ドワルゴン王国の正門前。
巨大な石造りの城壁の下に、長い入国待ちの列が伸びている。
鎧を着込んだドワーフ兵が目を光らせ、国境警備の厳しさが一目でわかる。
セリオス(綾音)「けっこう長い列ができてるね。国境警備、相当厳しいみたい」
ゴブタ「中に入っちまえば自由なんすけどね」
セリオス(綾音)「なるほど。外でふるいにかけてるわけか」
列の脇から、酒と鉄の匂いを纏った人間の男たちが近づいてくる。
視線は露骨で、敵意を隠す気もない。
チンピラ1「おいおいおい。魔物がこんなとこにいるぜぇ」
チンピラ2「今なら殺しても問題ねえんじゃね?」
ゴブタが一歩引き、歯を食いしばる。
セリオス(綾音)は動じず、静かに相手を見据えた。
セリオス(綾音)「あなたたち、教育が足りないみたいですね」
セリオス(綾音)「他者に宣戦布告するという行為の重みを、理解していない」
ゴブタ「前に来た時も、同じようなのにボコボコにされたっす」
セリオス(綾音)「凶器の所持を確認」
セリオス(綾音)「発言内容からして脅迫罪も成立」
セリオス(綾音)「騒ぎは起こしたくないから、手短にいくね」
ゴブタ「さすがリムル様っす」
セリオス(綾音)「麻酔弾、発射」
淡い光と共に放たれた弾が、男たちに命中する。
次の瞬間、チンピラたちは糸が切れたように倒れ込んだ。
だが、周囲がざわめく間もなく、武装したドワーフ兵が一斉に動く。
状況を確認するより早く、セリオス(綾音)たちは取り囲まれていた。
そして――。
石造りの牢屋。
重い鉄格子の向こうから、ドワーフの兵士が腕を組んで見下ろしている。
セリオス(綾音)「えーっと」
セリオス(綾音)「これ、薬事法違反とかで捕まった感じですか?」
ドワーフ1「いや、ただの事情聴取だ」
セリオス(綾音)「ならよかった」
ドワーフ1「証言に矛盾はなかった」
ドワーフ1「おそらく正当防衛だろうと判断された」
ドワーフ1「今回は――」
ドワーフ2「大変だぁ!」
ドワーフ2「鉱山にアマサウルスが出た!」
ドワーフ1「何だと。討伐隊は?」
ドワーフ2「もう向かいました!」
ドワーフ2「ですが、魔鉱石を掘るため深部に入っていたガルムたちが大けがを!」
ドワーフ1「回復薬はどうした!」
ドワーフ2「戦争準備で在庫が不足しています!」
セリオス(綾音)「負傷者の人数は?」
ドワーフ1「お前には関係な――」
言葉を遮るように、セリオス(綾音)は空間から樽を取り出し、床に並べた。
中には高純度のフルポーションが満たされている。
ドワーフ1「……十分すぎる」
ドワーフ1「しかもこれは……高純度品だと?」
ドワーフ1「助かった。本当にありがとう」
数時間後。
ドワーフ3「あんたが薬をくれたって聞いた」
ドワーフ3「助かったぜ」
セリオス(綾音)「そんなに貴重なものだったんですか?」
ドワーフ1「金貨十枚は下らん」
セリオス(綾音)「……すごいね」
ドワーフ4「腕がちぎれかけてた」
ドワーフ4「生きて帰れても仕事を失うところだった」
ドワーフ4「感謝する」
ドワーフ5「……うう……」
セリオス(綾音)は戸惑いながらも、その視線を受け止めた。
ドワーフ1「もちろん、釈放だ」
休憩所。
炉の熱と酒の香りが満ちる空間で、ドワーフ1が向かいに座る。
ドワーフ1「礼と言っちゃなんだが、俺にできることがあれば言ってくれ」
セリオス(綾音)「それなら、技術者が欲しいです」
ドワーフ1「なるほど」
ドワーフ1「なら、腕のいい鍛冶師を紹介しよう」
セリオス(綾音)「魔鉱石を使えば、最強装備や」
セリオス(綾音)「永久機関に近いものも作れそうだね」
その後、ドワルゴンの街を歩く。
蒸気機関、滑車、精巧な歯車。
石と鉄で組まれた都市は、力強く脈打っていた。
セリオス(綾音)「文明レベルは、産業革命後のイギリスくらいかな」
カエデ「ですが魔鉱石と魔法の応用で、現代に近い技術も散見されます」
セリオス(綾音)「抑止力として、高威力かつ追尾性のある兵器は欲しいね」
セリオス(綾音)「この世界、物理法則無視はできるけど」
セリオス(綾音)「通常兵器だと弓と剣が主流だし」
カエデ「そうですね」
カエデ「ただし、殺傷を目的としないものが望ましいかと」
カエデ「催眠弾やスタン系兵器が最適でしょう」
セリオス(綾音)は、静かに街を見上げた。
この国と、自分の国の未来を重ねながら。