それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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∅31新たな技術

数日後。

クデュック中央研究塔最上階。

 

中央研究塔の天窓からは、無数の星々と人工衛星の軌道灯が夜空を横切っていた。

塔内は静まり返り、研究者たちの緊張と集中が空気そのものを張り詰めさせている。

 

セリオス(綾音)「……ルミナスからの返信、来たわね。」

 

電子パネルに指を走らせ、受信ログを展開する。

表示された暗号通信の認証レベルは最高位だった。

 

カエデ「通信帯域を最大化します。

セキュアライン、確保完了。」

 

空間投影された映像が収束し、荘厳な議会堂の光景が浮かび上がる。

白い石柱と高い天井。

その中央に、銀の冠を戴いたヒナタが静かに座していた。

背後には司祭と評議員たちが並び、重々しい沈黙が画面越しにも伝わってくる。

 

ヒナタ「クデュック技術部門の皆様。

再びお話しできて光栄です。」

 

ヒナタ「先日ご提示いただいた三項目。

共同開発。

限定ライセンス。

文化資産の交換。

いずれも、我々は前向きに検討しております。」

 

セリオス(綾音)「ありがとうございます。

ご理解いただけたこと、感謝します。」

 

セリオス(綾音)「特に文化資産の共有は重要です。

ルミナス様が保有される聖典や古文書を保存・解析することで、知を未来へ残すことができます。」

 

ヒナタ「その点は議会でも高く評価されています。

ただし……一点、追加で協議したい案件があります。」

 

カエデ「内容をお聞かせいただけますか。」

 

ヒナタ「我々の技術者が、貴国から提供された“音の呪文道具”を解析する過程で、興味深い現象を確認しました。」

 

ヒナタ「周波数領域の変調により、一部の感情波動と記憶想起に影響が生じているのです。」

 

セリオス(綾音)「……音が、記憶や感情に干渉していると。」

 

ヒナタ「はい。

この特性は、治療魔法や精神安定処置への応用が見込めます。」

 

ヒナタ「そこで我々は、この分野における共同実験と臨床応用研究を、技術交換の一環として提案したいと考えています。」

 

カエデは一瞬だけ視線をセリオス(綾音)に向けた。

期待と警戒が入り混じった表情だった。

 

カエデ「未踏の領域ですね。

音響療法そのものは存在しますが、魔法干渉を伴う体系的研究は前例がありません。」

 

セリオス(綾音)はしばらく沈黙し、思考を巡らせた。

その目には、計算と理想の両方が映っている。

 

セリオス(綾音)「……ですが、音によって心を癒せる技術が確立すれば、争いそのものを減らせる可能性があります。」

 

セリオス(綾音)「交渉条件としても、非常に価値が高い。」

 

ヒナタ「倫理基準と実験範囲については、双方で厳密な合意文書を作成します。

第三者機関による監査も受け入れます。」

 

セリオス(綾音)「ならば承認しましょう。」

 

セリオス(綾音)「追加議題として“音響・感情連携研究”を正式に組み込みます。

ただし、軍事転用は禁止。

この一点は絶対条件です。」

 

ヒナタ「異論はありません。

我々も同じ立場です。」

 

通信が静かに終了し、映像は闇に溶けた。

 

研究塔の空気が、わずかに緩む。

カエデは椅子に深く腰を下ろし、息を吐いた。

 

カエデ「……正直、ここまで踏み込むとは思っていませんでした。

感情や記憶への干渉は、禁忌にもなり得ます。」

 

セリオス(綾音)「だからこそ、制御できる形で扱う必要がある。」

 

セリオス(綾音)「音は娯楽じゃない。

人の心に直接届く力を持っている。」

 

セリオス(綾音)「それが魔法と結びつけば、医療も教育も外交も変えられる。」

 

カエデ「次は現地実証ですね。

ルミナスの聖堂での観測実験……正直、楽しみです。」

 

セリオス(綾音)は立ち上がり、研究塔の窓辺へと歩み寄った。

眼下には光の都市クデュックが広がり、その向こうに星空が続いている。

 

セリオス(綾音)「ここからが本当の始まりね。」

 

セリオス(綾音)「クデュックとルミナス。

科学と魔法。

音と心。」

 

セリオス(綾音)「それらが共鳴した先に、新しい世界がある。」

 

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