それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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∅20 上位聖霊

一か月にわたり、上位聖霊の行方を追っていた。

カエデの広域探査能力と自律型ドローンを総動員し、森、湖、遺跡を洗い尽くしたが、痕跡は一切つかめなかった。

張り詰めた日々が続き、子どもたちにも疲労の色が濃い。

そこで綾音は、森の外れにある草原へと彼らを連れ出した。

 

木漏れ日が揺れる中、簡素な敷物を広げ、束の間の休息を取る。

しかし綾音の表情には、常に次を見据える鋭さが宿っていた。

 

セリオス(綾音)「少し先生と遊ばない?」

 

突然の提案に、子どもたちは顔を見合わせる。

 

アリス「いいわね。何して遊ぶ?」

 

セリオス(綾音)「こないだみたいに戦いごっこは?」

 

全員「えぇー」

 

即座に上がる不満の声。

だが綾音は肩をすくめ、軽い調子で続ける。

 

セリオス(綾音)「だって、みんなの魔素、ちゃんと抜いてあげないとダメでしょ?」

 

クロエ「……あんまり運動したくない……」

 

気怠そうに視線を伏せるクロエ。

それを見て、綾音は思い出したように手を叩いた。

 

セリオス(綾音)「あ、そうだ。みんな、これあげるからやろうよ」

 

全員「???」

 

セリオス(綾音)「漫画。私のいた世界だと電子書籍だったけど、こっちの世界なら本の方がいいかなって思って」

 

セリオス(綾音)「面白いの、いっぱいあるよ」

 

取り出された色鮮やかな本に、子どもたちの目が輝く。

結局、戦いごっこは始まり、そして当然のように綾音が勝った。

本人に自覚はないが、彼女は手加減という概念を素で忘れている。

 

息を切らす子どもたちを見下ろし、綾音は少しだけ優しく笑った。

 

セリオス(綾音)「でも、みんな楽しそうだったし、頑張ってたからあげるよ」

 

全員「わーい!!!!」

 

その後も調査は続き、偶然と必然が重なった結果、精霊女王に通じる場所の手がかりを掴む。

深い森の奥。

人の手が入っていないはずの場所に、遺跡のような構造物があった。

苔むした石壁の中央には、巨大な石製の扉がそびえている。

 

セリオス(綾音)「いい? みんな。最悪のケース、生きて帰れないかもしれない。それでも入る?」

 

一瞬の沈黙。

だが迷いはなかった。

 

全員「もちろん」

 

アリス「こ、怖くなんてないんだからね」

 

セリオス(綾音)「……いくよ」

 

扉に指先が触れた瞬間、重厚な音もなく自動で開いた。

 

セリオス(綾音)「見た目のわりに、ハイテクね」

 

その瞬間、頭の奥に直接、楽しげな笑い声が響く。

ぞくりと背筋が震えた。

 

セリオス(綾音)「精霊さん? 遊びたいのは分かるけど、上位聖霊がどこにいるか知らない?」

 

精霊「いいよ、教えてあげる。でもその前に……」

 

空間が歪み、光の道が出現する。

導かれるまま進むと、視界が一気に開けた。

そこは巨大なコロッセオのような空間だった。

 

中央に立っていたのは、古代兵器を思わせる無骨なロボット。

 

精霊「すごいでしょ」

 

セリオス(綾音)「この世界の人にしては、かなりの技術力ね」

 

精霊「さあ、試練の時間だよ」

 

セリオス(綾音)「このロボットを倒せばいいの?」

 

精霊「ピンポーン。その通り」

 

セリオス(綾音)「何かあったら、私を見捨てて逃げて」

 

ヴォルフ「……分かりました」

 

短く答えながらも、彼の目は揺れていた。

 

セリオス(綾音)「ロボットの知識は、クデュックで基礎から学んだからね」

 

セリオス(綾音)「こんな分かりやすい構造、解体するのは楽勝だよ」

 

次の瞬間、高周波ブレードが閃いた。

関節部が正確に切断され、ロボットは抵抗する間もなく崩れ落ちる。

 

精霊「……ううう」

 

精霊「負けを認めるわよ」

 

セリオス(綾音)「じゃあ、上位聖霊のところに案内して」

 

精霊「わかったわかった」

 

精霊「あれ、すっごい高性能だったのよね……」

 

セリオス(綾音)「協力してくれるなら、あれの数倍高性能なゴーレムあげるよ」

 

セリオス(綾音)「精霊女王のところに連れてって」

 

ラミリス「言ってなかった? 私はラミリス。精霊女王なのよね」

 

ラミリス「それに、魔王でもあるけど」

 

セリオス(綾音)「……まあ、それは置いといて。この子たちを救ってくれない?」

 

ラミリスの力によって精霊は救済され、召喚契約が結ばれた。

それぞれに宿る力が定まり、子どもたちの気配が一段と変わる。

 

ゲイルには地。

アリスには空。

ケンヤには光。

リョウタには水と風。

クロエには、未来の自分とも言える何かが宿った。

 

セリオス(綾音)「……一体、何が起きてるの?」

 

ラミリス「私も知らないわ」

 

説明を受けても、核心は見えないままだった。

別れ際、綾音はラミリスにアンドロイドを渡し、王都へ戻ることを決める。

 

帰還が決まった途端、子どもたちは泣き出した。

 

セリオス(綾音)「ごめんね、みんな。国で待ってる人がいるから」

 

クロエ「先生、行っちゃやだ……」

 

ケンヤ「クロエ、引き止めちゃだめだよ……」

 

アリス「……そうよ。さっさと行きなさいよ」

 

セリオス(綾音)「ユウキさん。この子たちを任せるね」

 

ユウキ「ええ。お任せください」

 

その瞬間、クロエが綾音に抱きついた。

 

セリオス(綾音)「……分かった。クロエちゃんには、仮面をあげるね」

 

セリオス(綾音)「これを、また返しに来て」

 

セリオス(綾音)「あと、アリスたちにはクデュックの技術を使った防具をあげる」

 

セリオス(綾音)「取説はポケットに入ってるから、読んでみてね」

 

ケンヤ「おー、すごい!」

 

アリス「かわいい……」

 

セリオス(綾音)「世界に一つだけだよ」

 

セリオス(綾音)「基礎は同じだけど、使う魔法や聖霊で機能が変わるから、試してみて」

 

セリオス(綾音)「私、転生前にいろんな世界を旅して分かったことがあるの」

 

セリオス(綾音)「さよならは、また会うためのおまじない」

 

セリオス(綾音)「本当の別れはまだ先。寂しいけど、また巡り会えるって信じてる」

 

ケンヤ「……わかった」

 

アリス「卒業したら、会いに行ってもいいんだからね」

 

セリオス(綾音)「うん。歓迎するよ。じゃあ、またね」

 

全員「また会うときまでー」

 

VTOLで帰路についた直後、上空からの不意打ちを受け、機体は激しく揺れた。

 

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