それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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EP:∅1 ゴブリン村を国へ

森の奥、霧が立ち込める街道を進んでいたセリオス(綾音)の前に、突然数体のゴブリンが槍を構えて立ちふさがった。

緊張で強張った彼らの視線は、ただのスライムであるはずの存在に向けられている。

 

ゴブリン「強きものよ、この先に何かご用事ですか?」

セリオス(綾音)「強きもの?」

セリオス(綾音)「あ、初めまして。私はリムル・セリオスです。よろしくお願いします」

 

ゴブリン「強き魔物の気配が近づいたため、警戒に参りました」

ゴブリン「どうか、あなた様にお願いがございます」

 

戸惑いながらも話を聞くうち、セリオス(綾音)はゴブリンの村へ案内されることになった。

 

粗末だが整えられた柵に囲まれた村の中央で、年老いたゴブリンが深く頭を下げる。

 

村長「ようこそお越しくださいました。私はこの村の村長でございます」

セリオス(綾音)「よろしくお願いします」

セリオス(綾音)「それで、ご用件は?」

 

村長「最近、魔物の活動が活発になっているのはご存じでしょうか」

セリオス(綾音)「いえ、初耳ですね」

 

村長「数日前、我らが神にも等しい守護者が姿を消されました」

村長「それを機に近隣の魔物がこの地を狙い始めたのです」

村長「応戦はしましたが、戦力差があまりにも大きく……」

 

ゴブリン「そこで、あなた様のお力をお借りしたく」

 

セリオス(綾音)「まあ、構いませんけど……どうして私みたいなスライムに?」

 

村長「ははは、ご謙遜を」

村長「ただのスライムが、これほどの威圧を放つはずがありません」

村長「相当名のある魔物なのでしょう」

 

セリオス(綾音)「威圧?」

セリオス(綾音)「私、どんな感じになってるんです?」

 

カエデ「魔力センサーをTPPに切り替えます」

 

視界が引き上げられ、自身を俯瞰した瞬間、セリオス(綾音)は理解した。

濃密な魔力が霧のように立ち昇り、周囲を圧している。

 

セリオス(綾音)「……完全にオーラ全開だったみたいね」

セリオス(綾音)「怖がらせてしまってごめんなさい」

セリオス(綾音)「この世界に来たばかりなんです」

 

ゴブリン「来たばかり……まさか」

ゴブリン「転生者なのですか!?」

 

セリオス(綾音)「ええ」

 

ゴブリン「初めて見ました!」

ゴブリン「すごい! 本当にすごいです!」

 

村長「こら、失礼であろう」

村長「改めてお願い申し上げます」

 

東の方角から、狼型魔物――牙狼族の群れが押し寄せ、多数の死傷者が出ているという。

名を持つ守護者が討ち死にし、村は崩壊寸前だった。

 

村長「牙狼族はおよそ百」

村長「我らで戦えるのは、雌を含め六十ほど」

 

セリオス(綾音)「確認したいことがあります」

セリオス(綾音)「牙狼族を、仲間として受け入れることはできますか?」

 

村長「な……何をなさるおつもりで?」

 

セリオス(綾音)「これは私のポリシーです」

セリオス(綾音)「敵味方を問わず、他に手段がない場合を除き、大量破壊や殺害はしない」

セリオス(綾音)「可能な限り、仲間にする」

セリオス(綾音)「反逆や重大な違反があっても、死刑以外を選びます」

 

村長「……わかりました」

 

セリオス(綾音)「じゃあ、牙狼族を無力化します」

 

ほどなく、牙狼族が村の柵の外に姿を現した。

闇の中で無数の赤い瞳が揺らめく。

 

セリオス(綾音)「みんな、心配しないで」

セリオス(綾音)「圧倒的な力を見せれば、七割は降伏か撤退する」

セリオス(綾音)「残りも、説得すれば仲間になる」

セリオス(綾音)「弱肉強食の時代は終わり」

セリオス(綾音)「これからは共存だよ」

 

村長「感謝いたします。我らは忠実なるしもべでございます」

セリオス(綾音)「任せて」

 

セリオス(綾音)「あ、負傷者はどこ?」

村長「こちらです」

 

傷ついたゴブリンたちの前に進み出る。

 

セリオス(綾音)「よく頑張ったね」

セリオス(綾音)「今、治すよ」

 

洞窟で採取した薬草を精製したフルポーションを振りかけると、傷が瞬く間に塞がっていく。

村中の負傷者が回復した。

 

村長「傷が……治っておる」

村長「さすがリムル様……」

 

一斉にひれ伏すゴブリンたち。

 

セリオス(綾音)「ひれ伏さなくていいから……」

セリオス(綾音)「それと、柵を作るよ」

 

ゴブリン「柵?」

 

夜。

牙狼族が襲撃を開始する。

 

セリオス(綾音)「降伏か撤退なら、安全保障と不可侵を約束する」

セリオス(綾音)「仲間になることも認める」

セリオス(綾音)「敵対するなら、武力行使を行う」

 

牙狼「ほざくなスライムごときが!」

牙狼「柵を壊せ! ゴブリンどもを血祭りだ!」

 

セリオス(綾音)「宣戦布告を確認」

セリオス(綾音)「武力行使する」

 

麻痺吐息、低濃度毒ガス、水刃による非殺傷打撃。

牙狼族の大半が地に伏し、意識を失った。

 

セリオス(綾音)「これ以上の戦闘は不可能だと思うけど」

セリオス(綾音)「降伏する?」

 

牙狼「……我ら一同、あなた様に従います」

 

セリオス(綾音)「え?」

セリオス(綾音)「降伏じゃなくて、服従?」

 

村長「勝ったのですか?」

セリオス(綾音)「うん」

 

ゴブリン全員「うおおおおおお!」

 

翌日。

 

セリオス(綾音)「全員、注目」

セリオス(綾音)「ここで二人一組になって、互いをパートナーにする」

セリオス(綾音)「生涯のパートナーだから、尊重して大切に」

セリオス(綾音)「これから衣食住、インフラ、拠点防衛を整える」

セリオス(綾音)「班は二つ」

セリオス(綾音)「調達と建築、警備」

セリオス(綾音)「警備は十人、残りは調達建築」

 

セリオス(綾音)「あと、組織には名前が必要だよね」

 

ゴブリン「な、名前?」

村長「よろしいので?」

 

セリオス(綾音)「もちろん」

 

歓声が上がる。

 

セリオス(綾音)「村長、名前は?」

村長「リグルです」

セリオス(綾音)「じゃあ、リグルド」

 

リグルド「感激です!」

 

以降、名付けが続く。

 

大賢者「魔力残量、注意を」

セリオス(綾音)「明日に分けようか」

 

名付けを終えた数日後、皆の姿は明らかに変わっていた。

 

セリオス(綾音)「……なんか、全員すごくない?」

 

リグルド「名を持つことで上位種となったのです」

 

セリオス(綾音)「なら、発展を加速できるね」

 

やがて法律制定へと移る。

 

セリオス(綾音)「この国の憲法を作ります」

セリオス(綾音)「殺さない、壊しすぎない、滅ぼさない」

セリオス(綾音)「共存のためのルールだよ」

 

問いに答えながら、国の形が定まっていく。

 

セリオス(綾音)「……よし、こんな感じ」

 

全員「はい!」

 

セリオス(綾音)「リグルド、ゴブリンロードに任命する」

セリオス(綾音)「政治は任せるね」

 

リグルド「この命、役目に捧げます!」

 

セリオス(綾音)(まさか法学部の知識がここで役立つとは)

 

だが建築は難航していた。

 

セリオス(綾音)「技術者が必要だね」

セリオス(綾音)「ドワーフはいる?」

 

リグルド「ドワルゴンにおります」

 

セリオス(綾音)「行ってくる」

セリオス(綾音)「留守は任せたよ」

 

リグルド「お任せあれ」

 

ヴォルフの背に乗り、セリオス(綾音)は新たな地へ向かった。

 

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