それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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∅19 シドウ

自由学園の校舎。

夕暮れ前の教室に、セリオス(綾音)が一歩足を踏み入れた瞬間だった。

 

視界が赤く染まり、灼熱の奔流が真正面から襲いかかる。

反射的に身を翻し、炎は壁を焦がして消えた。

 

セリオス(綾音)「危ないですよ。教室に入って黒板消しを落とすノリで、炎系魔法はさすがに洒落にならないです」

 

沈黙が落ちる。

張りつめた空気の中、黒髪の少女がじっとこちらを見つめていた。

 

クロエ「……なんか、シズ先生に似てる」

 

ケンヤ「全然似てねえだろ」

 

赤髪の少年が吐き捨てるように言う。

警戒と反発が、子どもたちの視線にはっきりと宿っていた。

 

セリオス(綾音)は黒板の前に立ち、ゆっくりと息を整える。

この世界では、教師である前に、まず信頼を勝ち取らなければならない。

 

セリオス(綾音)「じゃあ、出席を取るね」

 

かつての記憶がふとよぎる。

小学校時代、名前を呼ばれるだけで胸が高鳴った、あの感覚。

 

セリオス(綾音)「ケンヤ・ミサキ君」

 

ケンヤ「……」

 

セリオス(綾音)「リョウタ・セキグチ君」

 

リョウタ「……」

 

セリオス(綾音)「ゲイル・ギブスン君」

 

ゲイル「……」

 

セリオス(綾音)「アリス・ロンドさん」

 

アリス「……」

 

セリオス(綾音)「クロエ・オベールさん」

 

クロエ「……」

 

返事はない。

それでも、全員がここにいることは分かる。

 

セリオス(綾音)「うん。全員いるね」

 

セリオス(綾音)「短い間だけど、これからよろしく」

 

誰も笑わない。

誰も頷かない。

 

セリオス(綾音)「まずは、みんなの体力を知りたいから体力測定をしよう」

 

全員「ええーーーー」

 

アリス「なんでそういうことになるのよ」

 

セリオス(綾音)「最後まで話を聞こうね」

 

セリオス(綾音)「内容は簡単。先生と鬼ごっこ、あと模擬戦」

 

セリオス(綾音)「それから、友達を紹介するね。ヴォルフっていうんだ」

 

ヴォルフ「我はヴォルフ。よろしくな」

 

低く落ち着いた声に、子どもたちの視線が自然と集まる。

 

すぐにグラウンドへ移動し、体力測定という名の遊びが始まった。

模擬戦で使わせたのは、安全装置付きのスキル変換式高周波ブレードと、操作を単純化したレールガン式アサルトライフル。

 

結果は言うまでもない。

セリオス(綾音)の圧勝だった。

 

だが、それ以上に重要なのは、彼らの力の傾向を把握できたこと。

 

ケンヤは炎系魔法の適性を持つ。

クロエは水系魔法。

ゲイルは魔力弾を弾丸に込めて撃つ射撃特化型。

リョウタは狂戦士化による身体強化。

アリスはゴーレムマスター。

 

セリオス(綾音)「実力差は、まあ分かってもらえたと思う」

 

息を切らす子どもたちを前に、静かに続ける。

 

セリオス(綾音)「そんな君たちに、言っておくべきことがあるんだけど。言っていい?」

 

アリス「……ええ」

 

セリオス(綾音)「君たちを助ける」

 

セリオス(綾音)「この仮面に誓って」

 

懐から、シズの仮面を取り出す。

その瞬間、空気が変わった。

 

セリオス(綾音)「シズさんからこの仮面をもらった時、約束したんだ」

 

セリオス(綾音)「君たちを救うって」

 

アリス「……分かった。あんたを信じる」

 

リョウタ「僕も」

 

クロエ「わたしは、最初から信じてた」

 

ケンヤ「なんだよ、おまえら。じゃあ俺だって」

 

ゲイル「僕も信じることにするよ」

 

セリオス(綾音)「ありがとう、みんな」

 

その夜。

セリオス(綾音)はVTOLで森へ向かった。

 

待っていたのは、樹霊族のトレイニー。

 

トレイニー「綾音さん。何か御用ですか?」

 

セリオス(綾音)「トレイニーさん。上位聖霊の住処を知りたいんです」

 

トレイニー「……実は入口はいくつかあるのですが」

 

トレイニー「私の知るものは、すでに消えてしまっています」

 

トレイニー「私たちの仕えていた聖霊女王も、すでに亡くなられました」

 

トレイニー「現在の女王とは接点がなく、居場所も分からないのです」

 

トレイニー「申し訳ございません。お役に立てず」

 

セリオス(綾音)「いえ。こちらでも探してみますから」

 

夜風が静かに吹き抜ける。

子どもたちを救うための道は、まだ始まったばかりだった。

 

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