森の奥、霧が立ち込める街道を進んでいたセリオス(綾音)の前に、突然数体のゴブリンが槍を構えて立ちふさがった。
緊張で強張った彼らの視線は、ただのスライムであるはずの存在に向けられている。
ゴブリン「強きものよ、この先に何かご用事ですか?」
セリオス(綾音)「強きもの?」
セリオス(綾音)「あ、初めまして。私はリムル・セリオスです。よろしくお願いします」
ゴブリン「強き魔物の気配が近づいたため、警戒に参りました」
ゴブリン「どうか、あなた様にお願いがございます」
戸惑いながらも話を聞くうち、セリオス(綾音)はゴブリンの村へ案内されることになった。
粗末だが整えられた柵に囲まれた村の中央で、年老いたゴブリンが深く頭を下げる。
村長「ようこそお越しくださいました。私はこの村の村長でございます」
セリオス(綾音)「よろしくお願いします」
セリオス(綾音)「それで、ご用件は?」
村長「最近、魔物の活動が活発になっているのはご存じでしょうか」
セリオス(綾音)「いえ、初耳ですね」
村長「数日前、我らが神にも等しい守護者が姿を消されました」
村長「それを機に近隣の魔物がこの地を狙い始めたのです」
村長「応戦はしましたが、戦力差があまりにも大きく……」
ゴブリン「そこで、あなた様のお力をお借りしたく」
セリオス(綾音)「まあ、構いませんけど……どうして私みたいなスライムに?」
村長「ははは、ご謙遜を」
村長「ただのスライムが、これほどの威圧を放つはずがありません」
村長「相当名のある魔物なのでしょう」
セリオス(綾音)「威圧?」
セリオス(綾音)「私、どんな感じになってるんです?」
カエデ「魔力センサーをTPPに切り替えます」
視界が引き上げられ、自身を俯瞰した瞬間、セリオス(綾音)は理解した。
濃密な魔力が霧のように立ち昇り、周囲を圧している。
セリオス(綾音)「……完全にオーラ全開だったみたいね」
セリオス(綾音)「怖がらせてしまってごめんなさい」
セリオス(綾音)「この世界に来たばかりなんです」
ゴブリン「来たばかり……まさか」
ゴブリン「転生者なのですか!?」
セリオス(綾音)「ええ」
ゴブリン「初めて見ました!」
ゴブリン「すごい! 本当にすごいです!」
村長「こら、失礼であろう」
村長「改めてお願い申し上げます」
東の方角から、狼型魔物――牙狼族の群れが押し寄せ、多数の死傷者が出ているという。
名を持つ守護者が討ち死にし、村は崩壊寸前だった。
村長「牙狼族はおよそ百」
村長「我らで戦えるのは、雌を含め六十ほど」
セリオス(綾音)「確認したいことがあります」
セリオス(綾音)「牙狼族を、仲間として受け入れることはできますか?」
村長「な……何をなさるおつもりで?」
セリオス(綾音)「これは私のポリシーです」
セリオス(綾音)「敵味方を問わず、他に手段がない場合を除き、大量破壊や殺害はしない」
セリオス(綾音)「可能な限り、仲間にする」
セリオス(綾音)「反逆や重大な違反があっても、死刑以外を選びます」
村長「……わかりました」
セリオス(綾音)「じゃあ、牙狼族を無力化します」
ほどなく、牙狼族が村の柵の外に姿を現した。
闇の中で無数の赤い瞳が揺らめく。
セリオス(綾音)「みんな、心配しないで」
セリオス(綾音)「圧倒的な力を見せれば、七割は降伏か撤退する」
セリオス(綾音)「残りも、説得すれば仲間になる」
セリオス(綾音)「弱肉強食の時代は終わり」
セリオス(綾音)「これからは共存だよ」
村長「感謝いたします。我らは忠実なるしもべでございます」
セリオス(綾音)「任せて」
セリオス(綾音)「あ、負傷者はどこ?」
村長「こちらです」
傷ついたゴブリンたちの前に進み出る。
セリオス(綾音)「よく頑張ったね」
セリオス(綾音)「今、治すよ」
洞窟で採取した薬草を精製したフルポーションを振りかけると、傷が瞬く間に塞がっていく。
村中の負傷者が回復した。
村長「傷が……治っておる」
村長「さすがリムル様……」
一斉にひれ伏すゴブリンたち。
セリオス(綾音)「ひれ伏さなくていいから……」
セリオス(綾音)「それと、柵を作るよ」
ゴブリン「柵?」
夜。
牙狼族が襲撃を開始する。
セリオス(綾音)「降伏か撤退なら、安全保障と不可侵を約束する」
セリオス(綾音)「仲間になることも認める」
セリオス(綾音)「敵対するなら、武力行使を行う」
牙狼「ほざくなスライムごときが!」
牙狼「柵を壊せ! ゴブリンどもを血祭りだ!」
セリオス(綾音)「宣戦布告を確認」
セリオス(綾音)「武力行使する」
麻痺吐息、低濃度毒ガス、水刃による非殺傷打撃。
牙狼族の大半が地に伏し、意識を失った。
セリオス(綾音)「これ以上の戦闘は不可能だと思うけど」
セリオス(綾音)「降伏する?」
牙狼「……我ら一同、あなた様に従います」
セリオス(綾音)「え?」
セリオス(綾音)「降伏じゃなくて、服従?」
村長「勝ったのですか?」
セリオス(綾音)「うん」
ゴブリン全員「うおおおおおお!」
翌日。
セリオス(綾音)「全員、注目」
セリオス(綾音)「ここで二人一組になって、互いをパートナーにする」
セリオス(綾音)「生涯のパートナーだから、尊重して大切に」
セリオス(綾音)「これから衣食住、インフラ、拠点防衛を整える」
セリオス(綾音)「班は二つ」
セリオス(綾音)「調達と建築、警備」
セリオス(綾音)「警備は十人、残りは調達建築」
セリオス(綾音)「あと、組織には名前が必要だよね」
ゴブリン「な、名前?」
村長「よろしいので?」
セリオス(綾音)「もちろん」
歓声が上がる。
セリオス(綾音)「村長、名前は?」
村長「リグルです」
セリオス(綾音)「じゃあ、リグルド」
リグルド「感激です!」
以降、名付けが続く。
大賢者「魔力残量、注意を」
セリオス(綾音)「明日に分けようか」
名付けを終えた数日後、皆の姿は明らかに変わっていた。
セリオス(綾音)「……なんか、全員すごくない?」
リグルド「名を持つことで上位種となったのです」
セリオス(綾音)「なら、発展を加速できるね」
やがて法律制定へと移る。
セリオス(綾音)「この国の憲法を作ります」
セリオス(綾音)「殺さない、壊しすぎない、滅ぼさない」
セリオス(綾音)「共存のためのルールだよ」
問いに答えながら、国の形が定まっていく。
セリオス(綾音)「……よし、こんな感じ」
全員「はい!」
セリオス(綾音)「リグルド、ゴブリンロードに任命する」
セリオス(綾音)「政治は任せるね」
リグルド「この命、役目に捧げます!」
セリオス(綾音)(まさか法学部の知識がここで役立つとは)
だが建築は難航していた。
セリオス(綾音)「技術者が必要だね」
セリオス(綾音)「ドワーフはいる?」
リグルド「ドワルゴンにおります」
セリオス(綾音)「行ってくる」
セリオス(綾音)「留守は任せたよ」
リグルド「お任せあれ」
ヴォルフの背に乗り、セリオス(綾音)は新たな地へ向かった。