それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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∅30 技術の価値は

クデュックVIP会議室。

白銀の壁に間接照明が反射し、静謐な光が空間を満たしている。

円形テーブルの中央にはクデュックのロゴが刻まれ、無言の圧を放っていた。

 

セリオス(綾音)「さて……これから、どう動くべきかしら。」

 

眼鏡越しに資料を確認しながら、綾音は思考を巡らせる。

指先が紙の端をなぞるたび、交渉の先にある利と危険が頭に浮かんでいた。

 

カエデ「教会側は、こちらの技術を明確に欲しています。」

カエデ「問題は、その見返りです。」

カエデ「軍事協力、情報共有……あるいは、もっと踏み込んだ要求になる可能性もあります。」

 

セリオス(綾音)「ええ。」

セリオス(綾音)「だからこそ、安易な技術移転は論外。」

セリオス(綾音)「まずは相手の要求範囲と本音を正確に把握する必要があります。」

 

カエデ「ヒナタ様のお茶会での態度は柔らかでした。」

カエデ「ですが『あやからねば』という言葉が引っかかります。」

カエデ「善意というより、戦略的判断に聞こえました。」

 

セリオス(綾音)「……本心が見えない相手ほど、厄介ね。」

 

その時、会議室のドアが静かに開いた。

白いマントをまとった若い使者が、一歩も音を立てずに入室する。

縁取りの銀糸が、照明を受けて淡く輝いた。

 

使者「失礼いたします。」

使者「ルミナス様の代理として参りました。」

使者「書簡をお預かりしております。」

 

カエデが書簡を受け取り、封を切る。

一行一行を追うごとに、その表情が引き締まっていった。

 

カエデ「……音響技術、衛星通信、電気魔法応用。」

カエデ「公式な対話の場を求めている、とのことです。」

 

セリオス(綾音)「公式、ですか。」

セリオス(綾音)「好機でもあり、同時に試されているとも言える。」

 

使者「特に“音の呪文道具”について、技術者と学術関係者を交えた意見交換を希望されています。」

 

カエデ「学術交流から入るなら、こちらも管理しやすい。」

カエデ「段階的な交渉が可能ですね。」

 

セリオス(綾音)「同意します。」

セリオス(綾音)「まずは聞く。」

セリオス(綾音)「その上で、条件を提示する。」

 

使者「承知しました。」

使者「改めて、日程調整の連絡を差し上げます。」

 

使者が退室すると、室内に静寂が戻った。

二人は視線を交わし、同時に息を整える。

 

セリオス(綾音)「カエデ。」

セリオス(綾音)「今回の件、成功すればクデュックの影響力は一段上がる。」

セリオス(綾音)「でも、核心技術だけは絶対に守る。」

 

カエデ「条約で縛りましょう。」

カエデ「使用範囲、守秘義務、再提供の禁止。」

 

セリオス(綾音)「それと、要求は技術だけに留まらない可能性がある。」

セリオス(綾音)「外交、軍事、宗教的影響力。」

セリオス(綾音)「全部、想定しておく。」

 

資料がテーブルに並び、ページをめくる音が重なる。

やがてカエデが口を開いた。

 

カエデ「親善の証として音響装置を渡した判断。」

カエデ「相当、効いています。」

 

セリオス(綾音)「ええ。」

セリオス(綾音)「欲望を刺激した。」

セリオス(綾音)「なら、次は主導権を取る番。」

 

綾音は立ち上がり、ホログラム装置を起動させた。

衛星群、通信網、防衛ネットワークが空中に展開される。

 

セリオス(綾音)「これが、我々の通信基盤。」

セリオス(綾音)「音の呪文道具は、単なる娯楽では終わらない。」

セリオス(綾音)「世界規模の情報基盤になり得る。」

 

カエデ「その分、インフラ、運用権、負担割合。」

カエデ「すべてが交渉材料になりますね。」

 

セリオス(綾音)「ええ。」

セリオス(綾音)「対価として、彼らの歴史、宗教文書、古代知識。」

セリオス(綾音)「文化と知を交換条件にする。」

 

カエデ「技術と知の相互支援。」

カエデ「教会が動いた理由も、そこにあるのかもしれません。」

 

短い沈黙。

綾音の指が資料の端で止まる。

 

セリオス(綾音)「方針は決まりました。」

セリオス(綾音)「正式交渉は受ける。」

セリオス(綾音)「条件提示型で。」

 

カエデ「核心情報は非開示。」

カエデ「性能概要までに制限します。」

 

セリオス(綾音)「それでいきましょう。」

セリオス(綾音)「相手の出方を見る。」

 

ペンの走る音だけが、会議室に残った。

数時間後、文書に最後のチェックが入る。

 

セリオス(綾音)「完成。」

セリオス(綾音)「共同開発。」

セリオス(綾音)「限定ライセンス。」

セリオス(綾音)「文化と知の交換。」

 

カエデ「万全ですね。」

 

セリオス(綾音)は窓の外、星空を見上げる。

 

セリオス(綾音)「……クデュックは、もう後戻りしない。」

セリオス(綾音)「次の未来へ進むだけ。」

 

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