自由学園の校舎。
夕暮れ前の教室に、セリオス(綾音)が一歩足を踏み入れた瞬間だった。
視界が赤く染まり、灼熱の奔流が真正面から襲いかかる。
反射的に身を翻し、炎は壁を焦がして消えた。
セリオス(綾音)「危ないですよ。教室に入って黒板消しを落とすノリで、炎系魔法はさすがに洒落にならないです」
沈黙が落ちる。
張りつめた空気の中、黒髪の少女がじっとこちらを見つめていた。
クロエ「……なんか、シズ先生に似てる」
ケンヤ「全然似てねえだろ」
赤髪の少年が吐き捨てるように言う。
警戒と反発が、子どもたちの視線にはっきりと宿っていた。
セリオス(綾音)は黒板の前に立ち、ゆっくりと息を整える。
この世界では、教師である前に、まず信頼を勝ち取らなければならない。
セリオス(綾音)「じゃあ、出席を取るね」
かつての記憶がふとよぎる。
小学校時代、名前を呼ばれるだけで胸が高鳴った、あの感覚。
セリオス(綾音)「ケンヤ・ミサキ君」
ケンヤ「……」
セリオス(綾音)「リョウタ・セキグチ君」
リョウタ「……」
セリオス(綾音)「ゲイル・ギブスン君」
ゲイル「……」
セリオス(綾音)「アリス・ロンドさん」
アリス「……」
セリオス(綾音)「クロエ・オベールさん」
クロエ「……」
返事はない。
それでも、全員がここにいることは分かる。
セリオス(綾音)「うん。全員いるね」
セリオス(綾音)「短い間だけど、これからよろしく」
誰も笑わない。
誰も頷かない。
セリオス(綾音)「まずは、みんなの体力を知りたいから体力測定をしよう」
全員「ええーーーー」
アリス「なんでそういうことになるのよ」
セリオス(綾音)「最後まで話を聞こうね」
セリオス(綾音)「内容は簡単。先生と鬼ごっこ、あと模擬戦」
セリオス(綾音)「それから、友達を紹介するね。ヴォルフっていうんだ」
ヴォルフ「我はヴォルフ。よろしくな」
低く落ち着いた声に、子どもたちの視線が自然と集まる。
すぐにグラウンドへ移動し、体力測定という名の遊びが始まった。
模擬戦で使わせたのは、安全装置付きのスキル変換式高周波ブレードと、操作を単純化したレールガン式アサルトライフル。
結果は言うまでもない。
セリオス(綾音)の圧勝だった。
だが、それ以上に重要なのは、彼らの力の傾向を把握できたこと。
ケンヤは炎系魔法の適性を持つ。
クロエは水系魔法。
ゲイルは魔力弾を弾丸に込めて撃つ射撃特化型。
リョウタは狂戦士化による身体強化。
アリスはゴーレムマスター。
セリオス(綾音)「実力差は、まあ分かってもらえたと思う」
息を切らす子どもたちを前に、静かに続ける。
セリオス(綾音)「そんな君たちに、言っておくべきことがあるんだけど。言っていい?」
アリス「……ええ」
セリオス(綾音)「君たちを助ける」
セリオス(綾音)「この仮面に誓って」
懐から、シズの仮面を取り出す。
その瞬間、空気が変わった。
セリオス(綾音)「シズさんからこの仮面をもらった時、約束したんだ」
セリオス(綾音)「君たちを救うって」
アリス「……分かった。あんたを信じる」
リョウタ「僕も」
クロエ「わたしは、最初から信じてた」
ケンヤ「なんだよ、おまえら。じゃあ俺だって」
ゲイル「僕も信じることにするよ」
セリオス(綾音)「ありがとう、みんな」
その夜。
セリオス(綾音)はVTOLで森へ向かった。
待っていたのは、樹霊族のトレイニー。
トレイニー「綾音さん。何か御用ですか?」
セリオス(綾音)「トレイニーさん。上位聖霊の住処を知りたいんです」
トレイニー「……実は入口はいくつかあるのですが」
トレイニー「私の知るものは、すでに消えてしまっています」
トレイニー「私たちの仕えていた聖霊女王も、すでに亡くなられました」
トレイニー「現在の女王とは接点がなく、居場所も分からないのです」
トレイニー「申し訳ございません。お役に立てず」
セリオス(綾音)「いえ。こちらでも探してみますから」
夜風が静かに吹き抜ける。
子どもたちを救うための道は、まだ始まったばかりだった。