てほしいと」
フォビオ「きっと後悔させてやる」
そう言い残し、フォビオ一行は魔王カリオンのもとへと帰っていった。